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修め練る
しおりを挟む「例えばね?熊に股がった人が居るとするよね?するとほとんどの人が熊が怖くて近付かないワケよ?で、その怖い熊の上に座ってるアイツは何者なんだーってなるワケ」
軸泉市郊外、護ノ森諸店、秘密基地?。
シンプルすぎるホテルの客室のような一室。
アンバーニオンに関して国防隊の調査が宇留に及ぶ件について、心配そうにしている祖父の頼一郎と祖母の花に柚雲は問いかけていた。
どうやら宇留とアンバーニオンの関係を、リスクは承知で肯定するつもりらしい。
「ゆっくちゃんも春名と同じような事言うなぁ···常識の裏に回り込んで物事を見るなんてやっぱウチら空想好き一家だよほほぃ···」
「え?パパとママこの事知ってるの?!」
花が答える。
「うん!さっきゆっくちゃんがお風呂に入ってる時に電話でね?国防隊からもう話が行ってて、健康診断して欲しいってのもお父さんお母さんのお願いだってよ?」
「春名が乗るなら早くそれに乗って帰ってこいだってさァ?」
「ワハハハハ!あれ?I県って今、出入り可云々まだなの?」
包容力は見出だすものさ···が家訓のようなもののひとつと言えど少しは心配してよ?と宇留が思っていると柚雲が続ける。
「でもね宇留が全然心配じゃないワケじゃないよ?軸泉の方も護森さんトコや警察とかもしばらく警護してくれるって、だからいざとなったら琥珀ロボでおもいっきりやっちゃえばイーよ!」
宇留は思い出した。柚雲は頼一郎の家に住み込みで軸泉の観光施設に再就職が決まっていた事。今回の旅行はその下見も兼ねていた事。
アンバーニオンの操縦者という事で、家族にも敵の手が及ぶ可能性も。
しかしそんな不自由を、逆転の発想を選んででも宇留を元気付けようとしてくれている柚雲には家族共々感謝だった。
ー なんかさっきおもむろにお小遣い五百円もくれたし。来月くらいにはなんか寂しくなるなあ······
「あれ?ヒメちゃん身に付けてる?」
「!」
そんな事を考えている時に柚雲に至近距離で話しかけられ、宇留はちょっと恥ずかしかった。
「パニぃさんが外に日向ぼっこアンドひと眠りに連れて行ってくれてる。ヒメナは大丈夫って言ってたけど念のため。わんちィさんも一緒に護森さん待つって言ってた」
「ケドカッケーよね~、地下駐車場の非常階段登ると公園トイレ裏壁の謎扉から外に出れるんだよ?ここもなんか奥に施設ありそうだし」
すると部屋のインターホンが鳴ってわんちィとパニぃが戻っー
ー?
風景が真っ白になる。
それはいきなりだった。
徐々に目が慣れ、最初に緑色が見えてきた。右側からは小川が流れる音がする。
宇留は白樺の樹海を通る長い一本道に立っていた。緑色は青々と繁る白樺の葉だった。
「?、なんだ?これ?今冬だよね?」
混乱して、自分でもソコジャナイ的な事を口走ってしまったと反省した。
道は小川に沿って開けていて、しばらく続いているように見える。道と言っても林道程の幅の未舗装路は、埋まった大きな岩をかわした獣道や人が歩いたような跡が複合しあった平らな登山道風の道だった。
宇留は自分の体からカチャリコチャガチャリと硬めの物が擦れ当たる音に気付いた。
宇留はアンバーニオンの姿に変わっていた。
横を向けば見えていた両肩の琥珀柱や装飾の一部が足りない以外はアンバーニオンに乗った時の主観的映像そのままだった。
白樺や周囲のストラクチャーと比べると身長は二メートル前後の雰囲気だろうか?
その時、薄曇りの白い空から光が透け射して、道の前方にオレンジ色の何かが光った。
琥珀の鎧を纏った虎が黙って宇留を見ていた。
琥珀の虎は踵を返すと、道の奥へと歩みを進めて行く。
「あ!待ってよ!」
宇留は虎の後を追った。
それから一キロ程走っただろうか、鎧を纏っているような体にも関わらず、ほぼ息も切れずにこんなに楽に走れた事は無かった。道はやがて円形の広場に辿り着いた。
そして琥珀の虎は、中央より少し手前に腰を下ろして座り宇留を待っていた。
宇留は緊張しながら琥珀の虎に歩み寄ると、広場にはいつの間にか無数の虫が飛び交っていた。
その虫は発光しながら飛ぶ、琥珀の花のような姿をしていた。掌程の大きさの光って見えない花、透明な茶色の茎、二枚の透明な黄色い葉を羽根のように羽ばたかせて宇留達の周囲を飛び回っていたり、時折滞空してこちらの様子を窺ったりしていた。
「ヨウ、力···捕られてるぞ?」
琥珀の虎が喋った。中年男性のようでいて中々の若渋い声で、はっきり伝わるよう淡々と、そして語尾にしっかり力をこめて語る。琥珀の虎は虫の群れを見ながら続けた。
「最近の若いのにでも分かりやすい、こんな見た目にした。ゲームをしよう!花虫は敵じゃあナいが、全部叩いて止めようか?」
宇留は声が想文だと気付いた。
「ヒメナが居ないのにどうして?」
「今更だナぁ?だが話は後だ。コイツラを全部止めれば流出したニャンバーニオンの破片の力は無効に出来る。このゲームが終わる頃、キミは無意識でもその制御が可能にナるはずだ」
琥珀の虎は立ち上がり、猫のように軽く伸びをしながら言った。
「よぅし!どっちが多く叩いて落とせるか勝負だ!」
琥珀の虎はちょうど目の前に飛んできた花虫を素早く左前足の爪先でピシッと叩いた。
花虫は羽ばたきを止めすぐに消えた。琥珀の虎の雰囲気が変わる。
弓なりにジャンプした琥珀の虎は宇留の上を飛び越える際中、すでに二十匹程の花虫を落とし消していた。宇留も試しに近場に居た一匹を優しくタッチしてみると同じように花虫が消える。
「!」
負けじと手を振り回した。思いの外素早く動いた手で、届く範囲の個体全てをタッチで消して見せた。そして宇留は最後に、自分に向かって飛んできた花虫をデコピンでわざと琥珀の虎の方に弾き飛ばしてみた。
琥珀の虎は弾き飛ばされてきた花虫を口で受け止め、宇留に向き直る。そして咥えた花虫が消えると同時に二体は超高速で動き回り花虫を消していった。
不思議と息が合う。
宇留と琥珀の虎、いくらかの実力を伴った負けず嫌い同士の尽力にて、三~四分程で花虫は数える程に減った。
「さーて、こんなモンかナ?途中から数えてナかったケど······ところで······」
動きを止めた琥珀の虎は宇留の前まで歩み寄ると左前足の爪をザン!と勢いよく地面に突き立てグルルと唸った。
「ここから先、本当にアンバーニオンで戦い抜く覚悟はあるノか!?
「ある!もう俺のせいで誰かを泣かせたくないんだ···俺を守ってくれたみんなの為に俺はアンバーニオンでみんなを守る!」
琥珀の虎の問いに対して間髪入れず食いぎみに決意を述べる宇留。それを聞いた琥珀の虎はうつむき答えた。
「そうか、分かった。愚問だったナ?では第二ャラウンドだ。俺の名はア···じゃナかった。俺の名はソイガター······お前と同じ、琥珀の戦士だ。潰れるナよ?」
花虫を叩いて回っていた時とは比べ物にならないスピードで体当たりを受けた宇留はそのまま地面に叩きつけられる。
更に追撃してきた琥珀の虎は爪を立てた腕で体を押し潰そうとしてきた。
宇留に馬乗りになったソイガターは宇留の左腕に噛みついていた。牙は宝甲が防いでいるものの、顎の力で宝甲に挟まれ圧迫された腕が凄まじく痛む。
「お前は左腕から防ぐクセがあるナ?」
「ぐぅぅ!」
アンバーニオンの体と筋力だからこそ腕を引き千切られずに済んでいるようなもので、生身だったらとっくの昔にバラバラにされている······そう思える程の本気の怪力だった。
押し倒されている宇留は右手でソイガターの脇腹を殴る。しかし脇腹の鎧、これも宝甲だろうか?それは硬く、肩の辺りも爪で押さえつけられているため力が入らず、何の効果も示さなかった。
次は右肘で地面を叩いて体をソイガターごと浮かせようと試みるも、ソイガターは左腕を咥えた顎を振り乱し、足で宇留の力を押し引きするので、それもうまくいかない。
「がぁああ!」
宇留はもう一度脇腹を殴るフリをして、今度はフェイントで地面を叩く。
宇留とソイガターの体が一瞬浮き、腹の下に右足を滑り込ませる事に成功した。
だが背中のスタビライザーも、膝の三日月型宝甲も今は無く水光の跳ねも繰り出せない。右足には既にソイガターの体重が十分に乗り、振りほどけない。
焦りのざわめきが聞こえそうになった時ソイガターが言った。
「スマイ?この牙が貫いた先にお前の守りたいものがあったらどうする?」
噛まれた左腕の宝甲にヒビが入る。
「!ーー」
宇留の目にソイガターの首元の黄色い琥珀が照り反る。するとその時、宇留の胸元の赤い琥珀が輝いた。
肩アーマーの天面が前方を向くよう変形し、普段は琥珀柱が収まっている箇所が黄色く輝く。
「!」
ソイガターは何かを察して宇留の左腕を離して後ろに飛び退こうとしたが遅かった。
宇留の両肩から琥珀の牙が突出し、先端がソイガターに直撃する。その瞬間に雷撃がスパークしてソイガターは数メートル弾き飛ばされ地面に落ちて土煙が舞った。
琥珀の牙は通常時の琥珀柱と大きさと造りは似ていたが、先端が四つ又ではなく剣歯虎の牙のように尖り、内部の勾玉の形状も違っていた。それが前方を向いて体の内側方向に撓っている。
だがすぐに牙は内部に引き戻され、肩アーマーも通常時に戻った。
宇留は立ち上がり、すぐにソイガターのいる場所に向かい走り出した。立ち上がろうとする虎の影に向かって拳を振りかぶって跳ぶ。
するとちょうど間に入ってきた花虫を拳と爪で挟み込むようにして撃ち合い、両者の動きは止まった。
花虫は二体の手の間で白くなりゴトンと地面に落ちてしばらく経ってから消えた。
「?」
その様子に何か違和感を感じていると、ソイガターが立ち上がる。宇留も攻撃の構えを解いた。
「中々やるナ?あの方が見込んだだけの事はある」
「······アッカ?」
「ニョ!気付いてたのか?」
ソイガターは変身を解除し巨大猫の姿に戻った。口角にはわざとらしく血が滲んでいる。
(まぁ今回はこんニャ所だ!今の気持ちを忘れず、更なる進化をだニャ······)
「バッ!カヤロウ!」
「ニャ!?」
アッカは驚いて目を丸くした。
「猫派の人間にニャンコを凹らせヤガッテ!許せん!」
いつの間にかアンバーニオンも宇留の姿に戻っていた。目には涙が少し滲んで睫毛に留まっている。
(ナ!そこかよ!?だ、大丈夫だ!俺は変身しナくても人間ニャ負けねェ!···)
アッカは恥ずかしそうにそっぽを向いた。
「でも嬉しいぜ?俺みてぇな化け猫をニャンコなんて呼んでくれて。何年振りかナ?」
天気雨が降り始めた。雨が通り過ぎた空間から筋状に空間が削れて消えはじめる。
(時間だ!ありがとーナ?スマイ!また現実で会おう!)
「アッカ!」
天気雨はあっという間にゲリラ豪雨並みの雨量に変わり、再び世界は白い光に包まれる。
その間際、宇留は最後の花虫が落ちた地面から黒い芽が出ているのを目にしたー
ー「あれ?ヒメちゃん身に付けてる?ん?宇留ー?」
「!」
柚雲の顔が目の前にあった。互いに少し恥ずかしかったようで顔を引き合う。
「あー、うん、ごめん。えっとヒメナはねぇ···」
「(なんか男の表情するようになっちゃってタノモシーよ弟くん、ウンウン···)」
すると部屋のインターホンが鳴ってわんちィとパニぃが護森とヒメナを連れて戻って来た。
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