10 / 35
十七章 勉強まみれ
一
しおりを挟む
冬が本格的に近づいてきた十一月中旬。私の家でもとうとう暖房のスイッチが入れられ、ごちゃごちゃの押し入れからは電気ストーブが引っ張り出された。そして私の住処にも電気カーペットが装備された。
いよいよこの時期が来たか。あ~でも掃除めんどくさっ!
床に散らばる脱ぎっぱなしの洋服や下着、靴下をどかし、読みかけのマンガ本や参考書の数々を机の上に置き、いつ発生したのかわからないような使用済みの丸まったティッシュペーパーの塊や食べ終わったポテトチップスの袋をせっせとゴミ箱に詰め込む。そして、相変わらずごちゃごちゃの押し入れから丸まった電気カーペットを広げると、それを広げプラグをさした。
「あっ~、あったか~」
ホカホカの電気カーペットの上で伸びをしながら抱き枕を抱え込み、スマートフォンを操作する。
あ~、やっと少しはおとなしくなってきたか~。よかったよかった。
世間ではこれまでと変わらずニューココアウイルスの新規感染者のニュースで一喜一憂していた。どうやらここ最近はココアちゃんもおとなしくなってきており、東京や神奈川の感染者も数十人ほどしかいないようだった。
よかったよかった、こんな調子で私の成績も……。
ドサドサッ!「ああっ!」
その瞬間、机の上に積み重ねておいた本とファイルとプリントの山が崩れ落ちた。
ぐちゃっ……。
「あ~あ……、最悪」
げんなりしながら、とりあえず私は目の前の雪崩の中にあった一枚の紙をめくった。
「はぁ~っ、こんな時に出てくんなって」
数週間前の日本史の小テスト。真っ赤なバツ印と右上の一桁の数字で染まった紙を目にした私は、すっかり意気消失してしまった。
相変わらずの勉強づくめ。それに成績に一喜一憂する日々は学校にいても同じだった。まあたいていは「憂鬱」になることの方が多かったのだが……。
朝から夕方まで理系クラスの通常の授業六時間分をこなし、それ以外の昼休みには昼食を食べ終えるとすぐにC組の舟渡のもとへ行き数学の勉強に打ち込む。そして放課後には、琴乃の成績向上特訓という名のスパルタ指導の被害者となってしまっていた。そして学校が終わってからも……週三回は夏休みから通い始めた予備校に通い、英数国の授業をこなしていた。もちろん予備校など、いくら同い年の子ばかりが集まっているといっても所詮はみんな赤の他人、というかライバル。異様な緊張感が終始張り詰めているそんな空間が楽しいわけもなく、ただただ苦痛を味わいながら学力を伸ばすためだけの場所となっていた。
「それではみなさん、さようなら~」
「「さようなら~」」
六時間目の終わりを知らせるチャイムとともに周囲が慌ただしくなる。この日も何とか無事にで六時間もある授業を終えることができた。
「あ~っ!」
思いっきり伸びをした。昨日は少し夜遅くまで起きてしまったので今日は一日中眠気と闘っていた。
「さっ、やるぞ」
「あ~っ……、はいはい」
気づけば琴乃が近くにいた。今日もおなじみの数学関連の本を数冊抱えている。
その姿を見て、私も仕方なくカバンの中から数学の問題集とノートを取り出す。
「はぁ~っ……」
ふいにため息が漏れてしまった。もう琴乃に申し訳ないとかそういう感情はすでになかった。今日もまたあの苦痛な時間が続くのかという、そういう絶望を無意識に感じ体が自然に反応してしまった。
「なんか退屈そうだな。あっ、いいもの見せてやるぜ」
そう言って琴乃はスカートのポケットに手を突っ込んで何やら財布を取り出し始めた。
「ん?」
「思ったより早く手に入れたぜ、ほら」
目の前に差し出された琴乃の手のひらには何やら五百円玉が乗っかっていた。しかしそれは普段見慣れたものではなかった。
「えっ、何これ、偽せもののお金?」
「はぁ~? おまえほんとニュース何にも見てないんだな、今月から新五百円玉流通開始するって言ってたじゃん」
「そうだっけ?」
よく見ると目の前のそのコインは、金色と少し薄めの銅色の二色に輝いていた。
「異種金属組み合わせて造幣するってだいぶ有名になってたけど」
「えっ……そうなの?」
「は~っ、せっかく見せてやったのに。まあいいや、百合絵今それどころじゃないしな。さっ、今日こそ終わらせちゃうぞ。昨日の応用問題の残り、確か二次関数だっけ? まだ終わってなかったはずだからまずはそれからだ」
気づけば琴乃は先ほどコインを財布にしまい、また普段のように問題集をぺらぺらと開き始めていた。
こう勉強ばかりしているとさっきのコインのことみたいなどうでもいいようなことでも気を紛らわせるという意味で恋しく思えてきてしまうのだったが……。もう今の私にそんなことは何一つとして残っていなかった。
今日も私は琴乃の指導、いや監視のもと数学の問題集に打ち込むことしかできなかった。
いよいよこの時期が来たか。あ~でも掃除めんどくさっ!
床に散らばる脱ぎっぱなしの洋服や下着、靴下をどかし、読みかけのマンガ本や参考書の数々を机の上に置き、いつ発生したのかわからないような使用済みの丸まったティッシュペーパーの塊や食べ終わったポテトチップスの袋をせっせとゴミ箱に詰め込む。そして、相変わらずごちゃごちゃの押し入れから丸まった電気カーペットを広げると、それを広げプラグをさした。
「あっ~、あったか~」
ホカホカの電気カーペットの上で伸びをしながら抱き枕を抱え込み、スマートフォンを操作する。
あ~、やっと少しはおとなしくなってきたか~。よかったよかった。
世間ではこれまでと変わらずニューココアウイルスの新規感染者のニュースで一喜一憂していた。どうやらここ最近はココアちゃんもおとなしくなってきており、東京や神奈川の感染者も数十人ほどしかいないようだった。
よかったよかった、こんな調子で私の成績も……。
ドサドサッ!「ああっ!」
その瞬間、机の上に積み重ねておいた本とファイルとプリントの山が崩れ落ちた。
ぐちゃっ……。
「あ~あ……、最悪」
げんなりしながら、とりあえず私は目の前の雪崩の中にあった一枚の紙をめくった。
「はぁ~っ、こんな時に出てくんなって」
数週間前の日本史の小テスト。真っ赤なバツ印と右上の一桁の数字で染まった紙を目にした私は、すっかり意気消失してしまった。
相変わらずの勉強づくめ。それに成績に一喜一憂する日々は学校にいても同じだった。まあたいていは「憂鬱」になることの方が多かったのだが……。
朝から夕方まで理系クラスの通常の授業六時間分をこなし、それ以外の昼休みには昼食を食べ終えるとすぐにC組の舟渡のもとへ行き数学の勉強に打ち込む。そして放課後には、琴乃の成績向上特訓という名のスパルタ指導の被害者となってしまっていた。そして学校が終わってからも……週三回は夏休みから通い始めた予備校に通い、英数国の授業をこなしていた。もちろん予備校など、いくら同い年の子ばかりが集まっているといっても所詮はみんな赤の他人、というかライバル。異様な緊張感が終始張り詰めているそんな空間が楽しいわけもなく、ただただ苦痛を味わいながら学力を伸ばすためだけの場所となっていた。
「それではみなさん、さようなら~」
「「さようなら~」」
六時間目の終わりを知らせるチャイムとともに周囲が慌ただしくなる。この日も何とか無事にで六時間もある授業を終えることができた。
「あ~っ!」
思いっきり伸びをした。昨日は少し夜遅くまで起きてしまったので今日は一日中眠気と闘っていた。
「さっ、やるぞ」
「あ~っ……、はいはい」
気づけば琴乃が近くにいた。今日もおなじみの数学関連の本を数冊抱えている。
その姿を見て、私も仕方なくカバンの中から数学の問題集とノートを取り出す。
「はぁ~っ……」
ふいにため息が漏れてしまった。もう琴乃に申し訳ないとかそういう感情はすでになかった。今日もまたあの苦痛な時間が続くのかという、そういう絶望を無意識に感じ体が自然に反応してしまった。
「なんか退屈そうだな。あっ、いいもの見せてやるぜ」
そう言って琴乃はスカートのポケットに手を突っ込んで何やら財布を取り出し始めた。
「ん?」
「思ったより早く手に入れたぜ、ほら」
目の前に差し出された琴乃の手のひらには何やら五百円玉が乗っかっていた。しかしそれは普段見慣れたものではなかった。
「えっ、何これ、偽せもののお金?」
「はぁ~? おまえほんとニュース何にも見てないんだな、今月から新五百円玉流通開始するって言ってたじゃん」
「そうだっけ?」
よく見ると目の前のそのコインは、金色と少し薄めの銅色の二色に輝いていた。
「異種金属組み合わせて造幣するってだいぶ有名になってたけど」
「えっ……そうなの?」
「は~っ、せっかく見せてやったのに。まあいいや、百合絵今それどころじゃないしな。さっ、今日こそ終わらせちゃうぞ。昨日の応用問題の残り、確か二次関数だっけ? まだ終わってなかったはずだからまずはそれからだ」
気づけば琴乃は先ほどコインを財布にしまい、また普段のように問題集をぺらぺらと開き始めていた。
こう勉強ばかりしているとさっきのコインのことみたいなどうでもいいようなことでも気を紛らわせるという意味で恋しく思えてきてしまうのだったが……。もう今の私にそんなことは何一つとして残っていなかった。
今日も私は琴乃の指導、いや監視のもと数学の問題集に打ち込むことしかできなかった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
毎日告白
モト
ライト文芸
高校映画研究部の撮影にかこつけて、憧れの先輩に告白できることになった主人公。
同級生の監督に命じられてあの手この手で告白に挑むのだが、だんだんと監督が気になってきてしまい……
高校青春ラブコメストーリー
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
【7】父の肖像【完結】
ホズミロザスケ
ライト文芸
大学進学のため、この春に一人暮らしを始めた娘が正月に帰って来ない。その上、いつの間にか彼氏まで出来たと知る。
人見知りの娘になにがあったのか、居ても立っても居られなくなった父・仁志(ひとし)は、妻に内緒で娘の元へ行く。
短編(全七話)。
「いずれ、キミに繋がる物語」シリーズ七作目(登場する人物が共通しています)。単品でも問題なく読んでいただけます。
※当作品は「カクヨム」「小説家になろう」にも同時掲載しております。(過去に「エブリスタ」にも掲載)
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる