神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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合神!超思重合想!!

ドラグガット スフィア

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 C県、鍋子市。

 ヌシサマの祠、拝殿内。

 給湯室のような部屋の暖簾をくぐり、アラワルと町会役員の老人三名が二人一組になって、大きな金盥かなだらいを二つ運んで来た。
 金盥の中にはモウモウと湯気を立てる薄虹色のお湯が満たされている。
 四人は湯をこぼさぬよう、慎重に金盥を畳の上に敷かれた白い布の上に置く。その布が敷かれている傍らの布団には、青年の姿に戻ったヌシサマが横たわっていた。

「おねえさん?持って来ましたよ?」

「はーい!···じゃあ琴梨さん?そのまま続けていて下さいます?」
「は、はい!···」
「···」
 折子を呼ぶ町会役員。少し離れた場所にある屏 風パーティションの向こうから、割烹着に身を包み、長い黒髪をお団子で纏めた折子が現達の側までやって来る。屏風の向こうでは主に女性陣が、猫仮面巫女達の容態を診ているようだ。

 折子は眠るヌシサマの様子を見ながら丁寧に正座すると、左手で脈を取るようにヌシサマの手首を掴み、右手は金盥の不思議な湯に浸した。
「······」
 現やマユミコ委員長、マユミコ委員長の祖父や町会役員達もその【治療】を不思議そうに見つめていたが、目に見えて顔に血色が戻り始めたヌシサマを見るにつけ、彼らにも安堵の表情が戻って来た。
「···やはりこの男の子···いいや、ヌシサマはやはり、やはりこのお方だったのか···子供の頃、一度遊んで頂いた事がある···」
 マユミコ委員長の祖父は目尻を少し光らせながら、ヌシサマの顔を大事そうに覗き込む。そしてマユミコ委員長も同じく、大きく感慨に耽っている。
「私も!子供の頃にこのヒト達に会った事がある···こんな、こんな不思議な事だったんだねぇ?···丘越さん!このヒト達、ヌシサマたちは良くなりますか?」
 マユミコ委員長は、広い拝殿の内部を改めて見回しながら折子に尋ねた。
「···ええ、もうじきよ?」
「よ!良かったぁ···!」
 泣いたままで笑顔になるマユミコ委員長を見た現が口元をギュッと結んでいるのは、きっと表情がほころぶのを我慢しているからなのであろう。
 折子は現の心情に激しく同意しながら、治癒手順プログラム入りの湯を回復エネルギーに変換し続け、ヌシサマに直接送信していた。

 





 一方、その頃。
 アンバーニオン操珀パイロット脳内、制御アプリケーションフォルダ。
 戦闘シュミレーションエリア。

 その仮想戦闘空間はえらく簡素なものだった。
 純白の世界に緑色のワイヤーフレーム。雰囲気的には岩場のようだがシンプル過ぎて、たまに境界を見失いそうになる。普段とは毛色の異なるシュミレーションの中で宇留はただ一人、アンバーニオンでひたすら逃げ回っていた。

「!」
 音は無い。
 しかし確実に、
 何かが直ぐそこを掠めた。
 
「なんだろ?狙撃っ??」
 岩壁の角に逃げ込み、背中を預けているアンバーニオンの仮想モデルは、機体の宝甲各部が所々欠損したり、円形に抉れている。先程から修復が行われないのだ。
「ぬぅ···やっぱり回復ナシ縛りか···!?」


 ポツ···
 プツ···

 アンバーニオンの視線の先で、相変わらずフィールドオブジェクトのワイヤーフレームが丸く抉れ、次々と消失する。
「···!!」
 今回の仮想敵は手数を撃ち、アンバーニオンを炙り出そうとしている。そして殆ど音の無い、静寂という名の恐怖を含んだ攻撃。岩山に背を預けていても何時何時いつなんどき見えない弾丸が岩盤を貫通して来るのか?それは見た目同様に信頼が足りない。
 

 そんな岩影から、アンバーニオンのシルエットが痺れを切らしたかのように顔を出して様子を窺う。

 ボボボボボボッ!!

 途端に穴だらけになるアンバーニオンのシルエット。だが···。

「!」

 シルエットはバリバリと音を立てて、その場で砕け散った。
 それは肩部琥珀柱がアンバーニオンの形を模しただけのデコイだった。
「囮ぐらいでいい気になるな俺!次ぃ!」
 デコイを身代わりに次の潜伏先に向かっていたアンバーニオン。【狙撃手】との距離を詰めるだけでは足りないと感じた宇留は、次の回避を実行する。
 ダッ!ポッ!バッ!
「ぅわっが!」
 それでも機体の三ヵ所に命中を許してしまう宇留。そして眼前を通り過ぎる、目に見えない針のような殺気。
「···く~ぅ!容赦無い~!でも3ヵ所で済んでイイノカワルイノカ···!」
 ようやく飛び込んだ安全地帯で前向きに悶々とするアンバーニオン。ダメージのチェックを行うと攻撃の効果はかなりのもので、軽く掠った程度と侮った場所は、ほぼ貫通していた。
「ハァっっ!なんだこれナンダベ!シュミレーションじゃがったら行動に制限が出でらったよ!本当にモー!」
 シュミレーター内にヒメナが居ないのをいい事に、宇留は思わず東北風のインチキ方言で動揺を振り払う。
「···!」
 アンバーニオンは残った琥珀柱を前傾させ、ミサイルのように斜向はすむかい前方に発射した。
 琥珀柱はワイヤーフレームの崖に命中すると同時に液状化し、バシャリと音を立てて崖にへばり付く。
「硬化っ!鏡面仕上げっ!」
 宇留の意思でその通りのプロセスが行われる。液状化したのちに即硬化した琥珀柱の表層では、更に宝甲配列が均整を保ち超光沢化して、周囲の景色をまざまざと反射した。
 空かさずその琥珀鏡にズームインするアンバーニオンの視界。ロケーションが単純故に、琥珀の鏡に写し出された違和感は直ぐ視界に飛び込んで来た。

「···居る···!」

【狙撃手】は琥珀の鏡に写り込んでいた。
 そこそこ遠くに居る事に加え、突貫で創った鏡に反射した姿ではあるものの、アンバーニオンが可能な限りの画像補正を施す事で大体の容姿が判明する。
 
 相手は白い外骨格の怪獣だった。
 筋骨隆々な体型に、ファッションモデルばりの小顔の頭部には、赤い結晶のような牙が並んでいる。
 その牙を遠目で見れば、獲物をほふった直後の口か、または紅い宝玉を咥えているかのようにも見えた。
 そして宇留の観察眼は、怪獣の襟元でたなびくマフラーのような組織がほんの僅かな一瞬、トゲのように変化したのを見逃さなかった。

 ドッッ!

 ボっ!
 ブツ!


「!」
 アンバーニオンが背中を預けている崖に複数箇所の穴が空いた。穴の内部には更に細かいワイヤーフレームの束が見える。そして今度の狙撃は発射音がついに聞こえた。
 宇留は得意気半分、焦り半分でコメントする。
「外しちゃったねぇ?鏡の反射する角度微妙に変えてたからこっちの推定位置はわざとゴマカシて教えてあげてたし···!」
 
 ドンッッ!!

「再補正もさせない!!」
 潜伏ポイントから飛び出したアンバーニオンは、推力を全開にしてフィールドオブジェクトの合間を縫う。
「音も聴こえたよ!岩ごとこっちを貫こうとして威力上げちゃったねぇ?!」
 相手の推定位置を大方定め、先程の発射音の反響から特定したフィールドオブジェクトをマッピングに適用する。
 そして最短安全接近距離をアンバーニオンに計算させ瞬時に共有、相手との距離を一気に縮めた。
「アンバーニオン!次の次の次の角を曲がったら多分あの怪獣が居る!そしたら空中橫ロールで捻り込んで懐に飛び込んじゃえ!···あっちの狙撃は回避じゃなくて相手の命中率を出来るだけ下げる感じで!!」

〔!〕
 相 棒アンバーニオンは、宇留の要請に応えたような気がした。

 そして予想通り。白い怪獣はそこでアンバーニオンを待っていた。しかし予想通りだったのは、相手の攻撃も同じく。数多あまたの破壊力針が、ロールしながら飛び込むアンバーニオンの各部をバキバキと捉える。

 宇留はその時になって初めて気が付いた。
 白い怪獣の間近で観測した破壊力の針は、マフラー?で大気中の何らかのエネルギーを吸収し、口部の赤結晶牙クリスタルで収束して放っているという事。
 そして白い怪獣の容貌かおはギバドはおろか、アンバーニオンにも良く似ていた。

 



 
 バキィィィィン!!!


 満身創痍のアンバーニオンは白い怪獣の口部を鷲掴みにするも、その手の甲は破壊力針の一撃を喰らい、激しく砕け散った。

 見つめ合い、動かなくなった両者。
 すると白い怪獣はたちまちそのディテールを失い、虚空へと消えてゆく。
「!?」
 宇留は戸惑おうとしたが、アンバーニオンが何かを握っている。
「これは···?」
 ギシギシと軋む手を動かし、宇留はアンバーニオンが握っている赤い結晶を見た。
 
 
 琥珀よ。

 己を護るものを護りたまえ
 護られるものは内より魅せ
 護るものは真心を掲げよ
 想いで磨くは心の空照らす魂
 太陽が如き面白きの護り手よ




 悪友ギバドを···頼む。



 ガゥオオオオオオオオオオオオオッッ!!

 赤い結晶が、ガチンとアンバーニオンの掌にセットされた。拳を握り締め咆哮するアンバーニオン。

 ガゴォゥゥゥン!
 ガゴォォォォゥゥゥン!!
 ガゴォゥゥゥン!
 ガゴォォォォゥゥゥゥゥン!!!

 胸の中でもヒモロギング ドライヴが何度もフルスロットルで吠え、それに伴って全身の宝甲が復元してゆく頃、宇留の精神は覚醒へと向かって微睡まどろみ始めていた。














 
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