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第5章 戦争

作戦開始は6日後のようです

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 セラ様達と合流した僕は、皆の無事を喜びあった。
 イスカとフーシェも、『女神の調律』を使いこなせたらしく、目立った外傷もなく、僕の『体力譲渡』で傷を治すことで擦り傷も消え去った。

 ギルドに戻った僕達は、暫しの間休憩を取っていた。
 ウォーレンが軽食を用意してくれたお陰で、食事を探すこともなかった。
 街は今、グリドールの船を撃沈したことで、ちょっとしたお祭り騒ぎだ。
 その騒ぎ用を見ていると、町民がいかにグリドールの駐屯に否定的な意見だったかが分かった。

「今回は無事勝てましたけど──、これで引き返せなくもなったんですね」

 イスカは不安そうに、長い耳を下げると、窓から活気に溢れる広場を見下ろした。

「ん。兵士も結構強かった。全部上陸させると厳しいかも」

 確かに、トナミカ側に死者が出なかったのは、僕のスキルに寄る所が大きい。
 お陰で、大きな隙を作ることもなく、トナミカを守ることができたが、圧倒的な兵力で来られたら単純に守ることは厳しいだろう。

「おぅ、遅くなってすまんのぅ」

 応接室の重い扉が開くと、小柄なニンムスがウォーレンに扉を開けてもらい入ってきた。
 ニンムスはセラ様の姿を見ると、直ぐに畏まって床に膝をついた。

「いいんですよ!ニンムスさん!この姿の時は人として扱って下さい」

 慌てた様にセラ様が駆け寄る。

「そうは言って下さるのは嬉しいのですが⋯⋯なかなか難しいものです。──ワシからしたら、お主達が気軽すぎるんじゃぞ!」

 ニンムスは顔を真っ赤にすると、僕達を見て恥ずかしさを紛らわす様に怒鳴った。

「んんっ。ギルドマスター、まずは今後の事を話すのが先では?」

 ウォーレンが咳払いをすると、ニンムスを促す。

「う、うむ。捕虜にしたグリドール兵から聞き出したのじゃが、どうやら本隊が合流するのは10日後のようじゃ、もしかすれば先遣隊は1日前には着くやもしれぬ」

 ニンムスが頷くと、ウォーレンはトナミカの地図をテーブルに広げた。

「となると、海側からの侵攻に対応するためには、6日後にはここを出立せねばなるまい。──じゃが、本当にこの二人に任せて大丈夫なのか?先の戦い、見ておったが、大魔法術士級の攻撃には対応できそうにないぞ?」

『女神の調律』の真価は、全面対決の様に味方が多い時にこそ、その進化を発揮する。
 個別に能力を高めるには、『レベル譲渡』の方が強みとなるはずだ。

「はい、クラーケン戦のウォーレンさんの報告通りくらいの戦力はありますよ」

「はいっ!お二人共とっても強いんですから!」

 僕とセラ様が自信を持って頷いた。

「セラ様が言われるのであれば、疑いませんが。──フゥ、もうグリドールを拒絶したんじゃ。最早引き返すことはできんしのぉ。イスカ、フーシェ。そういう訳で、6日後にはここを船で出る。まずは、先遣隊を待ち受けて、交渉に移ろうと思う。ワシも出るからの、しっかりと守ってくれよ?」

「え?ニンムスさんも行くのですか?」

 イスカの驚きに、ニンムスはため息をついた。

「ここの、行政府の連中なんぞ出してみよ?グリドールの大艦隊を前にしたら、萎縮して下手すれば手引をしかねんわ。──まぁ、証人に一人くらいは、信用のできる奴を乗せてはいくがの」

「ん。ニンムスも大変」

 フーシェが同情するように、顔を曇らせた。

「私は、ユズキさんと一緒にいたほうが良いですか?」

「そうだね。セラ様は、僕と一緒に行動しよう。何かあった時には守れるように。ニンムスさん、陸路からの敵の動きはどうです?」

 僕の質問に、ニンムスは地図上に指を走らせた。

「この、トナミカに通ずる山地の南方。平野部の東部からグリドールは進軍しておる。最新の情報では、こちらも先遣隊は1週間程度で先陣が入ってくるじゃろうな。そのため、街道を潰すのは、ワシらが出発する日と同じく6日後じゃ」

「このため、トナミカは完全に陸の孤島と化す。補給には迅速にやってはいるが、兵糧攻めになると厳しいものがある。西方諸国からの補給は海からのみのため、持久戦には厳しいものとなるだろう」

 ニンムスの言葉を、ウォーレンが補足する。

「まぁ、『希望の剣』も重要な交渉材料じゃ。一番は、双方に無駄な血が流れぬことじゃ。ところで、レーベン側の動きはどうじゃ?」

 確かに、レーベン側の動きは気になるところだが、リズが現れていないことから、大きな動きはないのだろう。
 ちなみに、リズとローガンには、何かあった時のためにレベルを99になるように譲渡をしてきている。
 そのため、こちら側に伝令を寄越すくらいの魔力をリズは持っているのだ。

「今のところ動きはないです」

「そうか、最悪なのはレーベン側からの進攻じゃからの。レーベンの『魔王』は信用できるとの前程じゃが、ドミナントの方はそうもいくまいて」

 ドミナントとここトナミカとの距離は離れてはいるが、万が一ドミナントの『魔王』、メナフが戦闘に乗じてやってくることも否定はできないのだ。

「こちら側はウォーレンを頼れ。ワシは海側に行くが、陸の事はウォーレンに任せておる」

 ニンムスの言葉にウォーレンは力強く頷いた。

「ユズキ達の強さはよく分かっている。全力で支援するから、共にトナミカを守ろう」

 差し出された手を、僕は力強く握り返す。
 しかし、手を離した後、ウォーレンは辺りを見回すと少しソワソワとした仕草を見せた。

「と、ところでだが。もう一人、あの素晴らしい旋律を奏でた女性は、ユズキ達の仲間なのだろう?姿は⋯⋯ここには見せないのか?」

 少し顔を赤くしたウォーレンの様子に、僕の背中はゾワリとした。
 僕が周りを見ると、事情を知らないウォーレンを除いた全員が可笑しそうに苦笑するのだった。
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