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第四章 もし望めば死亡フラグだって折れるんだ
三十九、トイメトアの奪還
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「こちら、F隊隊長、エドマンド・フィッツパトリック。作戦本部、聞こえますか? 聞こえますか? こちら……」
『……ジジ、ジ、受信した。こち』
『……かっ! ……エドマンドかっ!』
「っヴァルマ、特別指揮官? 今……?」
『いい、気にするな。私が報告を受ける。続けてくれ』
「は、はい。F隊、死者ゼロ名。重傷者一名。その他は全員軽傷です。イアン・ブロンテ、ダン・オライリ以外のモクトスタは破壊されましたが、全隊員が予備のモクトスタを装備できる状態です。また、アーチー・カメルは現在逃走中」
『なるほど……。その場から拠点までは何分かかる』
「五分以内には」
『分かった。――作戦に変更はない。十分後に拠点を一斉攻撃する』
「承知しました」
僕は通信を切ると、ちょうど集まったチームメイトに向き直る。
「今から十分後に作戦決行だ。現場に到着次第、僕とイアンは地点Bにて待機。ダン、アンドリュー、セドリックは中央本隊に合流。Z隊隊長の指示を仰げ。バートンは地点Bまで僕を運んで後方待機。まずは体を休めろ。――この戦いでニュドニアの平和を取り戻すことができるかもしれない。全力で行け!」
「はっ!」
***
トイメトアの決戦から、早くも三週間が過ぎた。
国境である河沿いには堅強な壁がものすごいスピードで建造されている。
さらに、モクトスタのマスターを含めた兵隊が常に警備する守りの固さだ。
ニュドニアはセイダルに勝った。
あの後、拠点はあっさりと落ちた。
上空を含む全方位からの一斉攻撃。
ある程度予測していたのか、セイダル側はこちらの地上部隊が到着する前に上層部を逃がそうとしていた。
しかし、それは失敗に終わった。
ブレイブの中距離砲で拠点の天井に大穴を開けられ、こちらからは下の様子が丸見えだったこともあって逃げようがなかったんだ。
特に上空からの攻撃に僕が含まれていたのが想定外だったようだ。ブレイブのみに対策を立てていたのだろう。
敵兵は混乱し、右往左往としている内に中央本隊が合流して包囲。
セイダルの司令官たちは最後まで抵抗したものの、モクトスタを装備していない者に勝ち目はない。
ニュドニアの勝利が決定した瞬間だった。
その間わずか十二分。
「ぐ、ぅ……!」
拠点の制圧が完了したという通信を受けた途端に、喉からうめき声が漏れた。緊張の糸が切れてモクトスタも解除されてしまった。
強化がなくなりアドレナリンも切れて、一気に足と腹部に痛みが襲って体勢を崩した。
そのまま膝を付こうとしたところで、後ろから「おっと」なんて声と共に誰かに腰を支えられる。
「なん、何で……!」
そこにいたのは、なんとブライトルだった。
「さ、作戦本部は? どうして……?」
「説明は後だよ。まずは救護隊のところへ行こうか」
「は、はい、すみません。ありがとうございます、っ?」
そのままブライトルは僕を抱えあげた。一瞬だけど痛みが吹っ飛んだ。
何してんだこの人……!
「殿下っ、下ろしてください……。一国の王子がこんなことをしてはいけません……!」
「では一体誰が君を運ぶんだい?」
「歩きます」
「それは指揮官として許可できないね」
「……では、イアン」
「イアンはダメかな」
「誰か他の……」
「私に運ばれるのは嫌なのかい?」
「貴方が運ぶ必要性がないと言っているのですが……!」
僕は辺りを見回して運んでくれそうな人を探す。
でもみんなそれぞれの任務に忙しそうで僕に構っている暇はないみたいだ。
いくら命に別条がないとはいっても薄情すぎないか?
「ほら、みな忙しそうだ。私が運ぶのが合理的ではないかな?」
ぐうの音も出ない。
違う。もう、ぐうの音も出す余裕がない。
「お願い、します……」
「最初からそう言おうね。少し揺れるから、我慢しておくれ」
ブライトルにお姫様抱っこで運ばれる僕をみんながチラチラと見ていく。人に見られることには慣れているのに、どうにもこの視線は落ち着かない。
なんとか我慢して救護隊に連れて行かれた先で、地面に置かれた担架に乗せられ処置を受けた。
「担架……?」
そうだよ! 緊急度は低かったんだから、担架を待ってきてから運んでくれたらよかったじゃないか!
疲れと痛みでそこまで頭が回らなかった。
処置が終わるまで付き添ってくれていたブライトルを無言で睨む。満足そうな顔をしていて余計に腹が立った。
「私はまだこちらでやることが残っている。先に帰ってゆっくりと休んでおくれ」
「お気遣いいただきありがとうございます、ヴァルマ特別指揮官。次にお会いできるときは是非またお話させてください」
次に会ったら覚えておけよ、と下手くそな笑顔を浮かべて丁寧にお礼を言った。
僕の言いたかったことが伝わったのか、ブライトルが笑いをこらえているのが分かる。
色々と言いたいことはあったけど、段々と頭が重くなってきた。瞼を下ろすスピードが遅い。処置中に打たれた薬の影響かもしれない。
周りには横たわるたくさんの負傷兵と走り回る救護隊員と医療チーム。
みんな自分のことで手一杯で、王子殿下がいるのに誰もこちらを意識していないようだ。
少しくらい、いいよな……。
僕は閉じそうな目でジッとブライトルを見上げた。目が合う。
「どうしたんだい? エドマンド」
「生きてる、から、な」
自然に笑みが浮かんだ。ブライトルの綺麗な空色が丸々と開かれる。
「エドマンド……」
「……約束、守れ、よ……」
もう、目が開かない。霞んだ視界の中で何故か悔しそうな顔が見える。
ああ、その顔、好きだ……。
手の甲に何かが触れたような気がしたけど、そこで僕の意識は完全に閉ざされた。
『……ジジ、ジ、受信した。こち』
『……かっ! ……エドマンドかっ!』
「っヴァルマ、特別指揮官? 今……?」
『いい、気にするな。私が報告を受ける。続けてくれ』
「は、はい。F隊、死者ゼロ名。重傷者一名。その他は全員軽傷です。イアン・ブロンテ、ダン・オライリ以外のモクトスタは破壊されましたが、全隊員が予備のモクトスタを装備できる状態です。また、アーチー・カメルは現在逃走中」
『なるほど……。その場から拠点までは何分かかる』
「五分以内には」
『分かった。――作戦に変更はない。十分後に拠点を一斉攻撃する』
「承知しました」
僕は通信を切ると、ちょうど集まったチームメイトに向き直る。
「今から十分後に作戦決行だ。現場に到着次第、僕とイアンは地点Bにて待機。ダン、アンドリュー、セドリックは中央本隊に合流。Z隊隊長の指示を仰げ。バートンは地点Bまで僕を運んで後方待機。まずは体を休めろ。――この戦いでニュドニアの平和を取り戻すことができるかもしれない。全力で行け!」
「はっ!」
***
トイメトアの決戦から、早くも三週間が過ぎた。
国境である河沿いには堅強な壁がものすごいスピードで建造されている。
さらに、モクトスタのマスターを含めた兵隊が常に警備する守りの固さだ。
ニュドニアはセイダルに勝った。
あの後、拠点はあっさりと落ちた。
上空を含む全方位からの一斉攻撃。
ある程度予測していたのか、セイダル側はこちらの地上部隊が到着する前に上層部を逃がそうとしていた。
しかし、それは失敗に終わった。
ブレイブの中距離砲で拠点の天井に大穴を開けられ、こちらからは下の様子が丸見えだったこともあって逃げようがなかったんだ。
特に上空からの攻撃に僕が含まれていたのが想定外だったようだ。ブレイブのみに対策を立てていたのだろう。
敵兵は混乱し、右往左往としている内に中央本隊が合流して包囲。
セイダルの司令官たちは最後まで抵抗したものの、モクトスタを装備していない者に勝ち目はない。
ニュドニアの勝利が決定した瞬間だった。
その間わずか十二分。
「ぐ、ぅ……!」
拠点の制圧が完了したという通信を受けた途端に、喉からうめき声が漏れた。緊張の糸が切れてモクトスタも解除されてしまった。
強化がなくなりアドレナリンも切れて、一気に足と腹部に痛みが襲って体勢を崩した。
そのまま膝を付こうとしたところで、後ろから「おっと」なんて声と共に誰かに腰を支えられる。
「なん、何で……!」
そこにいたのは、なんとブライトルだった。
「さ、作戦本部は? どうして……?」
「説明は後だよ。まずは救護隊のところへ行こうか」
「は、はい、すみません。ありがとうございます、っ?」
そのままブライトルは僕を抱えあげた。一瞬だけど痛みが吹っ飛んだ。
何してんだこの人……!
「殿下っ、下ろしてください……。一国の王子がこんなことをしてはいけません……!」
「では一体誰が君を運ぶんだい?」
「歩きます」
「それは指揮官として許可できないね」
「……では、イアン」
「イアンはダメかな」
「誰か他の……」
「私に運ばれるのは嫌なのかい?」
「貴方が運ぶ必要性がないと言っているのですが……!」
僕は辺りを見回して運んでくれそうな人を探す。
でもみんなそれぞれの任務に忙しそうで僕に構っている暇はないみたいだ。
いくら命に別条がないとはいっても薄情すぎないか?
「ほら、みな忙しそうだ。私が運ぶのが合理的ではないかな?」
ぐうの音も出ない。
違う。もう、ぐうの音も出す余裕がない。
「お願い、します……」
「最初からそう言おうね。少し揺れるから、我慢しておくれ」
ブライトルにお姫様抱っこで運ばれる僕をみんながチラチラと見ていく。人に見られることには慣れているのに、どうにもこの視線は落ち着かない。
なんとか我慢して救護隊に連れて行かれた先で、地面に置かれた担架に乗せられ処置を受けた。
「担架……?」
そうだよ! 緊急度は低かったんだから、担架を待ってきてから運んでくれたらよかったじゃないか!
疲れと痛みでそこまで頭が回らなかった。
処置が終わるまで付き添ってくれていたブライトルを無言で睨む。満足そうな顔をしていて余計に腹が立った。
「私はまだこちらでやることが残っている。先に帰ってゆっくりと休んでおくれ」
「お気遣いいただきありがとうございます、ヴァルマ特別指揮官。次にお会いできるときは是非またお話させてください」
次に会ったら覚えておけよ、と下手くそな笑顔を浮かべて丁寧にお礼を言った。
僕の言いたかったことが伝わったのか、ブライトルが笑いをこらえているのが分かる。
色々と言いたいことはあったけど、段々と頭が重くなってきた。瞼を下ろすスピードが遅い。処置中に打たれた薬の影響かもしれない。
周りには横たわるたくさんの負傷兵と走り回る救護隊員と医療チーム。
みんな自分のことで手一杯で、王子殿下がいるのに誰もこちらを意識していないようだ。
少しくらい、いいよな……。
僕は閉じそうな目でジッとブライトルを見上げた。目が合う。
「どうしたんだい? エドマンド」
「生きてる、から、な」
自然に笑みが浮かんだ。ブライトルの綺麗な空色が丸々と開かれる。
「エドマンド……」
「……約束、守れ、よ……」
もう、目が開かない。霞んだ視界の中で何故か悔しそうな顔が見える。
ああ、その顔、好きだ……。
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