神樹のアンバーニオン

芋多可 石行

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旅 路

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 I県、軸泉市。
 市街中心部行きのローカル線の車窓には、青空と海がセットで登場した。
 周辺の二月の山々は、針葉樹の緑と残雪の斑模様以外、特に微妙な薄茶色で占められ、少々寂しい光景だった。

「う~ん、やっぱりこの時期はこの辺お昼過ぎるともう夕方っぽいね?」

 海が視界に入った時から雑談を止めて、物思いにふけっていた少年、須舞 宇留すまい うるは、ボックス席の正面に座る姉、柚雲ゆくもに尋ねられた。
「ウルはいつもこの辺りの印象はどーでスか?」
 宇留は水平線に小さく浮かぶ大型船を見つめながら、今時煙突からあんなに煙を出す船も有るのだろうかと考えながら答える。
「う~ん、この切ない感じの空と海のブルー······悪くないっスよ?」
 そう言いながら宇留はスマホで車窓の写真を撮った。
 一瞬学校をサボっているという後ろめたさが頭をよぎったが、今は考えない事にして二枚目のシャッターを切る。
 柚雲はまだ十代前半のそんな弟の枯れ様を少し心配しつつ、自分も風景を撮影した。

 終点の軸泉で下車した須舞姉弟は、飲み物と人気のご当地萌えマスコットグッズをキープし、祖父母が昼食用にと前日から予約注文してくれていた地元丼弁当を駅中の店で名字を名乗って受け取ると、タクシーで十分程のコンビニで降り、そこから増えた紙袋をガサガサ揺らしながら少し歩いて祖父母宅に到着した。

「あらユックちゃーんウルくーん!」
 玄関を開けっ放しにして小上がりに腰掛けて待っていた祖母が立ち上がり、門の前に来た二人を歓迎する。続けて祖父の頼一郎らいいちろうが奥から顔を出した。
「おーう!よく来たねぇ、休んでー」
 挨拶もそこそこに通された居間には付け合わせの小料理が数品並び、祖父母は姉弟ふたりとの昼食を今まで待ってくれていたようだ。

 宇留が手を洗い居間に戻ろうとすると、既に柚雲と祖母の女子トークが矢継ぎ早に聞こえてくる。
 すぐさま口パクでドシェー!と言いながら微笑みつつ廊下に退散して来た頼一郎と出くわし、その光景に宇留も笑みがこぼれた。
 宇留の笑顔を見て頼一郎は安堵したようだ。
 頼一郎は宇留まごに、現状を追及するつもり毛頭無かったようだが、息子から多少孫の悩みは知らせてもらっていた。
 そこで気分でも変わればと明日のイベントを口実に孫達の旅行を提案したのだった。

 頼一郎はそのまま宇留に指先で手招きする。

「?」
 招かれた先には、かつて電話台だった小棚と廊下の壁に掛けられたカレンダー、その脇には布製のレターラックがあり、頼一郎はその二段目からパンフレットを取り出して宇留に見せる。

「これ、明日行く洞窟のヤツね?前も言ったけど今年は当たり年だってさ!」
 明日のイベントとは洞窟内で見れる大氷柱の見学会の事だった。
 普段は一般未公開の洞窟だが、年に数回、人数制限を設けて予約抽選で公開しているらしかった。
 当たり年というのは、氷柱がここ最近でも珍しい程の太さに成長したという事で、予約は滑り込みセーフだったという事を頼一郎は教えてくれた。
 宇留は頼一郎に渡された発行部数が少なく、ちょっとしたレアモノだというくすんだ色のパンフレットを持って、姉の居る居間に同じ説明をすべく向かった。














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