悪役令嬢は氷結の戦乙女

marumarumary

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別れ

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~クリスティン家 門前~

武装したカサンドラがこっそり門から出てくる。
武装と言っても、前世での普段着に皮あてと背中の日本刀だけだ。
いよいよ、自由に動ける。
断罪イベントは予期せぬ方法で起こったが、ローズマリー様の健闘で無事乗り越えられた。
もう貴族でも悪役令息でもない、ただのカサンドラ・クリスティンだ。
カサンドラは、クリスティン邸に一礼し、立ち去ろうとした。
「待て! キャシー!」
どこからともなく現れたアレンがカサンドラを呼び止めた。
振り返るカサンドラ。
「あらアレン。久しぶりね。」 
カサンドラは、それでも愛おしい者を見つめるようにアレンを見た。
苦渋の表情が浮かぶアレン。
「行くな! キャシー!」

「・・・・。」
悲しそうな笑みで表情を崩すカサンドラ。今にも泣き出してしまいそうだ。

アレンは、”はっ”とするが、厳しい表情に戻し、一際低い声で脅すように言う。
「死ぬぞ。」

「・・・そうね。」
カサンドラは、目をつむり呟くように答えた。

「勇者は田舎に引っ込んだ。聖女は半人前。聖騎士達は揃わず、奥の手の魔道具も使え無い。お前は、ただの一般人だ。」
アレンは、声を震わせ、必死に、訴えるように説得を試みた。
「それでも、私にはこの日本刀があるわ。」
日本刀を見せるカサンドラ。
「そんな物・・・。」
アレンは魔力を軽く放つ。
”パキーン”
破壊音が響く。日本刀が折られたのだ。 

「もう戦うな!」 
アレンの叫びが虚しく響いた。
悲しそうにカサンドラは呟く。
「駄目じゃない、物を粗末にしたら。これ、私の大切な人から貰った物だったのに・・・。」
 ※アレンがカサンドラの誕生日にプレゼントした物
「くっ!」
「・・・私ね。言うつもりは無かったのだけれど。
 アレン、貴方のこと・・・好きよ・・・他の誰よりも。」
カサンドラの思わぬ言葉に驚くアレン。
「な! だったらなぜ?」
歩み寄ろうとするアレン。
アレンからは、かつての愛しい表情が蘇っていた。
首を振りそれを拒否するカサンドラ。
「お父様とお母様をお願いね。」
カサンドラは、きびすを返し歩み始めた。

もう振り返ることもない。

アレンは、追いすがるように手を伸ばしたが、直ぐに諦めたかのように手を降ろした。
どんな妨害も、どんな説得もカサンドラには通じなかった。
その上、自分の事を好きだと言う。
それだけに彼女の決心の強さを知った。
そして、しばらくカサンドラを見送った後、忽然と姿を消した。

~~~~~~~~~~~~~~~~~

カサンドラを待つメキド神官
「魔王とお会いしたのですか?」
「ええ、その様ね。」
「クリスティン領、辺境の地に禍々しい魔力が集結しています。・・・おそらく魔王軍かと。」
「王立軍の動きは?」
「王家、軍部が編成を急いでいますが、まだ常駐軍と近衛のみで、後数日は必要でしょう。」
「そう。・・・厳しいのね。」
「それで、どうされるのですか?」
「私は、私の役目を果たすだけよ。」
ニコリと笑って答えるカサンドラ。
「では、私もお供します。」
「駄目よ、メキド様。貴方にはマリアをお願いするわ。
 それにね、魔王はとても嫉妬深いの。すぐに誤解して、違う方向へ突っ走ってしまうのよ。」
カサンドラは、あの使い古した消しゴムを思い出していた。
「嫉妬深い・・・ですか。・・・魔王が。」
苦笑いするメキド。

「じゃあ、もう行くわ。」
カサンドラは、上位転移魔法を唱えた。

薄れ行くカサンドラを見送ったメキドは、己の無力さを嘆いた。
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