悪役令嬢は氷結の戦乙女

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聖騎士候補者1 ~アレン~

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~クリスティン侯爵家~

 私は、父であるクリスティン侯爵に呼ばれ書斎に向かった。

 ”コンコン”

「カサンドラです。お父様お呼びでしょうか。」


「あゝ、キャシー来たか、紹介しよう。

 こちらが、グレゴリー伯爵家次男のアレン君だ。

 来月の王太子主催の舞踏会にお前をエスコートしてくれる事になった。」

父がアレンに自己紹介を促す。


「グレゴリー伯爵家のアレンです。
 カサンドラお嬢様、この度は舞踏会へのご招待おめでとうございます。不肖ながらこのアレン、お嬢様のエスコートの栄誉を賜りました。よろしくお願い申し上げます。」

 アレンは、うっすらと愛想笑いを浮かべる。

 私は、淑女の礼を丁寧に行った。第一印象は大事だからね。

「まぁ、アレン様。こちらこそよろしくお願いします。

 私のことは、キャシーとお呼び下さい。」

「え、いや、その様なことは…。」

「うふふっ。」

 思わず笑みがこぼれてしまった。
 
 ”ついに来た! 攻略対象者の一人。” 心がはやる。

 後に義弟となるアレン・クリスティン。

 聖騎士の中で最も魔力が強く、それでいて性格のねじ曲がった男。

 グレゴリー家では次男であることから誰からも顧みられず、自己評価が極端に低くなってしまった男。

 しかし、容姿端麗、頭脳明晰で我が一族中随一の傑物。クリスティン家に養子に入ってからは、そのコンプレックスを糧にメキメキと頭角を表していく。

 そして、ヒロインと交流してからは歪んだ性格も徐々に解きほぐされ、立派な聖騎士へと成長していく。 

 とは言え、私が彼にしてあげられることはそう多くない。せいぜい、踏み台になってあげられるくらいかな。


「・・・っ。」

 カサンドラに微笑まれ真っ赤になるアレン。

 アレンが返答に困っているところにクリスティン侯爵が助け舟を出す。

「まぁ、追い追いで良いんじゃないか。

 これから一月程ダンスの練習をともにするのだからな。

 しかしアレン。父親の私が言うのも何だが、キャシーは見てのとおり美人だから、変な気をおこすなよ。

 舞踏会の趣旨を忘れないことだ。」

 ※舞踏会の趣旨は、王太子の妃候補者選びである。カサンドラにとっては社交界デビューとなる。


「もちろん承知しております。私ごときが滅相もございません。」


 ”うむ” と侯爵が頷いているが、父よ。要らない心配だ。

 聖騎士はすべからくヒロインである聖女に恋焦がれる。

 それがこの世界の条理なのだ。


「あの、アレン様、お手をお借りしてもよろしいでしょうか?」

 唐突だったけれど私はアレンの手を握った。

 そう、これは私の特技の一つで、感知魔法の応用によって相手の魔力量が分かるのだ。

 私は、こっそりと感知魔法を流す。


 ”ビリビリ” と電流の様に魔法力が握った手先から脳天までほとばしる。


 「くっ。」

 凄い魔力量だ。

 確か、アレンは私と同じ13歳のはず・・・現時点でこれほどとは。

 精神あるいは心が歪んでしまうのも分かる気がする。

 悔しいが、到底私の敵う相手では無いってことね。流石は聖騎士候補。

 3年間、寝る間も惜しんで鍛えてきたが、これほどの差があるとは・・・むしろ諦めがついたわ。

 やはり、私には裏方が合っているようね。

 残念で ”がっくり” と項を垂れる。


「お嬢様大丈夫ですか! 一体何が・・・」

 父が、慌てるアレンへ説明する。

「アレン、心配することはないよ。キャシーの特技なんだ。」


 私は、気を取り直して

「はい。大丈夫ですわ。」

 心配そうなアレンに向かってニコリと笑って返す。

「アレン様。貴方は、素晴らしい魔力をお持ちです。

 おそらく・・・来るべき日には聖騎士に任ぜられる程の人物となるでしょう。」


「え! そ、そんなことが分かるのですか?」

「もちろん、相応の努力は必要です。けれども、私は貴方なら可能と思いますわ。」

と、宝石を見つめる女子の様に微笑んで見せる。


「ふむ。キャシーがこれほど言うとは。

 もし実現すれば、我ら一族としては大変栄誉なことだ。

 君の処遇も少し検討した方が良いかもしれないな。」


 うんうん。さすが父よ、良く分かっている。

 そして、アレンとは1か月程ダンスの練習だけではなく、座学、剣術等の講義をともに受けることとなった。


 さぁ、アレン! このクリスティン侯爵家で、貴方は一段の高みを目指すのよ。
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