神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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合神!超思重合想!!

ブレイクルーム

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 一人になるのは随分と久しぶりな気がする。

 喫煙室の洗毬あらいまり指令長は、大きく煙を吐いた。
 肩の荷を下ろすというよりは、先程立ち会った奇妙な移送作戦の戸惑いを払拭したいという気分の方が大きい。



 ここはT都アースルート真殿。喫煙室。

 入り口の両サイドにはSPが一名づつ。喫煙室の中には洗毬が一人だけで貸し切り状態である。
 当初、仮眠中の重拳四号隊を装備もろとも【特殊作戦区域】へ移送、というプランを最終局面省ファイナルフェイズに提案された時は、正直眉唾だった。
 しかしそれを片手間にやってのけ、洗毬に土地神の力を認めさせたのは他でも無い、エレベーターで会ったあの青年だった。
 青年は駐機中の重拳隊を映す監視カメラ映像を見るや否や、懐から小粒の琥珀を取り出して握り締め、ガッツポーズのようにディスプレイに向かって腕を掲げた。青年は息も乱さず、更に握力を上げてゆく。手首は内側に抉り込み、指の間が人間らしく真っ赤に充血するのも見て取れる。
 だが、そこからはトリック映像のようだった。多数の映像ノイズに摘ままれながら滲むように、部隊はゆっくりと、一分にも満たない間にその場から消え去った。
 青年がパッと手を開く。琥珀は【転送】の身代わりであったかのように、その掌からすっかり消え失せていた。
 許可はした。許可はしたがこんな事になるとは···。
 駐機場の確認の為に数名の隊員達が画面の中で歩き回る。彼らから冷静さを感じるのは事前に事情を聞いていたからなのであろう。指令長たる自分が部下の腹積もりすら大方把握出来ていないとは···。
 洗毬が未だ知らない国防隊の未知領域を憂いネガティブになりかけた時、青年が口を開いた。
「あー!成功成功!やっぱりこの量しんど!!寝る寝る!」
「あ···!」
 重拳隊は何処の【特殊作戦区域】へ行ったのか?
 洗毬は青年の迅速過ぎるテンションを受け、思わず聞く事を躊躇ってしまった。だるそうだが足早に去って行く青年の代わりに、他機関の制服将校が応える。

「洗毬さん。彼らは恐らく例の琥珀戦艦の所でしょう?我々も腕っぷしの効くスタッフを何人か引っ張られてましてね?」


 ······。

 心から押し黙る洗毬。部下達に寄せ集めて貰ったブレイクタイムの残りはあと五分も無い。
 すると喫煙所の扉が開き、眠りについた筈のあの青年がスマートに入室して椅子に座った。
 洗毬は呆気にとられつつ、青年···まるで人間にしか見えない土地神にあえて敬語を選び話し掛ける。
「···?、お、お休みになられたのでは?」
「ん?五分·寝られたよ?充分充分!けどなんかやっぱりザワザワして落ち着かなくて、起きちゃったよ···」
 休眠時間は五分で充分。という青年の言葉に、洗毬は今更驚かなかった。
 皮肉に捉えられぬよう、「忙人の身からすればその御神域、羨ましい限りですね」という言葉を飲み込みながら煙草をポケットから探して一本差し出そうとする。しかし青年は洗毬の気遣いを、丁重にストップのジェスチャーで遮った。
「ぁいや、ありがとう、ぼくぁね?煙草の雰囲気が好きなんだ。よかったらそのまま、そのままで···」
「は、はぁ···」



 空気清浄機と空調だけが唸る沈黙。
 しかしすぐにその一時を破り、神職のような和装の青年が飛び込んできて土地神の青年にそっと耳打ちした。
 良くないニュース。耳打ちの内容が聴こえなかった洗毬の勘もザワめく。

「やはり本当か?!」

 青年の眉間が厳しく軋んだ。

 洗毬は青年とほぼ同時に立ち上がり、視線を交わし合う。
 それと同時に、洗毬の端末から聞き慣れないアラームが響く。
 青年はどうぞ?という仕草をしながら洗毬の目を見て呟いた。

「サガミの谷···」

「!!!」
 通話ボタンを押す事も忘れた洗毬の目がギョッと見開かれる。
 鳴り響く端末が示す発信元は、国の最高中枢機関。

 それは、直接洗毬に向けて発信された最重要緊急通信だった。
 
 
 





 
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