神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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合神!超思重合想!!

クラフトルームのご隠居

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 アラワルが琥珀の通路を左に曲がると、整っていたその雰囲気はまるで一変した。
 通路脇は物で溢れ、仄かに輝く壁は薄暗く退廃的な光を濃密に跳ね返し合っている。

 ユーラティスの艦内は広大過ぎて、未だに片付け完了の目処が立っていないのだ。この路地裏のような通路に置かれている物は様々だが、このエリア一帯の不要品やゴミ、使用予定の定まっていない物をこの辺りに取り敢えず仮置きで押し込みました···という所なのだろう。
 現は、片付けを担当しているコハクルー達の断捨離に勤しむ気苦労を憂いながら、照明代わりに置いてある喫茶店の電飾看板を躱して暗い通路を奥へと進む。

(須舞 宇留、本当にこんな所にクラフトルームなんてあるのか?)
 現が想文を宇留に送ると、まるで隣で会話をしているかのような早いレスポンスで返答があった。
(あるよ!で?どうしたの?なんかあった?予定変更とか?)
(いや、そっちで話す)

 チャットを一方的に閉じた現の視界に、輝く壁が飛び込んで来た。通路の壁の一部がライトアップされ、その琥珀の壁自体が額縁であるかのように長方形に切り取られ照明だけで区別されている。
 透明なオレンジ色の壁内に囚われているのは図鑑に載って居なさそうな巨大昆虫が多数、躍動感溢れるポーズで固定されていた。おそらく展示物なのだろうが、何故かゆっくり見学してはいけない気がして、現は宇留の元へ急いだ。





 ユーラティスのショッピングモールエリア。
 負い目のあるかつての仲間達に取り囲まれ、相変わらず窮地に陥っている椎山ネキン。

「わー!本当に椎山さんそっくり!」
「そうだな?···人間、自分にそっくりなヤツがこの世に三人は居るらしいからな···?」
「あっれぇ?この着てる服値札無いぞ?イイ感じなのに」
「俺このグラサン買おうかな?」

 うぐ!そ、それだけは!!

 椎山ネキンは体のあちこちをコンコンとノックされている。その体表分泌宝甲由来の偽装クオリティは完璧なものであったが、内心生きた心地がしない。
 そんな椎山が困っていると、視線の遠く先に見える吹き抜けの上階部分に、こちらの様子をこっそり窺う藍罠ヨキトがソロリと姿を現した。

(ああ!おぉい!た、助けてくれ藍罠!!まだ、まだ謝るタイミングじゃ無かったんだヨう···トホホぉ···!)
 椎山が想文でSOSを送ると、藍罠は平手を片耳に当てながら聴こえないフリをした。
(な!?想文で聴こえるもなにもあるか!?)
 すると藍罠は、ナンチャッテのポーズや大人げないギャグポーズを取って椎山を笑わせようとしてくる。それに気付いているのは視線を固定している椎山だけだった。

 くぅ!!わ!、笑わせるなってば!、!

 椎山の腹筋がついにクックと脈動しようとした時。西和が藍罠の存在に気が付いた。
「あ!あれ藍罠さんじゃないですか?!!」
「ああ!ホントだ!藍罠さんだ!藍罠さんもこっち来てたんですか!?」
「隊長!行きましょう!」
「ん~?本当に藍罠か?あの人?」
「あッ!逃げた!!」「おーい!待って下さいよ~!······」
 藍罠は逃げたのか、階下こちらに降りて来ようとしているのか?さしあたり吹き抜けの側から姿を消した。
 椎山ネキンがグッジョブと安堵していると、一人の隊員が立ち止まって椎山ネキンを見返していた。
 モモちゃん?
 百題はフフンと微笑みながら椎山ネキンを見つめ、眼鏡をクイッと指先で押し上げると、立ち去った重拳隊メンバーに続いてその場を離れる。その手首には無理矢理ブレスレットのように巻かれた琥珀のネックレス、コハクタグがキラリと光っていた。

 百ちゃん···!まさか!みんな···俺に気付いて······!?!?

 椎山は偽装を解いて大袈裟に愕然としたくなったが、目元のほとぼりが冷めるまでしばらくマネキンのフリをしている事にした。涙でサングラスが汚れてしまう事を考慮したからである。




 

 現は開けっ放しの水密扉を潜り抜け、薄暗いクラフトルームに入った。
 逢魔が時の闇を思わせる、ややオレンジ色のベールを纏った黒が天井に籠っている。その部屋は人間大の常識で工作室クラフトルームを名乗るには広大過ぎる空間だった。
 成る程、大きい物を作っていけない訳じゃないからな?
 山積みになった大量の物資の前には、恐らくフォークリフト的な作業機械の通路を指定する蛍光オレンジのラインが引いてある。現がその灯りを視線で辿ると、ある壁面の一角にポッと光る液晶光に辿り着いた。現は何も言わず、蛍光ラインで指定された通路を歩き其処へ向かう。
「!」
 現はそこで、クラフトルームの壁だと思っていた部分が円形をしている事に気付いた。
「これは?コハクジュウケンか?」
 現が壁だと思っていたのは、コハクジュウケンの巨大な琥珀のタイヤの一部だった。だがその外装は古めかしく、部屋の暖かみのある闇に全体像を隠したそれはすぐに動きそうな気配も無い。そして良く見ると細部のディテールが従来のコハクジュウケン達とは異なっている。

 これは!?···プロトタイプかカスタム機か?なんにせよこの古めかしい異様···この部屋の主···ご隠居といった所か?

 現はその老機体に敬意を表しつつ、再び歩き始める。



「はーっ!ふんッ!!···ほぉぉ···!」
「?、なにしてるんだ?」
 
 宇留が作業しているブースでは、琥珀のVRゴーグルを被った宇留が、太極拳のようなゆっくりとした動きでなにやら舞っていた。
 机の上の琥珀のディスプレイには設定らしき項目がズラリと並び、同じく琥珀のパソコン本体とそれに繋がれた大がかりな琥珀の工作機械からはミンミンと切削の音がか細く響いている。
 宇留は相変わらずクホォ~やらヌゥン~やら息を吐いて体幹をしならせつつ、パソコン本体をピシィと指差した。
「?」
 現は直接無線通信でデータの状況を確認する。
 最初に見たのは琥珀の工作機械の内部。宝甲こはくらしき素材が、多数の宝甲製マニピュレーターによって切削加工されている。どうやらそのマニピュレーターの動きは、宇留のインチキ太極拳と連動しているようだ。
「呆れたな?こんな時に何を作ってるんだ?」
 ガパッ!「···よいしょ!そうなんだよね?こんな時に、なんだよね?」
 VRゴーグルを外した宇留は、苦々しい笑顔を現に向けた。
「ちょっと作りたいのがあってさ?でもなんか急にノリが悪くなっちゃって···」
「ノリ?どうかしたのか?」
「なんかザワザワする。思ったより今なんか集中力がブレちゃうんだよね?」
「!!」

 現は宇留に相談に来た理由を思い出した。
 そうだ、ザワザワしていたのだ。
「で?話しって?」
 タイミング良く宇留が尋ねてきたので現は答えた。
「あ、ああ!そうだ、ユーラティスの係留に関してヌシサマに相談しようとしてたんだが···返事が···無いんだ」
「!!」
 宇留も現も、しまったという顔をしながら確信を得てしまった。

「早くそれを言ってよ!!」

 次の瞬間、二人がクラフトルームから駆け出して行くのを、その部屋の主は黙って見ていた。


 
 




 


 



 
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