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想い文

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 この名を覚えていて
 かつての皇帝の名はエグジガン
 封じた最後の敵の名はエブブゲガ
 でも気をつけて
 封印とアンバーニオンを
 再び結び付けてはいけない
 お願い!
 ············


 テントでの寝落ち直前、ペンダント状態を解除したヒメナの琥珀を箱の部屋に入れる時に聞いたような声。
 記憶力は普通だと思っていたけれど、一度寝て起きてもしっかり覚えているのは聞いた証拠なのだろうか?
 昨日と違って良く寝れた。三時間睡眠でまだ夜中。体力が回復しているように感じる錯覚では無い位の確実的な回復感。
 自分はショートスリーパーとは程遠かったハズなのに。
 何故か脳の芯がザワザワする感覚。ヒメナの部屋からコトリと音がする。
 もしかして···
 離れていたら連絡手段の無いヒメナには空気を読んで対応するしか無いと思っていた。
 起き上がり、付けたままになっていたランプに照らされたミリタリー風のコンテナボックスの蓋をノックする。中には柚雲のリクエスト通りにフェミニンな多くのクッションが敷き詰められ、その中央に置かれたロルトノクの琥珀を手に取ると、その中でヒメナは宇留を見つめていた。

 (ウリュ?海から何か来る······)

「!」
 声に出して答えようとした宇留は意識の中に、言葉では説明しづらい、
“スイッチ„のようなものを見つけてそれをオンにしてみた。
 (···ねぇ、聞こえる?)
 (!、想文そうぶみっ!?もう、使えるの?)
 (やっぱり?これでも話が出来るんだ!)
 (···考えを手紙メールにして相手の心に渡すだけのやり取りだよ?)
 (じゃあ、これでアンバーニオンの見張り警戒領域繋がってリンクしてみるよ?···)

 (···これは···巨獣!準帝の一族?アンバーニオンの気配を遠くからている?)
 (そいつ、軸泉ここに来るの?)
 (まだすごく遠い、でも彼らのかたくなは絶対!)
 (絶対来る···って事ね?)
 宇留は少し考えて想文を返した。
 (巨獣って、怪獣?)
 (?カイジューって、巨獣?) 
 ···
 ((うん))

 (ヤバイじゃん!そんなのも居るなんて知らなかった)
 (おかしいな?···皇帝亡き今、準帝の一族が帝国に従う理由は無いはずだけど···?)
「······」
 (···行ってみようか?)
 そう提案されたヒメナは驚いた表情で宇留を見る。
 (またここにそんなのが来たらまたみんな大変だよ、追っ払おう!···駄目かな?)
 ヒメナは少し考えて答えた。
 (···過去、帝国の戦士達はボクの居た洞窟を知らずに滅びた。けれど戦士は来た。そしてアンバーニオンも目覚めた。何かが起きている。もっとボク達の分からない所で···だからハッキリさせないといけない!ウリュが良ければ、もう一度力を貸して欲しい)
「!···うん!」
 今度は声に出して頷いた宇留は、再びペンダントモードになったヒメナのロルトノクの琥珀を首に掛け、テントの隅にあった紙コップを手に取るとそれを引っ張る。紙コップの下面中央には糸がくくってあり、テントの外にあるベンチのわんちィが持つもう一方の紙コップを動かした。
 それに応答したわんちィによってピンと糸が引っ張られ、糸電話が使えるようになった。
「わんちィさん、どうぞ」
 二時間ごとにパニぃと交代で宇留の護衛ガードに就いていたわんちィが応答する。
「こちらわんちィ、どうぞ(ザース)」
「ちょっと行って来ます」
「行くってどこへ?(ザース)」
「何かが来るんです」
「何かがって?敵?(ザース)」
 その時、展示室入口に茂坂と仮眠に入ったばかりの眠そうなパニぃが入って来た。
 茂坂は歩哨の隊員に、ここでの話は今は気にしないでくれと断りを入れテントまで来た。ちょうど宇留がテントから顔を出す所だった。

「!、···須舞 宇留くん、夜中に申し訳ない。昨日の作戦で重拳の指揮を取っていた茂坂です」
「あ···はい···」
 茂坂は宇留の胸元の琥珀のペンダントに目を落とす。
「“君達„はもう気付いていたのか···」
「茂坂隊長、これは一体?(ザース)」
「?」
「現在、公海上を我が国に向かって進んでいると思われる未確認航行物体を秘密裏に確認している。まだ国内で我々が動く程では無い距離ではあるが、我々の空の仲間が緊急発進スクランブル待機中だ。その敵の目標は···」
「アンバーニオン···」
 宇留は茂坂の目を見て言う。
「アンバー···ニオン。太陽由来1サニアン ワンの名前か?」
「ここにアンバーニオンが居たら、またあいつらが来ます。そんなの駄目です!今、アンバーニオンで止めに行こうとしていました」
 茂坂をはじめ、わんちィとパニぃも唖然としてしまった。
「しかし君は保護の対象だ、業務上としても、人としても、その危険な行動を認める訳にはいかないが···そのサ···アンバーニオン自体は現在、我々の管理下にある訳でも無い」
「!」
「木を隠すなら森の中、雨宿りなら屋根の下。虎の威を借るなんとやら。生き延びるには、信頼の置ける安全な場所を見極める事だ。ただ約束して欲しい。大きな力に過信すること無く、大変なら絶対に逃げてくれ!」
 そう言うと茂坂は宇留に背中を向けた。
わんちィとパニぃもニッヒと宇留の顔を見てにやける。
「!···はい。ありがとうございます」
「発進ゴー、気をつけてね?あ!絶対帰って来るんだから私達には礼はいらないよ?」
「はい!」
 宇留は展示室の奥、バックヤードの扉を開けて飛び出して行った。

「···ザースって何?あ!あれか!無線の音か?!」
「········ッ!!!」
 パニぃがわんちィを言いはやそうとすると茂坂が言った。
「上の連中は太陽由来1サニアン ワン···アンバーニオンの能力を把握したがっている。彼のような少年に頼る事は、私の本意では無い事を分かってくれ!」
「茂坂隊長···」
 二人は茂坂の板挟みの悲哀に痛み入ったようだ。
「君達もすまないな、ここまでして貰っているのに···」
「イエイエ···」
「所で···だな···」
 茂坂が糸電話に目配せする。
「細かいようだが、戦場ではテントに開いた針の穴でも命取りになる時がある···ふさいでおいてくれると助かるのだが···」
「ファッ!申し訳ございません!」
 茂坂は哀愁を背負って展示室を後にした。

「わんちィあのさ!水中でも張れる激ヤバ粘着テープっていくら位だっけ?」
「うわぁ···たしか千~五、六百円位する~、地味にタケェ···」




 バックヤードの裏口を抜けた宇留は、配管だらけの通路を通って更に建物の出口から出る。出口はオートロックで施錠されたが構わず建物の外を通り、学習水族館の前の道路を東に向かって走る。
 軸泉湾口には軍用艦らしき船が停泊している照明が見える。そのまま星灯ほしあかりに照らされた小規模な海岸脇を抜け、宇留は行き止まりで止まって息を整えた。
 軸泉湾を挟んで流珠倉洞の方向を見据える宇留。
 
 (召喚詠唱アイコトバは、覚えてる?)

「うん!さぁ行こう!」
 宇留はロルトノクの琥珀を右手に掲げ、ヒメナと共に叫んだ。

 「(ウェラ! クノコハ! ウヲ!)」

 「(アンバーーーニオン!!)」






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