33 / 40
十二章 直通運転
一
しおりを挟む
夜も明ける前のこの頃から、人々は今か今かと待ちわびていた。
十一月三十日、その真新しい駅舎の入り口は人々でにぎわっていた。厚手のコートを着ながら手をこすり寒そうに待ちわびる遠方から訪問者。物珍しい光景だと、散歩ついでにスマートフォン片手に立ち寄った人々。腕章をつけ、肩に機材を構えたメディアの取材クルーたち。シャッターが下りた入り口の傍で声を張り上げる駅係員。この日、その新駅はまたとない活気であふれていた。
シャッターが音を立てゆっくりと開く。ついに旅客営業が開始された。カメラを構えた人々は、シャッターを切るとすぐにシャッターをくぐりぬけ構内へと入っていった。竣工したばかりの現代的な駅舎はすぐに人々で埋め尽くされた。
「走らないで下さーい!」
「押さないで下さーい!」
「一列に並んでくださーい!」
ざわつく構内に駅係員の声が響きわたる。
構内の券売機へ列をなす人々を横目に、改札を抜け、地下ホームへと急ぐ人々がいた。ショルダーバックやリュックサック、一眼レフや三脚、折り畳み式の踏み台を抱えながら走る彼らの目的はただ一つだった。
その時が近づいた。対面式の真新しい地下ホームに列車の接近を知らせるアナウンスが響き渡る。天井の案内表示器が点滅し始める。トンネルの奥からは轟音と共に、風圧による向かい風が吹いてくる。
前照灯の光が差し込んだ瞬間、シャッター音が響きだす。強い風圧とともに一番列車が入線する。ネイビーブルーの車両が甲高い回生ブレーキ音を響かせながら人々のもとへ滑り込んでくる。それと同時にまばらだったシャッター音はまとまり、一つの大きなBGMのようにホーム全体に響き渡った。
時折、歓喜の声が聞こえる中、一番列車のドアが開いた。この駅からの始発であるその列車の車内の先頭は、記念すべき瞬間を目の当たりにしたいという人々ですぐににぎわった。車内を撮影する者。ビデオカメラを片手に乗務員室をのぞき込み運転台を凝視する者。ホームに降り立ち、真新しいホームに停車する車両にカメラを向ける者。ホーム天井のスピーカーにマイクを取り付けた一脚を近づけ、アナウンスを録音しようと試みる者もいた。
五時五十五分、発車のアナウンスが鳴り終わるとともにドアが閉まった。一番列車は乗客を乗せ、都心方面へとつながるトンネルを駆け上がる。ネイビーブルーの車体が遠く、小さくなっていく。ホームで佇む人々はその赤い尾灯が見えなくなるまで、シャッターを切りながら見届けていた。
十一月三十日、その真新しい駅舎の入り口は人々でにぎわっていた。厚手のコートを着ながら手をこすり寒そうに待ちわびる遠方から訪問者。物珍しい光景だと、散歩ついでにスマートフォン片手に立ち寄った人々。腕章をつけ、肩に機材を構えたメディアの取材クルーたち。シャッターが下りた入り口の傍で声を張り上げる駅係員。この日、その新駅はまたとない活気であふれていた。
シャッターが音を立てゆっくりと開く。ついに旅客営業が開始された。カメラを構えた人々は、シャッターを切るとすぐにシャッターをくぐりぬけ構内へと入っていった。竣工したばかりの現代的な駅舎はすぐに人々で埋め尽くされた。
「走らないで下さーい!」
「押さないで下さーい!」
「一列に並んでくださーい!」
ざわつく構内に駅係員の声が響きわたる。
構内の券売機へ列をなす人々を横目に、改札を抜け、地下ホームへと急ぐ人々がいた。ショルダーバックやリュックサック、一眼レフや三脚、折り畳み式の踏み台を抱えながら走る彼らの目的はただ一つだった。
その時が近づいた。対面式の真新しい地下ホームに列車の接近を知らせるアナウンスが響き渡る。天井の案内表示器が点滅し始める。トンネルの奥からは轟音と共に、風圧による向かい風が吹いてくる。
前照灯の光が差し込んだ瞬間、シャッター音が響きだす。強い風圧とともに一番列車が入線する。ネイビーブルーの車両が甲高い回生ブレーキ音を響かせながら人々のもとへ滑り込んでくる。それと同時にまばらだったシャッター音はまとまり、一つの大きなBGMのようにホーム全体に響き渡った。
時折、歓喜の声が聞こえる中、一番列車のドアが開いた。この駅からの始発であるその列車の車内の先頭は、記念すべき瞬間を目の当たりにしたいという人々ですぐににぎわった。車内を撮影する者。ビデオカメラを片手に乗務員室をのぞき込み運転台を凝視する者。ホームに降り立ち、真新しいホームに停車する車両にカメラを向ける者。ホーム天井のスピーカーにマイクを取り付けた一脚を近づけ、アナウンスを録音しようと試みる者もいた。
五時五十五分、発車のアナウンスが鳴り終わるとともにドアが閉まった。一番列車は乗客を乗せ、都心方面へとつながるトンネルを駆け上がる。ネイビーブルーの車体が遠く、小さくなっていく。ホームで佇む人々はその赤い尾灯が見えなくなるまで、シャッターを切りながら見届けていた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
思い出を売った女
志波 連
ライト文芸
結婚して三年、あれほど愛していると言っていた夫の浮気を知った裕子。
それでもいつかは戻って来ることを信じて耐えることを決意するも、浮気相手からの執拗な嫌がらせに心が折れてしまい、離婚届を置いて姿を消した。
浮気を後悔した孝志は裕子を探すが、痕跡さえ見つけられない。
浮気相手が妊娠し、子供のために再婚したが上手くいくはずもなかった。
全てに疲弊した孝志は故郷に戻る。
ある日、子供を連れて出掛けた海辺の公園でかつての妻に再会する。
あの頃のように明るい笑顔を浮かべる裕子に、孝志は二度目の一目惚れをした。
R15は保険です
他サイトでも公開しています
表紙は写真ACより引用しました
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件
桜 偉村
恋愛
別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。
後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。
全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。
練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。
武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。
だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。
そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。
武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。
しかし、そこに香奈が現れる。
成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。
「これは警告だよ」
「勘違いしないんでしょ?」
「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」
「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」
甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……
オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕!
※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。
「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。
【今後の大まかな流れ】
第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。
第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません!
本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに!
また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます!
※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。
少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです!
※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。
※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ(にいらっしゃいませ)
神山 備
ライト文芸
鏡野ゆう様作、「政治家の嫁は秘書様」のお膝元商店街、希望が丘駅前商店街「ゆうYOUミラーじゅ希望が丘」コラボ作品です。本格中華菜館神神(シェンシェン)飯店店主(中国人)とその妻(韓国人)の暴走及び、それを止める娘の物語。
★このお話は、鏡野ゆう様のお話
『政治家の嫁は秘書様』https://www.alphapolis.co.jp/novel/210140744/354151981
に出てくる重光先生の地元の商店街のお話です。当然の事ながら、鏡野ゆう様には許可をいただいております。他の住人に関してもそれぞれ許可をいただいてから書いています。
★他にコラボしている作品
・『桃と料理人』http://ncode.syosetu.com/n9554cb/
・『青いヤツと特別国家公務員 - 希望が丘駅前商店街 -』http://ncode.syosetu.com/n5361cb/
・『希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~』https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271
・『希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―』https://www.alphapolis.co.jp/novel/172101828/491152376
・『希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々 』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/274274583/188152339
・『希望が丘駅前商店街~看板娘は招き猫?喫茶トムトム元気に開店中~』https://ncode.syosetu.com/n7423cb/
・『Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街』https://ncode.syosetu.com/n2519cc/
【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる