191 / 202
合神!超思重合想!!
ブレイクルーム
しおりを挟む一人になるのは随分と久しぶりな気がする。
喫煙室の洗毬指令長は、大きく煙を吐いた。
肩の荷を下ろすというよりは、先程立ち会った奇妙な移送作戦の戸惑いを払拭したいという気分の方が大きい。
ここはT都アースルート真殿。喫煙室。
入り口の両サイドにはSPが一名づつ。喫煙室の中には洗毬が一人だけで貸し切り状態である。
当初、仮眠中の重拳四号隊を装備もろとも【特殊作戦区域】へ移送、というプランを最終局面省に提案された時は、正直眉唾だった。
しかしそれを片手間にやってのけ、洗毬に土地神の力を認めさせたのは他でも無い、エレベーターで会ったあの青年だった。
青年は駐機中の重拳隊を映す監視カメラ映像を見るや否や、懐から小粒の琥珀を取り出して握り締め、ガッツポーズのようにディスプレイに向かって腕を掲げた。青年は息も乱さず、更に握力を上げてゆく。手首は内側に抉り込み、指の間が人間らしく真っ赤に充血するのも見て取れる。
だが、そこからはトリック映像のようだった。多数の映像ノイズに摘ままれながら滲むように、部隊はゆっくりと、一分にも満たない間にその場から消え去った。
青年がパッと手を開く。琥珀は【転送】の身代わりであったかのように、その掌からすっかり消え失せていた。
許可はした。許可はしたがこんな事になるとは···。
駐機場の確認の為に数名の隊員達が画面の中で歩き回る。彼らから冷静さを感じるのは事前に事情を聞いていたからなのであろう。指令長たる自分が部下の腹積もりすら大方把握出来ていないとは···。
洗毬が未だ知らない国防隊の未知領域を憂いネガティブになりかけた時、青年が口を開いた。
「あー!成功成功!やっぱりこの量しんど!!寝る寝る!」
「あ···!」
重拳隊は何処の【特殊作戦区域】へ行ったのか?
洗毬は青年の迅速過ぎるテンションを受け、思わず聞く事を躊躇ってしまった。だるそうだが足早に去って行く青年の代わりに、他機関の制服将校が応える。
「洗毬さん。彼らは恐らく例の琥珀戦艦の所でしょう?我々も腕っぷしの効くスタッフを何人か引っ張られてましてね?」
······。
心から押し黙る洗毬。部下達に寄せ集めて貰ったブレイクタイムの残りはあと五分も無い。
すると喫煙所の扉が開き、眠りについた筈のあの青年がスマートに入室して椅子に座った。
洗毬は呆気にとられつつ、青年···まるで人間にしか見えない土地神にあえて敬語を選び話し掛ける。
「···?、お、お休みになられたのでは?」
「ん?五分も寝られたよ?充分充分!けどなんかやっぱりザワザワして落ち着かなくて、起きちゃったよ···」
休眠時間は五分で充分。という青年の言葉に、洗毬は今更驚かなかった。
皮肉に捉えられぬよう、「忙人の身からすればその御神域、羨ましい限りですね」という言葉を飲み込みながら煙草をポケットから探して一本差し出そうとする。しかし青年は洗毬の気遣いを、丁重にストップのジェスチャーで遮った。
「ぁいや、ありがとう、私ね?煙草の雰囲気が好きなんだ。よかったらそのまま、そのままで···」
「は、はぁ···」
空気清浄機と空調だけが唸る沈黙。
しかしすぐにその一時を破り、神職のような和装の青年が飛び込んできて土地神の青年にそっと耳打ちした。
良くないニュース。耳打ちの内容が聴こえなかった洗毬の勘もザワめく。
「やはり本当か?!」
青年の眉間が厳しく軋んだ。
洗毬は青年とほぼ同時に立ち上がり、視線を交わし合う。
それと同時に、洗毬の端末から聞き慣れないアラームが響く。
青年はどうぞ?という仕草をしながら洗毬の目を見て呟いた。
「サガミの谷···」
「!!!」
通話ボタンを押す事も忘れた洗毬の目がギョッと見開かれる。
鳴り響く端末が示す発信元は、国の最高中枢機関。
それは、直接洗毬に向けて発信された最重要緊急通信だった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
神樹のアンバーニオン
芋多可 石行
SF
不登校から立ち直りつつある少年、須舞 宇留は、旅行で訪れた祖父の住む街で琥珀の中に眠る小人の少女、ヒメナと出会う。
彼女を狙う謎の勢力からヒメナを守る為に、太陽から飛来した全身琥珀の巨神、アンバーニオンの操縦者に選ばれた宇留の普通の日々は、非日常へと変わって行く···
今、少年の非日常が、琥珀色に輝き始める。

海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~
海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。
再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた―
これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。
史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。
不定期更新です。
SFとなっていますが、歴史物です。
小説家になろうでも掲載しています。
神樹のアンバーニオン (2) 逆襲!神霧のガルンシュタエン!
芋多可 石行
SF
琥珀の巨神、アンバーニオンと琥珀の小人、ヒメナと出会った主人公、須舞 宇留は、北東北での戦いを経て故郷の母校へと堂々復帰した。しかしそこで待っていたのは謎の転校生、月井度 現、そして現れる偽りの琥珀の魔神にして最凶の敵、ガルンシュタエンだった。
一方、重深隊の特殊潜水艦、鬼磯目の秘密に人々の心が揺れる中、迫り来る皇帝復活の時。そんな中、アンバーニオンに再び新たな力が宿る······
神樹のアンバーニオン 2
逆襲!神霧のガルンシュタエン
今、少年の非日常が琥珀色に輝き始める······
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武
潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる