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巨獣の長

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 声が聞こえた。
 今倒した怪物と同じく、想文。であって何かが違う感覚の想文
 ヒメナが準帝、そしてゴライゴと呼んだ巨大過ぎる怪物は、まるで孫を諭す祖父のように全く威圧感無く、目の前の波間に浮かぶ怪物に語りかける。
 (ほれ!ゲルナイド!だからうただろう!お前にャまだ早いと!)
 ブ···ゥヌゥ····
 ゴライゴがゲルナイドとその名を呼んだ怪物が顔を上げずに水の中で答える。
 (すまんのアンバーニオン、こいつァまだ生まれてから十三年しかっとらん未熟者ヒヨッコでのぅ、今日は出直すから勘弁しとくれんか?)
「え?この怪物コイツ同い年タ メなの?」
 (ゴライゴ!願っても無い。我々も今はいくさで心に重しを乗せた故郷同胞の安寧あんねいを望む)
 宇留はヒメナの勇壮感に溢れたセリフを初めて聞いた。
 準帝、つまりアルオスゴロノ帝国の上位トップの方の存在だろう。怪獣であり敵であろうと、このヒメナの対応は一廉ひとかどの人物に対しての礼儀だと言う事を宇留は感じた。
 するとゴライゴはアンバーニオンの顔を怪訝けげんな眼差しで覗き込む。
 (ヌゥ?お主、ムスアウでは無いな?だが···これは···)
 (···宇留···須舞 宇留です!)
 宇留はヒメナとの会話と同じ要領、受け取った想文の端を踏みながらメモを渡すイメージ。でゴライゴに答えてみた。そして想文はしっかりと通じたようだ。
 (おぉ!そうか!ウルというか!アンバーニオンの新たなる操珀そうはく!、今後が楽しみだわい!)

 んオごー!

 ザバンと水中から顔をあげたゲルナイドが不満げにゴライゴに向かって吠える。顔面の傷は痛々しいが既にふさがり始めていた。
 (そぉ言うなゲルナイド、ワシは初対面で決闘などせんよ?こんぷらいあんすって知っとるか?この間見た人の動画で紹介しとったぞ?)
 (え!?人間の動画とか見るの?どうやって?)
 (怪獣が動画見ちゃイカンなんて決まりは無いじゃろ?テレビも端末もワシ用のなんて無いし···まぁワシらくらいに成れば電波から直接見れるシの!)
「ちょ······直接ぅ?···」
 宇留は少し拍子抜けしてしまった。言葉の終わりが笑ったようになる。
 怪獣との邂逅かいこうは恐怖と絶望の中にもダイナミズムやロマンがあり、まるで台風の夜のような不謹慎的なワクワクする緊張感が伴うとずっと思っていた。  なのでそれは尚更なおさらだった。
 何故か近所の子供とケンカして両成敗になったような感じになっている······と思い宇留は椎山の言葉を思い出しハッとした。
 今まで言い争いはあってもケンカらしいケンカなんてした事は無かった。しかも最近まで結構落ち込んでいた位なのに。
 自分はこんなに戦いに積極的だっただろうか?それとも、椎山の言う通りに只の慣れだろうか?
 そんな事を考えているとヒメナがゴライゴに切り出した。
 (ゴライゴ!何故また帝国に加担するの?)
 ゴライゴは少し押しだまり答えた。
 (言うまでも無かろう、だがあのおとこはあんなンでも約束は守るヤツだ。だからワシも一族郎党の為に約束に準ずるのだ。ワッハッハッハ!)
 (······)

 ゴライゴは多くを語らず、去り際の言葉も無く、アンバーニオンを一瞥いちべつすると気配を通して操玉の宇留を睨むゲルナイドを連れてほとんど波を立てずに海中に沈んでいき、やがて完全に気配が消えた。

 それと同時に夜が明ける。何も無い海原が、全部夢だったと思わせているかのようだった。
 雲間から差し込む日の出がアンバーニオンを照らすと宇留の関節がムズムズした。
 雨に濡れて下校し、冷えた体を風呂で暖めた時の満足感に似ていた。ヒメナと同じく、アンバーニオンが日光をエネルギーに変えているようだ。
 安堵感が強制的に染み入って来るのは、だいぶエネルギーを消費してしまった証しでもあった。
 (彼は珍しく話の分かるほう。運が良かった······ハァ···)
 ヒメナの言う通り、あの巨体を持つ生物に一瞬で背後を取られた。宇留は自身の未熟さを痛感すると共に、敵には達人クラスも存在する。と危機感を持った。
「くぅ、何がコレニコリタラだ!俺のバカ!俺も未熟者じゃん!」
 (!···フフフ···ガンバロね?···)
 体が浮かんでいる操玉内で、軽めに地団駄じたんだを踏んで足で空を切る宇留を見て、ヒメナは微笑みながら振り返り宇留の胸元と接しているロルトノクの琥珀の背の壁を内側からポンポンと手で優しく叩く。
 胸元を叩かれた振動は無かったが感覚は何故か十分に宇留に伝わった。
 宇留はちょっとグッと来た。

 (ねぇ、宇留ウリュ。皇帝は···生きている)
「え!」
 (ゴライゴのあの言い方、間違いない)
「どうにかしなきゃないんだね?」
 (うん、また悲しい事が繰り返されるかも知れない)
「けど、どうして?その皇帝も記憶を持って生まれ変わったとか?」
 (皇帝が転生の追憶をいていたのは帝国の戦士達だけ、その代わり皇帝は不老だった。ムスアウとボクは記憶にも残らない程長い間、進み合い引き合う戦いをアンバーニオンと共に歩んできた。そしてつい、百年くらい前に一度決着は着いたはずだった)
 (巨獣ゴライゴの一族はかつて帝国に敗れ、数少ない一族を滅ぼされない為に皇帝の元に下り、支配階級を除いて戦士の中で頂点に立ち準帝の位を得た。けどそれは一族の為の不本意であって、皇帝亡き今その約束も無いと思っていた)
「う~ん、怪獣でも話さえ出来れば、あんな気の良いオッちゃんでも悩みがあるんだなぁ···」
 (······)
 どうやらヒメナまで悩んでしまったらしい。そしてどこかの飛行機がアンバーニオンの上を通過したり、軍艦も近くまで来たようなので面倒になる前に、と宇留は思い立った。
「とりあえず朝ご飯だね?アンバーニオン!お疲レィ!」
 (!)
 アンバーニオンは垂直上昇を始め、やがて宇宙に向かって加速して行く。
 (!、宇留?)
「ちょっと上の方が回復出来るよね?」
 (!···ありがとう、助かる。じゃあボク達も帰ろう?)
「え!?アンバーニオン放っといてイイノ?」
 (大丈夫、最初の時もそうだったでしょ?)
 操玉内が光に包まれ、ホワイトアウトする。
 降ろされる···とその時、宇留は思った。

 あれ?百年前?決着?···護森さん?、何歳?






 アンバーニオンの近くを通り過ぎた航空機。最終局面省ファイナルフェイズ専用機内の高級シートでくつろぐジャージ姿の日本人の男の元にキャビンアテンダントがタブレット端末をを持って来た。
 画面には青い海をバックに撮りたてのアンバーニオンの高画質写真が映っている。
ンーツクしぃ~!これで満足してくれるかな?」
 その時、風を切る音と共に上昇していくアンバーニオンを、男はニヤニヤしながら窓から眺めていた。


















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