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二章 新しい学校生活

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「おっは~」
「おはよう! あっ、今日はマスカットの香りね」
「ご名答! 真妃ちゃんすごいね。結構いいでしょこれ?」
「うん。あっ、百合ちゃんもどう? マスカットの香りだよ?」
「いや、私は別に……。真妃ちゃんつければ?」
「うん!」

 結局その日以来、あの変わり者好きの変わり者女子――小竹さんは私たちと行動を共にするようになった。この日もやっぱり、どことなく異様なコロンの香りを漂わせながら私たちの元へとやってきた。

 もちろん本音としては、少々面倒なやつが現れたな~、という思いがはじめのうちはぬぐえないでいた。しかし数日もたってしまうと、なぜだか彼女の押しの強い会話も、やや鼻につくような日替わりコロンの香りも少しは慣れできたのだった。そしてなぜだか知らないけど、真妃と二人きりの頃よりも少しだけ楽しいような感覚を味わっていたのだった。認めたくはないけど、やっぱり同じ変わり者同士、気が合うのだろうか?
 そしてありがたいことに真妃の方も小竹さんと過ごす日々を楽しんでいるようだった。この日も二人で一緒にコロンの香りがなんとかとか、今シーズンの流行りのコーデはなんとかとかそんなおしゃれ話をしていた。


 小竹さんと一緒になって一週間くらいたったある日のことだった。世間では緊急事態宣言も解除され、来週からは楽しいゴールデンウイークが始まろうとしていた。もちろん私たちもゴールデンウイークの長期休暇を堪能しようと心躍らせていたその時だった。

「ところでさー、百合ちゃんって、……しないの?」
「はあ?」
「ふふっ。百合ちゃんなら絶対需要あると思うけどな~」

 そういうと小竹さんは両手でハートマークを作ってこちらに見せてきた。

「ああ、恋愛ね」

 恋愛か~。
 ほんのりと恋しいような感覚に襲われたのだが、それはすぐに数ヶ月前の忌まわしい記憶によってかき消されてしまった。

 恋愛って言ったら……そういえば高校時代、恋愛のお守りとかいうわけわかんないものにいやというほど振り回されたっけな~。しまいには幼馴染の琴姉が包丁持って真妃に襲い掛かっちゃって大変なことになったんだから。あ~本当にあの時は最悪だったわ~。

「う~ん、ごめんね。恋愛はもういいんだ」
「ふ~ん……。そうなんだ」
「ちょっと~、そんなに思い込まなくても。第一、私なんかより小竹さんの方が絶対需要あるって。そういう小竹さんこそ、恋愛、してみたら?」

 少しだけ悲しそうな彼女を気遣って半ば冗談で言ってみた。しかし、彼女は意外な反応を返してきた。

「あっ、まあうちはね。ふふふっ。実はある程度の需要があるってこともうわかってるから」
「えっ⁉」

 なんなの⁉ 相当な自信家じゃない! 自分で自分のこと需要あるって……、しかも他人に堂々と……。あー、やっぱ変わり者は違うな。うんうん、きっとそう。彼女は私なんかとはけた違いの変わり者に違いない。
 自分自身にそう言い聞かせ納得させていたが、目の前の小竹さんはさらに驚くべきことを口にしてきたのだった。

「あっ、ちゃんと証拠だってあるのよ。ただの思い込みで言ってるわけじゃないんだからね」
「えっ? 証拠って?」
「うふふっ、聞きたい?」
「ええ、それはもう」
「いいわ。じゃあ話してあげる」
「あっ、お願いしまーす」

 上機嫌な小竹さんは、にっこりと目を細めて天の方へ視線を飛ばした。
「あれはね、まだ私が小学校の頃なんだけど……」
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