37 / 39
37
しおりを挟む 少し考えて、卯乃は猫の姿のまま目を閉じた深森に呼びかけた。
「ねぇ。やっぱり人型でいてもらってもいいですか?」
不思議と敬語になってしまった。深森がぱっちりと目を開ける。暗がりでも卯乃のことがよく見えているのか、瞳孔が真ん丸になっていて、じいっと見てくる視線が分かる。
「なあん?」
「なんでだ?」と聞こえるような声で深森が鳴いた。
「だってまたゴキブリ出たら……。絶対無理。眠れない」
口をついて出たのはちょっとだけ本心とはずれた言葉だった。
深森猫はたしっと爪を隠した手の先で卯乃の頬を触ってきた。たしたしたし……。
いつしかその手が大きな掌になって卯乃の小さな顔に沿うように優しく撫ぜていた。
「卯乃は怖がりだな」
困ったやつだ、というような僅かに憂いの滲む声色だ。
人型で男二人で横たわったら、いかにも布団が窮屈になった。深森は卯乃と向かい合わせに片腕で自分の頭に腕枕し、もう一方は卯乃の背に回して柔らかくさする。
「俺が守ってやるから、寝ていいぞ」
その手つきが優しくてとろとろと眠くなる。無意識に寝返りを打ったら、今度は背中から腕の中に引き寄せられた。卯乃と同じグレープフルーツのボディーソープが香るのが爽やかで心地よい。
「卯乃、いい匂い……」
すんっと項の辺りを嗅がれ、掠れた声が吐息と共に悩ましく首筋に落ちてくる。
腰には大好きなふっさふさの尻尾を巻き付けられ、ぐっと身体を押し当てられた時、硬いものが当たる感覚を得た。同じ男としてすぐにその欲に想像がつきドキッとしてしまった。
これからの展開を少し期待しつつも、密着してみたら逞しい男の身体が少し怖くもあって、卯乃はこの期に及んで怯んだ。
(もしも深森が本気を出して来たら多分オレは逃げらんない)
「ごめん。獣型で一晩寝てもらう予定だったから、布団一組しか持ってきてなくて。狭いよね。これじゃ疲れ取れないよね? もう一組取りに行こうかな……。あっ!」
卯乃は「いいこと思いついた!」と腕を振り払うようにがばっと布団から飛び起きた。
「深森の代わりに今度はオレがウサギになればいいんだ。そしたら布団狭くないし」
「は?」
「よし、そうしよう。耳、引っかかるから脱いじゃえ」
完全に天然のボケとうっかりが焦りで極まった卯乃は朗らかな声を上げて、タンクトップを脱ぎ捨てると、今度は下履きに手をかけ思い切りよくぐいっとおろした。足に引っかかったそれを子どもがズボンを脱ぐときのようにもぞもぞっと両足を動かし、下着ごと脱ぎ捨てる。
「オレ、ウサギの時かなりちっちゃくなるから寝返りでつぶさ……」
「ねぇ。やっぱり人型でいてもらってもいいですか?」
不思議と敬語になってしまった。深森がぱっちりと目を開ける。暗がりでも卯乃のことがよく見えているのか、瞳孔が真ん丸になっていて、じいっと見てくる視線が分かる。
「なあん?」
「なんでだ?」と聞こえるような声で深森が鳴いた。
「だってまたゴキブリ出たら……。絶対無理。眠れない」
口をついて出たのはちょっとだけ本心とはずれた言葉だった。
深森猫はたしっと爪を隠した手の先で卯乃の頬を触ってきた。たしたしたし……。
いつしかその手が大きな掌になって卯乃の小さな顔に沿うように優しく撫ぜていた。
「卯乃は怖がりだな」
困ったやつだ、というような僅かに憂いの滲む声色だ。
人型で男二人で横たわったら、いかにも布団が窮屈になった。深森は卯乃と向かい合わせに片腕で自分の頭に腕枕し、もう一方は卯乃の背に回して柔らかくさする。
「俺が守ってやるから、寝ていいぞ」
その手つきが優しくてとろとろと眠くなる。無意識に寝返りを打ったら、今度は背中から腕の中に引き寄せられた。卯乃と同じグレープフルーツのボディーソープが香るのが爽やかで心地よい。
「卯乃、いい匂い……」
すんっと項の辺りを嗅がれ、掠れた声が吐息と共に悩ましく首筋に落ちてくる。
腰には大好きなふっさふさの尻尾を巻き付けられ、ぐっと身体を押し当てられた時、硬いものが当たる感覚を得た。同じ男としてすぐにその欲に想像がつきドキッとしてしまった。
これからの展開を少し期待しつつも、密着してみたら逞しい男の身体が少し怖くもあって、卯乃はこの期に及んで怯んだ。
(もしも深森が本気を出して来たら多分オレは逃げらんない)
「ごめん。獣型で一晩寝てもらう予定だったから、布団一組しか持ってきてなくて。狭いよね。これじゃ疲れ取れないよね? もう一組取りに行こうかな……。あっ!」
卯乃は「いいこと思いついた!」と腕を振り払うようにがばっと布団から飛び起きた。
「深森の代わりに今度はオレがウサギになればいいんだ。そしたら布団狭くないし」
「は?」
「よし、そうしよう。耳、引っかかるから脱いじゃえ」
完全に天然のボケとうっかりが焦りで極まった卯乃は朗らかな声を上げて、タンクトップを脱ぎ捨てると、今度は下履きに手をかけ思い切りよくぐいっとおろした。足に引っかかったそれを子どもがズボンを脱ぐときのようにもぞもぞっと両足を動かし、下着ごと脱ぎ捨てる。
「オレ、ウサギの時かなりちっちゃくなるから寝返りでつぶさ……」
22
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
泣き虫な俺と泣かせたいお前
ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。
アパートも隣同士で同じ大学に通っている。
直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。
そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
推し変なんて絶対しない!
toki
BL
ごくごく平凡な男子高校生、相沢時雨には“推し”がいる。
それは、超人気男性アイドルユニット『CiEL(シエル)』の「太陽くん」である。
太陽くん単推しガチ恋勢の時雨に、しつこく「俺を推せ!」と言ってつきまとい続けるのは、幼馴染で太陽くんの相方でもある美月(みづき)だった。
➤➤➤
読み切り短編、アイドルものです! 地味に高校生BLを初めて書きました。
推しへの愛情と恋愛感情の境界線がまだちょっとあやふやな発展途上の17歳。そんな感じのお話。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/97035517)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
お酒に酔って、うっかり幼馴染に告白したら
夏芽玉
BL
タイトルそのまんまのお話です。
テーマは『二行で結合』。三行目からずっとインしてます。
Twitterのお題で『お酒に酔ってうっかり告白しちゃった片想いくんの小説を書いて下さい』と出たので、勢いで書きました。
執着攻め(19大学生)×鈍感受け(20大学生)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる