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準帝の一族
しおりを挟む太平洋を日本に向かって進んでいると思われる未確認航行物体は、監視衛星や諸外国からの情報を纏めると生物のような特徴を示していた。
このような情報はほとんど表に出ないものの、この案件に関わる者達にとっては時々ある仕事の一つに過ぎなかった。
三螺旋市、重翼隊基地。
二度寝に没入出来ず、宿直室からパジャマにスタジャン姿で自販機コーナーにやって来た鈴蘭はオフィスの灯りに気付き、ふと立ち寄ってみる事にした。
オフィスでは隊長の八野が神棚の水を替えている所だった。
「おう!眠れんのかい?」
「いゃはぁ···隊長もですか?なんか冴えちゃいまして···」
因みに隊長は鈴蘭とペアルックだった。
すると誰かが自販機を利用する音がコーナーから響く。
「なんだ?みんな眠れんのか?」
···と思っていたら案の定出動準備である。
海上国防隊が対応中の未確認航行生物攻撃に対して、航空支援として裂断が出向く事が決定した。これは裂断開発以来初の対巨大生物作戦となる。
領海侵入時点をもって発進した重翼隊の面々は、裂断による攻撃の為の海上国防隊による先行索敵分析情報···のオマケ付きに感謝する一方で、リンク先の衛星が普段よりやや多い事や、海上、航空の自軍に加え、離れて飛ぶその他の航空機も確認した。
[最終局面省の機体だ···]
[怪獣なんて今更だろうし?何を待っている?]
「(今日は主役じゃ無いのに、いつにも増してお嬢様扱い、その上まだお客さんなんて完全にパーティーじゃん)」
隊の面々の独り言の例に漏れず、鈴蘭も密かにぼやいた。
[哨戒機、会敵、目標!海水を吹いて哨戒機を攻撃!哨戒機は回避、警戒は続行!]
[···始まった。探査開始、リサーチャーを先行!]
指揮支援機の八野の命令で、裂断のエスコートに就く二機の戦闘機、その内一機から二発のミサイルが発射され目標海域に向かって飛んで行く。間を置いてエスコート二機もミサイルの後を追った。
「さて、斬れますかな?」
レーダーを見る八野の横顔が素材を吟味する職人のような雰囲気を醸し出した。
同時刻、軸泉市流珠倉洞周辺。
洞窟の入口付近で歩哨に立っていた国防隊隊員は地鳴りと微震を感じて身構えた。
休んでいた鳥達が驚いて山裾から飛び立っていくのを見た隊員達は、次に洞窟の裏山山頂付近が発光しているのを目にした。
軸の泉は光に包まれ、その中からアンバーニオンが現れる。
アンバーニオンはそのまま垂直上昇すると海上方向に飛び立った。
体は仄かに発光し、通りすがった雲に次々と後光をかざしながら加速して行った。
「指揮所、こちらドラゴンケイブ、太陽由来1確認、北東海上方面に向かって飛行!」
指揮所の携帯無線一台を持ち出して来た茂坂は学習水族館そばの海岸で、その歩哨隊員の報告を二人の部下である藍罠と椎山、そして後からやって来たわんちィとパニぃと共に聞きながら海の上空を高速で飛行する発光体を見送っていた。
衛星とのリンクで目標の位置を捉えたリサーチャー·ミサイルは、減速し安定翼を展開してドローン形態に変形。目標に近付いて行った。
目標、巨大生物は体の上半分を海面で上下させながら、船のように悠然と泳いでいた。見えている部分だけでも百五十メートルはある。
大小様々な大きさのまるで無花果の実のような形の外骨格が、ボコボコとランダムに体表に張り付いているような姿をしていた。。
リサーチャー·ミサイルは先端のセンサーユニットによって、あらゆるカメラでの直接監視系をはじめ、オプションによってエコー、電波類、X線などサンプリングの為の可能な限り考えうる計測を行う事が出来る。
リアルタイムで関係各方面に送られたデータは僅かな時間でAIが分析、攻撃に際して信頼度の高い情報を構築する事が可能だった。
[リサーチャー、攻撃警戒、欲張るな。回収を優先。エスコートは続いて物理観測攻撃、観測後リサーチャーは着水誘導]
八野の指示でエスコート二機がそれぞれ上段と下段に別れて二発づつ、合計四発のミサイルを発射する。
ミサイルはリサーチャーを追い抜き、二発が着弾。もう二発はエアブレーキが開いた事で制動がかかり奇妙な軌道で着弾。
ものの五秒後にはリサーチャーが観測したその爆裂差情報を元に更にAIが敵の構造分析を進める。
しかし分析用のミサイルとはいえ目標に目立ったダメージは見受けられなかった。
次いで裂断が作戦海域に到達、モニターに目標の姿が写る。
「うわぁ···」
鈴蘭の暗視ゴーグルに醜い怪物の姿が写る。目標は体に大小の突起が連なり、人間の勘だけでも“斬る”行為に躊躇いを生じる姿をしていた。
人間が腕で刃物を振るうのとは違い、航空機での斬撃である。たとえ一本の突起を切断出来たとしても、すぐ周囲のその他の突起に衝突する事は重翼隊の面々には容易に予想出来た。
「相性悪そうだな」
そう言いながら八野がしかめた表情でズれた眼鏡の位置を整える。
その時、目標が減速してほとんど停止した。まだAIの分析結果は届かない。
[?目標停止···!、緊急!南西より未確認飛行物体!?]
「!!」
発光体が少し増えた雲の中を通って、本土方面から超高速で向かって来る。そして遠慮がちに減速しはじめたのだが、それでも作戦海域に居る飛行機乗り達からすれば馬鹿馬鹿しい急減速に見えたようだった。
減速したアンバーニオンは怪物の手前一キロメートル程手前で、まるで空中にある見えない壁に足を突いて踏ん張るように急停止して、ゆっくりと海面に向かって降りて来た。
「あれが···太陽由来1···?」
鈴蘭は裂断で旋回しながらアンバーニオンを確認した。
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