この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~

乃ぞみ

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第四章 もし望めば死亡フラグだって折れるんだ

三十八、トイメトアの決戦③

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(こちらでほとんどの戦闘シーン終了です。お付き合いくださった方はありがとうございます)



「エドマンド! 平気?」
「……イア、ン……?」
「間に合った……!」
「ガハッ……! はぁ、はぁ、はぁ」
「いい、喋らないで」
「へぇ? あれだけいた兵隊からよく逃げ出せたなぁ?」

 霞んでいた視界が少しずつはっきりとしてくる。
 近くに赤いモクトスタ――ブレイブだ――を装備したイアンがいた。
 アーチーはかなり離れた場所にいる。ブレイブで攻撃されて距離を取ったのだろう。
 僕はゆっくりと上体を起こして状況を確認する。

「……ダンは、どうした」
「大丈夫、すぐに来るよ。君が心配だったから、先に俺だけ飛んで来たんだ」
「そう、か……。たすか、った」
「絶対戻るって言ったでしょ? ――ここからは俺が相手だ」
「ははは! いいね! 元々お前が狙いだからな! 生きてさえいれば状態は問わないと言われているんでね!」

 ゴォォォン!

 二人が同時に踏み切っただけで轟音が響く。
 モクトスタをを装備していない状態では、目で追うこともできない。
 スピードは明らかにブレイブの方が上のようだ。アーチーに小さな傷が増えていく。
 それでも相手は百戦錬磨の戦士だった。性能で劣っているのに、テクニックと経験を駆使して同等レベルで戦っている。

 僕はやられた傷の状態を確認した。
 脳の揺れはだいぶ収まってきているけど、ろっ骨は何本かやられている。幸いなのは最低限ライトで防御していたお陰で内臓の損傷はほとんどなさそうなことだ。
 悔しいけど今の僕にできることは、邪魔にならない場所まで逃げて、可能なら味方を増やすことだ。

「ぅ、あぁぁっ……!」

 即効性の痛み止めを打って立ち上がろうとして、足に激痛が走った。
 折れていた。気を失っている間にやられたらしい。本当に、抜かりの無い男だ。
 固定しないと歩けそうにない。添え木になりそうなものを探しているときだった。

 ガシャァァン……!

 近くの瓦礫に何かが突っ込んだ!
 急いで二人に顔を向ける。
 立ち込めていた土煙が薄れて、立っていたのはアーチーだった。

「っイアン……!」

 瓦礫の奥からゆっくりとイアンが出てくる。致命傷ではなさそうだ。
 対するアーチーも、肩で息をして突き出していた腕を下ろしている。すぐに次の行動に移れないほどには消耗しているらしい。
 モクトスタを装備していない僕には聞こえないけど、薄っすらと漂う土煙の中、二人が向かい合って何かを話している。
 そしてまたお互いに向かって飛び出したとき、突然アーチーが上空へ飛び上がった。

「なっ……?」

 どこからか現れた三体のモクトスタが左右と後ろから槍を突き出していた。

「あれは……アンドリューたちか?」
「おい、無事か? エドマンド」
「ダン……」

 振り向いた先にいたのは、息を切らしたダンだった。

「怪我の状態は?」
「右足、ろっ骨の骨折。内臓に軽度の損傷と脳震盪だ」
「思っていたよりは大丈夫そうだな」
「なんとかな。外の状態は」

 ダンがニヤッと質の良くない笑みを浮かべる。

「出てみて、自分で確認するんだな」

 どうやら悪い状態じゃないようだ。

「悪かったな」
「気にするな。チームだろ? 隊長!」

 軽く背中を叩かれる。

「それから、これ、渡しておく。この後、必要だろ?」
「準備がいいな。――助かる」

 ダンは僕の足に添え木をして、さらに腹を固定するとイアンたちの元に向かった。
 僕は掌に乗った紋章を胸元に付ける。
 新しいモクトスタだ。
 汎用機とは言え、これがあればスピードは落ちるが足が強化されるし、走ることも可能だ。
 体力は限界に近い。装備できるのは精々十五分ほどだろう。

 顔を上げれば、苦戦するアーチーが見える。
 僕とイアン。続けて二人の相手をしてからのダンたちからの総攻撃。いくらあの男でも限界だったようだ。

 ガキィィィン!

 モクトスタが破損する独特の音が響いた。
 ナウトの装甲の一部が完全に破壊されていた。
 追い詰めた! そう思ったとき、アーチーはブースト・トリプルで誰もいない方向へ走り出した。
 敗走も辞さない。泥を啜っても生きる。その気持ちも少し理解できる。あいつも、なんとしてでも生きて帰りたい理由があるんだろう。

「エドマンド! どうする!」
「いい! 作戦を優先する!」
「了解!」


 アンドリューに抱えられてホールの外に出ると、そこには呻くセイダルの兵士たちがあちらこちらに倒れていた。
 比較的元気そうな生身のニュドニア兵が彼らを捕虜にしようと走り回っている。

「あれだけの混戦、どうやって……」

 辛勝できればいい方だと思っていた。これでは圧勝に近い。

「我が国には鬼神がいたんだ……」
「ダン、殿下はトーカシア国の方だから、正確には違う」
「ブライトル殿下……ヴァルマ特別指揮官が?」
「すごかったんだよ! 通信が繋がるようになって状況を説明した途端、中央本隊を大胆に分割してこちらに戦力を回したんだ」
「そんなことをして、中央は大丈夫だったのか?」
「援軍が、間に合ったんだ」

 ダンがどこか疲れたような顔をしている。援軍? そんな話は聞いていない。
 他にも追及したくなったけど、僕はそこで質問を止めた。

「そ、そうか。とにかく、分かった。それで、ここから先の作戦はどうなっている」
「変更はなしだ。中央本隊と共に拠点を叩く」
「エドマンド様、本当に大丈夫なんですね?」
「エドマンド様! 他に痛いところはないですよね!」
「エドマンド様……。嘘はやめてくださいね?」
「三人とも、近い……。大丈夫だ。ありがとう」

 アンドリューたちが必死の形相で見極めようとしてくる。心配が何だか少し恥ずかしい。

「変更なし、か。通信が通じるのはどの辺りからだ?」
「ここから、トップスピードで二分くらい走ったところからだったよ」
「よし、ならバートン、僕を抱えてまずはその位置までブースト・ダブルの連続使用で運んでくれ。本部と連絡を取って突撃のタイミングを確認する。他のメンバーは通常のスピードで後から合流するように。その場で追って指示を出す」
「承知しました!」


 アーチー・カメルを撃退した。
 この戦い、勝つ。勝って、必ず生きて帰るんだ――。
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