この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~

乃ぞみ

文字の大きさ
上 下
13 / 47
第二章 友情なんて簡単な言葉じゃ説明できない

十三、別に憎んでいるわけじゃないので

しおりを挟む
「はぁ、せっかくの昼寝を邪魔された」

 ブライトルが億劫そうにぼやく。
 よく言う。こんな所で寝てる方が悪い。

「人に責任を押し付けるのが上手だな」
「責任は必要なときしかとらないんだ。いつもの取り巻きはどうした?」
「彼らは彼らの役割を全うしてる」
「はは! お前のせいか。迷惑な話だな」
「何だって?」
「追いかけまわされているんだろ?」

 理由を言い当てられて咄嗟に口を閉じた。嫌いなくせによく知ってるな。
 いや、僕だって学園の有名人だ。単純に噂になっているんだろう。

「理由を教えてあげてもいいけど?」
「隙とやらがあるから、だろ? 余計なお世話だ」
「でも、具体的には分かっていない、そうだろ? 箱入り息子のエドマンド」

 本当に気を抜けない。早速ジャブからの右ストレート。でも僕だってノーガードじゃない。なまじっか間違っていないのが腹立たしいと思ってしまった時点で、軽くダメージを負っているけど。

「あいにくと、お爺様に大事に、大事に育てられたからな」
「くっ、ははははは! お前にしては気の利いた冗談だな! いいね! 面白い!」

 祖父の教育方針が決して褒められたものじゃないことを、ブライトルも分かっていて笑っているのだ。そもそもあの人は、育てたと言えるほどのことをしていない。

「あんたと違って、他国で好き勝手に暗躍するような教育は受けていないからな」
「人聞きが悪いな。俺のやり方はほとんどが正攻法だよ。ああ、説得の仕方を知らないなら違いが分からないか?」
「圧力を掛けることを正攻法と呼ぶんなら、大体のことが正攻法だな」

 ブライトルがどんな方法で情報を集めているのかは知らないけど、王族の権力を使っていないはずはないと踏んで言い切った。

「俺はお願いしかしていないさ。相手が勝手に申し出てくれるんだから人徳だな」
「自分で人徳者だなんて、僕なら恥ずかしくて言えないな。その厚顔さが人徳とやらなのか?」

 僕らは柵を一枚隔てて、背中合わせで皮肉を言い合った。正にああ言えばこう言う状態だ。
 とにかく頭をフル回転させて、緊張を切らさないように目の前のテーブルを睨みつける。今にも両腕を組んでしまいたいのを我慢する。相変わらず腹立たしいし、負けるつもりはない。ただ、嫌な気分じゃなかった。掛け合いのテンポが意外に心地よく、相手が彼じゃなければ感心していたかもしれない。

「多少の厚顔さは駆け引きには必要さ。――そもそも、お前はそれがないから狙らわれるんだ」
「な、んだよ、いきなり」
「久しぶりに思い切り笑わせてもらったからな。一つ教えてあげるよ」
「余計なお世話だと言ったはずだ」
「まあ、聞けよ。お前は自分を過小評価し過ぎている。だから、到底釣り合うはずもない人間から声をかけられるんだ」
「過小評価?」
「ん? 聞く気になったか?」
「あんたが聞かせたがった話だろ」

 意図せず拗ねたような声が出た。また背後からクツクツと笑い声が上がる。

「何がそんなに楽しいんだ」
「楽しいさ。お前のことは嫌いだけど、敵じゃない。それがはっきりしているからな」

 王族ともなると、あからさまな敵じゃなく、いつ敵になるかも分からない難しい相手も多いだろうから簡単に白黒は付けられないだろう。
 そういう意味では、確かに僕は黒ではない。彼を敵に回すメリットがないからだ。でも、世の中に絶対はないはずだ。
 あと、言い切られると反論したくなってしまう。

「僕が敵じゃないと何で分かるんだ? いつ敵になるか分からないだろ」
「お前、それ本気で言っているのか? だから押しに弱いと思われるんだからな?」

 心底呆れたような声だ。何だ。僕はおかしいことは言ってない。国が違う以上、そんな可能性だって――。

「お前は敵にはなれないよ。立場上そうなったとしても、それはお前が選んだものじゃない」
「あんたを利用することはないって言い切れると?」
「言い切れるね。お前は利用される側だ」

 僕は姿勢よく座っていた背中を背もたれに預けて両腕を組む。

「利用することしか考えてない人間の発想だな」
「エドマンド。過小評価していると言ったけど、逆に言えばお前は相手を尊重し過ぎているんだ。もっと見下せ。自分よりも上の人間を見極めて、それ以下の感情をくみ取るな」

 つらつらとそこまで話すと、妙な間の後、ブライトルは立ち上がってショールを掴み上げた。

「おい……」
「……なんてな。優しいブライトル様からのありがたい言葉だ。覚えておくことだな」

 何でいきなりこんなアドバイスのようなことをしてくれたのか分からない。しかも言っていることは的を射ているような気がする。
 こちらを見もせずにさっさと歩き出した後ろ姿に声をかけた。

「あんた、おい! おいっ! ……ブライトル!」

 名前を呼んで、やっと足が止まる。振り返る気配のない背中に声を張った。

「僕はあんたが嫌いだ!」

 ちょっとだけ顔がこちらを向く。
 僕はブライトルが嫌いだ。でも、今の彼の言葉には嘘がない気がした。だから――。

「助かった!」

 そこまで言うと驚いたような顔をしてこちらを振り返った。何となく勝った気がして嬉しくなる。
 何か言おうと開かれた口が閉じては、開き、また閉じた。珍しい。あの恐ろしく口の回るブライトルが言葉を見つけられないようだ。

「授業、遅れるなよ!」

 結局、それだけを言って彼は行ってしまった。
 妙な達成感と満足感がある。
 時計を見ればもう午後の授業が始まる頃合いだ。友人たちが迎えにきたので、僕も教室へ足を向けた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】

リトルグラス
BL
 人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。  転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。  しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。  ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す── ***  第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20) **

聖女の兄で、すみません! その後の話

たっぷりチョコ
BL
『聖女の兄で、すみません!』の番外編になります。

ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね

ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」 オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。 しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。 その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。 「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」 卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。 見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……? 追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様 悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。

春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。  新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。  ___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。  ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。  しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。  常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___ 「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」  ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。  寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。  髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?    

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

「婚約を破棄する!」から始まる話は大抵名作だと聞いたので書いてみたら現実に婚約破棄されたんだが

ivy
BL
俺の名前はユビイ・ウォーク 王弟殿下の許嫁として城に住む伯爵家の次男だ。 余談だが趣味で小説を書いている。 そんな俺に友人のセインが「皇太子的な人があざとい美人を片手で抱き寄せながら主人公を指差してお前との婚約は解消だ!から始まる小説は大抵面白い」と言うものだから書き始めて見たらなんとそれが現実になって婚約破棄されたんだが? 全8話完結

処理中です...