俺たちの誓い

八月 美咲

文字の大きさ
上 下
15 / 39

15

しおりを挟む
 あの時は、想定外すぎてびっくりしたけど、暖が舌なんか入れてきたから抵抗したけど、でも……。

「するならするで前もって俺に承諾を取るとか、いきなりベロチュウじゃなくてもっと軽い感じのやつにするとか」

 ポロリとこぼれ出た自分の言葉に琥珀は驚く。身体を丸めて頭を抱えた。

 暖とのキスは、嫌じゃなかった。

 時間が経てば経つほど、その事実が浮き彫りになってくる。

 暖が恋しかった。

 暖に親友解消されてから、ずっと暖が足りない。

 この気持ちが何なのか、琥珀にはまだはっきりとは分からない。けど、暖に会いたくて、暖にそばにいて欲しくて、暖が、恋しくて心がねじれそうだった。

「暖、暖、暖」

 琥珀は身体を丸めたまま、暖の名前を呼んだ。

「人の名前をそんなに連呼すんなよ」

 頭の上に言葉が降ってきて、琥珀は弾かれるようにして顔を上げた。

「うわっ、なんだよその顔」

 会いたい会いたいと念じた暖がそこにいた。

「暖」

 立ち上がった琥珀に暖はさっと視線を上下にを走らせる。

「なんで赤く染まってんだ?」

 そうして今度は何かを探すように辺りを見回す。

「早坂さんは?」

 なんで暖は琥珀が早坂さんと一緒だったことを知っているのだ?

「俺がキスしなかったら怒って行っちゃった」

 暖は複雑な表情を浮かべ、やがてちょっとこっち来い、と、琥珀の手を引いて歩き出す。

 琥珀が恋しかった暖の大きくて温かい手が今、琥珀に繋がれている。

 やって来たのは誰もいない児童公園だった。

「ほら、ここで洗え」

 水飲み場の前で暖が繋いだ手を離そうとするので、琥珀はぎゅっと握りしめた。

「ちょ、手離せって」

「やだ」

「やだって、おい……」

「血の誓いの解消を解消してくれるまで離さない」

 こんなふうに駄々をこねるともっと嫌われるかも知れない。でも離したくなかった。

「とにかく洗え」

 琥珀は無言で握る手に力を込めた。暖は肩で大きく息をつく。

「その話は洗ってからだ」

「血の誓い、また交わしてくれんの?」

「だから、その話は後からだ」

 ほとばしる水の下に頭を突っ込む。次に汚れたTシャツを脱ぎ、ニッキ水でベタついた身体を洗った。その間、暖はずっと琥珀に背を向けていた。

 洗ったTシャツを絞って身体を拭いていると、暖が「ほら、これ着とけ」と背を向けたまま自分の羽織っているシャツを脱いで琥珀に渡してきた。

 薄いランニングシャツ一枚になった暖に礼を言い受け取る。

 シャツは暖の匂いがした。

 熱いものが込み上げてきた。

「どうして……なんで? 俺なんかした?」

「琥珀……?」

 暖が振り返る。視界がみるみる歪み、込み上げてきた熱いものが目から溢れ出る。

「俺やだよ、暖と一緒じゃなきゃやだよ、俺に悪いところがあったら直すから、暖の言うことはなんでも聞くから、血の誓いはどうでもいいから、全く元通りじゃなくていいから、だからお願いだから暖のそばにいさせて」

 突然暖に抱きしめられた。

「琥珀」

 ボンッ。太い破裂音が夜空に響いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

推し変なんて絶対しない!

toki
BL
ごくごく平凡な男子高校生、相沢時雨には“推し”がいる。 それは、超人気男性アイドルユニット『CiEL(シエル)』の「太陽くん」である。 太陽くん単推しガチ恋勢の時雨に、しつこく「俺を推せ!」と言ってつきまとい続けるのは、幼馴染で太陽くんの相方でもある美月(みづき)だった。 ➤➤➤ 読み切り短編、アイドルものです! 地味に高校生BLを初めて書きました。 推しへの愛情と恋愛感情の境界線がまだちょっとあやふやな発展途上の17歳。そんな感じのお話。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/97035517)

泣き虫な俺と泣かせたいお前

ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。 アパートも隣同士で同じ大学に通っている。 直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。 そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

恋した貴方はαなロミオ

須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。 Ω性に引け目を感じている凛太。 凛太を運命の番だと信じているα性の結城。 すれ違う二人を引き寄せたヒート。 ほんわか現代BLオメガバース♡ ※二人それぞれの視点が交互に展開します ※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m ※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です

処理中です...