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再会の裾野へ

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 ヒメナのロルトノクの琥珀アンバー、ペンダントモードををパニぃから受け取った宇留は怪訝な顔をした。
「?、値札?」
 ペンダントには値札が付いている。琥珀部分は艶消しになって曇っているので眠っているのだろうか?ヒメナの代わりにパニぃが弁解する。
「あたしじゃ無いよ?ヒメナんが創造しつくったんだからね?」
「変装モードだって?調べられ対策らしいよ?」
「僕も初めて見たね?こういうの」
 値札には丁寧に護ノ森諸店と表記されている。それにしても三百円は無いだろうと思ったので、ヒメナには後で値段の部分を変えてもらおうと宇留は思った。本来なら友達に値段なんて付けられたものじゃない、とも······
「ヒメナも俺と来るんですね?」
「私が宇留くんの私物に紛れ込ませて責任持って管理してオキマス!」
 わんちィの言葉を聞いて、宇留はここまでのやり取りに何か引っ掛かるものを感じて護森に尋ねた。
「···これって、国防隊さんにヒメナの事を秘密にするって事ですか?」
「······う~ん、そんな事は無いけど。まぁバランス?をとるって思って欲しいな?」
 護森は少し困りながら言う。
「ヒメちゃんを狙ってる帝国もだけど、人間も一枚岩じゃ無いからね?今までも色々あったし、あったらしいし、心当たりもちょっとね?でもその辺りは大丈夫!君達が困るようには僕らがさせないよ?」
 一枚岩では無い、という言葉。もしも人間にアンバーニオンを利用されたら、もし国防隊に帝国側の人間が居たら、という事。信じるだけでは守れない。そんなあまり良くない選択もある。それも戦うという事。
 茂坂はこの事を心配していたのだと宇留は合点がいった。
「じゃ!時間じゃ!行こうかな?宇留くん」
 わんちィが腕時計を見ながら急かした。全員が席を立ち宇留を見送る。
「気を付けて、頑張ってね?」
「意外と近いから、すぐまたこっち帰りに寄ってね」
 柚雲と頼一郎が声をかける。
「じゃあ僕も後で行くから、いってらっしゃい」
「ハイ!分かりました!」
 護森の合図でわんちィが車のエンジンを始動させ、シェルターキーのボタンを長押しする。すると公園の東屋付近の隠し回転灯が光って回り、スピーカーが発車シークエンスの警告をする。
〔ゲートが上がります。車両が発車します。東屋から待避するか、付近のものに、お掴まり下さい〕
 警備AIが東屋付近が無人なのを確認して、ゲートが上昇し開いていく。
「あ!そうだった!」
 地下駐車場で車の後部座席に乗り込んだ宇留は、窓を開けて護森に声をかけた。

「護森さん!丘越さんにもよろしく伝えて下さい!あの!色々とありがとうございました!」

「!ーーーー」

「発進ゴー!デンデゲデンデゲデーン!」
 ゲートが完全に開いて、わんちィは何かのヒーロー番組のような曲を口ずさみながら車を発進させていった。そして何故か護森は驚いた表情で固まっている。
「?護森さん?どうしたの?」
 様子のおかしい護森に頼一郎が話しかける。だがすぐに護森は柔和な笑みを浮かべた。
「あ!いいえ、なんでも···」

「······(まだ······まだあなたは僕達を守っていてくれたんですね···ありがとうございます。どうか彼らを守って下さい······)」

 護森は胸ポケットの御守りを服の上から押さえた。

 宇留は車内で、眠っているヒメナの琥珀をお土産ボックスと紙袋に大事にしまうと車窓に目を移した。歩道にはリュックを背負った避難民が徐々に増えて街に戻っているようだった。
「ハイコレ、あげる!」
 助手席のパニぃから、御守りを持った手が宇留の目の前に伸びて来る。
護森さんボスからお土産!地元の神社のだけど、よかったら持ってて?」
「あ、ありがとうございます···」
 わんちィの説明を受けながら、受け取った赤い御守りを見てみた。
 龍剣山神社 、と金色の刺繍が施された、小さくて可愛い御守りだった。宇留は赤い生地を見ながら、何故かアッカの首輪を思い出していた。




 学習水族館前。
 国防隊が撤収の最終チェックをしていると、ひとつ問題が起きていた。
 宇留の送迎用の車両がエンジントラブルで動かなくなってしまっていた。
「整備したばっかりだったのになー、マァこいつもご年配だったし?」
 整備員が愚痴をこぼす。
「どうします?百題さん」
「······」
「重拳の直操ちょくそういてますよ?特査班長ドノ?」
 百題と特査官の間に藍罠が首を突っ込む。
「あんな中枢コックピットに一般人を入れ、るのか?」
「コンピューターのメンテハッチのロックなら一般人相手なら大丈夫ですよ?一人座ってるだけなら問題無いですよね?AIの保護オプのせいで、ただ走ってるだけなら乗り心地も最上級ですし?」
「ふぅむ······襲撃対策って事で···か?三竹さんに了承···ろう!」
 百題は言葉の節々に敬語の癖が残っている語り口だった。


 正午。国防隊の移動車両が次々とアイドリングを開始した。
 先頭車両の脇では三竹や高官が市の関係者、そして駆けつけた護森に挨拶をしている。
 重拳隊は最後尾で発進を待っていた。重拳は駆けつけた時同様、牽引車と先頭車ヘッド腕部積載車アームキャリアで繋がっている。宇留はトラックの運転席のような先頭車の直接操作室、運転席側に座っていた。
 防音が優れているのか、乗る時はけたたましかったエンジン音や振動もほとんど感じず、まろやかな重低音が宇留を僅かに震わせていた。
 助手席は硬質プラスチックの壁で仕切られていて見えない。宇留の正面には様々な計器類が半透明カバーで保護されており、ステアリングは任意に取り外せるのか、それらしき穴にキャップが収まっていた。
 宇留は遠隔操作かなにかで、ここで運転する事は少ないんだろうなと、どうしても勘ぐってしまった。
 座席はバケットシート風だが座り心地は良かった。フロントガラス外面の装甲は開け放たれ、正面からは牽引車の屋根と、椎山と藍罠の乗る制御車が少し見える。
 そしてバックアップ車と最後尾の茂坂の指揮車の間には、わんちィとパニぃの乗るピンク色でカワイイ系の自家用車コンパクトカーが並んでいた。
 ブォウンンン!ボゥウウウン!!ヴォウブォオオオオンン!ガァァァァァ!!!
 エンジンの調子が悪いのか、必要以上に空ぶかしをしている。

アレ、テ イ ス ト 合 わ せ、どう に か な ら な かっ た の か な?」
 機器に突っ伏した藍罠がワナワナと震えながら呆れ気味に言った。
「貸してた車は居残りだしな?···だが俺には分かる!あの車は普通じゃない!見た目はノーマルっぽいが、かなり···!今にも壁を走り出しそうだぜ?」
「?」
 椎山の語るところ実際、フロントバンパーの下方にはどこを走ったんだ!と思うような野獣の爪痕のような傷が無数に残り、車体からは禍々しいオーラが立ちのぼり、悪い顔で座席に座る怪しい女性ふたりと相まって、前後の軍用車両をも圧倒する雰囲気を醸し出していた!
 
 しばらく待っていると、部隊が移動を開始した。宇留は道路脇に居た護森に気付いて手を振り終わると、ギアが切り替わってキュィーン!と日常では聞き慣れないようなモーター音が響く。
 遊園地感を感じたら、一緒に戦いもした兵器に対して無礼かな?と思いながら、宇留は重拳の車内装に触れてみる。

 キュルキュル···キュィ、ィ、ィ、ィ

 何か奇妙な耳鳴りがした。そしてそれはイメージを伴っていた。人懐こい犬に纏わりつかれるような静かな感覚。
 (このコの声だよ?)
 膝の上に抱いたリュックからヒメナの想文が聞こえた。
 (ヒメナ?起こしちゃった?ごめん、このコ···って?)
 (ダイジョブ、このコ、この鋼の腕の頭脳?かな)
 (ええ!!?)
 (なんだろう?全部自分の想い通りにはならないようだけど、狭い部屋の中の広い部屋の中のどこか遠くの部屋でかすかに自分で考えてる。一緒に戦ったウリュの事も分かってて、嬉しそう)
 (へぇ!不思議。想文ってAIのも分かるんだ?なんかかわいいかも?)
 (フフフ···)
 ピーーーーン
 宇留はそのままインテリアを撫でていたが、途端に眠気が来た。宇留は茂坂の、寝ててもいいよという言葉に甘える事にした。
 ·
 ·
 ·
 部隊は一路、I県の県庁所在地、徳盛市方面の道路標識を過ぎて、国防隊駐屯地のある巻沢市に向かった。




 巻沢市某所の神社。その境内けいだいの石段の左端を白帯の胴着に重拳隊のスタジャンを羽織った中学生くらいの少女が駆け登って行く。
「おニィが無事でありがとうございました」
 少女は賽銭箱の前で手を合わせながら、もう一言。何か言い淀んだ。
「あと······」
 息をもうひとつ飲み込みながらもう一言、呟く。
「ン···くんが元気になりますように!」
 胴着の少女、藍罠  磨瑠香まるかは微笑んで一礼し振り返ると、石段を駆け降りて行った。








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