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第三章 運命なんて言葉じゃちょっと無理がある
二十七、密室にも排気口くらいある
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空が青く澄んでいる。短い夏がやってこようとしている。
とうとう僕ら最年少のメンバーも軍隊入りする日がやってきた。形ばかりの入隊式には、学園外から集められた子供も複数いた。その子らを入れて全部で百名ほど。みんなモクトスタの才能を見出されてここにいる。
慣れない様子で整列していると、第一師団長がやって来て言った。
「よく集まってくれた。君たちはこの国の光だ。これから、ほとんどの者は精鋭部隊の候補生として入隊してもらう。優秀な隊員は兵士として国境近辺へ行く可能性があることを、今の内から頭に入れておいてくれ。詳しい配属先は――」
その後に続いた説明で、僕とイアンは候補生を飛ばして、直接第三師団の所属となったことが分かった。
ダンはアンドリューたちと同じ第五師団だ。どちらも国防においては花形の部隊で、それだけ僕らの実力が認められているということだ。
それからは学園で午前中だけ勉強して、午後は大人に混じってトレーニングした。さすがに基礎体力の部分は候補生たちと行ったものの、それだけじゃ足りないと特別メニューが組まれた。
モクトスタを使用した動きに関しては、僕に敵うのは副師団長以上の人くらいだった。
ほとんどの隊員のランクがインディゴかブルーくらいの中、僕のランクはグリーンだったから仕方ない。
少し前のブライトルに追い付いたわけだ。彼のことだから、すでにイエローに上がっているだろうけど。
入隊当初から力量に差があったから、一ヶ月も経ったころにはとうとうエース・オブ・モクトスタの異名を付けられた。
イアンのグロリアスへの期待も相当だったけど、完全に扱えないことへの不安があって、その分も上乗せされたんだろう。
だからかは分からないけど、特例中の特例。異例中の異例として、僕は十四歳にして専用機を用意してもらえることになった。
この年で用意してもらえることなど、まずあり得ない。
「わぁ! すごいよ! エドマンド!」
イアンが自分のことのように喜ぶ。
嬉しい。正直、とても嬉しかった。専用機は子供たちの憧れだ。僕だって多少は似た気持ちを持っていた、らしい。実際に話が来て初めて自分が喜んでいることに気付いた。
「ああ……」
「よかったね」
「これで、またお前との差が開くな?」
「あ! 言ったね? 俺も日々成長してるんだからね!」
「また勝たせてもらうさ」
「おい、エース」
イアンと話していると、後ろから第三師団の隊員に話しかけられた。
イアンはすでに隊に馴染んでいるけど、僕の方は当然というか仕様というか、業務上の話しかしたことがなかった。
彼らは僕が元帥の孫であることから、後輩だけど呼び捨てができない。それで気付けばエースと呼ばれるようになっていた。
「何か?」
咄嗟に警戒してしまうのは癖かもしれない。僕自身驚くほど表情がつるんと落ちた。
「あ、その、専用機。よかったな。おめでとう」
「え……?」
「今日はお祝いだな! お前ら酒はまだ飲めねぇから、食堂行こうぜ! 師団長のおごりだ!」
予想外の言葉に驚いていると、後ろから陽気な先輩が顔を出す。
「え、と……?」
「お前、よく声かけた! これでタダ飯ゲットだな!」
「エース! おめでとう!」
「おめでとう! よかったな!」
続々と隊員たちが寄ってくる。
何だ? 何が起こっている? どうして僕はみんなから祝われているんだ?
「んだ、お前ボーっとして。専用機は俺らの夢でもあるんだ。それをその年で叶えるなんてすげぇことだよ。おめでとう!」
頭に大きな掌が乗って前後に揺らされる。
「悔しくは、ないのか?」
敬語は使えない。それが少し悔しい。
みんなの明るい声がピタッと止まった。
一瞬の間。
「アハハハハハ!」
「お前! 素直か!」
「なんだよー! エースってもしかして表情に出ないだけかぁ?」
その場の全員が楽しそうに笑っている。
「悔しいさ。当り前だろ? でも、俺らだって諦めたわけじゃない。それに、仲間の成功を祝う気持ちは別物だろ?」
「なかま……」
「おいおい、まさかお前仲間じゃないとか言うなよ? お兄さん泣くからな?」
「お前が泣いても何も出ねぇんだよ! 涙が効果的なのは子供と恋人、親だけだ」
目の前がグラグラと揺れている。どうしたらいいのか分からなくて咄嗟にイアンに助けを求めてしまった。
知らず縋るような顔で見ている僕に、イアンはとても嬉しそうにニコニコと笑っていた。
「イアン、これは、なんだ」
「おめでとう、エドマンド。嬉しい?」
嬉しい? そうか、僕は嬉しいのか……。
「……ああ、そうだな……」
呆然と答えて頷く。
頭を下げてお礼を言えたらどんなにいいかと思った。
帰宅すると一目散に自室に向かった。
着替えることもせずに机に向かって手紙を書く。
宛先はブライトルだ。彼が帰国してから、四日もしない内に最初の手紙が届いた。日程的に道中で書いて投函したんだろう。
返事を書かないわけにもいかず仕方なく筆を取った。すぐにまた向こうから返事が届いた。また僕が書く。彼が書く。と続いて、いつの間にか文通のようなことをする関係になっていた。
王族への手紙だ。私文書とは言ってもある程度の形は守らなきゃならない。
『僭越ながら、専用機を賜ることとなりました』
ブライトルからランクについての報告はなかったけど、もしイエローに上がっていたら専用機も用意されているのかもしれない。
気になったけど、こちらから聞くのは少し不敬だ。
他にも日々のことを書いて、締めの文言を書く前にふと思い立って一言添えた。
『隊内でも支障ありません。今日は皆で食事に行きました。楽しい一時を過ごさせてもらいました』
とうとう僕ら最年少のメンバーも軍隊入りする日がやってきた。形ばかりの入隊式には、学園外から集められた子供も複数いた。その子らを入れて全部で百名ほど。みんなモクトスタの才能を見出されてここにいる。
慣れない様子で整列していると、第一師団長がやって来て言った。
「よく集まってくれた。君たちはこの国の光だ。これから、ほとんどの者は精鋭部隊の候補生として入隊してもらう。優秀な隊員は兵士として国境近辺へ行く可能性があることを、今の内から頭に入れておいてくれ。詳しい配属先は――」
その後に続いた説明で、僕とイアンは候補生を飛ばして、直接第三師団の所属となったことが分かった。
ダンはアンドリューたちと同じ第五師団だ。どちらも国防においては花形の部隊で、それだけ僕らの実力が認められているということだ。
それからは学園で午前中だけ勉強して、午後は大人に混じってトレーニングした。さすがに基礎体力の部分は候補生たちと行ったものの、それだけじゃ足りないと特別メニューが組まれた。
モクトスタを使用した動きに関しては、僕に敵うのは副師団長以上の人くらいだった。
ほとんどの隊員のランクがインディゴかブルーくらいの中、僕のランクはグリーンだったから仕方ない。
少し前のブライトルに追い付いたわけだ。彼のことだから、すでにイエローに上がっているだろうけど。
入隊当初から力量に差があったから、一ヶ月も経ったころにはとうとうエース・オブ・モクトスタの異名を付けられた。
イアンのグロリアスへの期待も相当だったけど、完全に扱えないことへの不安があって、その分も上乗せされたんだろう。
だからかは分からないけど、特例中の特例。異例中の異例として、僕は十四歳にして専用機を用意してもらえることになった。
この年で用意してもらえることなど、まずあり得ない。
「わぁ! すごいよ! エドマンド!」
イアンが自分のことのように喜ぶ。
嬉しい。正直、とても嬉しかった。専用機は子供たちの憧れだ。僕だって多少は似た気持ちを持っていた、らしい。実際に話が来て初めて自分が喜んでいることに気付いた。
「ああ……」
「よかったね」
「これで、またお前との差が開くな?」
「あ! 言ったね? 俺も日々成長してるんだからね!」
「また勝たせてもらうさ」
「おい、エース」
イアンと話していると、後ろから第三師団の隊員に話しかけられた。
イアンはすでに隊に馴染んでいるけど、僕の方は当然というか仕様というか、業務上の話しかしたことがなかった。
彼らは僕が元帥の孫であることから、後輩だけど呼び捨てができない。それで気付けばエースと呼ばれるようになっていた。
「何か?」
咄嗟に警戒してしまうのは癖かもしれない。僕自身驚くほど表情がつるんと落ちた。
「あ、その、専用機。よかったな。おめでとう」
「え……?」
「今日はお祝いだな! お前ら酒はまだ飲めねぇから、食堂行こうぜ! 師団長のおごりだ!」
予想外の言葉に驚いていると、後ろから陽気な先輩が顔を出す。
「え、と……?」
「お前、よく声かけた! これでタダ飯ゲットだな!」
「エース! おめでとう!」
「おめでとう! よかったな!」
続々と隊員たちが寄ってくる。
何だ? 何が起こっている? どうして僕はみんなから祝われているんだ?
「んだ、お前ボーっとして。専用機は俺らの夢でもあるんだ。それをその年で叶えるなんてすげぇことだよ。おめでとう!」
頭に大きな掌が乗って前後に揺らされる。
「悔しくは、ないのか?」
敬語は使えない。それが少し悔しい。
みんなの明るい声がピタッと止まった。
一瞬の間。
「アハハハハハ!」
「お前! 素直か!」
「なんだよー! エースってもしかして表情に出ないだけかぁ?」
その場の全員が楽しそうに笑っている。
「悔しいさ。当り前だろ? でも、俺らだって諦めたわけじゃない。それに、仲間の成功を祝う気持ちは別物だろ?」
「なかま……」
「おいおい、まさかお前仲間じゃないとか言うなよ? お兄さん泣くからな?」
「お前が泣いても何も出ねぇんだよ! 涙が効果的なのは子供と恋人、親だけだ」
目の前がグラグラと揺れている。どうしたらいいのか分からなくて咄嗟にイアンに助けを求めてしまった。
知らず縋るような顔で見ている僕に、イアンはとても嬉しそうにニコニコと笑っていた。
「イアン、これは、なんだ」
「おめでとう、エドマンド。嬉しい?」
嬉しい? そうか、僕は嬉しいのか……。
「……ああ、そうだな……」
呆然と答えて頷く。
頭を下げてお礼を言えたらどんなにいいかと思った。
帰宅すると一目散に自室に向かった。
着替えることもせずに机に向かって手紙を書く。
宛先はブライトルだ。彼が帰国してから、四日もしない内に最初の手紙が届いた。日程的に道中で書いて投函したんだろう。
返事を書かないわけにもいかず仕方なく筆を取った。すぐにまた向こうから返事が届いた。また僕が書く。彼が書く。と続いて、いつの間にか文通のようなことをする関係になっていた。
王族への手紙だ。私文書とは言ってもある程度の形は守らなきゃならない。
『僭越ながら、専用機を賜ることとなりました』
ブライトルからランクについての報告はなかったけど、もしイエローに上がっていたら専用機も用意されているのかもしれない。
気になったけど、こちらから聞くのは少し不敬だ。
他にも日々のことを書いて、締めの文言を書く前にふと思い立って一言添えた。
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