君との夏

八月 美咲

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 パンの耳で食事を済ませると、早速さっき撮った動画をYouTubeにアップすることにした。

 無料の編集アプリを使って編集し、音楽やキャプションも追加した。初めてのことだったので、三十秒もしない動画を編集するのに一時間以上もかかってしまった。

 その日一日、二人は暇さえあれば動画の再生回数をチェックしたが、その数は一向に増える気配はなかった。

「初めから上手くいくはずないよ」「マテ貝じゃこんなもんだよ」

 慰めの言葉をかけ合ったが、二人とも落胆を隠しきれなかった。

 人気動画はどれもお金がかかるものが多かった。

『巨大オムレツ作ってみた』とか『スライム風呂に入ってみた』みたいな動画はウケはいいが、二人には現実的ではなかった。

「俺と玲衣でパンの耳早食い対決とかは?」

「え、やだよ、絶対僕が負けるもん。それに顔が映るのはダメだよ」

 あーでもない、こーでもないと、話すうちに夕方になる。浜辺でなんとなく夕日を撮って、その日はそのまま眠りについた。



 それから、自販機のコイン探しに加え、動画撮影が二人の日課になった。

 浜辺に特大級サイズの砂の城を作ってみたり、夜中に廃墟になった病院に行ってみたりと、いろんな動画を撮った。その中で一番再生回数が多かったのは、野良猫をひたすら追った動画だった。

 多かったと言っても再生回数は二桁でR&Kチャンネルの登録者は十人にも満たなかった。

 玲衣は最初はやる気満々だったが、段々とモチベーションが落ちてきたようで、途中からはもっぱら煌がスマホのカメラを回してばかりいた。

 実際のところ、煌もすでにYouTubeで稼ぐのはそう簡単なことじゃないと気づき始めていた。それでも煌がスマホのカメラを手放さなかったのには理由があった。

 それはカメラ越しにだったら、玲衣を一心に見つめることができたからだ。

 煌は野良猫を撮る振りをしながら、その後ろを歩く玲衣を撮った。

 恋する熱い眼差しをスマホのカメラで隠し、煌は玲衣を見つめ続けた。




 そうして、二人が家を出てから三週間が過ぎようとしていた。

 一日一人五百円の食事も案外どうにかなった。例えば、

 朝:バナナ一本(五十円)またはパン(百円)

 昼:カップ麺とおにぎり一個(二百円)または冷凍パスタ大盛り(二百円くらい)

 夜:パックのご飯とレトルトのカレーや丼もの(二百円)または大盛りカップ麺(二百二十円)

 などだ。

 百円ショップにはカップ麺やレトルト食品が豊富で、その場で電子レンジも使えるし、お湯もタダだ。野菜不足だと玲衣が心配した時は、もやしを買ってカップ麺に入れた。

 段ボールの家で寝るのも最初は身体が痛かったが、地面に敷く段ボールの枚数を増やすことで解決した。それよりも問題なのは蚊だった。背に腹は代えられないということで、虫除けスプレーを買った。

 そして、煌にとって蚊よりはるかに強敵だったのが、朝方の冷え込みだった。寒さで玲衣がピッタリと身体をくっつけてくるのだ。

 たいていそれから眠れなくなり、煌はすっかり朝は早起きになった。

 二人は三週間、一度も喧嘩をしなかった。

 まるで二人は元は同じ人間で、中身が半分に分かれて別々の器に入ったかのように、同じことを好み、同じものを見て感動した。

 もうずっと昔から、生まれる前から二人は一緒だったような錯覚さえ覚えた。

 そうなってくると、今までなかったある感情が芽生え始めた。

 それは〝失う怖さ〟だった。

 玲衣を失いたくない。

 煌にとってそれはもはや恐怖だった。

 三週間逃げ延びて安心するどころか、日に日に捕まる不安は大きくなっていった。

 捕まって、もし玲衣と引き離されてしまったらどうしよう。それを考えると夜も眠れなかった。

 玲衣の姿が見えないと、そこら中を探し回った。

 そして、それは玲衣も同じだった。

 いつも煌にくっついて離れず、夜寝る時でもピッタリと身体を寄せてきた。

 玲衣に対してふしだらな気持ちを持っている煌にとって、時に我慢を強いられる場面もあったが、そこはなんとか耐えしのいだ。

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