神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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番外編

番外編  オカエリ

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 藍罠 磨瑠香は夢を見ていた。

 宵雨しょううに濡れた夏祭りの夜。この街は何処なのだろう?

 夢にしてはやけに現実感がある。
 少し香ばしめのぬるい空気、りんご飴を口元に飾る黒髪の美少女、くたびれた並び提灯、チャキチャキ系のお姉様が景気よく仕切る屋台、遠くで響く祭囃子の声、立ち話をするテヤンDeyなイケオジイ達、街頭にチラチラと散る小雨の粒、うっすらと表面が湿った浴衣、手を繋ぐ···繋ぐ···手?···手を!?!

 横を歩く浴衣の好青年は、磨瑠香と手を繋いでいた。
 誰?
 動揺する磨瑠香。悪くない方の戸惑いではあるが、夢にしては状況が不明過ぎる。対して好青年はクールに歩き続けるのみ。カランコロンと下駄が歩道タイルを叩く。
 顔には琥珀色の龍面。好青年の素顔は見えない。そういえばさっきのお面屋台にたくさん売っていたのを何故か思い出した。

 アンバーニオンのお面?。

 一度そう思ってしまうと、もうそうとしか思えない。
 好青年は何処と無く宇留に似ている。少し身長が高いので高校生位になったらこんな感じかな?と思う。
 で、この状況はやっぱりお祭りデートだろうか?
 ボワボワした熱気が心臓から頭に移動しようとする。
 その時に気付いた。二人が重ねる手の中に何かある。二人で何かを握っている。もしこの好青年が宇留なのであれば、必然的に彼が守る物、護る人、磨瑠香にとってもかけがえのない友人。
 お祭りデートではなかった。残念とは決して思わない事にする。【みんな】で手を繋いで遊びに来ているのだ。ソレはソレで良し。
 二人の指の隙間で屋台照明を照り返し、そして自力でも光っていたのは、やはり琥珀だった。
 内部には彼女が居るのだろう。

 三人はそのまま手を繋ぎ、坂の上にある神社に向かった。


「あらいらっしゃい!」
 二礼二拍手一礼賽銭を終えた三人は、事もあろうに三人揃って鈴を鳴らすのを忘れた。磨瑠香が鈴緒を手放すと同時に拝殿から現れた巫女姿の女性は、磨瑠香が良く知る土地神、丘越 折子だった。
「おねえさん!」
「よく来れたわね?」
「え?ええ、まぁ、急に…」
 磨瑠香は隣の龍面好青年に視線を移す。相変わらず彼は待機中のロボットのように静かであり余計な動きをしない。だが手の温もり、指の隙間を通り抜ける湿度は人間らしい。
「そう、でね?もうそろそろ山車だしが蔵に戻って来るんだよね?で私、今から祈祷ねぎらいに行かなきゃだから、みんなで一緒に蔵まで下りない?」
「え!山車が近くで見れるんですか?行きます!どんなのだろう?!」




 交通規制された市道を占領しながら戻って来た山車は、周辺の二階建て家屋に迫る大きさの巨大なものだった。
 圧倒される磨瑠香。山車を扱う老若男女は好青年と同デザイン色違いの龍面を付け、勇壮な掛け声で全員と調子を合わせながら山車を引いている。
 派手な山車には等身大の鎧武者人形や敵役かたきやくが飾られ、史実のワンシーンを表現しているのだとか。しかしこの鎧武者達。何処かで見た事のあるような琥珀の鎧を纏っている。なんだったかな?夢が終わりそうでボンヤリしてきた。
「!」
 そんな磨瑠香だったが、山車の背面の大人形に釘付けになった。

 白い鬼と戦う琥珀の鬼神。

 白い鬼は怒りに乱れた形相。明らかに敵役である。そしてもう一方の鬼神の方、怒髪天を突いた琥珀の髪束が三方に分かれ、まるで角のようである。
 何故磨瑠香が琥珀の髪だと思ったかというと、透明な琥珀の髪束の内部に浮かぶ観音像の姿を認めたか らである?
 
 祈祷を捧げる 折子の振る舞いは美しい。声もきっ と透き通るような声なのだろ う。だが覚醒は  近い。磨瑠香の耳はこ  の世界で音を拾わない。


 せめて最後に意地っ  張りにでもなってみよ う。

 磨瑠香は龍面好青年の顔を覗き込む。最初は  黙っていた好青年もその圧に負け、顔を磨瑠香に 向けた。

 白んでいくお 祭りの世界。


 最後に磨瑠香 は
 彼の龍面を外したよ  うな、

 そんな、



 気がす る。





























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