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五章 モテモテの小竹さん
一
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〈回想〉
ドンッ!
「えっ⁉」
それは四年生になってすぐの頃だった。その時のあたしは、本当にショック死しそうなほどのときめきを感じていた。
「なあ、五葉ちゃん。私、ナイトと一緒に学校生活をエンジョイしないかい?」
「は……はい」
それは隣のクラス――二組の住吉聖夜くんだった。彼とはそれ以前にも何回かおしゃべりしたことはあったみたいだけど、この時の彼は何かが違っていた。帰り際に突然の壁ドンを仕掛けてきた聖夜くん。その勢いにあたしはもういちころになってしまった。
本当に彼のその迫力に圧倒されちゃってたんだと思う。あたしも理由まではよくわからないけど、このころ、あたし自身もちょうど聖夜くんのことが気になり始めていたの。そしてそれ以来、あたしは彼ともこっそりと付き合うようになって彼のことナイトとか呼ぶようになっちゃってたのよ。ほんと、何考えてたのかしらねあたしったら。
とはいうもの、すでに先客の健くんと雄くんがいたからそれは本当に大変だった。さらにほのかちゃんにも見つかっちゃうわけにはいかなかったからその時のひやひやドキドキ感と言ったらとても表しきれないほどだったの。まあでも結局ほのかちゃんにはすぐにバレちゃったんだけどね。
それでもあたしは何とかほのかちゃんには聖夜くんはただの友達とか何とか言ってごまかして、その裏ではナイトと二人きりで夢のような時間を謳歌していたの。もちろんナイトは健くんや雄くんよりもあたし好みの顔で、さらには勉強もスポーツも万能な男子だったわ。いや、男子って言い方は失礼だわ。彼は……そうね、本当に王子様のような存在だったわ。あっ、そんなこと言ったら健くんと雄くんはどうなっちゃうって? まああの子たちは貴公子くらいには任命してあげてもいいけどね。
――当時のあたしは男の子三人とそれぞれ付き合いながらそんなことを毎日思っていたのよ。
「ねえねえナイト~、今日こそボール遊びしようよ~」
「ダメだよ五葉ちゃん。今日算数と国語の宿題いっぱい出ただろ~っ。それ終わらしてからだよ」
「え~、そんな~。ねえねえ、ボール遊びしたらちゃんとやるからさ~」
「ダメダメ。そんなこと言って、五葉いつも、疲れたから明日にしよ~、とか言うんだからさ。先に宿題終わらしてから」
「ん~、も~っ!」
ナイトは本当に勉強熱心で、宿題とかテストとか、そういうのは本当に完璧にこなす男子だった。小学生なのに塾とかにも通ってたくらいだったからね。
そんなわけではじめはあたしも退屈な日々を味わっていたんだけど、彼も彼なりにいろいろあたしのことを考えてくれていたんだと思うの。おかげであたしの成績はナイトと付き合うようになった四年生の頃から少しずつだけどマシになってきたのよ。そしていつの日かの算数のテストでは学年でトップになっちゃったの。その時のあたし、算数とか理科とかいわゆる理数系の勉強が本当にちんぷんかんぷんだったんだけど。ほんと、ナイトにはいろいろと助けてもらったわ。
でも、そんなバラ色の毎日もそう長くは続かなかったの。それは落ち葉が散り始めて肌寒くなってきた頃……そう、十月ごろだったかしらね。いつものようにあたしが図書室でナイトと二人っきりで宿題をしていた時だった。
「あっ! 五葉! お前こんなとこで何してんだよ!」
「五葉! こいつ誰なんだよ!」
あたしはとうとうナイトと二人っきりでいるところを健くんと雄くんに見つかってしまった。健くんと雄くんの罵声が響き渡る中、あたしは体がすくんで何もすることができなかった。ただただ目をつぶってじっとしていただけだった。その時のことはこれ以上はよくわからないけど、辺りが静かになったときには健くんと雄くんの姿はどこにもなく、あたしの足元にはやつれた姿のナイトが跪いていた。
「ナイト! 大丈夫⁉」
「あ、ああ。悪いな、心配かけちゃって」
「ううっ……。ごめんね。あたしが……あたしが健くんと雄くんにも言っておけば。……なのに、あたし……」
「五葉……、心配すんな。いいんだ。彼らのことなんて気にするな」
「ナイト……」
しかし、その時のあたしはナイトに即答することができなかった。こんな散々たる状況を目の当たりにしてもなお、あたしの中では健くんと雄くんに対する思いは全く消えていなかったからだった。
その日以来、あたしはナイトに対しても気を使いすぎるほどに慎重になってしまって、彼とも距離を取ってしまった。もちろん健くんと雄くんに至ってはあたしが声をかけたり遊びに誘ったりしても、これまでのように二つ返事をしてくれるなんてことは一切なくなってしまった。「お前は俺たちよりもあいつの方が好きなんだろ?」とか、「あいつと遊んだら? 五葉とはもう遊びたくない」とか、そんなことばかり言ってくるようになってしまった。
で、結局その時に反省して改心すればいいもの……バカなあたしはまたまた調子に乗ってしまったの。
健くんと雄くんが遊んでくれないってことは、ある意味ナイトと二人っきりになれるチャンスかも。
意気揚々とそんなことを考えてしまったあたしは、結局数週間もたたないうちに再びナイトと二人きりの学校生活を堪能することに決めたの。でもまあある意味当然といえば当然ね。だって健くんや雄くんよりナイトの方がイケメンだったし、一緒にいるメリットも大きかったしね。
そしてとうとう、あたしはもう健くんと雄くんに話しかけることすらやめてしまった。
ドンッ!
「えっ⁉」
それは四年生になってすぐの頃だった。その時のあたしは、本当にショック死しそうなほどのときめきを感じていた。
「なあ、五葉ちゃん。私、ナイトと一緒に学校生活をエンジョイしないかい?」
「は……はい」
それは隣のクラス――二組の住吉聖夜くんだった。彼とはそれ以前にも何回かおしゃべりしたことはあったみたいだけど、この時の彼は何かが違っていた。帰り際に突然の壁ドンを仕掛けてきた聖夜くん。その勢いにあたしはもういちころになってしまった。
本当に彼のその迫力に圧倒されちゃってたんだと思う。あたしも理由まではよくわからないけど、このころ、あたし自身もちょうど聖夜くんのことが気になり始めていたの。そしてそれ以来、あたしは彼ともこっそりと付き合うようになって彼のことナイトとか呼ぶようになっちゃってたのよ。ほんと、何考えてたのかしらねあたしったら。
とはいうもの、すでに先客の健くんと雄くんがいたからそれは本当に大変だった。さらにほのかちゃんにも見つかっちゃうわけにはいかなかったからその時のひやひやドキドキ感と言ったらとても表しきれないほどだったの。まあでも結局ほのかちゃんにはすぐにバレちゃったんだけどね。
それでもあたしは何とかほのかちゃんには聖夜くんはただの友達とか何とか言ってごまかして、その裏ではナイトと二人きりで夢のような時間を謳歌していたの。もちろんナイトは健くんや雄くんよりもあたし好みの顔で、さらには勉強もスポーツも万能な男子だったわ。いや、男子って言い方は失礼だわ。彼は……そうね、本当に王子様のような存在だったわ。あっ、そんなこと言ったら健くんと雄くんはどうなっちゃうって? まああの子たちは貴公子くらいには任命してあげてもいいけどね。
――当時のあたしは男の子三人とそれぞれ付き合いながらそんなことを毎日思っていたのよ。
「ねえねえナイト~、今日こそボール遊びしようよ~」
「ダメだよ五葉ちゃん。今日算数と国語の宿題いっぱい出ただろ~っ。それ終わらしてからだよ」
「え~、そんな~。ねえねえ、ボール遊びしたらちゃんとやるからさ~」
「ダメダメ。そんなこと言って、五葉いつも、疲れたから明日にしよ~、とか言うんだからさ。先に宿題終わらしてから」
「ん~、も~っ!」
ナイトは本当に勉強熱心で、宿題とかテストとか、そういうのは本当に完璧にこなす男子だった。小学生なのに塾とかにも通ってたくらいだったからね。
そんなわけではじめはあたしも退屈な日々を味わっていたんだけど、彼も彼なりにいろいろあたしのことを考えてくれていたんだと思うの。おかげであたしの成績はナイトと付き合うようになった四年生の頃から少しずつだけどマシになってきたのよ。そしていつの日かの算数のテストでは学年でトップになっちゃったの。その時のあたし、算数とか理科とかいわゆる理数系の勉強が本当にちんぷんかんぷんだったんだけど。ほんと、ナイトにはいろいろと助けてもらったわ。
でも、そんなバラ色の毎日もそう長くは続かなかったの。それは落ち葉が散り始めて肌寒くなってきた頃……そう、十月ごろだったかしらね。いつものようにあたしが図書室でナイトと二人っきりで宿題をしていた時だった。
「あっ! 五葉! お前こんなとこで何してんだよ!」
「五葉! こいつ誰なんだよ!」
あたしはとうとうナイトと二人っきりでいるところを健くんと雄くんに見つかってしまった。健くんと雄くんの罵声が響き渡る中、あたしは体がすくんで何もすることができなかった。ただただ目をつぶってじっとしていただけだった。その時のことはこれ以上はよくわからないけど、辺りが静かになったときには健くんと雄くんの姿はどこにもなく、あたしの足元にはやつれた姿のナイトが跪いていた。
「ナイト! 大丈夫⁉」
「あ、ああ。悪いな、心配かけちゃって」
「ううっ……。ごめんね。あたしが……あたしが健くんと雄くんにも言っておけば。……なのに、あたし……」
「五葉……、心配すんな。いいんだ。彼らのことなんて気にするな」
「ナイト……」
しかし、その時のあたしはナイトに即答することができなかった。こんな散々たる状況を目の当たりにしてもなお、あたしの中では健くんと雄くんに対する思いは全く消えていなかったからだった。
その日以来、あたしはナイトに対しても気を使いすぎるほどに慎重になってしまって、彼とも距離を取ってしまった。もちろん健くんと雄くんに至ってはあたしが声をかけたり遊びに誘ったりしても、これまでのように二つ返事をしてくれるなんてことは一切なくなってしまった。「お前は俺たちよりもあいつの方が好きなんだろ?」とか、「あいつと遊んだら? 五葉とはもう遊びたくない」とか、そんなことばかり言ってくるようになってしまった。
で、結局その時に反省して改心すればいいもの……バカなあたしはまたまた調子に乗ってしまったの。
健くんと雄くんが遊んでくれないってことは、ある意味ナイトと二人っきりになれるチャンスかも。
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そしてとうとう、あたしはもう健くんと雄くんに話しかけることすらやめてしまった。
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