悪役令嬢は氷結の戦乙女

marumarumary

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氷結の戦乙女

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~クリスティン領 辺境の地 ~

平原におびただしい数の魔獣とそれを束ねる数百の魔人達の姿があった。
空間を切り裂き、一際禍々しい者が姿を表す。
背には真っ黒な翼を持ち、どす黒い鎧をまとい、両腕には龍の爪、頭には2本の角を持った者。
その者から発せられる異常に強力な魔力・・・まさに魔王と呼ぶに相応しい。

対峙するのは一人の少女・・・カサンドラ。
「さっきぶりね? 魔王様。」
余裕を見せるかの様に淑女の礼を取るカサンドラ。

獅子の様な魔獣が、唸り声を上げてカサンドラに飛び掛かろうとした。
それを見た魔王は、すっと腕を軽く振り降ろす。
すると、魔獣は地面に突っ伏し、苦しいそうに藻掻き出し、やがて大人しくなってしまった。
その力の差は明らかであった。

重低音の声で魔王は唸る様に言う。
「我の下に来い。さすれば我が妃として永久の庇護を与えよう。」
両手を広げ、わざと煽る様に答えるカサンドラ。
「ありがたい申し出だけど、生き方は変えられないの。
 魔獣に食い殺されるとしても、断頭台の露に消えるとしても、
 私は、”悪役令嬢・カサンドラ”。」
そう言うと、カサンドラは折れた刀を魔王へ向けた。

「おおおーーーーー!」
魔王の咆哮が轟き、空を切り裂く!
それは、悲しくも戦いの決意を示すには充分だった。
魔王軍が怯え、ジリジリと後退する。

カサンドラを敵と見据え魔王は言い放つ。
「では、”我”自ら相手をしてやろう。」
カサンドラ目掛け、ゆっくりと歩き出す魔王。
それを見てニヤリと笑うカサンドラ。
「魔法剣 ~フェニックス・ブレード~ 」
折れた切っ先からオーラ・ソードが伸びる。
斜め一文字に構え、全魔力を解放し全身に光を帯びるカサンドラ。
しかし、魔王は何事も無いように歩を進める。
魔王との間合いを計っていたカサンドラは、構えを解き刃を魔王に向ける。
「 極大自己犠牲呪文マキシマイズ・マジック・メガンテ 」
魔力は収束し、カサンドラの全生命エネルギーもろとも剣先へと向かう。
魔王は、フェイントであるフェニック・ブレードに気を取られ、僅かに魔法詠唱が遅れる。
「くっ、氷結魔法 永久凍土コキュートス 」
魔王から放たれた呪文は、カサンドラの足先から徐々に凍らせて行く。
膝、腰、胸、腕、首・・・
一瞬早く剣先に全エネルギーが集まる。
その瞬間、カサンドラは悲しくも薄っすらと笑みを浮かべ、最期の言葉を口にする。

「それでは、皆さま・・・ご機嫌よう。」

剣先から全エネルギーを込めた魔法の矢が放たれ、それと同時にカサンドラの全身は氷に覆われる。
カサンドラが放った魔法の矢は、魔王の右腕をぶち抜き、魔王軍へ突き進む。
そして、その衝撃は凄まじく魔王軍の1/5を消滅させた。

辺り一面に”もうもう”と煙が立ち込める。

やがて、煙は霧散し魔王が姿を表す。

魔王は、回復魔法で事も無げに復活する。

「 全軍退却 」

魔王の唸り声にも似た指令が響き渡った。

散り散りに地獄へ帰る魔王軍。

だが、魔王は一人、氷の中のカサンドラを見つめていた。

~~~~~~~~~~~~~~~

数日後、王立軍の先遣隊が現地に到着した。
焼き払われた平原が、ここで大きな戦があったことを物語っていた。
そして、何より、氷の中に閉じ込められた一人の少女。
”悪役令嬢・カサンドラ”の姿を発見する。
折れた刃を掲げ、勝利を確信したかのようなその微笑みは、彼女が偉大な戦士であったことを物語っていた。
先遣隊長が独り言のように呟いた。

”氷結の戦乙女”・・・と。
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