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合神!超思重合想!!
虫の知らせ
しおりを挟むにじがねの甲板に集まった執間をはじめとする重深隊のクルー達は、皆一様に左右の指先を上下で組み揃え【でも?お高いんでしょう?】とでも言わんばかりの表情で斜に構えていた。
全員の前に並んで立つ晶叉とコティアーシュが取る間の距離を何かに例えるとするならば、まるで恋人感覚的な近さなのである。
晶叉は、そんな彼らの圧に正直焦っていた。
海を航行く超琥珀神艦ユーラティスの先導を務める重深艦隊の旗艦、にじがね。双方のサイズ差には小舟と島程の差がある。
そのにじがねの両脇を固めるのは重深隊の特殊潜水艦、しんおにかます。そしてユーラティスから返却された多節潜水艦、鬼磯目である。鬼磯目には制御用AIとしてのマーティアの機能は残されていたが、クルー達はコティアーシュとしての自我をそこから感じ取る事が出来ないのか、彼らの視線は何度も鬼磯目とコティアーシュとの間を往復していた。
「まさか嬢ちゃんが、人間のお姫様になって帰って来るとはなぁ?」
ひとしきり握手やフランクなハグで仲間達との再会を喜んだコティアーシュ。だが執間達が存外然程驚かなかったのは、晶叉とコティアーシュから感じる奇妙な絆感と彼女の外見年齢のせいだったようで······。
「えええ!?っでも私!巨···怪獣だった頃から数えても皆さんの平均年齢とそんなに変わらないですよぉ?!」
「う…ん、でも…なんか犯罪…」
若干、男性メイン所帯の嫉妬心のようなものもあるような気がするが、推定十代程の美少女に見えるコティアーシュが、そこそこ貫禄のあるアラサー男前の晶叉にベタベタしているという絵面の悪さは、彼らにとって目の毒であったようだ。コティアーシュは皆から視線を外し、顔を手でグニグニとコネ始める。
「ぅぬぅ!やっぱりちょっと急ぎ過ぎた!もうちょい大人っぽいおねえさんになるまでガマンした方が良かったかンブリアッチョ!··?!」
「···とオッシャイますか犯罪ついでに代々殿!大丈夫なんですか?」
執間はそう言いながら、お高いんでしょう?のポーズを再開する。
「あの、一回その犯罪ってのから離れてくれないかな?」
執間が心配しているのは、先の戦闘で晶叉が持ち場を勝手に離れた事なのだろう。しかしそれは、送り出し、心配はしても、責任は取らないッスよ?というドライな感じの気遣いのようである。
「まぁ、それは···一回あっちで落ち着いてからのお沙汰だろうな?」
引き吊った顔の晶叉が思い出していたのは、にじがねに戻る前に見た共上の悪巧みスマイルだった。
フッフッフ、そう簡単には辞めれませんよ代々殿?フッフッフッフッフ···
ユーラティスとにじがね分隊は一路、C県東方沖で体制を整える為に北西へと舵を取る。
晶叉の袖には相変わらずコティアーシュが貼り付き、そっぽを向くフリをする晶叉の横顔に熱視線を照射している。
遠くでその光景を暖かく見守っている胡桃下は、ありゃ時間の問題だろうな?と晶叉の心情を察していた。
※
ボロッ···!
暇をもて余すショツォベデヘムが暗い海底の汚泥の中から拾い上げたものは、朽ちた海底用作業車両の成れの果て。
K県沖海盆。通称、サガミの谷付近。
まくすがみ封積要の祠。
周囲の警戒をショト、ショツ、ショツォのベデヘム達に任せて海底にしゃがみこんだベデヘム4、シヅメは、海底堆積物ですっかり汚れた巨大な祠に触覚を接続し、何かをモニターしている。すると閉じていたシヅメの目がカッと開き、小声だが感嘆の込もった感想が彼の口をついて出る。
「ぅおお···本当に居やがった···人間どもが太古から無期計画で埋め続けた奴がまだ···こんなにも完全に近い形で···」
ヅン!!
突然、祠の周囲に光が満ちる。
ショトベデヘム達は身構えているが、シヅメは振り返りもせずデータに夢中になっている。
光源の中心には、三体の巨大な龍神が居た。
右側には右耳が欠けた猫仮面を被る華奢な人型の龍神。左側には左耳が欠けた猫仮面を被るグラマラス体型の人型の龍神。そして中央には豪勢な意匠の甲冑を纏った銀角金髪の龍神が浮かび、シヅメ達を睨んでいる。
そこからは案の定、質問と質問のかち合いがシヅメと龍神との間で巻き起こった。
「···そこで何をしている?その封印がなんなのか、分かっているのか?」
リーダーらしき龍神が警告するも、未だにシヅメは彼らを振り返って見ずに応える。
「···あれぇ?おかしいな?今回は神すら欺くって聞いてるんだけどなぁ?っていうかアノヒトの本気が効かない程のスッゲー神性がぁ、こんなに汚いトコによく来ようと思ったな?」
「幸運にも虫の知らせがあったのでね?かなり些細ではあったが?」
「幸運だぁ?」
ようやく振り返ったシヅメが龍神達をジロリと睨む。その殺気に反応し、金髪の龍神を取り巻く猫仮面龍神が瞬時に抜刀する。ショト達もファイティングポーズでそれに応え、まさに一触即発。だがシヅメはその光景に呆れたかのように、再び祠に向き直る。
「アノサー?オレらだけわざと参加したかった作戦から外されて今イライラしてんだよねー?ダレが虫だっつぅのぉ···?」
「!」「!」「!」
シヅメの独り言。その言葉が合図だったかのように、金髪の龍神の背後にいきなり巨大ロボットが出現した。
エネスジュイガ。
それは龍神達が反応出来ない程に突然だった。クイスランが使用している筈のその巨大ロボットは、装甲面が割れて壊れるようにホロホロと崩れ去り、その内部から溢れ出た漆黒のエネルギー体が金髪の龍神に纏わり付き始めた。
「ぬぅっ!!こ!これは!!?」
「!!、ヌシサマ!!」
「二人とも!近寄るな!これは···!ぐっ!!ぐああ!!」
「ヌシサマ!!」「あ!ああ!!」
龍神達の正体は、宇留や現の恩神である鍋子のヌシサマとその弟子達。黒いエネルギー体は迅速に龍神の躯を縛るように染み込み、じわじわと苦しめている。
「あーあー、来なきゃヨカッタのにネェ?···ま、今日はこの辺にしとくか?あ、えーと、今回のクイスラン様ヤヴェーからね?気を付け続けれればイけどね?···さーて、古代兵器ちゃんのお出まし拝見だなコリャ?」
ボヴァァァ!!
海底に巻き上がる泥吹雪。
濁流の隙間で明滅する輝き。
その淀みは苦しむヌシサマ達も、撤退するシヅメ達も覆い尽くし、飲み込む。
シヅメが祠の前にに埋め込んだ特殊探査ニードルは、堆積した海泥の中を沈んで行く。そして人類が海底の底深くに埋め続けてきた怪物の元へと至ろうとしていた。
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