悪役令嬢は氷結の戦乙女

marumarumary

文字の大きさ
上 下
11 / 40

聖騎士候補は疑聖女を論ずる。

しおりを挟む
~王城 王太子の部屋~

ジークフリート目線
「ご苦労だったなオクティ。さっそくだが辺境地で何があったのか聞かせてくれ。」

「先に送った報告書の通りさ。」
オクティビアは素気なく答えた。

「散策の途中で偶然出会った魔獣を退治した。それを信じろと・・・。」
「嘘はついていない。」

ジークは少しあきれた様に問う。
「分かった。では、これだけは教えて欲しい。 ”紅炎の戦乙女”とは誰なんだ?」
「ふっ、耳が早いですな。」
オクティビアは言い淀む。口止めはしていたが、王家の諜報部を遮ることは出来なかったようだ。
「私が自ら行けば良かったと思わせないでほしい。・・・オクティ。」
「行かせる訳がありません。魔獣が出たのですよ、幻の魔獣ブラック・グリズリーが!
 王太子の貴方が現場に行くなどあってはなりません。」

「オクティ・・・私とお前の仲だ。さっさと白状したらどうかな?」
ジークは、オクティビアの肩をポンポンと叩いて、力を抜くように促した。
幼馴染であり親友であるジークフリートの言葉に、そもそも抗うことは出来ない。
やっと、オクティビア普段の砕けた調子で話出す。
「うむ。だが知らない方が良いこともある。良いんだな?」
 黙って頷くジークフリート。
「カサンドラ嬢だ。・・・彼女がほぼ一人で魔獣を殲滅したのだ。」
「なっ!・・・そんな事はあり得ない。」
さすがのジークフリートも驚きを隠せない。

「我々は無力だった。彼女の指示が無ければ魔法も唱えられないほどにな。」
「まさか! 公爵家の精鋭5人が無力など。」
「それ程の力の差があったのさ。それに、彼女には力や技術だけでは無い”何か”がある。」
「ほう、その”何か”とは?」
「これはあくまで私の推測だが・・・、彼女の力は”聖なる力”ではないかと考えている。」 
「”聖なる力”・・・つまり、カサンドラ嬢は聖女だと。・・・まさか。」
ジークフリートは、突拍子もない話と受け取り、驚きを隠せない。

「彼女は、3年前に急に人が変わったそうだ。
 それまでの我儘、傲慢な言動が改まり、優しく勤勉な人柄になった。
 そして厳しい鍛練をはじめたそうだ。何か神託の様なものがあったのかもしれない。
 それに、魔獣が出現したのはクリスティン領だ。いち早くそれを察知し、並外れた力で討伐したのだ。
 こう考えれば合点がいく。単なる偶然とは思えない。」

「いやいやいやいや、少し早計ではないか?
 例えば、聖女の力は戦闘向きではないはずだ。
 むしろ、その力は”癒やしの力”と文献には記されている。」

「その点も考慮した。彼女は自分を弱いと言っている。これほどの力を示しておいて。
 おそらく、勇者や魔王など戦闘特化の者と比べての話ではないか。
 それに、聖女くらいになると、一般人より遥かに強い戦闘力があるのだろう。」
「済まない。思考が追いつかない。」
ジークは目頭を抑えるポーズを取った。
「カサンドラ嬢について何か思い当たる節はないか?」
「・・・ある。【回想】 "私の魔力はこのプランター程度のもの"」
「やはりな。彼女は、戦闘向きでは無いと自覚しつつ、魔獣に突っ込んで行く様な戦い方をしているのだ。」

ジークは立ち上がり語気を強めた。
「ならば何も迷う事はない。直ぐに彼女を迎えに行かなくては!王家の名の下に庇護するべきだ。」

オクティビアは、首を何度も振り
「駄目だ駄目だ。魔獣討伐に彼女の力は欠かせない。
 もし、彼女がいなければ我々は全滅していただろう。
 そして、町の一つや二つは無残にも食い荒らされていたかもしれない。」
「ではどうすれば良いんだ。」
「だから、聞かない方が良いと・・・・。
 彼女を囲いの中に閉じ込めてしまうのは愚策だ。かと言って魔獣と戦わせる訳にもいかない。
 ところで、お茶会で彼女は他に何か言っていなかったか?」
「・・・私を、聖女とともに在るに相応しいと。」
ジークは少し誇らしげに言った。

「それは、聖騎士のことを指しているのかもな。」
「伝説の聖騎士ならば、彼女を守る事が出来る。(そうだ!私が聖騎士となり傍にいれば、彼女を危険に晒すようなことは絶対にしない。では、オクティのこの態度はどうしたのか?)」

「オクティ、君はカサンドラ嬢から魔力について何も言われなかったのか?」
「言われたさ。私の魔力は淀んでいたそうだ。」
ピクリとするジーク。
「ほう。それで?」
オクティビアは少し頬を赤らめながらも、「特に話すべきことは無かった。」と素っ気なく答えた。

ジークは、ほぼ直感的に(あったんだな。)と悟った。
さては、オクティビアの淀みを清めたのか・・・・聖なる力か、それとも。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

悪役令嬢に転生したので、剣を執って戦い抜く

秋鷺 照
ファンタジー
 断罪イベント(?)のあった夜、シャルロッテは前世の記憶を取り戻し、自分が乙女ゲームの悪役令嬢だと知った。  ゲームシナリオは絶賛進行中。自分の死まで残り約1か月。  シャルロッテは1つの結論を出す。それすなわち、「私が強くなれば良い」。  目指すのは、誰も死なないハッピーエンド。そのために、剣を執って戦い抜く。 ※なろうにも投稿しています

転生した世界のイケメンが怖い

祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。 第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。 わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。 でもわたしは彼らが怖い。 わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。 彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。 2024/10/06 IF追加 小説を読もう!にも掲載しています。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい

斯波@ジゼルの錬金飴②発売中
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。 ※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。 ※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

処理中です...