16 / 54
16
しおりを挟む
パンの耳で食事を済ませると、早速さっき撮った動画をYouTubeにアップすることにした。
無料の編集アプリを使って編集し、音楽やキャプションも追加した。初めてのことだったので、三十秒もしない動画を編集するのに一時間以上もかかってしまった。
その日一日、二人は暇さえあれば動画の再生回数をチェックしたが、その数は一向に増える気配はなかった。
「初めから上手くいくはずないよ」「マテ貝じゃこんなもんだよ」
慰めの言葉をかけ合ったが、二人とも落胆を隠しきれなかった。
人気動画はどれもお金がかかるものが多かった。
『巨大オムレツ作ってみた』とか『スライム風呂に入ってみた』みたいな動画はウケはいいが、二人には現実的ではなかった。
「俺と玲衣でパンの耳早食い対決とかは?」
「え、やだよ、絶対僕が負けるもん。それに顔が映るのはダメだよ」
あーでもない、こーでもないと、話すうちに夕方になる。浜辺でなんとなく夕日を撮って、その日はそのまま眠りについた。
それから、自販機のコイン探しに加え、動画撮影が二人の日課になった。
浜辺に特大級サイズの砂の城を作ってみたり、夜中に廃墟になった病院に行ってみたりと、いろんな動画を撮った。その中で一番再生回数が多かったのは、野良猫をひたすら追った動画だった。
多かったと言っても再生回数は二桁でR&Kチャンネルの登録者は十人にも満たなかった。
玲衣は最初はやる気満々だったが、段々とモチベーションが落ちてきたようで、途中からはもっぱら煌がスマホのカメラを回してばかりいた。
実際のところ、煌もすでにYouTubeで稼ぐのはそう簡単なことじゃないと気づき始めていた。それでも煌がスマホのカメラを手放さなかったのには理由があった。
それはカメラ越しにだったら、玲衣を一心に見つめることができたからだ。
煌は野良猫を撮る振りをしながら、その後ろを歩く玲衣を撮った。
恋する熱い眼差しをスマホのカメラで隠し、煌は玲衣を見つめ続けた。
そうして、二人が家を出てから三週間が過ぎようとしていた。
一日一人五百円の食事も案外どうにかなった。例えば、
朝:バナナ一本(五十円)またはパン(百円)
昼:カップ麺とおにぎり一個(二百円)または冷凍パスタ大盛り(二百円くらい)
夜:パックのご飯とレトルトのカレーや丼もの(二百円)または大盛りカップ麺(二百二十円)
などだ。
百円ショップにはカップ麺やレトルト食品が豊富で、その場で電子レンジも使えるし、お湯もタダだ。野菜不足だと玲衣が心配した時は、もやしを買ってカップ麺に入れた。
段ボールの家で寝るのも最初は身体が痛かったが、地面に敷く段ボールの枚数を増やすことで解決した。それよりも問題なのは蚊だった。背に腹は代えられないということで、虫除けスプレーを買った。
そして、煌にとって蚊よりはるかに強敵だったのが、朝方の冷え込みだった。寒さで玲衣がピッタリと身体をくっつけてくるのだ。
たいていそれから眠れなくなり、煌はすっかり朝は早起きになった。
二人は三週間、一度も喧嘩をしなかった。
まるで二人は元は同じ人間で、中身が半分に分かれて別々の器に入ったかのように、同じことを好み、同じものを見て感動した。
もうずっと昔から、生まれる前から二人は一緒だったような錯覚さえ覚えた。
そうなってくると、今までなかったある感情が芽生え始めた。
それは〝失う怖さ〟だった。
玲衣を失いたくない。
煌にとってそれはもはや恐怖だった。
三週間逃げ延びて安心するどころか、日に日に捕まる不安は大きくなっていった。
捕まって、もし玲衣と引き離されてしまったらどうしよう。それを考えると夜も眠れなかった。
玲衣の姿が見えないと、そこら中を探し回った。
そして、それは玲衣も同じだった。
いつも煌にくっついて離れず、夜寝る時でもピッタリと身体を寄せてきた。
玲衣に対してふしだらな気持ちを持っている煌にとって、時に我慢を強いられる場面もあったが、そこはなんとか耐えしのいだ。
無料の編集アプリを使って編集し、音楽やキャプションも追加した。初めてのことだったので、三十秒もしない動画を編集するのに一時間以上もかかってしまった。
その日一日、二人は暇さえあれば動画の再生回数をチェックしたが、その数は一向に増える気配はなかった。
「初めから上手くいくはずないよ」「マテ貝じゃこんなもんだよ」
慰めの言葉をかけ合ったが、二人とも落胆を隠しきれなかった。
人気動画はどれもお金がかかるものが多かった。
『巨大オムレツ作ってみた』とか『スライム風呂に入ってみた』みたいな動画はウケはいいが、二人には現実的ではなかった。
「俺と玲衣でパンの耳早食い対決とかは?」
「え、やだよ、絶対僕が負けるもん。それに顔が映るのはダメだよ」
あーでもない、こーでもないと、話すうちに夕方になる。浜辺でなんとなく夕日を撮って、その日はそのまま眠りについた。
それから、自販機のコイン探しに加え、動画撮影が二人の日課になった。
浜辺に特大級サイズの砂の城を作ってみたり、夜中に廃墟になった病院に行ってみたりと、いろんな動画を撮った。その中で一番再生回数が多かったのは、野良猫をひたすら追った動画だった。
多かったと言っても再生回数は二桁でR&Kチャンネルの登録者は十人にも満たなかった。
玲衣は最初はやる気満々だったが、段々とモチベーションが落ちてきたようで、途中からはもっぱら煌がスマホのカメラを回してばかりいた。
実際のところ、煌もすでにYouTubeで稼ぐのはそう簡単なことじゃないと気づき始めていた。それでも煌がスマホのカメラを手放さなかったのには理由があった。
それはカメラ越しにだったら、玲衣を一心に見つめることができたからだ。
煌は野良猫を撮る振りをしながら、その後ろを歩く玲衣を撮った。
恋する熱い眼差しをスマホのカメラで隠し、煌は玲衣を見つめ続けた。
そうして、二人が家を出てから三週間が過ぎようとしていた。
一日一人五百円の食事も案外どうにかなった。例えば、
朝:バナナ一本(五十円)またはパン(百円)
昼:カップ麺とおにぎり一個(二百円)または冷凍パスタ大盛り(二百円くらい)
夜:パックのご飯とレトルトのカレーや丼もの(二百円)または大盛りカップ麺(二百二十円)
などだ。
百円ショップにはカップ麺やレトルト食品が豊富で、その場で電子レンジも使えるし、お湯もタダだ。野菜不足だと玲衣が心配した時は、もやしを買ってカップ麺に入れた。
段ボールの家で寝るのも最初は身体が痛かったが、地面に敷く段ボールの枚数を増やすことで解決した。それよりも問題なのは蚊だった。背に腹は代えられないということで、虫除けスプレーを買った。
そして、煌にとって蚊よりはるかに強敵だったのが、朝方の冷え込みだった。寒さで玲衣がピッタリと身体をくっつけてくるのだ。
たいていそれから眠れなくなり、煌はすっかり朝は早起きになった。
二人は三週間、一度も喧嘩をしなかった。
まるで二人は元は同じ人間で、中身が半分に分かれて別々の器に入ったかのように、同じことを好み、同じものを見て感動した。
もうずっと昔から、生まれる前から二人は一緒だったような錯覚さえ覚えた。
そうなってくると、今までなかったある感情が芽生え始めた。
それは〝失う怖さ〟だった。
玲衣を失いたくない。
煌にとってそれはもはや恐怖だった。
三週間逃げ延びて安心するどころか、日に日に捕まる不安は大きくなっていった。
捕まって、もし玲衣と引き離されてしまったらどうしよう。それを考えると夜も眠れなかった。
玲衣の姿が見えないと、そこら中を探し回った。
そして、それは玲衣も同じだった。
いつも煌にくっついて離れず、夜寝る時でもピッタリと身体を寄せてきた。
玲衣に対してふしだらな気持ちを持っている煌にとって、時に我慢を強いられる場面もあったが、そこはなんとか耐えしのいだ。
17
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
母親の彼氏を寝取り続けるDCの話
ルシーアンナ
BL
母親と好みのタイプが似ているDCが、彼氏を寝取っていく話。
DC,DK,寝取り,未成年淫行,パパ活,メス堕ち,おねだり,雄膣姦,結腸姦,父子相姦,中出し,潮吹き,倫理観なし,♡喘ぎ濁音,喘ぎ淫語
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
こんなに近くて、こんなに遠い
八月 美咲
BL
★青春のすれ違い、幼なじみとの友情はやがて恋に──忘れられた想いに揺れるボーイズラブストーリー★
失われた記憶、残された心、切なく苦しくても、離れられないもどかしさ.....
16歳の2人の初々しく不器用な恋。
【あらすじ】
旭葵(あさき)と一生(いっせい)は小3からの幼なじみ。
当時子どもたちの間で流行っていた戦国合戦で三河の武将だった一生は、旭葵を一目見て自分の姫にしたいと言い出す。
けれど、旭葵は女扱いされるのが大っ嫌い。
そんな2人の出会いから、時は流れ...... 高校2年生になった2人。
旭葵への恋心に悩む一生と、一生の気持ちに気づき始める旭葵。
2人の友情が、大きく揺らぎ出す......。
すれ違って、すれ違っての、切ないピュアラブストーリー。
PV↓(紹介動画)
https://youtu.be/Fo1acacCSXo?si=txs0eAEU15FD_vt_
⭐️12月6日 Kindle出版予定!↓
https://amzn.asia/d/dcA9sym
生成AIで作ったイラスト付き。Kindle版用に細い箇所が改稿されています。
無料ダウンロード期間もありますので、気になる方はXをフォローしていただけると詳細を呟きます。
Kindle出版後、こちらのサイトでは2人が結ばれるシーンは非公開になりますのでご了承くださいませ。
【この本がお勧めの方】
切なくキュンキュンするお話が好きな方
高校生青春ものが好きな方
幼なじみものが好きな方
学園ものが好きな方
強気美形受けが好きな方
【このお話のキーワード】
#高校生#現代物#幼なじみ#同級生#すれ違い#切ない#青春
【作者より一言】
私が初めて書いたBL小説です。
中学生の頃からず〜と私の頭の中にいて、妄想の世界で恋させたり、泣かせていた2人(いつも主に旭葵)をやっと形にしてあげられました。
旭葵と一生は私にとって特別な存在で、ストーリーや展開はベタですが、私の萌えを最大限に詰め込みました。
そんな私の大事な大事な2人の恋を、一緒に見守ってくださると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる