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二十四章 まばゆい光
二
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「ねえ……答えてよ! なんなのよ、これ⁉」
「……」
うつむく琴乃に向かっ必死に問い詰め続ける。しかし彼女は微動だにしなかった。足元にしゃがみ込む真妃は手で顔を覆いながら小さくなっていた。
「西谷~っ!」
向こう側に小さく見えるドアが開き秦野が走って来た。
「西谷? ひぇ~っ! なんだこれ~っ! おっかね~」
ザッ! カラララン……、カランッ……。
銀色に光を放つナイフを見た秦野は慌てふためいてそれを蹴り飛ばし、屋上の端の溝へと追いやった。
「もう大丈夫……。秦野くんも来てくれたから……」
「ぐすん……、百合ちゃぁぁ~ん!」
目の前の小さくなった真妃はボロボロと大粒の涙を流しながらぎゅっと抱き着いてきた。そのぬくもりを感じた私も、その瞬間、とうとう抑えることができなくなってしまった。
「に……西谷……これって……」
「わからない、何も話してくれないの……。ね、ねえ、秦野くんは何か知ってる?」
「お……俺様か……。あー、そんなこと……」
「ねえ!」
視線を逸らす秦野に必死に呼びかけた。絶対何か隠している。
そしてうつむきがちに秦野は照れながらいつものようなにやけ顔を取り戻して口を開いた。
「じ、実はな。俺様……、この前見ちゃったんだよ。真妃ちゃんと寒川が言い争いしてるとこ、昼休みにな……。二人とも俺様のことがどうとか言って最悪の雰囲気だったんで……ちょっと気になっちゃって隠れて見てたんだけどよ……。けどそのうち、なんかだんだんヤバそうな雰囲気になったんで止めようとな……。でも、二人ともすごいヒートアップしちゃって……なんかもうどうしようもなくなっちゃってよ……」
「はぁ~ そんなこと……」
琴姉は何となくわかるけど……。まさか、あのドジっ子で温厚な真妃ちゃんがそんなこと……。
少し離れたところでうなだれるように佇む彼女と顔に手を当ててしゃがみ込む彼女の方を見た。
「百合絵! 真妃!」足音とともに綾子の叫び声が聞こえた。
「ち! ちょっと! どうしたのよ⁉ 何があったのよ⁉」
「まあ……いろいろとな……」
「琴姉! でもなんでナイフなんか⁉ そんなことしていいと思ってるわけ⁉」
「……くっ、真妃のやつなかなかしぶとくて……。最後のつてだったおまえの受験も結局は……」
こちらに視線を飛ばし静かに口を開いたかと思うと、琴乃は再びうなだれて黙り込んでしまった。
「で、今日の昼もよ~、真妃ちゃんが「秦野くんはうちの大切な人なのっ! うち、秦野くんだけは死んでも守るんだから」とか寒川に向かって叫んでいるとこ廊下の陰で見かけちゃって……。いや~、自分でいってても恥ずかし~。俺超絶人気者じゃん! っていい気になっちゃったんだよな~」
「えっ⁉ 真妃がねーさんに⁉ しかも死んでも守るって……?」
「はぁ~っ」
軽く溜息を吐いた私は、顔に手を当ててしゃがみ込む真妃のもとへゆっくりと向かった。
「そうだったの。真妃ちゃん……もしかして結構長い間こんなことされてたの? なんでもっと早く教えてくれなかったのよ?」
「ふん……。だって……、百合ちゃんには言うなって……。あと百合ちゃんにも心配かけたくなかったの~」
「そうだったの……。真妃ちゃん、本当によく頑張った。もう安心して。真妃ちゃんって結構辛抱強いのね。私見直しちゃったわ」
「ふぇぇ~ん……怖かったよ~っ」
涙で濡れた真妃の顔を見るや否や、私は抱き着いた。ふわふわとしたウェーブがかかった髪をなでながら、私は目の前の彼女を包み込んだ。
「ところで真妃ちゃん。秦野くんから聞いたんだけど、秦野くんがカメラに着けてるのと同じお守り、真妃ちゃんも持ってるんだよね?」
「お守り?」
「そう。持ってたら見せてくれない?」
「うん……」
胸の中の真妃は静かにうなづくと、ベストの内側のブラウスの胸ポケットからお守りを取り出して私に見せてきた。やはりそれは例のピンクと赤色のお守りだった。
「いや~それにしても俺様、結構女子にモテるんだな~。まっさか取り合いまでされるとはな~。死んでも俺様のこと守るだってよ。いやーたまんねーぜ!」
「残念でした。秦野くんだってあのお守り持ってるでしょ」
「はぁ~、なんだそれ~?」
にやつく秦野にすかさず声をかけた。すぐに彼の頭の上にはてなマークが浮かんでくるのが見えた。
「あれよあれ。カメラにぶら下げてる赤っぽいお守り」
「……あっ、あの鉄ヲタご用達のお守りか。当然さ。俺様の相棒、EOS 90Dにぶら下げて大事に大事にしてあるぜ。……? けどよ~残念ってなんだよ。このお守りがなんか関係してるのか?」
「大ありよ。何というか、これ……恋愛感情を生み出させるお守りみたいなのよねー」
「なに~っ⁉」
目をまん丸にしてこちらの方を見つめる秦野。
「ま、待て! その秘密だけは」
突然、先ほどまで黙り込んでいた琴乃が声を上げた。
「何言ってるのよ! ナイフで真妃ちゃんのこと刺そうとして! 少しは頭冷やしなさいよね!」
「はっ⁉ ナイフ⁉ 超やばっ! というか、百合絵⁉ 百合絵は平気なの⁉」
「まあ……制服はちょっと裂けちゃったけど、出血はしてないみたい」
「はぁ~っ……、よかった……」
私の声を聴くや否や、綾子はへなへなと座り込んでしまった。
そして私はついに話した。琴乃の観察手帳をチラ見してしまったときに発見してしまったあのピンクと赤色のお守りが持つ力のメモについてを。はじめは真妃と綾子だけではなく鉄ヲタの秦野ですら信じてはくれなかった。
しかし話を進めていくうちに、これは琴乃が一年生の終わりごろから一人でずっと調べ続けていたことだということを伝えると、「えー、嘘だろ~?」とか「マジかよ⁉」などと言って驚いていた秦野や綾子も口を紡いで次第に納得してくれたように見えた。
「ははは、まじかー。こんなもんにそんな力があるとはな~。鉄道の直通運転が条件とか、やっぱ鉄ヲタご用達のお守りじゃねーか」
陽気にそう言うと、なぜだか秦野は急に目をウルウルし始めた。
「ということは、小田急沿線民の俺様は……、このお守りと小田急に導かれて、直通運転先の千代田線沿線に住む真妃ちゃんと巡り合うことができたただ一人の男というわけか。ぐすっ……。ははっ……なんだか感慨深いぜ……。やはり日々の信仰心というものはバカにできないもんだ……。決めた! 俺様、死ぬまで一生小田急に尽くすことにするぜ!」
「ええっ⁉ じゃあ私、宏ちゃんのこと……」
「うん、おそらくは秦野くんも言ってた通りこのお守りの力によるものだと思う」
「そうだったんだー、なんかちょっと残念。真妃、初彼の秦野とは結構いい感じだったんで陰ながら応援してたんだけどなー」
少しだけ残念がっていた綾子だったが、何かひらめいたように口を開いた。
「あっ、でも秦野って引っ越ししたんじゃなかったんだっけ、いつだったか忘れたけど真妃から聞いた覚えあるから、その話通りだったら……」
「あっ、それはね……」
「二ヒヒヒッ、綾子よ! 実は俺の家、引っ越ししたことは引っ越したんだが。何というか、やっぱ持ってるというか、天性の小田急愛っていうか……。俺様、小田急沿線民だってことには結局変わってないんだぜ。なんたって俺様の今度の家は座間だからな。JR相模線も小田急と同じくらい近くなったんだぜ」
「あー、そうなの……。ていうかそのにやけ顔、超キモいんだけど何とかしてくんない」
「二ヒヒヒッ、あきらめんだな~」
「ったく……」
普段通りの雰囲気を取り戻した綾子と秦野を見て、少しだけほっとした私はさらに話しを進めた。
「で、これはほんとに偶然なんだけど、秦野が引っ越した場所が今回の琴姉の豹変ぶりを招いちゃったってわけ」
「ああっ? どういうことだ?」
「最寄り駅までの距離よ。秦野くん、小田急線と相模線、どっちが近いの?」
「どっちも近いからな……小田急の座間と相模線の入谷。わかんねえな、同じくらいだろ? たぶん」
「うん、同じくらいならそれでいいの。で、あとは鉄ヲタなんだからわかるでしょ? 私に見せてくれたあの黄色い電車の写真」
「なんだ~? あっ、あの相鉄10000の回送の写真か。……あーなるほどな……。真妃ちゃんとは千代田線と小田急の直通によるもの。そして寒川は相鉄沿線民だからある意味相模線沿線民でもある俺様とあの連絡線によって……、というわけか」
「まあ、そんなとこかしら」
納得したように手のひらをポンとたたいた秦野は、相変わらずのにやけ顔に戻った。
「ニヒヒヒッ、なるほどな~。あの連絡線によるものっていうのがなかなかきわどいぜ~。あんなの相鉄車の輸送でしか使われないんだけどな。二ヒッ。まっ、それでもある意味直通運転してるってことには変わりねーんだけどな」
「でも、ここまではあくまでも私の考えなのよ」
「ん?」
「忘れたの? お守り自体のこと。さっき言ったことはあくまでも琴姉が秦野くんや真妃ちゃんが持っていたのと同じピンクと赤色のお守りを持っていればの話なのよ」
「なるほどなー。……で、どうなんだい? 凶暴な寒川さんよ?」
そういいながら、秦野は相変わらずうつむきながら佇む琴乃の方を見た。そして私と綾子も彼女の方へと視線を飛ばした。しかし、やはり一言も話してはくれなかった。
「琴姉っ! こんな事態を招いたのは琴姉のせいでもあるんだから、はっきり言ったらどうなの!」
「そうよ! ねーさんどうなのよ⁉」
「くっ……ちくしょう! そうだよ!」
突然大声を上げたかと思うと琴乃は地面に置かれたカバンの方へと視線を下した。
「やっぱり……。あっ、念のために一応訊いておくけど、まさか琴姉ん家引っ越しとかしてないわ……」
「してねえよ! けっ!」
私の言葉をかき消すかのようにそう吐き捨てると、琴乃は向こう側を向いてしまった。琴乃の背中が色濃く映る。そしてその後ろの空にはキラキラと夕日が輝いていた。
「ふーっ……まっ、でもこれでとりあえずは万事解決ね。真妃も百合絵も無事でよかった。……でもどうする? 百合絵、制服裂けてボロボロになっちゃったんだよね? ほんとに……あんな危ないもん学校に持ってきて……。一応先生に報告しよっか?」
「おっ、やっぱそういう流れになるのか。残念だったな寒川さんよ。こんな時期に、受験どころじゃなくなっちまったな~。二ヒヒヒッ」
「う~ん……。まあでも実際にやられたのは真妃と百合絵なんだから、真妃と百合絵で決めたら? 私は別にどっちでもいいけど」
「まっ、俺も賛成だぜ。西谷たちの好きにしな」
そうか……、そうだよね……。やっぱりそういうことになっちゃうよね……。
ふと目の前の現実と将来のことに気付かされた私は、遠くの方を見て佇む琴乃と胸に手を当ててうつむいている真妃の方を見た。
まあでも琴姉……ナイフなんて危ないもの学校に持ってきてそれで襲い掛かろうとしてたんだし、一応先生に言ったほうが……。
待って! でもそんなことしたら琴姉どうなっちゃうのよ! ……そんなことしたら、琴姉、警察に捕まっちゃうかもしれないじゃない。そしたら……そしたら私……本当に琴姉とは会えなくなっちゃうわけ⁉ 三月までの最後の高校生活くらい、ほんの少しでもいいから琴姉と楽しい思い出作っておきたかったのに……。
しかも……こんな大切な日お別れだなんて……。琴姉だって……本当は素直に恋愛を楽しみたかっただけなのかもしれないのに……。
気づけば目の前に映る二人の姿はにじんでいた。夕日のまぶしさだけが感じられる。目頭がほんのりと熱くなってくる。そして火照る顔をやさしくなでるかのように涙が零れ落ちてしまった。
「どうしたの……?」
「……!」
それは真妃の声だった。私はすかさずその声のする方を見た。
「真妃ちゃん……。でも真妃ちゃんなんて……何ヶ月もの間こんなひどい目に遭ったんだもんね……。ううん、なんでもない……」
「百合ちゃん……?」
「真妃ちゃん。琴姉にこれまでされてきたこと、すべて先生に言おう。だって、真妃ちゃん、何ヶ月も何ヶ月も苦しんできてたんでしょ?」
「……」
「で、でも、これでね、本当に琴姉とはお別れになっちゃうんだ。べ……別に気にしないで……。だって私ね、琴姉から三月で絶交だって言われちゃってて……。私、勉強できないからさ。だからさ、その日が少しだけ早くなるって思えば」
「百合ちゃん。うちはね、もう大丈夫だから。心配しないで」
「えっ……」
「うふふっ。おねーさんも一生懸命頑張ってたんだから、大学の受験、させてあげようよ」
「えっ……?」
「ふふふっ、百合ちゃん、さっきはありがとう」
「ま……、ま……、真妃ーっ!」
ぎゅーっ!
真妃のその声を聞いた瞬間、気づけば私は彼女と一つになっていた。彼女のぬくもりを全身に感じ胸の中の彼女を抱きしめる腕の力が自然に強くなる。
「ありがとう……、ありがとう……」
「ふふふっ。百合ちゃんって、泣き虫なのね」
「ち、違う、そんなわけ……。ぐすん……。ごめん……、そうかも」
「はぁ~、別にいいんじゃない……。じゃっ、この件は私たち五人だけの秘密ってことで。めでたしめでたし。まっ、私だったら先生にチクって縁切っちゃうかもしれないけど」
「二ヒヒヒッ、やはり俺様が選んだ女子は心の広さが一味違うぜ~」
「何が選んだだよ。お守りと鉄道で勝手に結ばれただけじゃねーか。つーかジト目でこっちみんなってーの! しっしっ!」
にやけ顔をしながら綾子に顔を寄せる秦野とその彼を煙たがる綾子の姿を見て、私はやっと気を取り戻すことができた。
「あっ、綾子たち。ごめんごめん」
「いいのよ。はい、百合絵も笑顔になったことだし、めでたしめでたし。さーてさっさと帰って勉強しなくちゃ」
「ちょっと待って! 最後にやっとかなきゃいけない大事なことがあるんだけど」
「ん? まだ何かあるのか?」
「こんなことが二度と起こらないように、このお守りを手放すことよ」
「あー、そういえばそうね。すっかり忘れてたわ」
「なっ!」
納得する綾子の後ろで、琴乃は突然声をあげた。そっぽを向いていた彼女は、とっさにこちらの方へ視線を飛ばした。
「まあ、百合絵の言うとおりだわ。本当は私も欲しかったんだけどな~、あのお守り……。まあいっか。あっ……でも……」
綾子は、少しだけ心配そうな顔をして真妃の方へと視線を飛ばした。
「真妃ーっ、お守りとお別れだってさ、百合絵が。どうする~?」
「綾ちゃん。綾ちゃんと百合ちゃんの提案なら、うち従うよ。もうこんな目に合うのはいやだもん。百合ちゃん、本当にさっきはありがとう」
「真妃ちゃん……」
「はい」
真妃はブラウスの胸ポケットからお守りを取り出すと、私のもとへ近づき、手のひらにそっとやさしく乗せてくれた。
「私こそ、ほんとにありがとう。真妃」
「ああっ~! 俺様の永遠の真妃ちゃんが~!」
「残念でしたね~。へへ~ん」
「で、次は……」
落ち込む秦野を横目に、私は無言のまま隅の方で佇む彼女のもとへ向かった。私が近づくや否や、先ほどまでこちらに視線を飛ばしていた彼女は再びうつむきがちになってしまった。
「琴姉、どうせ今だって持ってるんでしょ? 出しなさい」
「うう~っ」
目を強くつぶりながら、これまでに見たことのないような表情を見せる琴乃。
「真妃たちをこんな目に合わせて、しかも先生にチクるのも見逃してもらって、はっきり言ってねーさんに拒否権なんかないんだからね! 真妃だって素直に渡してくれたんだからさっさと出しなさい!」
「あーっ! くそっ! この中だ!」
そう言い放つと、琴乃は近くにあったカバンを雑に持ち私の前へと放り投げた。
ドサッ!
「外ポケットの中だ。勝手にしな」
目の前に転がった紺色のカバンの外ポケットを言われるがまま開けてみた。そしてその中に入っていた黒い巾着袋の中に、ピンクと赤色のそれは入っていた。
そのお守りを手の中に握りしめ、転がっていた琴乃のカバンを持ちながら私は彼女のもとへ近づいた。
「……なんだ、まだ何か用か?」
「ううん、なんでもない」
ドサッ……。
「ああ、カバンか……。悪いな」
「琴姉、ごめんね。ほんとは、私が何かプレゼントしなくちゃいけない日だったんだけどね。……今日は二月十八日。そして……私の誕生日の三日後。琴姉の誕生日だもんね」
「おっ! おまえ……⁉」
「忘れるわけないじゃない。大切な日だもん」
目を見開く彼女を、私はにっこりと見つめていた。
「はぁ~っ……本当にすまなかった、百合絵……。私も油断していた。営業運転で直通していることが必要条件だと思いきや……、営業列車以外の直通運転とか……まさかそんな特殊な条件でもこんな事態に発展してしまうとは……」
「あっ! そういえば……西谷、俺も渡さなきゃダメか? 鉄ヲタ護身用としてぜひとも持っておきたいところだったんだが。こんな素晴らしいお守りめったにないし」
思い出したかのように秦野は問いかけてきた。
「あっ、えーと……」
他に持っている人は……、琴姉も真妃ちゃんももう持ってないし……。以前に的場さんもなくしちゃったとか言ってたし……。そして私もなくしちゃったし……。う~ん……まあいいか。
「秦野くーん。秦野くんは持っててもいいや。そのかわり、誰か他の人に渡したりなくしたりしちゃ絶対ダメだからね! 一生大切に持っておいてよ!」
「ほほぉ~っ! そうか~! サンキュー、西谷! それじゃ俺様の相棒、EOS 90Dと運命共同体にさせてもらうぜ!」
しばらく考えた私は、結局秦野が持っているお守りだけは見逃してあげることにした。その言葉を聞いた彼のにやけ顔は満面の笑みに変わっていた。
「じゃあ琴姉と真妃ちゃんが持ってたお守りは私が明後日の日曜に地元の神社行ってお焚き上げしてもらうから」
「いいんじゃない。よろしくー」
「おおっ? そんなこと言って。西谷よーっ、もしかして……お守り独り占めしようとか考えてんじゃね~のか?」
「はぁ~っ⁉ あんたバカじゃないの⁉」
「するわけないじゃなーい。あっ、わかった。じゃあ日曜、秦野くんも一緒についてきて来てくれない。家、座間なんだから近いでしょ? かしわ台駅前で十二時に待ち合わせね」
「えーっ。……おっ! でもこれって、要は西谷とのデートって事じゃねえか? ニヒヒヒッ……いいだろう」
「たくっ……、何考えてるんだか」
普段通りのにやけ顔の秦野とあきれ顔の綾子を前に、私はこの目でお騒がせなピンクと赤色のお守りたちの最期を見送ってあげることを強く心に決めた。
「……」
うつむく琴乃に向かっ必死に問い詰め続ける。しかし彼女は微動だにしなかった。足元にしゃがみ込む真妃は手で顔を覆いながら小さくなっていた。
「西谷~っ!」
向こう側に小さく見えるドアが開き秦野が走って来た。
「西谷? ひぇ~っ! なんだこれ~っ! おっかね~」
ザッ! カラララン……、カランッ……。
銀色に光を放つナイフを見た秦野は慌てふためいてそれを蹴り飛ばし、屋上の端の溝へと追いやった。
「もう大丈夫……。秦野くんも来てくれたから……」
「ぐすん……、百合ちゃぁぁ~ん!」
目の前の小さくなった真妃はボロボロと大粒の涙を流しながらぎゅっと抱き着いてきた。そのぬくもりを感じた私も、その瞬間、とうとう抑えることができなくなってしまった。
「に……西谷……これって……」
「わからない、何も話してくれないの……。ね、ねえ、秦野くんは何か知ってる?」
「お……俺様か……。あー、そんなこと……」
「ねえ!」
視線を逸らす秦野に必死に呼びかけた。絶対何か隠している。
そしてうつむきがちに秦野は照れながらいつものようなにやけ顔を取り戻して口を開いた。
「じ、実はな。俺様……、この前見ちゃったんだよ。真妃ちゃんと寒川が言い争いしてるとこ、昼休みにな……。二人とも俺様のことがどうとか言って最悪の雰囲気だったんで……ちょっと気になっちゃって隠れて見てたんだけどよ……。けどそのうち、なんかだんだんヤバそうな雰囲気になったんで止めようとな……。でも、二人ともすごいヒートアップしちゃって……なんかもうどうしようもなくなっちゃってよ……」
「はぁ~ そんなこと……」
琴姉は何となくわかるけど……。まさか、あのドジっ子で温厚な真妃ちゃんがそんなこと……。
少し離れたところでうなだれるように佇む彼女と顔に手を当ててしゃがみ込む彼女の方を見た。
「百合絵! 真妃!」足音とともに綾子の叫び声が聞こえた。
「ち! ちょっと! どうしたのよ⁉ 何があったのよ⁉」
「まあ……いろいろとな……」
「琴姉! でもなんでナイフなんか⁉ そんなことしていいと思ってるわけ⁉」
「……くっ、真妃のやつなかなかしぶとくて……。最後のつてだったおまえの受験も結局は……」
こちらに視線を飛ばし静かに口を開いたかと思うと、琴乃は再びうなだれて黙り込んでしまった。
「で、今日の昼もよ~、真妃ちゃんが「秦野くんはうちの大切な人なのっ! うち、秦野くんだけは死んでも守るんだから」とか寒川に向かって叫んでいるとこ廊下の陰で見かけちゃって……。いや~、自分でいってても恥ずかし~。俺超絶人気者じゃん! っていい気になっちゃったんだよな~」
「えっ⁉ 真妃がねーさんに⁉ しかも死んでも守るって……?」
「はぁ~っ」
軽く溜息を吐いた私は、顔に手を当ててしゃがみ込む真妃のもとへゆっくりと向かった。
「そうだったの。真妃ちゃん……もしかして結構長い間こんなことされてたの? なんでもっと早く教えてくれなかったのよ?」
「ふん……。だって……、百合ちゃんには言うなって……。あと百合ちゃんにも心配かけたくなかったの~」
「そうだったの……。真妃ちゃん、本当によく頑張った。もう安心して。真妃ちゃんって結構辛抱強いのね。私見直しちゃったわ」
「ふぇぇ~ん……怖かったよ~っ」
涙で濡れた真妃の顔を見るや否や、私は抱き着いた。ふわふわとしたウェーブがかかった髪をなでながら、私は目の前の彼女を包み込んだ。
「ところで真妃ちゃん。秦野くんから聞いたんだけど、秦野くんがカメラに着けてるのと同じお守り、真妃ちゃんも持ってるんだよね?」
「お守り?」
「そう。持ってたら見せてくれない?」
「うん……」
胸の中の真妃は静かにうなづくと、ベストの内側のブラウスの胸ポケットからお守りを取り出して私に見せてきた。やはりそれは例のピンクと赤色のお守りだった。
「いや~それにしても俺様、結構女子にモテるんだな~。まっさか取り合いまでされるとはな~。死んでも俺様のこと守るだってよ。いやーたまんねーぜ!」
「残念でした。秦野くんだってあのお守り持ってるでしょ」
「はぁ~、なんだそれ~?」
にやつく秦野にすかさず声をかけた。すぐに彼の頭の上にはてなマークが浮かんでくるのが見えた。
「あれよあれ。カメラにぶら下げてる赤っぽいお守り」
「……あっ、あの鉄ヲタご用達のお守りか。当然さ。俺様の相棒、EOS 90Dにぶら下げて大事に大事にしてあるぜ。……? けどよ~残念ってなんだよ。このお守りがなんか関係してるのか?」
「大ありよ。何というか、これ……恋愛感情を生み出させるお守りみたいなのよねー」
「なに~っ⁉」
目をまん丸にしてこちらの方を見つめる秦野。
「ま、待て! その秘密だけは」
突然、先ほどまで黙り込んでいた琴乃が声を上げた。
「何言ってるのよ! ナイフで真妃ちゃんのこと刺そうとして! 少しは頭冷やしなさいよね!」
「はっ⁉ ナイフ⁉ 超やばっ! というか、百合絵⁉ 百合絵は平気なの⁉」
「まあ……制服はちょっと裂けちゃったけど、出血はしてないみたい」
「はぁ~っ……、よかった……」
私の声を聴くや否や、綾子はへなへなと座り込んでしまった。
そして私はついに話した。琴乃の観察手帳をチラ見してしまったときに発見してしまったあのピンクと赤色のお守りが持つ力のメモについてを。はじめは真妃と綾子だけではなく鉄ヲタの秦野ですら信じてはくれなかった。
しかし話を進めていくうちに、これは琴乃が一年生の終わりごろから一人でずっと調べ続けていたことだということを伝えると、「えー、嘘だろ~?」とか「マジかよ⁉」などと言って驚いていた秦野や綾子も口を紡いで次第に納得してくれたように見えた。
「ははは、まじかー。こんなもんにそんな力があるとはな~。鉄道の直通運転が条件とか、やっぱ鉄ヲタご用達のお守りじゃねーか」
陽気にそう言うと、なぜだか秦野は急に目をウルウルし始めた。
「ということは、小田急沿線民の俺様は……、このお守りと小田急に導かれて、直通運転先の千代田線沿線に住む真妃ちゃんと巡り合うことができたただ一人の男というわけか。ぐすっ……。ははっ……なんだか感慨深いぜ……。やはり日々の信仰心というものはバカにできないもんだ……。決めた! 俺様、死ぬまで一生小田急に尽くすことにするぜ!」
「ええっ⁉ じゃあ私、宏ちゃんのこと……」
「うん、おそらくは秦野くんも言ってた通りこのお守りの力によるものだと思う」
「そうだったんだー、なんかちょっと残念。真妃、初彼の秦野とは結構いい感じだったんで陰ながら応援してたんだけどなー」
少しだけ残念がっていた綾子だったが、何かひらめいたように口を開いた。
「あっ、でも秦野って引っ越ししたんじゃなかったんだっけ、いつだったか忘れたけど真妃から聞いた覚えあるから、その話通りだったら……」
「あっ、それはね……」
「二ヒヒヒッ、綾子よ! 実は俺の家、引っ越ししたことは引っ越したんだが。何というか、やっぱ持ってるというか、天性の小田急愛っていうか……。俺様、小田急沿線民だってことには結局変わってないんだぜ。なんたって俺様の今度の家は座間だからな。JR相模線も小田急と同じくらい近くなったんだぜ」
「あー、そうなの……。ていうかそのにやけ顔、超キモいんだけど何とかしてくんない」
「二ヒヒヒッ、あきらめんだな~」
「ったく……」
普段通りの雰囲気を取り戻した綾子と秦野を見て、少しだけほっとした私はさらに話しを進めた。
「で、これはほんとに偶然なんだけど、秦野が引っ越した場所が今回の琴姉の豹変ぶりを招いちゃったってわけ」
「ああっ? どういうことだ?」
「最寄り駅までの距離よ。秦野くん、小田急線と相模線、どっちが近いの?」
「どっちも近いからな……小田急の座間と相模線の入谷。わかんねえな、同じくらいだろ? たぶん」
「うん、同じくらいならそれでいいの。で、あとは鉄ヲタなんだからわかるでしょ? 私に見せてくれたあの黄色い電車の写真」
「なんだ~? あっ、あの相鉄10000の回送の写真か。……あーなるほどな……。真妃ちゃんとは千代田線と小田急の直通によるもの。そして寒川は相鉄沿線民だからある意味相模線沿線民でもある俺様とあの連絡線によって……、というわけか」
「まあ、そんなとこかしら」
納得したように手のひらをポンとたたいた秦野は、相変わらずのにやけ顔に戻った。
「ニヒヒヒッ、なるほどな~。あの連絡線によるものっていうのがなかなかきわどいぜ~。あんなの相鉄車の輸送でしか使われないんだけどな。二ヒッ。まっ、それでもある意味直通運転してるってことには変わりねーんだけどな」
「でも、ここまではあくまでも私の考えなのよ」
「ん?」
「忘れたの? お守り自体のこと。さっき言ったことはあくまでも琴姉が秦野くんや真妃ちゃんが持っていたのと同じピンクと赤色のお守りを持っていればの話なのよ」
「なるほどなー。……で、どうなんだい? 凶暴な寒川さんよ?」
そういいながら、秦野は相変わらずうつむきながら佇む琴乃の方を見た。そして私と綾子も彼女の方へと視線を飛ばした。しかし、やはり一言も話してはくれなかった。
「琴姉っ! こんな事態を招いたのは琴姉のせいでもあるんだから、はっきり言ったらどうなの!」
「そうよ! ねーさんどうなのよ⁉」
「くっ……ちくしょう! そうだよ!」
突然大声を上げたかと思うと琴乃は地面に置かれたカバンの方へと視線を下した。
「やっぱり……。あっ、念のために一応訊いておくけど、まさか琴姉ん家引っ越しとかしてないわ……」
「してねえよ! けっ!」
私の言葉をかき消すかのようにそう吐き捨てると、琴乃は向こう側を向いてしまった。琴乃の背中が色濃く映る。そしてその後ろの空にはキラキラと夕日が輝いていた。
「ふーっ……まっ、でもこれでとりあえずは万事解決ね。真妃も百合絵も無事でよかった。……でもどうする? 百合絵、制服裂けてボロボロになっちゃったんだよね? ほんとに……あんな危ないもん学校に持ってきて……。一応先生に報告しよっか?」
「おっ、やっぱそういう流れになるのか。残念だったな寒川さんよ。こんな時期に、受験どころじゃなくなっちまったな~。二ヒヒヒッ」
「う~ん……。まあでも実際にやられたのは真妃と百合絵なんだから、真妃と百合絵で決めたら? 私は別にどっちでもいいけど」
「まっ、俺も賛成だぜ。西谷たちの好きにしな」
そうか……、そうだよね……。やっぱりそういうことになっちゃうよね……。
ふと目の前の現実と将来のことに気付かされた私は、遠くの方を見て佇む琴乃と胸に手を当ててうつむいている真妃の方を見た。
まあでも琴姉……ナイフなんて危ないもの学校に持ってきてそれで襲い掛かろうとしてたんだし、一応先生に言ったほうが……。
待って! でもそんなことしたら琴姉どうなっちゃうのよ! ……そんなことしたら、琴姉、警察に捕まっちゃうかもしれないじゃない。そしたら……そしたら私……本当に琴姉とは会えなくなっちゃうわけ⁉ 三月までの最後の高校生活くらい、ほんの少しでもいいから琴姉と楽しい思い出作っておきたかったのに……。
しかも……こんな大切な日お別れだなんて……。琴姉だって……本当は素直に恋愛を楽しみたかっただけなのかもしれないのに……。
気づけば目の前に映る二人の姿はにじんでいた。夕日のまぶしさだけが感じられる。目頭がほんのりと熱くなってくる。そして火照る顔をやさしくなでるかのように涙が零れ落ちてしまった。
「どうしたの……?」
「……!」
それは真妃の声だった。私はすかさずその声のする方を見た。
「真妃ちゃん……。でも真妃ちゃんなんて……何ヶ月もの間こんなひどい目に遭ったんだもんね……。ううん、なんでもない……」
「百合ちゃん……?」
「真妃ちゃん。琴姉にこれまでされてきたこと、すべて先生に言おう。だって、真妃ちゃん、何ヶ月も何ヶ月も苦しんできてたんでしょ?」
「……」
「で、でも、これでね、本当に琴姉とはお別れになっちゃうんだ。べ……別に気にしないで……。だって私ね、琴姉から三月で絶交だって言われちゃってて……。私、勉強できないからさ。だからさ、その日が少しだけ早くなるって思えば」
「百合ちゃん。うちはね、もう大丈夫だから。心配しないで」
「えっ……」
「うふふっ。おねーさんも一生懸命頑張ってたんだから、大学の受験、させてあげようよ」
「えっ……?」
「ふふふっ、百合ちゃん、さっきはありがとう」
「ま……、ま……、真妃ーっ!」
ぎゅーっ!
真妃のその声を聞いた瞬間、気づけば私は彼女と一つになっていた。彼女のぬくもりを全身に感じ胸の中の彼女を抱きしめる腕の力が自然に強くなる。
「ありがとう……、ありがとう……」
「ふふふっ。百合ちゃんって、泣き虫なのね」
「ち、違う、そんなわけ……。ぐすん……。ごめん……、そうかも」
「はぁ~、別にいいんじゃない……。じゃっ、この件は私たち五人だけの秘密ってことで。めでたしめでたし。まっ、私だったら先生にチクって縁切っちゃうかもしれないけど」
「二ヒヒヒッ、やはり俺様が選んだ女子は心の広さが一味違うぜ~」
「何が選んだだよ。お守りと鉄道で勝手に結ばれただけじゃねーか。つーかジト目でこっちみんなってーの! しっしっ!」
にやけ顔をしながら綾子に顔を寄せる秦野とその彼を煙たがる綾子の姿を見て、私はやっと気を取り戻すことができた。
「あっ、綾子たち。ごめんごめん」
「いいのよ。はい、百合絵も笑顔になったことだし、めでたしめでたし。さーてさっさと帰って勉強しなくちゃ」
「ちょっと待って! 最後にやっとかなきゃいけない大事なことがあるんだけど」
「ん? まだ何かあるのか?」
「こんなことが二度と起こらないように、このお守りを手放すことよ」
「あー、そういえばそうね。すっかり忘れてたわ」
「なっ!」
納得する綾子の後ろで、琴乃は突然声をあげた。そっぽを向いていた彼女は、とっさにこちらの方へ視線を飛ばした。
「まあ、百合絵の言うとおりだわ。本当は私も欲しかったんだけどな~、あのお守り……。まあいっか。あっ……でも……」
綾子は、少しだけ心配そうな顔をして真妃の方へと視線を飛ばした。
「真妃ーっ、お守りとお別れだってさ、百合絵が。どうする~?」
「綾ちゃん。綾ちゃんと百合ちゃんの提案なら、うち従うよ。もうこんな目に合うのはいやだもん。百合ちゃん、本当にさっきはありがとう」
「真妃ちゃん……」
「はい」
真妃はブラウスの胸ポケットからお守りを取り出すと、私のもとへ近づき、手のひらにそっとやさしく乗せてくれた。
「私こそ、ほんとにありがとう。真妃」
「ああっ~! 俺様の永遠の真妃ちゃんが~!」
「残念でしたね~。へへ~ん」
「で、次は……」
落ち込む秦野を横目に、私は無言のまま隅の方で佇む彼女のもとへ向かった。私が近づくや否や、先ほどまでこちらに視線を飛ばしていた彼女は再びうつむきがちになってしまった。
「琴姉、どうせ今だって持ってるんでしょ? 出しなさい」
「うう~っ」
目を強くつぶりながら、これまでに見たことのないような表情を見せる琴乃。
「真妃たちをこんな目に合わせて、しかも先生にチクるのも見逃してもらって、はっきり言ってねーさんに拒否権なんかないんだからね! 真妃だって素直に渡してくれたんだからさっさと出しなさい!」
「あーっ! くそっ! この中だ!」
そう言い放つと、琴乃は近くにあったカバンを雑に持ち私の前へと放り投げた。
ドサッ!
「外ポケットの中だ。勝手にしな」
目の前に転がった紺色のカバンの外ポケットを言われるがまま開けてみた。そしてその中に入っていた黒い巾着袋の中に、ピンクと赤色のそれは入っていた。
そのお守りを手の中に握りしめ、転がっていた琴乃のカバンを持ちながら私は彼女のもとへ近づいた。
「……なんだ、まだ何か用か?」
「ううん、なんでもない」
ドサッ……。
「ああ、カバンか……。悪いな」
「琴姉、ごめんね。ほんとは、私が何かプレゼントしなくちゃいけない日だったんだけどね。……今日は二月十八日。そして……私の誕生日の三日後。琴姉の誕生日だもんね」
「おっ! おまえ……⁉」
「忘れるわけないじゃない。大切な日だもん」
目を見開く彼女を、私はにっこりと見つめていた。
「はぁ~っ……本当にすまなかった、百合絵……。私も油断していた。営業運転で直通していることが必要条件だと思いきや……、営業列車以外の直通運転とか……まさかそんな特殊な条件でもこんな事態に発展してしまうとは……」
「あっ! そういえば……西谷、俺も渡さなきゃダメか? 鉄ヲタ護身用としてぜひとも持っておきたいところだったんだが。こんな素晴らしいお守りめったにないし」
思い出したかのように秦野は問いかけてきた。
「あっ、えーと……」
他に持っている人は……、琴姉も真妃ちゃんももう持ってないし……。以前に的場さんもなくしちゃったとか言ってたし……。そして私もなくしちゃったし……。う~ん……まあいいか。
「秦野くーん。秦野くんは持っててもいいや。そのかわり、誰か他の人に渡したりなくしたりしちゃ絶対ダメだからね! 一生大切に持っておいてよ!」
「ほほぉ~っ! そうか~! サンキュー、西谷! それじゃ俺様の相棒、EOS 90Dと運命共同体にさせてもらうぜ!」
しばらく考えた私は、結局秦野が持っているお守りだけは見逃してあげることにした。その言葉を聞いた彼のにやけ顔は満面の笑みに変わっていた。
「じゃあ琴姉と真妃ちゃんが持ってたお守りは私が明後日の日曜に地元の神社行ってお焚き上げしてもらうから」
「いいんじゃない。よろしくー」
「おおっ? そんなこと言って。西谷よーっ、もしかして……お守り独り占めしようとか考えてんじゃね~のか?」
「はぁ~っ⁉ あんたバカじゃないの⁉」
「するわけないじゃなーい。あっ、わかった。じゃあ日曜、秦野くんも一緒についてきて来てくれない。家、座間なんだから近いでしょ? かしわ台駅前で十二時に待ち合わせね」
「えーっ。……おっ! でもこれって、要は西谷とのデートって事じゃねえか? ニヒヒヒッ……いいだろう」
「たくっ……、何考えてるんだか」
普段通りのにやけ顔の秦野とあきれ顔の綾子を前に、私はこの目でお騒がせなピンクと赤色のお守りたちの最期を見送ってあげることを強く心に決めた。
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