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十七章 勉強まみれ
三
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「西谷さん。お疲れさま」
「的場さんこそ、ありがとう」
「ちょっと、どう? 今なら誰も見てないわよっ」
「う、うん……。じ、じゃあ少しだけ」
ぱふっ! きゅ~っ……。
「は~っ、やっぱ恥ずかしいわ。でも少しは生き返ったよ。ほんとにありがとう」
「ううん、あたしこそ。たまにはこうしてはめ外してみたくなっちゃうのよ」
「へへへっ、そうなんだ」
「あっ、もう五時間目始まっちゃうわ。それじゃ、またね」
「うん、またね~っ」
またやってしまった。息抜きを兼ねての萌花との日本史の勉強会。この日も私はほんの一瞬、彼女の甘い香りとふくよかな触感の中に包まれてしまった。
気づけばもう十二月になっていた。すっかり落ち葉は散り、ぶるっと身震いするような木枯らしが舞う時期になっていた。相変わらず学校の毎日六時間の授業や、学校帰りの予備校の苦痛な時間、そして予備校がない日には例の琴乃との苦痛な時間を耐えしのいでいた。しかし、そのおかげだろうか? 苦手だった数学も少しだけましになってきた。そしてそれ以上に苦手な英語と現代文に関しても予備校の影響からか、先日予備校で実施された模擬試験ではなんと六割も点が取れ、偏差値も五十越えをたたき出したのである。これまでの自分からは想像もできないような快挙に、その答案が返された帰り、私は少しだけ寄り道をしてしまった。横浜のエキナカのアパレルショップでぶらぶらし、駅から少し歩いたところにたまたま見つけたおいしそうな豚骨の香りを漂わせているラーメン屋に惹きつけられた私は、仕事帰りのサラリーマンに混じり一人飯をたしなんだ。夜も遅いというのに。
「かしわ台~、かしわ台~、ご乗車、ありがとうございました」
「あ~やべっ、こんなに遅くなっちゃった」
駅のホームの時計を見るとすっかり夜の十時を回っていた。普段なら九時ちょっと過ぎには駅に着くというのに。おまけになぜだか知らないけど母は私の帰宅時間にはうるさかった。変な人に襲われるからとか、女の子なんだからとか意味不明なことを言って。
駅の外の道に出ると、何やら騒がしくなっていた。気づけば道の向こう側からピカピカ光る閃光が近づいたかと思うと、その影は次第に大きくなり、私の横を横切った。それはどうやら、トラックに引かれて道路を走るおなじみの電車の姿だった。
なんだこれ?
そう思った瞬間、向こう側からぞろぞろとたくさんの人が走ってきた。手には何やらごっついものや長い棒のようなものを持っている。
「きゃっ!」
誰かにぶつかったかと思うと、私は少しだけよろけてしまった。気づいた時にはその人だかりと、先ほど見た電車は道路の左側のかなたへ行ってしまっていた。
「痛ったいな~! も~っ!」
ぶつぶつ文句を言いながら目の前を呆然と眺めた。――そしてあることに気付いた。
そういえば……こんなことって前にも……まあいいや。
急いでその場を後にした私は、母への言い訳を必死に考えていた。
「的場さんこそ、ありがとう」
「ちょっと、どう? 今なら誰も見てないわよっ」
「う、うん……。じ、じゃあ少しだけ」
ぱふっ! きゅ~っ……。
「は~っ、やっぱ恥ずかしいわ。でも少しは生き返ったよ。ほんとにありがとう」
「ううん、あたしこそ。たまにはこうしてはめ外してみたくなっちゃうのよ」
「へへへっ、そうなんだ」
「あっ、もう五時間目始まっちゃうわ。それじゃ、またね」
「うん、またね~っ」
またやってしまった。息抜きを兼ねての萌花との日本史の勉強会。この日も私はほんの一瞬、彼女の甘い香りとふくよかな触感の中に包まれてしまった。
気づけばもう十二月になっていた。すっかり落ち葉は散り、ぶるっと身震いするような木枯らしが舞う時期になっていた。相変わらず学校の毎日六時間の授業や、学校帰りの予備校の苦痛な時間、そして予備校がない日には例の琴乃との苦痛な時間を耐えしのいでいた。しかし、そのおかげだろうか? 苦手だった数学も少しだけましになってきた。そしてそれ以上に苦手な英語と現代文に関しても予備校の影響からか、先日予備校で実施された模擬試験ではなんと六割も点が取れ、偏差値も五十越えをたたき出したのである。これまでの自分からは想像もできないような快挙に、その答案が返された帰り、私は少しだけ寄り道をしてしまった。横浜のエキナカのアパレルショップでぶらぶらし、駅から少し歩いたところにたまたま見つけたおいしそうな豚骨の香りを漂わせているラーメン屋に惹きつけられた私は、仕事帰りのサラリーマンに混じり一人飯をたしなんだ。夜も遅いというのに。
「かしわ台~、かしわ台~、ご乗車、ありがとうございました」
「あ~やべっ、こんなに遅くなっちゃった」
駅のホームの時計を見るとすっかり夜の十時を回っていた。普段なら九時ちょっと過ぎには駅に着くというのに。おまけになぜだか知らないけど母は私の帰宅時間にはうるさかった。変な人に襲われるからとか、女の子なんだからとか意味不明なことを言って。
駅の外の道に出ると、何やら騒がしくなっていた。気づけば道の向こう側からピカピカ光る閃光が近づいたかと思うと、その影は次第に大きくなり、私の横を横切った。それはどうやら、トラックに引かれて道路を走るおなじみの電車の姿だった。
なんだこれ?
そう思った瞬間、向こう側からぞろぞろとたくさんの人が走ってきた。手には何やらごっついものや長い棒のようなものを持っている。
「きゃっ!」
誰かにぶつかったかと思うと、私は少しだけよろけてしまった。気づいた時にはその人だかりと、先ほど見た電車は道路の左側のかなたへ行ってしまっていた。
「痛ったいな~! も~っ!」
ぶつぶつ文句を言いながら目の前を呆然と眺めた。――そしてあることに気付いた。
そういえば……こんなことって前にも……まあいいや。
急いでその場を後にした私は、母への言い訳を必死に考えていた。
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