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五章 モテモテの小竹さん

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 十一月は栗拾いに近くの公園でデート。十二月はナイトの家でクリスマスパーティー。そしてそのすぐ後には初詣と学校の百人一首大会。
 そんな充実した日々が終わって、気づいたときにはもう二月になっていた。この日、あたしたちの街でも珍しく雪が降ったの。いつもの地下鉄に乗って、そして学校に着いた頃には深々と雪が降り積もっていた。普段ボール遊びをしていた校庭も一面の銀世界に変わってしまっていた。そしてその日の帰り、昼休みは普段のようにナイトと二人っきりの宿題タイムを過ごしていたから、帰りこそは一緒に遊ぼうって思って隣の二組に声を掛けに行ったの。しかも雪が降ってたってこともあって、雪だるま作ったり雪合戦したり、ナイトの意外な姿が見れると思ってワクワクしてたからこの時は本当に楽しみだったんだ。

「おーい、ナイトーっ!」
「……」
「えっ、いないの? おーい、ナイトーっ!」
「……」

 いくら声をかけても彼があたしに話しかけてくることはなかった。二組の他の子が心配して声をかけてきてくれたけど、その時のあたしはそれどころじゃなかった。

「ナイト……」

 それはもう残念を通り越して絶望に近い感じだった。だってこれまでは毎日欠かさず、帰りにあたしが声をかけてくれたら一緒に帰ってくれたし、ナイトがいる二組が先に帰りのあいさつを終えた時もあたしの一組が終わるまで待っていてくれたんだから。

「仕方ない……久しぶりに健くんたちと帰ろう」

 そう思ってあたしは自分の一組を探し回った。けれどもその時、健くんと悠くんの姿も、おまけにほのかちゃんの姿も見当たらなかった。

「え~っ。あ~あ。……も~っ!」

 まあでも健くんたちにはもう何ヶ月も声をかけてなかったから何とかあきらめがついたわ。結局あたしはその日、一人で下駄箱の方へ向かったの。

 ――その時だった。

「はっ、はっ、はっ、いっちゃーん!」

 これまでに見たこともないようなほのかちゃんの顔は本当に印象的だった。そして彼女は青ざめた顔で叫んだの。
「た、大変! 健くんと雄くん、それに聖夜くんがケンカしてるの!」

 あたしとほのかちゃんは廊下を走って階段を慌てて上った。

 そんな⁉ あたしの王子さまが貴公子たちと⁉ 噓でしょ⁉

 無我夢中で階段を何段も上って行った。そして四階の屋上に辿り着こうとしたその時だった。

「おい! 聖夜てめえ! 容赦しねーからな!」

 ナイトがっ! 大変!

 健くんの荒ぶる声を聴いた瞬間、あたしはもうパニック状態になってしまった。

「やっ! やめてーっ!」


 カチャンッ!
「うっ!」

 何か鋭いものが激しく床に落ちる音であたしは我に返った。気づけばあたしは健くんを押し倒してそのすぐ隣に倒れこんでいた。そして、彼の手元には銀色に鋭く光るカッターナイフが落ちていた。

「聖夜くん! 大丈夫⁉」
「あ……、ああ、ほのかちゃんか……。まあ、なんとかな……」

 あっ……。

 遠くの方に三人の座り込む人影が見えた。ほのかちゃんがナイトの肩をゆすっているみたいだった。そしてその後ろでは……どうやら雄くんがうつむいたまま肩を落として座り込んでいるようだった。

「うおおおおーっ! ちくしょーっ! 俺だって五葉のこと好きだったのによーっ!」

「雄くん……」
 雄くんの雄叫びのような声。彼のそんな声をあたしはこの時初めて聴いた。

「ううっ……くそっ……。俺だって……俺だって五葉のこと……」
「はっ!」
 あたしのすぐそばに倒れこむ健くん。彼は涙を流しながらそんなことをつぶやいていた。

 雄くん……。それに健くんも……。そんなに……そんなにあたしのこと……。
 隣で一緒に倒れこむ健くんの悔しそうな横顔を眺めながら、あたしはゆっくりと目を閉じた。


 その後のことはよくわからないんだけど、あの時以来、あたしが二度と健くんと雄くんの姿を見ることはなかった。学年集会の時間で先生が言うにはお父さんお母さんの仕事の事情により二人とも転校してしまったということみたいだったの。もちろん周りのみんなは、うそ~、とか、残念~、とか言って大騒ぎしていた。けれども、あたしもほのかちゃんもこの時すべてを察していた。まああくまでもあたしの予想だけど、ナイトへの暴行が先生たちにもバレて大事になってしまって、停学とか退学とか、そんなことになってしまったんだと思う。

 で、その後なんだけど……これがまた運命的なことが起こってしまったのよ。なんと、五年生に上がるときのクラス替えであたしとナイト、そしてほのかちゃんも同じ二組になっちゃったのよ。すごくない? それからはもちろん、あたしたち三人はみんなで仲良く遊んだり、おしゃべりしたり、勉強会したり、それは本当にもう充実した毎日を送っていたのよ。まあでもその時のあたしたち三人は、最後の最後まで誰一人として健くんと雄くんのことを話すことはなかったんだけど。
 そして……これは本当にナイトのおかげね。彼の勉強会のおかげで、気づいたらあたしすっごく勉強が好きになっちゃって、そのおかげで中学もナイトと一緒に内部進学することができたのよ。しかもそれは中学までにとどまらず高校までも。あ~ほんとあの時の六年間は本当に毎日天にも昇りそうな時間を過ごしていたわ。ナイト……あっ、さすがにこのころはもう聖夜くんって普通に呼んでたけど、彼もだんだんとあたし好みのイケメン男子になってきてくれて、ふふふっ。あーでも、ほのかちゃん――幼馴染の彼女は他の高校に行っちゃったからなー。結局中学までの付き合いになっちゃったんだけどねー。


「――まあそんなとこね。どう? あたし、結構モテると思わない?」
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