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医務室にて
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~学園内の医務室付近~
■ジークフリート目線■
医務室でカサンドラを医師に託したジークは、側用人達にテキパキと指示を出す。
その中に、カサンドラを王宮へ迎える準備をするというものもあった。
ピグマン家は、子爵家と言えど古くからの貴族であり、突然あのような事をする者達ではない。
それに、ハーの力は学園生徒のそれを遥かに上回っている。
すると、答えは見えて来る。・・・それは、魔人と言われる者達。
そうであるなら、奴はカサンドラに執着する可能性が高い。
誇り高いとされる奴等は、己の顔に傷をつけた者を放っておく訳がない。
婚約発表を先延ばしにしたのは失敗だった。
今のままでは、カサンドラを王家で保護するのは難しい。
ジークは、自分の判断ミスを悔いた。
直ぐにでも公表し、保護しなければ・・・。
カサンドラには事後報告となってしまうが止むを得ない。
ジークは、もう一度医務室に入り、眠るカサンドラを見つめた。
「約束を破る私を、貴女は許してくれるだろうか?」
そっとカサンドラの髪を撫でた。
「・・・殿下?」
うっすらとまぶたをあけ、呟いたカサンドラ。
妙に色気を感じドキリとする。
普段は大人しい彼女のけだるい眼差しに妙にそそられた。
だが、それは悟られない様にしなくては・・・。
「すまない、起こしてしまったね。」
と、優しくカサンドラの手を取った。
「マリアは無事ですか?」
こんな時でも、貴女は他人の心配をするのか。
「あゝ、無事ですよ。貴女が護り通したのです。」
「そう、それは良かった。」
と満面の笑みを浮かべ安心するカサンドラ。
「・・・っ」
愛おしくて、もう自制することができない。
ジークは、”ぎゅっ”とカサンドラを抱きしめた。
「殿下? どうしました?」
カサンドラは、驚き訳が分からないという感じだ。
もどかしい。今すぐ貴女をさらってしまいたい。
しかし、ここはぐっと堪えて、彼女の行動原理を問い質さなければならない。
そうでないと、さらったところで逃げ出されてしまうだろう。
「キャシー、君は魔力が枯渇していたんだろ? なぜだ?」
「なぜ? それは・・・。」
カサンドラは意識が朦朧としているのか、答えが返って来ない。
仕方なく、次の質問を…。
「なぜ、その様な状態で戦ったんだ?」
「なぜでしょうね? 私にも分かりませんわ。 それより殿下、少し苦しいです。」
思わず力が入ってしまっていた。
「す、すまない。 ところで、キャシー。そろそろ家(王宮)に来ない(住まない)か?」
唐突過ぎたか? はやる思いが口にでてしまった。
案の定、カサンドラは首を傾げ眠たそうにこちらを窺っている。
「いや、この話は今度にしよう。今は眠ると良い。」
カサンドラは、その言葉を聞き終えるとまぶたを閉じて再び眠りについた。
ジークフリートは、自分の頬が紅潮していることを自覚しつつも、しばらく婚約者を見つめていた。
~翌日 医務室~
ベッドで静かに眠るカサンドラ。
その傍らには、カサンドラを見つめるマリアがいる。
私は何も出来なかった。
初めて見たカサンドラ様の戦闘がこんなに恐いものだとは思わなかった。
カサンドラ様は、かつて魔獣と戦ったと言う。
人ならざるモノとの戦いは、如何に恐ろしいものか想像するだけで身震いする。
どうして、カサンドラ様は恐ろしい敵に立ち向かうのだろう?
目の前の同じ歳の少女に問いかける。
・・・返事は無い。
分かってるわ。
何となくだけれど・・・何か恐ろしい事が起こるって。
だから、せめて今は目の前の彼女を護りたい。
マリアは、カサンドラの手を握り祈りを捧げる。
こうすると、心で彼女と繋がっているような気がする。
”コン、コン”
ドアが開き、アレンが入って来る。
マリアを睨みつけるアレン。
きつい目線におそろおそろ声を発するマリア。
「アレン・クリスティン様?」
「あゝ、すまない。 カサンドラを診ていてくれてありがとう。マリアさん。」
マリアの様子を察し表情を和らげるアレン。
しかし、その表情は如何にも作り物のようである。
「すまないが、カサンドラはクリスティン家に連れて帰るよ。」
「え、この状態で?お休みになっていますのに。」
抵抗するマリア。なぜかこの男にカサンドラを渡したくないと思う。
「我が家の方が安全だからね。 また奴が襲って来るかもしれない。」
「そうですか。 私もついて行って良いですか?」
「・・・ダメだ。 心配しなくても我がクリスティン家の護衛団は戦闘には慣れている。」
予想はしていたが、落胆を隠せないマリア
「分かりました。 では、メギド神官にもお伝えしてよろしいですか?」
「あゝ、もちろんだ。神官にも世話になった事だしね。」
アレンは、カサンドラを愛おしそうに見つめている。
意を決したアレンはカサンドラを抱き上げ、さっさと連れ去ってしまった。
マリアは、メキド神官の元へ急いだ。
なぜか、激しく胸騒ぎがする。
あの人は、カサンドラの味方ではあるが何かが違う。
マリアは、カサンドラが将来殿方と愛を育み、家庭を築き、幸せに暮らしていくことが想像できなかった。
あの男では決してない。
それはアレンだけではないのかもしれない。
あるいは、逆にカサンドラの方に何かがあるのかもしれない。
女の子なら誰もが見る夢、願う幸せ・・・、カサンドラは最初からそんなものを持っていないのではないか?
そんな疑問がふつふつと湧いてきている。
マリアは、公園に咲く”槿花”を思い浮かべていた。
※ムクゲの花は朝に咲いて、夕方には散ってしまうことから、はかないことのたとえ。
■ジークフリート目線■
医務室でカサンドラを医師に託したジークは、側用人達にテキパキと指示を出す。
その中に、カサンドラを王宮へ迎える準備をするというものもあった。
ピグマン家は、子爵家と言えど古くからの貴族であり、突然あのような事をする者達ではない。
それに、ハーの力は学園生徒のそれを遥かに上回っている。
すると、答えは見えて来る。・・・それは、魔人と言われる者達。
そうであるなら、奴はカサンドラに執着する可能性が高い。
誇り高いとされる奴等は、己の顔に傷をつけた者を放っておく訳がない。
婚約発表を先延ばしにしたのは失敗だった。
今のままでは、カサンドラを王家で保護するのは難しい。
ジークは、自分の判断ミスを悔いた。
直ぐにでも公表し、保護しなければ・・・。
カサンドラには事後報告となってしまうが止むを得ない。
ジークは、もう一度医務室に入り、眠るカサンドラを見つめた。
「約束を破る私を、貴女は許してくれるだろうか?」
そっとカサンドラの髪を撫でた。
「・・・殿下?」
うっすらとまぶたをあけ、呟いたカサンドラ。
妙に色気を感じドキリとする。
普段は大人しい彼女のけだるい眼差しに妙にそそられた。
だが、それは悟られない様にしなくては・・・。
「すまない、起こしてしまったね。」
と、優しくカサンドラの手を取った。
「マリアは無事ですか?」
こんな時でも、貴女は他人の心配をするのか。
「あゝ、無事ですよ。貴女が護り通したのです。」
「そう、それは良かった。」
と満面の笑みを浮かべ安心するカサンドラ。
「・・・っ」
愛おしくて、もう自制することができない。
ジークは、”ぎゅっ”とカサンドラを抱きしめた。
「殿下? どうしました?」
カサンドラは、驚き訳が分からないという感じだ。
もどかしい。今すぐ貴女をさらってしまいたい。
しかし、ここはぐっと堪えて、彼女の行動原理を問い質さなければならない。
そうでないと、さらったところで逃げ出されてしまうだろう。
「キャシー、君は魔力が枯渇していたんだろ? なぜだ?」
「なぜ? それは・・・。」
カサンドラは意識が朦朧としているのか、答えが返って来ない。
仕方なく、次の質問を…。
「なぜ、その様な状態で戦ったんだ?」
「なぜでしょうね? 私にも分かりませんわ。 それより殿下、少し苦しいです。」
思わず力が入ってしまっていた。
「す、すまない。 ところで、キャシー。そろそろ家(王宮)に来ない(住まない)か?」
唐突過ぎたか? はやる思いが口にでてしまった。
案の定、カサンドラは首を傾げ眠たそうにこちらを窺っている。
「いや、この話は今度にしよう。今は眠ると良い。」
カサンドラは、その言葉を聞き終えるとまぶたを閉じて再び眠りについた。
ジークフリートは、自分の頬が紅潮していることを自覚しつつも、しばらく婚約者を見つめていた。
~翌日 医務室~
ベッドで静かに眠るカサンドラ。
その傍らには、カサンドラを見つめるマリアがいる。
私は何も出来なかった。
初めて見たカサンドラ様の戦闘がこんなに恐いものだとは思わなかった。
カサンドラ様は、かつて魔獣と戦ったと言う。
人ならざるモノとの戦いは、如何に恐ろしいものか想像するだけで身震いする。
どうして、カサンドラ様は恐ろしい敵に立ち向かうのだろう?
目の前の同じ歳の少女に問いかける。
・・・返事は無い。
分かってるわ。
何となくだけれど・・・何か恐ろしい事が起こるって。
だから、せめて今は目の前の彼女を護りたい。
マリアは、カサンドラの手を握り祈りを捧げる。
こうすると、心で彼女と繋がっているような気がする。
”コン、コン”
ドアが開き、アレンが入って来る。
マリアを睨みつけるアレン。
きつい目線におそろおそろ声を発するマリア。
「アレン・クリスティン様?」
「あゝ、すまない。 カサンドラを診ていてくれてありがとう。マリアさん。」
マリアの様子を察し表情を和らげるアレン。
しかし、その表情は如何にも作り物のようである。
「すまないが、カサンドラはクリスティン家に連れて帰るよ。」
「え、この状態で?お休みになっていますのに。」
抵抗するマリア。なぜかこの男にカサンドラを渡したくないと思う。
「我が家の方が安全だからね。 また奴が襲って来るかもしれない。」
「そうですか。 私もついて行って良いですか?」
「・・・ダメだ。 心配しなくても我がクリスティン家の護衛団は戦闘には慣れている。」
予想はしていたが、落胆を隠せないマリア
「分かりました。 では、メギド神官にもお伝えしてよろしいですか?」
「あゝ、もちろんだ。神官にも世話になった事だしね。」
アレンは、カサンドラを愛おしそうに見つめている。
意を決したアレンはカサンドラを抱き上げ、さっさと連れ去ってしまった。
マリアは、メキド神官の元へ急いだ。
なぜか、激しく胸騒ぎがする。
あの人は、カサンドラの味方ではあるが何かが違う。
マリアは、カサンドラが将来殿方と愛を育み、家庭を築き、幸せに暮らしていくことが想像できなかった。
あの男では決してない。
それはアレンだけではないのかもしれない。
あるいは、逆にカサンドラの方に何かがあるのかもしれない。
女の子なら誰もが見る夢、願う幸せ・・・、カサンドラは最初からそんなものを持っていないのではないか?
そんな疑問がふつふつと湧いてきている。
マリアは、公園に咲く”槿花”を思い浮かべていた。
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