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三章 小学校時代の小竹さん

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 〈回想〉
「おい、鬼ごっこしようぜ」
「えー、今日はボール遊びがいい~。五葉ちゃんは?」
「あたし、ボール遊びがいいな!」
「わーい、俺の勝ち~っ」
「も~っ!」

 小学校に入ってからずっと、あたしには同じ一組の遊び仲間が三人いたの。男の子が二人と女の子が一人。あたしはその三人といつもいつも一緒に遊んでいたの。

「おい、五葉ーっ!」
「きゃっ! も~っ! ちょっと強すぎ~っ」
「ごめんごめん」

 一人目の遊び仲間――若葉健わかばけんくんは本当にスポーツ万能な子だった。正直、顔はそうでもないみたいだったけど、なぜだかいつも一緒に遊びたいって気持ちでいっぱいだったの。

「雄くん! パスッ!」
「あっ……それっ! ……! ああっ!」

 ガササッ!

「あ~あ、また植木に入っちゃった。も~っ! 雄くんたら~っ!」
「うへ~っ、ごめんよ~」

 二人目の遊び仲間――彼は何というか、まあ健くんとは真逆だったわね。いわゆる運動音痴だったんだけど、なぜだか彼の名前とか顔とか、いつもノートの端の方とかに落書きしてたっけ。名前は中村雄太なかむらゆうたくんっていうんだけどね。彼はなんていうか……、あっ、そうそう。いわゆるマスコットキャラ的な存在だったのよ。ちょっとぽっちゃり系の子だったしね。

 キーンコーンカーンコーン……。

「あーあ。もう時間かよ~」
「もうっ! 雄くんがボール変なとこに飛ばしちゃったからでしょ!」
「ごめん……」
「まっ、そんなに怒るなよな~。雄太だってわざとやってるわけじゃないんだろ?」
「うん……」
「ほら、雄太だってこう言ってるんだ。五葉ちゃんも許してあげなよ」
「しょうがないわねー」

「あーっ! いっちゃんまだ校庭にいるの⁉ 次図工だよーっ! 早くしないと!」
「あっ、ほのかちゃん。ごめんね、待たせちゃった?」
「ううん。ほら、早く行きましょ。健くんと雄くんも」
「「はーい」」

 そして三人目の遊び仲間――まあこの子は橋本はしもとほのかちゃんっていう幼馴染だったんだけど、彼女は本当に面倒見がよかったの。あたしのこと昔からいつもいつも心配してくれて、この日も授業始まるギリギリまで校庭で遊んでたからあたしたち三人を呼びに来てくれるほどだったの。


 けれどね、あたしにとっては健くんと雄くんの存在はそれ以上のものだったの。

「おまたせ~っ!」
「よお、遅いぞ」
「ごめ~ん。ほのかちゃんに先に帰ってもらうのに時間かかっちゃって」
「え~っ! 五葉、おまえ、いつもいつもほのかに内緒で俺たちとデートしてんのかよ?」
「うん!」
「五葉~、そんなことしてよくほのかに怒られないな。あっ、もしかして本当はもうばれちゃってるんじゃね?」
「そんなことないもん! 健くん、あたし、こう見えて隠し事は得意なんだからね!」
「ふ~ん、まあいいや。それじゃ、さっさと行こうぜ」
「おうっ!」

 あたしはほのかちゃんの目を盗んではたびたびこうして健くん、そして雄くんとデートしてたの。まあ本当はほのかちゃんにも言ってあげてもよかったんだけど……。ほのかちゃん、ちょっと隠し事とかそういうの苦手なタイプの子だったから、あたしもクラス中に広まっちゃうのが嫌で秘密にしてたってわけ。

 で、あたしたちのそんな関係は三年生の終わりごろまで続いたのよ。ほのかちゃんもあたしが健くんや雄くんとこっそりデートしてたってこと、結局この時も知らなかったみたいで、すごいでしょ?
 あっ、そうだ。もしかして、健くんと雄くんがあたしを取り合ってケンカしてなかったとか心配してる? 大丈夫。何も問題なかったわ。健くんも雄くんも一年生の時にあたしと同じ一組に一緒になってからすぐに意気投合してたっぽくて。で、あたしもあたしで、二人のどちらとも一緒にいたいって心の底から思ってたから、特にケンカすることなんてこれっぽちもなかったわ。

 そして、肝心のデートの内容なんだけど……。なんと、あたし、この時すでに健くんと雄くん両方の家に遊びに行ってたのよ。まあ、というか小学生のデートだからさ、高校生の時や今みたいにショッピングに行ったりカフェに行ったりとか、あたしたちだけでそんなに自由にできなかったから仕方なくって感じだったけどね。
 その時はね、あたし早稲田っていう街に住んでたんだけど、家のすぐ近くに副都心線っていう地下鉄の駅があったから、そこから電車乗って二人の家によく遊びに行ってたのよ。うふふふっ。
 あっ、それでね、副都心線って途中で二股に分かれてたんだけど、片方が健くんの家で、もう片方が雄くんの家だったんだ。電車が地下を走り抜けて地上を走り出したその瞬間、あーもうすぐ健くんや雄くんの家に着くんだ~って高揚感感じちゃって! うわ~っ! 本当にあの頃のドキドキ感は楽しかったな~。


「――ねっ、すごいでしょ。あたし、小三の時点で彼氏二人掛け持ちだっんだからね」
「……マ、ジ、か……。やりますなぁ……、なかなか」

 琴姉以外の遊び相手がいなかった私の悲しい小学校時代とは大違いだ。まあ確かにこれなら需要があるって自認するだけの十分すぎる証拠と言えば証拠かもしれない。

 しかし、本当に人は見た目によらないものなのだな~。
 我ながらつくづく感心してしまった私は、気づいたころにはすでに始まっていた先生の話に慌てて耳を傾けると前方の遠くのスクリーンの方へ視線を飛ばした。
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