神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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発(掘)進(行)!超琥珀神艦!

恋の一歩

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 メールが届いた。
 
 兄さん?

 晶叉はこっそりとスマホの通知画面だけを一瞬確認してポケットに戻す。
 差出人は実兄、環巣 束瀬。

 ウェラ クノコハ

「?」
 晶叉はいつも通り、兄の謎かけに付き合おうとした。
 本文の文字の意味を考えながら、晶叉は琥珀神艦ユーラティスの方を見る。


 バドキャプタン柱の崩壊によって、目に見えて落ち着きが訪れつつある笠原賀諸島近海の戦場。
 今や猛威を振るったアルオスゴロノ帝国の軍勢は、人類を始め様々な組織が即席的に合流した合同チームの前に押し返す力が弱まりつつある。
「···」
 しかし、どうにも払拭出来ない不安感に晶叉は包まれていた。
 水平飛行に戻りつつあるユーラティスの背景バックを飾る、不穏な暗雲の切れ端。それをボヤいてみると副長は、あんな巨大なものが飛び回るせいで大気も滅茶苦茶だ。とたなびく暗雲に呆れていたが、本当にそれだけだろうか?

 ドシャァアアア!!

「!」
 警戒中のにじがねの側に、量産型エガスデライガの一機が墜落して水柱が立った。晶叉の予感が的中する。それを目撃したクルー達のどよめきも、普段とは異なるものだった。
 まずはエガスデライガが、まるで何かから逃げるように途方も無いスピードで海に落ちた事。そして水中で暴れるエガスデライガに組み付いている白い巨人の上半身。クルー達の脳裏には、有名な都市伝説の未確認生物が過った事であろう。

 ギビィィィ!

「なっ!?」
 そのエガスデライガは、重深艦隊に命乞いをするかのように踠き苦しんでいた。そして水飛沫で良く見えないが、エガスデライガの白い装甲は小麦粉生地のように歪み、巨人の上半身に練り込まれ始めている。
 やがてエガスデライガは機能を停止したのか、減少していく水飛沫と共に水中に没した。
 
 ボジュアッッッッ!!

 ガギィィィンンンンンンン!!

 いきなり水中から超高速で飛び上がった白い巨人。
 そしてその巨人を挟み撃ちで捕らえようとしたのか、女神柱カミイソメ男神柱カミカマスは互いに突き立てた牙、グラップルクローで相互別角度の衝突キスを交わした。飛び立った筈の白い巨人の姿はもうどこにも無い。
 この間数秒。にじがねや僚艦の機関砲も、カチャカチャと標準を向ける事しか出来なかった。
 カミイソメとカミカマスは何事も無かったかのように互いの琥珀の牙を外した。かなりのスピードでぶつかった筈だが、二体には全く損傷が無い。
 その防御力にブリッジが驚きに包まれる中、晶叉は索敵するカミカマスの動きが、カミイソメと比べて若干鈍い事に気付いた。
 血···というよりも宝甲。晶叉の体内で宝甲こはくがざわめく。

 ···タスク振りすぎ。君の癖だ。

 晶叉の体が勝手に動く。
 立ち上がり階級章付きの上着を脱ぎ、座席の上にインカムと共に放った晶叉は、微笑みながら驚く胡桃下に詰め寄った。
「胡桃下さん···申し訳ありません。後は、後は頼みます!」
 その言葉に、胡桃下だけではなく副長や執間、全クルーがニコッと笑顔になる。
「その言葉を待ってました!代々殿?!」
「やれやれ···仕事が増えますなぁ?」
「代々殿?嬢ちゃんありゃどう見てもカツカツですぜ?ほら!早くっ!」
 仲間達の心意気にグッと息を飲む。立場は変わっても以前と同じ気の抜けた敬礼で送る彼らに晶叉は返礼する。
「···ッ失敬!!」
 ブリッジを後にした晶叉は、ややバルクール気味に通路を駆け降り柵を飛び越え、人間離れしたスピードで艦首を目指す。不思議な事に潮と火薬の混ざった匂いが晶叉の不安感を溶かしていく。

 ウェラ クノコハ···
 ウェラ クノコハ······

 我、琥珀の···琥珀の······!

 走る晶叉の掌の中央部には、琥珀色に輝く紋章が浮かび上がっていた。

 

 海面から突き出た鎌首をもたげ、エガスデライガと融合した白い巨人こと白無貌のっぺらぼうの捜索に赴こうと、にじがねから離れ始めたカミイソメとカミカマス。
 そんな二体を、晶叉の叫び声が引き留めた。

「コティアーシュ!!!」

「!」
 素早く振り返るカミイソメ。対してカミカマスは事務的にやや遅れて晶叉の方に振り返る。

「コティアーシュ!俺も連れていってくれぇ!!!」

 ビクンと機体を振るわせるカミカマス。懸命に叫ぶ晶叉が掲げた掌は、強く輝いている。晶叉に適合した宝甲は、二柱の琥珀巨神と強く引き合っていた。
 

 
 
「あ···アキサ···!」

 ユーラティスのブリッジにある巨大な琥珀クラウクレスの中。
 コティアーシュは瞳を潤ませ、口元に手を当てている。
 コティアーシュはユーラティスの管制だけではなく、カミイソメとカミカマスのオペレートも同時進行していた。この責を果たすまで···と思っていた決意。その決意が会いたいという気持ちと、任務への責任感の間で激しく揺らぐ。だが彼女の背後から、ゴライゴ艦長の次の指示があった。

「···操珀コティアーシュは、カミイソメ直操へ転送いどう!カミカマス、新規操珀搭乗をサポート!二人でノッペラボー追撃を援護せよ!」
「!!!」

 深く厳しい、しかし優しいゴライゴ艦長の声に振り返るコティアーシュ。嬉し涙が巨大な琥珀クラウクレスの中に美しく散る。
「···し!しかし怪獣艦長ゴライゴさま!ユーラティス本体は?!?!」

「心配いらんわい!皆も良い練習になるじゃろ?あ!困った時はすぐ戻ってきてね?アィムアム🤍」
 ウィンクをしながら親指の爪を立てるゴライゴ艦長。そして全クルーも笑顔でそれに続く。
「み、みんなぁ···!」
 ドレスの胸元をギュッと握り感嘆するコティアーシュ。その思いを握り締めるように、晶叉同様、掌の中が琥珀色の輝きに滲む。

「アキサ!私と!···私と宝甲で繋がって下さい!私がアキサの···アキサの召喚琥珀になります!」

 コティアーシュの心臓の鼓動が高鳴る。
 怪獣だった頃、AIだった頃とは違うエモーション。晶叉に届いたコティアーシュからの想文は、心の手紙と呼ぶにはひどく分厚い。
 人型だけに許された恋の第一歩は、バタフライエフェクトのように晶叉の鼓動にリンクする。



「「ウェラ! クノコハ! イマジミマージオ!シン!クロス!コラボイド!!」」

「カミイソメ!」「カミカマス!」


 光の粒子になってカミイソメに転送されるコティアーシュ。
 同じく光に包まれカミカマスの中に導かれる晶叉。

 二人が無意識に紡ぐ言葉は、思重合想シンクロスコラボイドとなって、カミイソメとカミカマスに新たな力を与えた。

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