この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~

乃ぞみ

文字の大きさ
上 下
22 / 47
第三章 運命なんて言葉じゃちょっと無理がある

二十二、主人公の存在感

しおりを挟む
 夏季休暇が終わり、僕らはセカンダリ二年へ進級した。ブライトルはターシャリの一年へ上がって、一気に会う頻度が減った。
 本来なら大きな変化はこれくらいのはずだったけど、この年、僕らにとっては大きな変更が行われた。

 モクトスタ使用年齢が十五歳から十三歳へ引き下げられたのだ。

 つまり、学校での初期講習はセカンダリの二年生から行われることになった。
 少しでも地盤を固くして、底上げしようということだ。セイダルに数で劣るニュドニアの苦肉の策だろう。
 それだけ若い人間を早い段階から軍部に取り込み、戦争に投じようということだ。国を守るためとは言え、かなりの強硬手段と言える。

 クラスメイトはもろ手を挙げて喜んだ。憧れのモクトスタをいち早く装備できるとあればテンションも上がる。
 あちらこちらから何色の誰々がすごいとか、専用機が目標だとか、ターシャリでもマスター昇格しかたのは数人で、ブライトルはもうグリーンへ昇格しただとか。色々な話が鼻息荒く語られている。
 ダンも友人A/B/Cも同じように空気に飲まれている中、僕とイアンだけが冷静だった。これがどういうことなのか、正確に理解していた。

「お前は喜ばないんだな」
「モクトスタは、みんなが憧れるようなことばかりじゃないからね」
「随分冷静じゃないか」
「俺は、俺は……」

 この時点で、イアンはダン以外の誰にもグロリアスのことを話していない。僕が知っていることも知らない。

「いい。無理に話すな。いずれ分かる」
「エドマンド……。ありがとう」

 何も答えなかった。僕が知っているのは、色々とズルをしているからだ。お礼を言われるようなことじゃない。


 初期講習では、まずモクトスタとは何かの復習から始まり、最終的に装備の訓練になった。

「オープン!」

 一斉に唱える。最初から成功したのは僕、イアン、ダンのみ。その後何度か挑戦して、クラスメイトの半数くらいが装備することができた。

 モクトスタの装備に失敗する例としては、そもそも起動できていない、起動できても自分の体に馴染ませることができていないことだ。
 でも、装備するだけならいずれ誰でもできる。
 問題はそれをどの程度扱えるかだ。
 モクトスタを装備すると、身体能力が何倍――場合によっては何十倍――にも跳ね上がる。軽いジャンプのつもりが校舎の遥か上、なんてこともある。まずはそれに耐えられるだけの精神力と体力が必要となる。

 即戦力を必要としているらしい国の方針から考えれば、まずはこの点を早々にクリアした人材が必要だ。
 特別講師として来ていた軍部の人は僕やイアン、ダン、友人A/B/Cを含む八名の名前を呼んでこう言った。

「君たちは明日から特待生として課外授業が行われます。よりモクトスタの扱いが上達するように頑張ってきてください」


 翌日、僕らは第三グラウンドに集まっていた。
 そこは普段からモクトスタの練習のために解放されていて、本来は軍部を目指す者のための場所だ。
 今日からここで、専門的なモクトスタの訓練が始まる。
 参加者はセカンダリ、ターシャリからそれぞれ三十名ずつほど。その中には学生の身ながらグリーンランクにいるブライトルもいる。
 レベル別に六名ほどのチームを組んで訓練を行い、連携の練習なども想定されている。

「エドマンド。同じチームで嬉しいよ! まずはマスター昇格を目指して頑張っていこう!」
「僕も嬉しいです、ブライトル殿下。よろしくお願いいたします」
「久しぶりに会ったら、固いね。まあ、いい。最近は君との手合わせもしていないしね。楽しみだ」
「僕では到底殿下には敵いません」
「君、わざとしているね?」

 ブライトルが笑う。僕も目元を緩めた。

「チーム編成に口出しでもしたんですか?」
「前にも言っただろう? 私は何も言わないさ」

 僕のチームメイトはセカンダリから僕とイアンのみ。後は全てターシャリの三年生で組まされている。ある程度モクトスタを使用できるメンバーだ。

「すでに気付いているかもしれないが、君たちは特にモクトスタへの素質があると思われるメンバーだ。訓練もそれだけ厳しくなる。頑張ってくれ、期待している」
「はい!」

 講師役の軍人に揃って返事をする。
 誰も嫌だなんて言わない。言えないだけかもしれないけど、本当なら軍部と関わりたくない人だっているだろうに。ターシャリの三年くらいになると、多分みんな分かっているのだ。国がもう危ないということに。自分たちのような子供でさえ頑張らなければいけない状態だということに。


 訓練はやはり基本の体力トレーニングから始まった。これがまずキツイ。前にブライトルが言っていたことを思い出す。
 僕は普段からトレーニングを行っているから何とかなったけど、これでも学生向けに優しくされていると思うと、これから先に気が重くなりそうだ。
 しかも原作でエドマンドは涼しい顔で成績トップを取るのだ。僕も当然そうする必要がある。

 次にモクトスタを装備して基本動作の確認、それから講師との手合わせとなった。
 講師は国でも有名なオレンジランクのマスターだ。
 ターシャリの三年生から順に挑んでいって、まともに相手になったのはブライトルだけだった。

「次、イアン・ブロンテ」
「はいっ!」

 イアンが走り出す。動き出しが滑らかで、無駄な力が入っていない。
 前に比べて随分動きがよくなっている。師団長の教えの賜物なんだろう。

 安定したスピードで正面から何発かパンチを入れるも全て防がれている。
 そして、下腹部への一発を防がれた瞬間、講師の腕を支えに上空へ飛び上がった!
 位置は左上、恐らく狙いは頸椎。
 観戦していたチームメイトから「おぉ!」と声が上がる。

 イアンが左手で手刀を作り、振りかぶる。
 入る……!
 そう思われた瞬間、彼は両手首を掴まれて地面へ思い切り投げ飛ばされていた。
 講師は基本的にほとんど動かない。ブーストも使わないルールだったけど、大きく一歩踏み出させたのだ。

「すげぇ!」
「かっこよかったよ!」
「よくやった!」

 みんなが口々に言って走り寄る。もみくちゃにされて、自分よりも年上の人に囲まれて照れ笑いを浮かべるイアン。
 ああ、主人公だな。
 僕が余韻を味わっていると、横から思い切り肩を抱き寄せられた。

「なんだよ、ブライトル」
「いや? イアンにご執心なのが面白くなくて?」
「なんだ、それ」

 肩に乗っていた手を払い落とす。

「エドマンド・フィッツパトリック!」
「はい」

 さて、最後は僕だ。背筋を伸ばして踏み出そうとした背中にブライトルから声がかかる。

「お手並み拝見だな」
「見ていろ。今の僕を」

 振り返って口角を上げると呆けたような顔をしていて、なんだかすごくおかしかった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】

リトルグラス
BL
 人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。  転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。  しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。  ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す── ***  第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20) **

身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!

冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。 「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」 前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて…… 演技チャラ男攻め×美人人間不信受け ※最終的にはハッピーエンドです ※何かしら地雷のある方にはお勧めしません ※ムーンライトノベルズにも投稿しています

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

騎士団で一目惚れをした話

菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公 憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。

ガラス玉のように

イケのタコ
BL
クール美形×平凡 成績共に運動神経も平凡と、そつなくのびのびと暮らしていたスズ。そんな中突然、親の転勤が決まる。 親と一緒に外国に行くのか、それとも知人宅にで生活するのかを、どっちかを選択する事になったスズ。 とりあえず、お試しで一週間だけ知人宅にお邪魔する事になった。 圧倒されるような日本家屋に驚きつつ、なぜか知人宅には学校一番イケメンとらいわれる有名な三船がいた。 スズは三船とは会話をしたことがなく、気まずいながらも挨拶をする。しかし三船の方は傲慢な態度を取り印象は最悪。 ここで暮らして行けるのか。悩んでいると母の友人であり知人の、義宗に「三船は不器用だから長めに見てやって」と気長に判断してほしいと言われる。 三船に嫌われていては判断するもないと思うがとスズは思う。それでも優しい義宗が言った通りに気長がに気楽にしようと心がける。 しかし、スズが待ち受けているのは日常ではなく波乱。 三船との衝突。そして、この家の秘密と真実に立ち向かうことになるスズだった。

聖女の兄で、すみません! その後の話

たっぷりチョコ
BL
『聖女の兄で、すみません!』の番外編になります。

風紀委員長様は王道転校生がお嫌い

八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。  11/21 登場人物まとめを追加しました。 【第7回BL小説大賞エントリー中】 山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。 この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。 東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。 風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。 しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。 ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。 おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!? そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。 何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから! ※11/12に10話加筆しています。

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

処理中です...