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第二章 友情なんて簡単な言葉じゃ説明できない
十七、じわじわと近づく足音
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「エドマンド君! 一緒にご飯食べようよ!」
「断る」
「あのね、さっきはありがとう!」
「付きまとうな」
「先週城まで見にきてくれてたよね! フルーリア王女とは仲がいいの?」
「おい」
「あっ、ごめん……」
やっと僕が迷惑な素振りを見せていることに気付いてくれたらしい。思いっきり言葉にしていたけど、この際それはどうでもいい。これに懲りて、適切な距離になればそれでいい。
イアンの顔を見ることも無く横を通り過ぎる。
「俺ばっかり話してたね。エドマンド君は俺に聞きたいこととかない?」
鋼メンタルだ……。
溜め息をつきたくなった。
イアンは、昼休憩に入って僕がレストランへ向かう間中ずっと話しかけてきている。
今まではいい意味で怖がられていたからここまでしつこい相手はいなかった。
友人たちにはイアンに関しては僕が対応すると伝えてあるので口出ししてこない。さっきから般若のような顔でイアンを見ているけど。
王女殿下から頼まれている以上、突き放すにしても限度がある。
それに……それに! やっぱり作中ではイアンのことが一番好きだったから、どうしても強く出られない。彼もそれをどこかで感じ取っているのか、とにかく圧が強いのでこのままではなし崩し的に一緒に昼食を取ることになる。
どうしたものか……。無表情で頭を悩ませていると、救いの神が現れた。
「エドマンド! 今から昼食かい?」
「ブライトル殿下……」
ブライトル! いいところに来てくれた! いつもだったら顔も見たくないけど、今日ばかりは本気で助かった。
この打算的な人なら、きっと。
「君が噂の編入生だね?」
ほら、絶対にイアンに声をかけてくれる。
「はい! ブライトル殿下、初めまして」
「私のことを知ってくれているのかい? ありがとう」
「はい。城内で何度か見かけました。イアン・ブロンテと言います」
怖いもの知らず……。
イアンへの嫌味は、エドマンドがフォローしたのにこの後も続く。
当時は身分の差って大変だな、程度に思ってたけど今なら分かる。この天真爛漫さにイラついたんだろうな。
「よろしく、イアン」
「よろしくお願いします」
「それで? こんな所にいるのなら昼食はまだということかい?」
「はい、今エドマンド君を誘っていたところです」
「そうなのか。では、私も一緒にいいだろうか?」
「勿論ですよ! ね、エドマンド君!」
よくやった。
これでブライトル殿下の手前、断ることができなかったという言い訳ができる。
「好きにしろ。――殿下はよろしいのですか?」
「当然さ、私から誘ったのだから」
ブライトルが加わったことで、友人たちは傍を離れた。
残されたのはブレスタの主要キャラ三人。
原作でもこんなことがあったのかな。だとしたら、イアンとエドマンドは読者が思っていた以上に仲が良かったのかもしれない。
「うわぁ! これ、本当に食べていいの?」
「勿論だよ」
僕の左隣に座った――流石に王族の隣に座るようなことはしなかった――イアンが昼食のラインナップを見て目を輝かせている。
流石に一皿ずつサーブするわけにはいかないので、レストランでは一度に全部の皿がテーブルに乗る。今日は鶏肉のソテーと白身魚のスープ、サラダにパン。デザートにミルクプリンだ。
僕は何も言わずに食事を進めたし、ブライトルもイアンと談笑していて特に追及しなかったけど、きっと同じことを思っていた。
先月より今月。先週より今週。そして今日。少しずつ、少しずつ食事の量が減っている。
この学園のレストランは僕たちが贔屓にしている店に引けを取らない。シェフたちはそのことにプライドを持っているはずなのにだ。
「でも俺だけこんな豪華な食事、街のみんなに悪い気がする……」
「街、か……。ねぇ、イアン。風の噂で聞いたのだけど」
そこで言葉を切ると、ブライトルがナイフとフォークを置いてテーブルの上で両手を重ねた。
「ドノア地区でさえ、食料が不足しているというのは本当かい?」
先ほどのクラスメイトはドノア地区をバカにしていたけど、あそこは庶民の台所だ。近隣からの食材の全てが集まる。なのに、不足している?
僕は経済に疎い。自覚してからは勉強するようにしているけど、それでも王族として息をするように学んできたブライトルには到底敵わない。
黙々と料理を運ぶだけだった両手を止めて、ジッとイアンの顔を見る。
「そうなんです。ここ三ヶ月くらいずっとです。市場の人たちが困ってて……」
「だから、さっきみたいなことを言ったのかい?」
「それだけじゃないですけど、そうですね、みんな、ちゃんと食べれてるといいな」
イアンが寂しそうな顔をする。彼も環境が変わって大変なのだろう。
でも、知れてよかった。少しずつ、少しずつ。分からないくらい少しずつ、周りが狭くなっている。
ブライトルはこの話を僕に聞かせたかったのかもしれない。知った上で僕がどう動くのかでも観察したいのだろうか。
未来を知っている僕が、何をするのかを。
一週間後、高級店街より外側――つまり商業街や、その外側の工業地帯など――に行かないように学校側から通知がきた。
「断る」
「あのね、さっきはありがとう!」
「付きまとうな」
「先週城まで見にきてくれてたよね! フルーリア王女とは仲がいいの?」
「おい」
「あっ、ごめん……」
やっと僕が迷惑な素振りを見せていることに気付いてくれたらしい。思いっきり言葉にしていたけど、この際それはどうでもいい。これに懲りて、適切な距離になればそれでいい。
イアンの顔を見ることも無く横を通り過ぎる。
「俺ばっかり話してたね。エドマンド君は俺に聞きたいこととかない?」
鋼メンタルだ……。
溜め息をつきたくなった。
イアンは、昼休憩に入って僕がレストランへ向かう間中ずっと話しかけてきている。
今まではいい意味で怖がられていたからここまでしつこい相手はいなかった。
友人たちにはイアンに関しては僕が対応すると伝えてあるので口出ししてこない。さっきから般若のような顔でイアンを見ているけど。
王女殿下から頼まれている以上、突き放すにしても限度がある。
それに……それに! やっぱり作中ではイアンのことが一番好きだったから、どうしても強く出られない。彼もそれをどこかで感じ取っているのか、とにかく圧が強いのでこのままではなし崩し的に一緒に昼食を取ることになる。
どうしたものか……。無表情で頭を悩ませていると、救いの神が現れた。
「エドマンド! 今から昼食かい?」
「ブライトル殿下……」
ブライトル! いいところに来てくれた! いつもだったら顔も見たくないけど、今日ばかりは本気で助かった。
この打算的な人なら、きっと。
「君が噂の編入生だね?」
ほら、絶対にイアンに声をかけてくれる。
「はい! ブライトル殿下、初めまして」
「私のことを知ってくれているのかい? ありがとう」
「はい。城内で何度か見かけました。イアン・ブロンテと言います」
怖いもの知らず……。
イアンへの嫌味は、エドマンドがフォローしたのにこの後も続く。
当時は身分の差って大変だな、程度に思ってたけど今なら分かる。この天真爛漫さにイラついたんだろうな。
「よろしく、イアン」
「よろしくお願いします」
「それで? こんな所にいるのなら昼食はまだということかい?」
「はい、今エドマンド君を誘っていたところです」
「そうなのか。では、私も一緒にいいだろうか?」
「勿論ですよ! ね、エドマンド君!」
よくやった。
これでブライトル殿下の手前、断ることができなかったという言い訳ができる。
「好きにしろ。――殿下はよろしいのですか?」
「当然さ、私から誘ったのだから」
ブライトルが加わったことで、友人たちは傍を離れた。
残されたのはブレスタの主要キャラ三人。
原作でもこんなことがあったのかな。だとしたら、イアンとエドマンドは読者が思っていた以上に仲が良かったのかもしれない。
「うわぁ! これ、本当に食べていいの?」
「勿論だよ」
僕の左隣に座った――流石に王族の隣に座るようなことはしなかった――イアンが昼食のラインナップを見て目を輝かせている。
流石に一皿ずつサーブするわけにはいかないので、レストランでは一度に全部の皿がテーブルに乗る。今日は鶏肉のソテーと白身魚のスープ、サラダにパン。デザートにミルクプリンだ。
僕は何も言わずに食事を進めたし、ブライトルもイアンと談笑していて特に追及しなかったけど、きっと同じことを思っていた。
先月より今月。先週より今週。そして今日。少しずつ、少しずつ食事の量が減っている。
この学園のレストランは僕たちが贔屓にしている店に引けを取らない。シェフたちはそのことにプライドを持っているはずなのにだ。
「でも俺だけこんな豪華な食事、街のみんなに悪い気がする……」
「街、か……。ねぇ、イアン。風の噂で聞いたのだけど」
そこで言葉を切ると、ブライトルがナイフとフォークを置いてテーブルの上で両手を重ねた。
「ドノア地区でさえ、食料が不足しているというのは本当かい?」
先ほどのクラスメイトはドノア地区をバカにしていたけど、あそこは庶民の台所だ。近隣からの食材の全てが集まる。なのに、不足している?
僕は経済に疎い。自覚してからは勉強するようにしているけど、それでも王族として息をするように学んできたブライトルには到底敵わない。
黙々と料理を運ぶだけだった両手を止めて、ジッとイアンの顔を見る。
「そうなんです。ここ三ヶ月くらいずっとです。市場の人たちが困ってて……」
「だから、さっきみたいなことを言ったのかい?」
「それだけじゃないですけど、そうですね、みんな、ちゃんと食べれてるといいな」
イアンが寂しそうな顔をする。彼も環境が変わって大変なのだろう。
でも、知れてよかった。少しずつ、少しずつ。分からないくらい少しずつ、周りが狭くなっている。
ブライトルはこの話を僕に聞かせたかったのかもしれない。知った上で僕がどう動くのかでも観察したいのだろうか。
未来を知っている僕が、何をするのかを。
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