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お婆ちゃんナイス、と姉たちが口々に賛同する。
暖は昔から姉たちに大人気だった。
暖はとにかく女にモテる。
まるで琥珀には分からない女にだけ分かるフェロモンにあてられたように、みんな暖を見ると瞳の奥にピンクのハートを作る。
子孫繁栄、自分の遺伝子を後世に残すのが生き物の使命であるなら、女にモテてこそ、男の中の男なのではないか?
暖は背も高いし、ムエタイをやっているので筋肉もある。そして当たり前だが喧嘩はめっちゃ強い。
極めつけは男の琥珀も惚れ惚れするほどのイケメンだ。
昔から存在が近すぎて気づかなかったが、考えれば考えるほど暖は琥珀が理想とする完璧な男だった。
琥珀はある名案を思いついた。
それは暖に男らしくなるための特訓をしてもらう、というものだった。
しかし琥珀の申し出はけんもほろろに断られた。
が、琥珀も簡単には引き下がらなかった。
「俺たちの血の誓いその三、お互いの幸せを応援するがあるだろ。なぁ暖頼むよ。俺も暖みたいな男の中の男になりたいんだよ」
結局暖が琥珀に根負けしたかたちとなった。
琥珀は知っていた。
最初はダメだと言っても、暖は最終的には琥珀の望みを叶えてくれることを。
暖の家は暖とお父さんの二人の父子家庭だった。
「劇の練習もあるしさ、俺、暖の家に泊まり込んで特訓してもいいだろ?」
この際、寝食も共にして徹底的にやりたかった。
暖は思いっきり嫌な顔をしたが、どうせ断れないと思ったのだろう。深いため息と共に承諾してくれた。
「特訓って言ったって、何をすりゃいいんだよ」
「暖は何もしなくていい、俺がそっくり暖をまねるだけだから」
暖は再び短いため息をつき、「勝手にしろ」と呟いた。
暖のお父さんは消防士で、目元と何気ない仕草が暖とそっくりだった。
仕事がら、家に夜いないことも多いお父さんは、琥珀が泊まりに行ったその夜も家にいなかった。
男だけが住む暖の家と、女だらけの琥珀の家はいろんなところが違った。
琥珀の家のお風呂場には甘い香りのシャンプーやボディソープが何種類もあったが、暖のところはさっぱりした香りのものが一本あるだけだった。
タオルも花柄ではなく青と緑のストライプだ。
琥珀は小さなノートを取り出しては、いちいちそれらを書き留めた。
客間に布団が敷かれているのを見た琥珀は、琥珀と入れ替わりで浴室に行った暖のところに飛んでいった。
「俺、暖の部屋で一緒に寝たい」
浴室のドアを開けるとちょうどシャワーを浴びようとしていた暖が驚いて振り返った。
「勝手に入ってくんなよ」
「なんで俺の布団が客間なんだよぉ」
「俺は一人で寝たい」
「別に同じ布団で寝るわけじゃないんだからいいだろ」
そう言いながら、琥珀は暖の厚い胸板に視線が釘付けになる。
「なんか前より逞しくなってねぇ? ちょっと触らせて、うわっ」
琥珀は浴室に足を踏み入れた瞬間、足を滑らせ暖にしがみついた。
その際、シャワーのレバーを押してしまい、二人の頭の上に勢いよく水が吹き出した。
裸の暖はともかく、琥珀のTシャツに短パン、そして乾かしたばかりの髪はびしょ濡れだ。
「大丈夫か? どこかぶつけたりしてないか?」
こんなヘマをやったのに、怒ることもなく琥珀に怪我がないか心配してくれている暖に、琥珀はちょっぴり感激する。
やっぱり暖は男の中の男だ。
「暖……」
崇めるような目をして琥珀は暖を見上げた。
琥珀を見下ろす暖の黒い瞳の奥がわずかに膨張する。
琥珀の身体を支える暖の手に力が込められたかと思ったら、くるりと身体を反転させられ浴室の外に出された。
後ろでピシャリとドアが閉まる。
中から暖の声が聞こえた。
「布団、俺の部屋に運んでいいから」
暖は昔から姉たちに大人気だった。
暖はとにかく女にモテる。
まるで琥珀には分からない女にだけ分かるフェロモンにあてられたように、みんな暖を見ると瞳の奥にピンクのハートを作る。
子孫繁栄、自分の遺伝子を後世に残すのが生き物の使命であるなら、女にモテてこそ、男の中の男なのではないか?
暖は背も高いし、ムエタイをやっているので筋肉もある。そして当たり前だが喧嘩はめっちゃ強い。
極めつけは男の琥珀も惚れ惚れするほどのイケメンだ。
昔から存在が近すぎて気づかなかったが、考えれば考えるほど暖は琥珀が理想とする完璧な男だった。
琥珀はある名案を思いついた。
それは暖に男らしくなるための特訓をしてもらう、というものだった。
しかし琥珀の申し出はけんもほろろに断られた。
が、琥珀も簡単には引き下がらなかった。
「俺たちの血の誓いその三、お互いの幸せを応援するがあるだろ。なぁ暖頼むよ。俺も暖みたいな男の中の男になりたいんだよ」
結局暖が琥珀に根負けしたかたちとなった。
琥珀は知っていた。
最初はダメだと言っても、暖は最終的には琥珀の望みを叶えてくれることを。
暖の家は暖とお父さんの二人の父子家庭だった。
「劇の練習もあるしさ、俺、暖の家に泊まり込んで特訓してもいいだろ?」
この際、寝食も共にして徹底的にやりたかった。
暖は思いっきり嫌な顔をしたが、どうせ断れないと思ったのだろう。深いため息と共に承諾してくれた。
「特訓って言ったって、何をすりゃいいんだよ」
「暖は何もしなくていい、俺がそっくり暖をまねるだけだから」
暖は再び短いため息をつき、「勝手にしろ」と呟いた。
暖のお父さんは消防士で、目元と何気ない仕草が暖とそっくりだった。
仕事がら、家に夜いないことも多いお父さんは、琥珀が泊まりに行ったその夜も家にいなかった。
男だけが住む暖の家と、女だらけの琥珀の家はいろんなところが違った。
琥珀の家のお風呂場には甘い香りのシャンプーやボディソープが何種類もあったが、暖のところはさっぱりした香りのものが一本あるだけだった。
タオルも花柄ではなく青と緑のストライプだ。
琥珀は小さなノートを取り出しては、いちいちそれらを書き留めた。
客間に布団が敷かれているのを見た琥珀は、琥珀と入れ替わりで浴室に行った暖のところに飛んでいった。
「俺、暖の部屋で一緒に寝たい」
浴室のドアを開けるとちょうどシャワーを浴びようとしていた暖が驚いて振り返った。
「勝手に入ってくんなよ」
「なんで俺の布団が客間なんだよぉ」
「俺は一人で寝たい」
「別に同じ布団で寝るわけじゃないんだからいいだろ」
そう言いながら、琥珀は暖の厚い胸板に視線が釘付けになる。
「なんか前より逞しくなってねぇ? ちょっと触らせて、うわっ」
琥珀は浴室に足を踏み入れた瞬間、足を滑らせ暖にしがみついた。
その際、シャワーのレバーを押してしまい、二人の頭の上に勢いよく水が吹き出した。
裸の暖はともかく、琥珀のTシャツに短パン、そして乾かしたばかりの髪はびしょ濡れだ。
「大丈夫か? どこかぶつけたりしてないか?」
こんなヘマをやったのに、怒ることもなく琥珀に怪我がないか心配してくれている暖に、琥珀はちょっぴり感激する。
やっぱり暖は男の中の男だ。
「暖……」
崇めるような目をして琥珀は暖を見上げた。
琥珀を見下ろす暖の黒い瞳の奥がわずかに膨張する。
琥珀の身体を支える暖の手に力が込められたかと思ったら、くるりと身体を反転させられ浴室の外に出された。
後ろでピシャリとドアが閉まる。
中から暖の声が聞こえた。
「布団、俺の部屋に運んでいいから」
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