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十八章 驚愕と動揺
二
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「それじゃ、解けたら教えてくれ」
「……」
琴乃の掛け声で私は目の前の二次関数の問題に視線を飛ばす。今日もやはり、放課後は普段通り琴乃と二人机に向かっていた。とはいうものの琴乃は今日もやはり机に向かうというより机に座るといった状態だったが。
二次関数の放物線と直線がえーと……、点PとQで交わって……。
何度も解いた覚えのある、おなじみの気がする問題。たまにうなりながらもすらすらとシャーペンを動かし、目の前の白紙に計算式を書いてゆく。一行、また一行と白紙が埋まってゆく。
ちらっ。
……異常なし。
再び沈黙の時。目の前の数式を追い、それを計算し、一行、また一行と白紙を埋めてゆく。
ちらっ。
再び私の視線は左側の琴乃の方へと飛んだ。しかしやはり全く手掛かりをつかむことはできなかった。黙々と開いた参考書に目を通すショートヘアーの琴乃。こんな彼女に秦野が惚れてしまっているなんて。
琴姉、勉強はいいけど。ちょっと、大変なことになっちゃってるわよ。
パコンッ!
「痛っ!」
「終わったのか? ……まだ途中じゃねーか、集中しろ!」
「ううっ……」
気づけば琴乃はプリントを筒状に丸め手に持っていた。そしてその紙筒は先の方がくしゃりとへこんでしまっていた。
ああ……。
なかなか手ごわい相手だ。いろいろな意味で。
仕方なく私は、目の前のその問題に再び視線を落とすのであった。
次の日の放課後も日も、やはり私の頭の中は目の前の二次関数の問題ではなく琴乃のことでいっぱいだった。昨日のように真っ白な紙面を計算式で埋めていく、そしてやはり数行書いてはちらっと、異常ががないことを確認すると再び視線を目の前へ戻し、方程式を解きながら数行書いては再びちらっと。
やっとのことで一問目が解けた。これで二問目に入れる。二問目は一問めに回答した答えを使って計算する。前の答えが間違っていたらもうおしまいだ。
しかしそんなことを気にしている暇などなかった。とにかく解かなくては。そしてそれだけではなく。
ちらっ。
よしOK。えーと、交点の座標が二つの時、片方の座標を……。
シャーペンを走らせながら、私は今日まで見てきた琴乃の姿を考えていた。自然と視線は目の前ではなく左隣の机に腰掛ける彼女の方へ向いてしまった。
やはり琴乃は、相変わらず数学の解説書に目を通している。そして普段の授業中も、秦野に対する好意をあらわにするどころか何一つ行動を変えることはなかった。暇さえあれば英単語帳や古文単語帳に目を通してばかり。秦野のことを目で追ったり、照れたり、紅潮したり、イチャイチャしたり、そんな姿は何一つ見せなかった。もちろん会話することも一切なかった。まるで私と他のクラスメイトたちのように、本当に赤の他人のようなふるまいだった。
は~っ、手掛かりなしか……。
「ただいま~。お風呂、さっさと入っちゃって」
ぷくぷくぷくっ……。
私は熱々の湯船に鼻のあたりまでつかりながら一人考えていた。まるでカニのようにぷくぷくと泡を立てながら。
琴姉……。ほんとに秦野のことが好きなのかな~。それとも私の思い違いかな……?
嫌いだったら別にいいんだけど、なんか最近の琴姉、勉強勉強って……。受験が大事なのはわかるけど、もっとこう息抜きっていうかなんて言うか……少しは気分転換でもした方がいいんじゃないのかな~?
で、仮にだよ、秦野のことが好きなんだったら、学校にいるときくらい、もっとこう積極的にアタックしてみてもいいんじゃないかな。高校生活ももうすぐ終わっちゃうんだからさ~、恋愛くらい我慢しないでパーッと楽しんだ方が……。
いったい琴乃は秦野のことをどう思っているのだろうか? 好きなのか? それとも、何とも思ってないのか? どちらにしても心配に思えてきて仕方がなかった。
「ほら、じゃあ今日はここから。終わったら教えて」
「はいはい」
この日の放課後も琴乃の一声で、私の頭はぐるぐると回りだす。似たような傾向の問題を何度も解いてきたからなのか、少しだけ頭の回転が速くなってきた気がする。この日は二次関数ではなく図形問題。sinとかcosとかの計算が面倒だったが、数学ⅠやⅡ計算ばかりの問題よりかは少しだけましだった。
シャーペンで図形を描き、補助線を何本か引いて、そして計算式を書く。そしてしばらくしたところで今日もあたしの集中力は途切れた。
さて、今日もそろそろ琴姉観察を……あれっ?
隣の机にいつものように座る彼女を見て、私は少しだけ違和感を感じた。
あ~っ! 今日は違う本読んでる! なんだこれ……あっ! 化学薬品! も~っ! 私には数学ばっかやらせて自分は化学の勉強かよ。私もたまには数学以外も教えてもらいたいのに~。
……まあでも、英語を除く理系科目で現状一番ヤバいのは数学だし、琴姉が言い出した特訓だし……まあいいや。
そして私は再び、目の前の問題の方へと視線を移し、頭をぐるぐると回すのであった。
「百合絵、悪いが今解いてるそれが終わったら今日はお開きとしよう」
「えっ?」
なんと、普段なら最終下校時刻の六時頃まで嫌というほど付き合わされるのだが、この日はもうおしまいにしようということだった。ふと目の前の黒板上にある時計を見ると時刻はまだ五時にもなっていなかった。
やった~、今日は早く解放されるぞ~。……でも、……なんか怪しい……。
少しだけ不信感も生まれたが、やはり早く解放されるという喜びの方が勝っていた。目の前のシャーペンを走らせる速さが自然と速くなっていくのを感じた。
「あっ、百合絵。久しぶり~」
「よっ」
数日後の昼休み、私は久しぶりに真妃と綾子がいるD組の教室へ行った。今日は木曜日。木曜日は舟渡との勉強会もなく、普段なら琴乃の特訓にの餌食になっているはずの時間だったが今日は違った。なんと今日は珍しく、あの琴乃が学校を欠席していた。毎日惜しむことなく勉強に打ち込み、授業は真面目に受け、一年生の時には皆勤賞まで取っていたほどのあの琴乃がである。
「あっ……睦子……」
マルーン色のポニーテールを見た瞬間、少しだけ気まずくなってしまった。相変わらず彼女は落ち着いた表情でこちらを見ている。
「ご……ごめん」
「ちょっと? 百合絵、どうしたのよ?」
「えっ……、だって世界史の時……」
「も~っ、気にしすぎ。別に睦子怒ってないから、ねっ?」
「あ……、は、はい……。別に気にしてないですよ……」
「そ……そうなの」
「そうそう……、ちょっと恥ずかしがり屋さんで口下手なだけ。でも歴史のこと考えちゃうとスイッチ入ってガンガンおしゃべりしちゃうんだよね~。ね~睦子」
「はっ! 桜木さん……!」
真っ赤になった顔を手に持っていたノートで隠し黙り込んでしまった。
これが彼女の本性か! なんか……意外。
初めて会ったときの彼女とはまるで別人のようなその姿に驚き、私は少したじろいでしまった。どちらかというとあの辰巳のようにがり勉で冷たい感じのキャラかと思っていたのでなおさらだった。
「おお、西谷……。頼むぞ」
今日もまたハーレム状態になっていた秦野はそう言ってこちらに軽くウィンクを飛ばしてきた。
はいはい、わかってるって。
心の中でそう言い返しながらOKサインを出した私は、ふと真妃のことが気になった。
「真妃ちゃん、最近はどう? 秦野に変なとこ連れていかれたりしていじめられたりしてない?」
明るく問いかけてみたものの、なぜだか目の前の真妃は浮かない顔をしていた。
「あっ……う、うん……」
えっ? どういうこと?
なぜだか少しだけ悲しそうな真妃を見て、私は少し考え込んだがすぐに気づいた。
「あっ! 秦野~っ! もしかしてまた変なとこ連れまわしたりして真妃ちゃんのこと束縛してんのね~」
「おいおいお~い、俺様そんなことしてね~よ」
「ほんと~?」
「ほんとだよ~」
「ふ~ん……。じゃあなんで真妃ちゃんこんなに浮かない顔して……」
「百合ちゃん! うちは平気だから。ねっ!」
「……!」
秦野に問い詰めようとする私を真妃が制した。すぐに私は我に返り目の前の彼女を見つめた。
目の前の真妃は明るいキャラメル色のウェーブがかかったショートヘアーをフリフリさせながら私の腕に手を当てていた。やはり普段と特段変わっているところはなかった。少し悲しそうな表情をしているということ以外は。
そう思っていたのだが、真妃の手を見た瞬間、私はすぐに異変に気付いた。
「ま、真妃、どうしたの⁉ その手⁉」
見ると彼女の色白い肌の小さな手の甲の一部が青っぽく腫れていた。
「……」
「ああ、それね。なんかこの前廊下走ってた時に転んじゃったらしいのよ。体育の前だったからあわてちゃったらしくて」
「そ……そうなの」
そうか。やはり彼女も私と同じ昔からのドジっ子。走ってて転んじゃったとか、そんなことの一つや二つくらいあって当然だよね~。私だって二年生のころ、階段から転げ落ちて足をくじいて保健室行き……まあいいや。
「もーっ……真妃ったら。私みたいにドジしちゃわないように気をつけてね」
「う、うん」
「はー……、食った食った。ごちそうさま。……ところで百合絵、今日はどうする? ねーさん休みなんでしょ? 睦子の世界史話聴いてく?」
「あ、え……えーと」
「遠慮しなくていいからさ~」
「あ……はい……。私はどちらでも……。き、今日は眠たくならないように頑張ってみますので……」
「え……あ、ははははっ……。じ、じゃあちょっとだけお邪魔しちゃおうかな」
うわ~、今日は目薬持ってないわ……。どうしよ~っ!
あの時の失態を思い出し、少しだけ焦りを感じてしまった私だった。
「……」
琴乃の掛け声で私は目の前の二次関数の問題に視線を飛ばす。今日もやはり、放課後は普段通り琴乃と二人机に向かっていた。とはいうものの琴乃は今日もやはり机に向かうというより机に座るといった状態だったが。
二次関数の放物線と直線がえーと……、点PとQで交わって……。
何度も解いた覚えのある、おなじみの気がする問題。たまにうなりながらもすらすらとシャーペンを動かし、目の前の白紙に計算式を書いてゆく。一行、また一行と白紙が埋まってゆく。
ちらっ。
……異常なし。
再び沈黙の時。目の前の数式を追い、それを計算し、一行、また一行と白紙を埋めてゆく。
ちらっ。
再び私の視線は左側の琴乃の方へと飛んだ。しかしやはり全く手掛かりをつかむことはできなかった。黙々と開いた参考書に目を通すショートヘアーの琴乃。こんな彼女に秦野が惚れてしまっているなんて。
琴姉、勉強はいいけど。ちょっと、大変なことになっちゃってるわよ。
パコンッ!
「痛っ!」
「終わったのか? ……まだ途中じゃねーか、集中しろ!」
「ううっ……」
気づけば琴乃はプリントを筒状に丸め手に持っていた。そしてその紙筒は先の方がくしゃりとへこんでしまっていた。
ああ……。
なかなか手ごわい相手だ。いろいろな意味で。
仕方なく私は、目の前のその問題に再び視線を落とすのであった。
次の日の放課後も日も、やはり私の頭の中は目の前の二次関数の問題ではなく琴乃のことでいっぱいだった。昨日のように真っ白な紙面を計算式で埋めていく、そしてやはり数行書いてはちらっと、異常ががないことを確認すると再び視線を目の前へ戻し、方程式を解きながら数行書いては再びちらっと。
やっとのことで一問目が解けた。これで二問目に入れる。二問目は一問めに回答した答えを使って計算する。前の答えが間違っていたらもうおしまいだ。
しかしそんなことを気にしている暇などなかった。とにかく解かなくては。そしてそれだけではなく。
ちらっ。
よしOK。えーと、交点の座標が二つの時、片方の座標を……。
シャーペンを走らせながら、私は今日まで見てきた琴乃の姿を考えていた。自然と視線は目の前ではなく左隣の机に腰掛ける彼女の方へ向いてしまった。
やはり琴乃は、相変わらず数学の解説書に目を通している。そして普段の授業中も、秦野に対する好意をあらわにするどころか何一つ行動を変えることはなかった。暇さえあれば英単語帳や古文単語帳に目を通してばかり。秦野のことを目で追ったり、照れたり、紅潮したり、イチャイチャしたり、そんな姿は何一つ見せなかった。もちろん会話することも一切なかった。まるで私と他のクラスメイトたちのように、本当に赤の他人のようなふるまいだった。
は~っ、手掛かりなしか……。
「ただいま~。お風呂、さっさと入っちゃって」
ぷくぷくぷくっ……。
私は熱々の湯船に鼻のあたりまでつかりながら一人考えていた。まるでカニのようにぷくぷくと泡を立てながら。
琴姉……。ほんとに秦野のことが好きなのかな~。それとも私の思い違いかな……?
嫌いだったら別にいいんだけど、なんか最近の琴姉、勉強勉強って……。受験が大事なのはわかるけど、もっとこう息抜きっていうかなんて言うか……少しは気分転換でもした方がいいんじゃないのかな~?
で、仮にだよ、秦野のことが好きなんだったら、学校にいるときくらい、もっとこう積極的にアタックしてみてもいいんじゃないかな。高校生活ももうすぐ終わっちゃうんだからさ~、恋愛くらい我慢しないでパーッと楽しんだ方が……。
いったい琴乃は秦野のことをどう思っているのだろうか? 好きなのか? それとも、何とも思ってないのか? どちらにしても心配に思えてきて仕方がなかった。
「ほら、じゃあ今日はここから。終わったら教えて」
「はいはい」
この日の放課後も琴乃の一声で、私の頭はぐるぐると回りだす。似たような傾向の問題を何度も解いてきたからなのか、少しだけ頭の回転が速くなってきた気がする。この日は二次関数ではなく図形問題。sinとかcosとかの計算が面倒だったが、数学ⅠやⅡ計算ばかりの問題よりかは少しだけましだった。
シャーペンで図形を描き、補助線を何本か引いて、そして計算式を書く。そしてしばらくしたところで今日もあたしの集中力は途切れた。
さて、今日もそろそろ琴姉観察を……あれっ?
隣の机にいつものように座る彼女を見て、私は少しだけ違和感を感じた。
あ~っ! 今日は違う本読んでる! なんだこれ……あっ! 化学薬品! も~っ! 私には数学ばっかやらせて自分は化学の勉強かよ。私もたまには数学以外も教えてもらいたいのに~。
……まあでも、英語を除く理系科目で現状一番ヤバいのは数学だし、琴姉が言い出した特訓だし……まあいいや。
そして私は再び、目の前の問題の方へと視線を移し、頭をぐるぐると回すのであった。
「百合絵、悪いが今解いてるそれが終わったら今日はお開きとしよう」
「えっ?」
なんと、普段なら最終下校時刻の六時頃まで嫌というほど付き合わされるのだが、この日はもうおしまいにしようということだった。ふと目の前の黒板上にある時計を見ると時刻はまだ五時にもなっていなかった。
やった~、今日は早く解放されるぞ~。……でも、……なんか怪しい……。
少しだけ不信感も生まれたが、やはり早く解放されるという喜びの方が勝っていた。目の前のシャーペンを走らせる速さが自然と速くなっていくのを感じた。
「あっ、百合絵。久しぶり~」
「よっ」
数日後の昼休み、私は久しぶりに真妃と綾子がいるD組の教室へ行った。今日は木曜日。木曜日は舟渡との勉強会もなく、普段なら琴乃の特訓にの餌食になっているはずの時間だったが今日は違った。なんと今日は珍しく、あの琴乃が学校を欠席していた。毎日惜しむことなく勉強に打ち込み、授業は真面目に受け、一年生の時には皆勤賞まで取っていたほどのあの琴乃がである。
「あっ……睦子……」
マルーン色のポニーテールを見た瞬間、少しだけ気まずくなってしまった。相変わらず彼女は落ち着いた表情でこちらを見ている。
「ご……ごめん」
「ちょっと? 百合絵、どうしたのよ?」
「えっ……、だって世界史の時……」
「も~っ、気にしすぎ。別に睦子怒ってないから、ねっ?」
「あ……、は、はい……。別に気にしてないですよ……」
「そ……そうなの」
「そうそう……、ちょっと恥ずかしがり屋さんで口下手なだけ。でも歴史のこと考えちゃうとスイッチ入ってガンガンおしゃべりしちゃうんだよね~。ね~睦子」
「はっ! 桜木さん……!」
真っ赤になった顔を手に持っていたノートで隠し黙り込んでしまった。
これが彼女の本性か! なんか……意外。
初めて会ったときの彼女とはまるで別人のようなその姿に驚き、私は少したじろいでしまった。どちらかというとあの辰巳のようにがり勉で冷たい感じのキャラかと思っていたのでなおさらだった。
「おお、西谷……。頼むぞ」
今日もまたハーレム状態になっていた秦野はそう言ってこちらに軽くウィンクを飛ばしてきた。
はいはい、わかってるって。
心の中でそう言い返しながらOKサインを出した私は、ふと真妃のことが気になった。
「真妃ちゃん、最近はどう? 秦野に変なとこ連れていかれたりしていじめられたりしてない?」
明るく問いかけてみたものの、なぜだか目の前の真妃は浮かない顔をしていた。
「あっ……う、うん……」
えっ? どういうこと?
なぜだか少しだけ悲しそうな真妃を見て、私は少し考え込んだがすぐに気づいた。
「あっ! 秦野~っ! もしかしてまた変なとこ連れまわしたりして真妃ちゃんのこと束縛してんのね~」
「おいおいお~い、俺様そんなことしてね~よ」
「ほんと~?」
「ほんとだよ~」
「ふ~ん……。じゃあなんで真妃ちゃんこんなに浮かない顔して……」
「百合ちゃん! うちは平気だから。ねっ!」
「……!」
秦野に問い詰めようとする私を真妃が制した。すぐに私は我に返り目の前の彼女を見つめた。
目の前の真妃は明るいキャラメル色のウェーブがかかったショートヘアーをフリフリさせながら私の腕に手を当てていた。やはり普段と特段変わっているところはなかった。少し悲しそうな表情をしているということ以外は。
そう思っていたのだが、真妃の手を見た瞬間、私はすぐに異変に気付いた。
「ま、真妃、どうしたの⁉ その手⁉」
見ると彼女の色白い肌の小さな手の甲の一部が青っぽく腫れていた。
「……」
「ああ、それね。なんかこの前廊下走ってた時に転んじゃったらしいのよ。体育の前だったからあわてちゃったらしくて」
「そ……そうなの」
そうか。やはり彼女も私と同じ昔からのドジっ子。走ってて転んじゃったとか、そんなことの一つや二つくらいあって当然だよね~。私だって二年生のころ、階段から転げ落ちて足をくじいて保健室行き……まあいいや。
「もーっ……真妃ったら。私みたいにドジしちゃわないように気をつけてね」
「う、うん」
「はー……、食った食った。ごちそうさま。……ところで百合絵、今日はどうする? ねーさん休みなんでしょ? 睦子の世界史話聴いてく?」
「あ、え……えーと」
「遠慮しなくていいからさ~」
「あ……はい……。私はどちらでも……。き、今日は眠たくならないように頑張ってみますので……」
「え……あ、ははははっ……。じ、じゃあちょっとだけお邪魔しちゃおうかな」
うわ~、今日は目薬持ってないわ……。どうしよ~っ!
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