165 / 166
第5章 戦争
最後の戦い 10
しおりを挟む
うっすらと赤みを帯びるセラ様の頬。
それは、一度は失われた生命が再び宿ることを意味していた。
困惑する僕たちをよそに、セラ様の身体がピクリと動いた。
「ん、んんっ」
少し身じろぎをして、セラ様が瞳を開く。
メーシェが開いた胸の穴は塞がっており、破れた服の隙間からは透き通る素肌が見えた。
「セラ様!!」
僕を含めた皆が叫んだ。
皆、顔をクシャクシャにしてセラ様に飛びついていく。
「わ、わあっ!皆さん!!──あれ?私は確か死んだのでは?」
セラ様は、自分の身体を確かめるようにペタペタと触った。
僕だって理由が分からない。
何故セラ様が蘇生できたのか?
そんな僕たちの様子を見ていた、ゼウスという神は穏やかな表情を浮かべた。
しかし、そのゼウスと対照的な表情を見せるのは、全ての計画を破綻させられたアマラだった。
「そんな!!あと、あと少しだったのに!そんなズルがあってたまるものですか!」
そうか、セラ様の復活に僕の存在が不可欠であることをアマラは知っていた。だからこそ、アマラはメナフを使って僕を殺そうと試みたのだ。
「でもどうしてセラは復活できたのですか?彼女の魂は身体に封じ込められていたはずです」
僕の言葉に、ゼウスはニコリと笑った。
その笑顔をだけを見ると、如何にも温和な老人といった風貌であるが、僕はアマラを掴んだ老神の表情には有無を言わさない、絶対的な力が宿っていることを感じていた。
「ふむ、名は⋯⋯そうか、ユズキというのじゃな。理由は、お主のスキル。『女神の調律』と、お主の身体がセラフィラルによって形作られていたお陰じゃな」
「私──あの身体で意識がなくなった瞬間、ユズキさんの温もりを感じていました。ゼウス様。もしかして、私の半身はユズキさんの中に入ってたのですか?」
セラ様が胸元を抑えて立ち上がった。
僕は『魔法袋』から羽織を取り出すと、セラ様にかけてあげた。
「半身という程ではないのぉ。確かに『女神の調律連弾』で、セラフィラルとユズキの波長は同期した。ユズキの世界で例えるなら、セラフィラルの魂のバックアップがリアルタイムで取られていたのと同じじゃ。じゃが、人の身で神の力を半身も宿せる訳がない。残せるのは意識と砂粒程の魂魄の欠片くらいじゃ」
セラ様は、役目を終えた様に消えていくセラフィラルゲートを見上げた。
「そうだったんですね。ユズキさんがセラフィラルゲートで神界への扉を開いて下さったお陰で、私は神界に満ちる力を取り入れて復活することができた⋯⋯」
みるみるうちに、セラ様の顔が明るくなっていく。
「まぁ、お主の力のほとんどは、先の肉体の魂が吹き飛んだ時に失われてしもうたがの。今の力は、なんとか神をやっていける程度じゃ」
その言葉を聞いたアマラは、満面の笑みを浮かべた。
神としての力をほとんど失ったセラ様より、自分が神として上位に立てる優越感。醜く歪んだ自尊心がアマラの心を満たしていた。
「や、やったわ⋯⋯!そうよ!!こんなに抜けているセラが私より優れているところなんてあり得ない。これが、本来のセラと私の立場というものなのよ!」
髪を振り乱して喜ぶアマラ。
しかし、セラ様はそんなアマラの様子を見ることもしなかった。
「ほ、本当に⋯⋯皆さんにもう一度会えて良かったです!」
セラ様は僕に飛びつき、その後にはイスカやリズ。フーシェに抱きついて抱擁すると、最後に怯えるメーシェの所へと向かった。
「あ、あの──神様。ごめんなさい──」
怯えるメーシェに近づくと、セラ様は、んっと身体に力を込めると、純白の一対の翼を広げた。
「ほら!メーシェさん、見てください!!神様の羽根ですよ。これで、私が元気だって分かりましたか?これくらい、全然大丈夫なのですよ!」
明らかに無理をしているのか、セラ様の額にはうっすらと汗が浮かんでいた。
それでも顔を曇らせるメーシェを、セラ様はそっと抱きしめた。
「いいんです。この世界に降りたことで起こったことを咎めることなんてありません。──私はメーシェの純粋な魂の波長を感じます。今まで、本当に辛かったですね」
セラ様の言葉を聞いたメーシェの瞳に、直ぐに大粒の涙が浮かんだ。そして、ワッと声をあげるとセラ様の胸へと飛び込んだ。
「ほ、本当は!!ずっと暗い地下なんて嫌だった!フーシェお姉ちゃんと、仲良くしたかった!ほんと、ほんとは──!」
堰を切ったようにかのように感情を吐露するメーシェ。
その様子を見ていたゼウスは、アマラの手を放すと残念そうにアマラの顔を見つめた。
「見よ、子供達より愛されるあの姿。自らの子供達へと歩み寄るセラフィラルの姿勢を。──失ったセラフィラルの力が戻るまでには、この星の寿命は尽きておるじゃろう。じゃが、セラフィラルはそれを意に介することもないのじゃ」
微かなプライドだけが、アマラを支えている。
引きつった笑みを浮かべるアマラに、老神ゼウスは重々しく口を開いた。
「女神アマラよ。此度の件、セラフィラルからの祈りによって、全て元老院へと届いておる。これをもって、アマラは自身の管轄している世界の統治権を消失。このゼウスがアマラの世界を引き継ぐものとし、セラフィラルの力が戻った際には、その統治をセラフィラルに引き継ぐものとする。そして、アマラよ。お主は永久に世界の統治権限を剥奪するものとし、放神扱いとする」
「ゼウス様!何をおっしゃるのです!?放神など、打ち捨てられた存在に何故私がならねばならぬのです!」
アマラは、ゼウスの言葉に耳を疑った様に顔を青ざめさせた。
ゼウスはアマラの理解できないといった表情を見ると、残念そうに瞳を伏せた。
「醜い嫉妬心から、身の破滅を招くか。──これ、セラフィラルよ。お主はアマラを憎んでおるか?」
ゼウスは、目覚めたばかりのセラ様に優しく問いかけた。
「セラ──」
アマラは言葉を続けようとして、言葉を失った。
アマラを見上げるセラ様は、少し悲しそうな表情を浮かべたが、直ぐに優しい笑みを浮かべた。
「正直──お姉さまが、私の世界の子供達にしたことは許せません。それはこの世界を創造、管轄している女神。セラフィラルとしての言葉です。──ですが、一人の神としてのセラは。ずっと、お姉さまのことを、実の姉妹とお慕い申し上げておりました」
その純粋無垢なセラ様の瞳を見たアマラの瞳に、微かに光が差した。だが、直ぐに自分が行ってきた現実に打ちのめされたのか、うなだれると頭を上げることはなかった。
「──全く、そういうところが私をいらつかせたのよ」
弱々しく口を開いたアマラだが、その口調にはセラ様に対する嫌悪や嫉妬といった感情は抜け落ちているように僕は感じた。
「ふむ、それではアマラよ。我らは行くぞ。──最後にセラフィラルよ」
うなだれるアマラの肩に手を置いたゼウスが、セラ様を見つめた。
「アマラの件もある。セラフィラルさえ良ければ、直ぐに神界に戻ることも元老院は是としておるのだが、お主はどうする?」
ゼウスの言葉に、セラ様は少し戸惑った表情を見せた。
本当は残ってほしい。ずっと一緒にいてほしい。
その思いが胸中に去来する。
でも、僕の願いは人の身には過ぎたるものだ。
本来、セラ様はこの世界を見守る存在。
世界の仕組みを管理している神様に、残ってほしいなんて言葉は口に出してはいけないように思えた。
「セラ様──んっ!」
僕が、セラ様に言葉をかけようとした口は、セラ様の小さな人差し指によって閉じられることとなった。
セラ様は、僕に可愛くウインクをすると、クルリとゼウスの方へと振り返った。
「ゼウス様、此度のご厚情。大変嬉しく思いますが、私は──」
しかし、セラ様は次の言葉を続けることができなかった。
「フハハッ!!もう良い!皆まで言うな。──元老院には儂の方から言っておこう。──神といえども愛を知ることは大切じゃ。人の世の儚さと美しさ、存分に味わってくるが良い!」
ゼウスが、セラ様の言葉を遮ると豪快に笑ったのだ。
セラ様はというと、ゼウスが愛だのと言うものなのだから、耳元まで真っ赤にしてしまっている。
「うむ、それでは皆のもの。騒がせたな、さらばじゃ!」
ゼウスはそう言うと、大きく手を振った。
ブワッと白いベールの様な膜が広がったかと思うと、次の瞬間には、ゼウスとアマラの姿は消え去っていた。
一瞬の出来事に僕たちは、呆気に取られたように立ち尽くしていた。
「──セラ、僕は」
僕は前に立つセラ様に声をかけた。
セラ様は、耳を真っ赤にしたまま振り返る。
そして、もじもじと身体を揺すると視線を反らした。
「ユ、ユズキさんと私は『女神の調律』でシンクロしているんですから。──ユズキさんの気持ちは私に筒抜けなんですよ」
え?僕はセラ様の声は聞こえないのにズルくない?
「だ、だから──。私の人としての一生分、責任を取って下さいね!!」
まるで茹でダコの様に顔まで赤くしたセラ様が絞り出す様に声を出した。
──ユズキよ。忠告じゃが、儂らの大切な子供を泣かせる様なことをしてみよ。未来永劫、輪廻することを許さぬからな。
うわ!
僕は脳内に突如響いたゼウスの声に腰を抜かしそうになった。
──フハッ、冗談じゃ。汝、セラフィラルをよく愛せ。愛を知ることで、神はより人を愛し、世界を愛する。それは、巡り巡ってセラフィラルの繁栄へと繋がるのじゃ。数奇な者よ、汝の未来に幸多からんことを。
ゼウスが言葉を締めくくると、もはや脳内に声は響くことはなかった。なんだが、ドッと冷や汗をかいた気がした。
──世が明けようとしている。
白光が世界に降り注ぎ始める中、僕は駆け寄ってくるイスカ達に押し倒される様に地面へと倒れ込んだ。
──終わったんだ。
安堵と共に訪れる少しの虚しさ、そして仲間たちが無事であることへの喜びを胸に、僕は風が運んできた新鮮な空気を胸一杯に吸い込んだ。
それは、一度は失われた生命が再び宿ることを意味していた。
困惑する僕たちをよそに、セラ様の身体がピクリと動いた。
「ん、んんっ」
少し身じろぎをして、セラ様が瞳を開く。
メーシェが開いた胸の穴は塞がっており、破れた服の隙間からは透き通る素肌が見えた。
「セラ様!!」
僕を含めた皆が叫んだ。
皆、顔をクシャクシャにしてセラ様に飛びついていく。
「わ、わあっ!皆さん!!──あれ?私は確か死んだのでは?」
セラ様は、自分の身体を確かめるようにペタペタと触った。
僕だって理由が分からない。
何故セラ様が蘇生できたのか?
そんな僕たちの様子を見ていた、ゼウスという神は穏やかな表情を浮かべた。
しかし、そのゼウスと対照的な表情を見せるのは、全ての計画を破綻させられたアマラだった。
「そんな!!あと、あと少しだったのに!そんなズルがあってたまるものですか!」
そうか、セラ様の復活に僕の存在が不可欠であることをアマラは知っていた。だからこそ、アマラはメナフを使って僕を殺そうと試みたのだ。
「でもどうしてセラは復活できたのですか?彼女の魂は身体に封じ込められていたはずです」
僕の言葉に、ゼウスはニコリと笑った。
その笑顔をだけを見ると、如何にも温和な老人といった風貌であるが、僕はアマラを掴んだ老神の表情には有無を言わさない、絶対的な力が宿っていることを感じていた。
「ふむ、名は⋯⋯そうか、ユズキというのじゃな。理由は、お主のスキル。『女神の調律』と、お主の身体がセラフィラルによって形作られていたお陰じゃな」
「私──あの身体で意識がなくなった瞬間、ユズキさんの温もりを感じていました。ゼウス様。もしかして、私の半身はユズキさんの中に入ってたのですか?」
セラ様が胸元を抑えて立ち上がった。
僕は『魔法袋』から羽織を取り出すと、セラ様にかけてあげた。
「半身という程ではないのぉ。確かに『女神の調律連弾』で、セラフィラルとユズキの波長は同期した。ユズキの世界で例えるなら、セラフィラルの魂のバックアップがリアルタイムで取られていたのと同じじゃ。じゃが、人の身で神の力を半身も宿せる訳がない。残せるのは意識と砂粒程の魂魄の欠片くらいじゃ」
セラ様は、役目を終えた様に消えていくセラフィラルゲートを見上げた。
「そうだったんですね。ユズキさんがセラフィラルゲートで神界への扉を開いて下さったお陰で、私は神界に満ちる力を取り入れて復活することができた⋯⋯」
みるみるうちに、セラ様の顔が明るくなっていく。
「まぁ、お主の力のほとんどは、先の肉体の魂が吹き飛んだ時に失われてしもうたがの。今の力は、なんとか神をやっていける程度じゃ」
その言葉を聞いたアマラは、満面の笑みを浮かべた。
神としての力をほとんど失ったセラ様より、自分が神として上位に立てる優越感。醜く歪んだ自尊心がアマラの心を満たしていた。
「や、やったわ⋯⋯!そうよ!!こんなに抜けているセラが私より優れているところなんてあり得ない。これが、本来のセラと私の立場というものなのよ!」
髪を振り乱して喜ぶアマラ。
しかし、セラ様はそんなアマラの様子を見ることもしなかった。
「ほ、本当に⋯⋯皆さんにもう一度会えて良かったです!」
セラ様は僕に飛びつき、その後にはイスカやリズ。フーシェに抱きついて抱擁すると、最後に怯えるメーシェの所へと向かった。
「あ、あの──神様。ごめんなさい──」
怯えるメーシェに近づくと、セラ様は、んっと身体に力を込めると、純白の一対の翼を広げた。
「ほら!メーシェさん、見てください!!神様の羽根ですよ。これで、私が元気だって分かりましたか?これくらい、全然大丈夫なのですよ!」
明らかに無理をしているのか、セラ様の額にはうっすらと汗が浮かんでいた。
それでも顔を曇らせるメーシェを、セラ様はそっと抱きしめた。
「いいんです。この世界に降りたことで起こったことを咎めることなんてありません。──私はメーシェの純粋な魂の波長を感じます。今まで、本当に辛かったですね」
セラ様の言葉を聞いたメーシェの瞳に、直ぐに大粒の涙が浮かんだ。そして、ワッと声をあげるとセラ様の胸へと飛び込んだ。
「ほ、本当は!!ずっと暗い地下なんて嫌だった!フーシェお姉ちゃんと、仲良くしたかった!ほんと、ほんとは──!」
堰を切ったようにかのように感情を吐露するメーシェ。
その様子を見ていたゼウスは、アマラの手を放すと残念そうにアマラの顔を見つめた。
「見よ、子供達より愛されるあの姿。自らの子供達へと歩み寄るセラフィラルの姿勢を。──失ったセラフィラルの力が戻るまでには、この星の寿命は尽きておるじゃろう。じゃが、セラフィラルはそれを意に介することもないのじゃ」
微かなプライドだけが、アマラを支えている。
引きつった笑みを浮かべるアマラに、老神ゼウスは重々しく口を開いた。
「女神アマラよ。此度の件、セラフィラルからの祈りによって、全て元老院へと届いておる。これをもって、アマラは自身の管轄している世界の統治権を消失。このゼウスがアマラの世界を引き継ぐものとし、セラフィラルの力が戻った際には、その統治をセラフィラルに引き継ぐものとする。そして、アマラよ。お主は永久に世界の統治権限を剥奪するものとし、放神扱いとする」
「ゼウス様!何をおっしゃるのです!?放神など、打ち捨てられた存在に何故私がならねばならぬのです!」
アマラは、ゼウスの言葉に耳を疑った様に顔を青ざめさせた。
ゼウスはアマラの理解できないといった表情を見ると、残念そうに瞳を伏せた。
「醜い嫉妬心から、身の破滅を招くか。──これ、セラフィラルよ。お主はアマラを憎んでおるか?」
ゼウスは、目覚めたばかりのセラ様に優しく問いかけた。
「セラ──」
アマラは言葉を続けようとして、言葉を失った。
アマラを見上げるセラ様は、少し悲しそうな表情を浮かべたが、直ぐに優しい笑みを浮かべた。
「正直──お姉さまが、私の世界の子供達にしたことは許せません。それはこの世界を創造、管轄している女神。セラフィラルとしての言葉です。──ですが、一人の神としてのセラは。ずっと、お姉さまのことを、実の姉妹とお慕い申し上げておりました」
その純粋無垢なセラ様の瞳を見たアマラの瞳に、微かに光が差した。だが、直ぐに自分が行ってきた現実に打ちのめされたのか、うなだれると頭を上げることはなかった。
「──全く、そういうところが私をいらつかせたのよ」
弱々しく口を開いたアマラだが、その口調にはセラ様に対する嫌悪や嫉妬といった感情は抜け落ちているように僕は感じた。
「ふむ、それではアマラよ。我らは行くぞ。──最後にセラフィラルよ」
うなだれるアマラの肩に手を置いたゼウスが、セラ様を見つめた。
「アマラの件もある。セラフィラルさえ良ければ、直ぐに神界に戻ることも元老院は是としておるのだが、お主はどうする?」
ゼウスの言葉に、セラ様は少し戸惑った表情を見せた。
本当は残ってほしい。ずっと一緒にいてほしい。
その思いが胸中に去来する。
でも、僕の願いは人の身には過ぎたるものだ。
本来、セラ様はこの世界を見守る存在。
世界の仕組みを管理している神様に、残ってほしいなんて言葉は口に出してはいけないように思えた。
「セラ様──んっ!」
僕が、セラ様に言葉をかけようとした口は、セラ様の小さな人差し指によって閉じられることとなった。
セラ様は、僕に可愛くウインクをすると、クルリとゼウスの方へと振り返った。
「ゼウス様、此度のご厚情。大変嬉しく思いますが、私は──」
しかし、セラ様は次の言葉を続けることができなかった。
「フハハッ!!もう良い!皆まで言うな。──元老院には儂の方から言っておこう。──神といえども愛を知ることは大切じゃ。人の世の儚さと美しさ、存分に味わってくるが良い!」
ゼウスが、セラ様の言葉を遮ると豪快に笑ったのだ。
セラ様はというと、ゼウスが愛だのと言うものなのだから、耳元まで真っ赤にしてしまっている。
「うむ、それでは皆のもの。騒がせたな、さらばじゃ!」
ゼウスはそう言うと、大きく手を振った。
ブワッと白いベールの様な膜が広がったかと思うと、次の瞬間には、ゼウスとアマラの姿は消え去っていた。
一瞬の出来事に僕たちは、呆気に取られたように立ち尽くしていた。
「──セラ、僕は」
僕は前に立つセラ様に声をかけた。
セラ様は、耳を真っ赤にしたまま振り返る。
そして、もじもじと身体を揺すると視線を反らした。
「ユ、ユズキさんと私は『女神の調律』でシンクロしているんですから。──ユズキさんの気持ちは私に筒抜けなんですよ」
え?僕はセラ様の声は聞こえないのにズルくない?
「だ、だから──。私の人としての一生分、責任を取って下さいね!!」
まるで茹でダコの様に顔まで赤くしたセラ様が絞り出す様に声を出した。
──ユズキよ。忠告じゃが、儂らの大切な子供を泣かせる様なことをしてみよ。未来永劫、輪廻することを許さぬからな。
うわ!
僕は脳内に突如響いたゼウスの声に腰を抜かしそうになった。
──フハッ、冗談じゃ。汝、セラフィラルをよく愛せ。愛を知ることで、神はより人を愛し、世界を愛する。それは、巡り巡ってセラフィラルの繁栄へと繋がるのじゃ。数奇な者よ、汝の未来に幸多からんことを。
ゼウスが言葉を締めくくると、もはや脳内に声は響くことはなかった。なんだが、ドッと冷や汗をかいた気がした。
──世が明けようとしている。
白光が世界に降り注ぎ始める中、僕は駆け寄ってくるイスカ達に押し倒される様に地面へと倒れ込んだ。
──終わったんだ。
安堵と共に訪れる少しの虚しさ、そして仲間たちが無事であることへの喜びを胸に、僕は風が運んできた新鮮な空気を胸一杯に吸い込んだ。
0
お気に入りに追加
139
あなたにおすすめの小説
「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~
平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。
三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。
そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。
アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。
襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。
果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。
前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います
八神 凪
ファンタジー
平凡な商人の息子として生まれたレオスは、無限収納できるカバンを持つという理由で、悪逆非道な大魔王を倒すべく旅をしている勇者パーティに半ば拉致されるように同行させられてしまう。
いよいよ大魔王との決戦。しかし大魔王の力は脅威で、勇者も苦戦しあわや全滅かというその時、レオスは前世が悪神であったことを思い出す――
そしてめでたく大魔王を倒したものの「商人が大魔王を倒したというのはちょっと……」という理由で、功績を与えられず、お金と骨董品をいくつか貰うことで決着する。だが、そのお金は勇者装備を押し付けられ巻き上げられる始末に……
「はあ……とりあえず家に帰ろう……この力がバレたらどうなるか分からないし、なるべく目立たず、ひっそりしないとね……」
悪神の力を取り戻した彼は無事、実家へ帰ることができるのか?
八神 凪、作家人生二周年記念作、始動!
※表紙絵は「茜328」様からいただいたファンアートを使用させていただきました! 素敵なイラストをありがとうございます!
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。
なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。
そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。
そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。
彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。
それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。
yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。
子供の頃、僕は奴隷として売られていた。
そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。
だから、僕は自分に誓ったんだ。
ギルドのメンバーのために、生きるんだって。
でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。
「クビ」
その言葉で、僕はギルドから追放された。
一人。
その日からギルドの崩壊が始まった。
僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。
だけど、もう遅いよ。
僕は僕なりの旅を始めたから。
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる