神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

文字の大きさ
上 下
173 / 201
発(掘)進(行)!超琥珀神艦!

ファイナル アムアム

しおりを挟む

 〔なにっ!!〕

 ス!シャンッ!!

 〔!カ!ァあっッ!〕
 背中を押す程の圧迫感に気を取られるクイスランのエネスジュイガ。
 その隙を抜き胴一閃で縫ったのは、ロウズレオウの剣先だった。

 〔ク!フ!フフフ···〕

 ガクガクと誤作動を起こしながらロウズレオウの背中に向き直るエネスジュイガ。しかしクイスランはその背中を嘲笑う。

 〔ちぃ!ハズレだヨウ!?〕
 〔!···また偽物か!?〕
 
 ズヴォァアアアン!!

 エネスジュイガの爆発を背で受けるロウズレオウの目下、傾き始めたバドキャプタン柱の頂上には、エネスジュイガの錫杖が突き刺さっていた。




 ゴコォォォ···ンォォォォ!!


 天空に響いた断末魔。
 岩と岩がぶつかり合うようなその音は、アンバーニオンが放ったアルティメットレイデンによってへし折られたバドキャプタン柱の怨み節。


「弾道観測データ統計終了!モニターに出します!」
 ユーラティスブリッジの巨大な琥珀クラウクレスの中でコティアーシュがメインモニターに目配せすると、先程の突貫攻撃に関するあらゆるデータが表示される。
 その目眩めくるめくスライド表示ショーのスクロール速度は中々迅速なものであったが、表示されるファイルの片隅にあるQRコードのようなマークはクルー体内の宝甲と完全に同期リンクしており、クルーがマークと共に一目見たあらゆる情報は想文として宝甲が変換、記憶の中にバックアップとして直接二重定着し、個人差は若干あれどユーラティスの運用に必要な情報は即座に、そして確実にメンバー内で共有された。
「···どぅおお!ねじまがっとるの!オーバードの約1.2倍の威力、そしてオーバードもよく見えんかったが、最早生きモンには視認出来ん程の弾速!、よくぞ曲げた、ゲルナイド!」
 サブモニターに映し出されたアルティメットレイデンの弾道。
 実時間では一瞬の欠片ですらなかった弾速で駆け抜けた韋駄天の様子が、3D映像で明らかになる。
 ユーラティスの天獣像フィギュアヘッドから正面に向けて発射された雷電轟弾レイデンは周回から軽めの螺旋を描き、絶妙なタイミングで最下層のバドキャプタン砲口へ侵入、一気に柱の中程まで駆け上がる。だが···。
「···破壊率68%!!上部健在!!」
 ハグスファンの報告を聴くまでも無く、雷電轟弾レイデンはバドキャプタン柱の傾きの影響を受け、途中で内部から突き抜けてしまっていた。
 
 〔ごめん艦長おっちゃん!全部いけなかった!〕
 ブリッジに響く宇留アンバーニオンの声。
「!、構わんよ宇留!そっちは大丈夫か?」
 〔疑似黒宝甲アラワルくんは再起動中!けど、なんか気持ち回復が遅いような···?〕
「心配はいらん!目標のダメージも、半分獲れればイイ意味で想定外!連結したバドキャプタンの特性を考えれば神の領域の命中率じゃわい!···ハグスファン!柱の様子は?!」
「七割付近で折れたバドキャプタン柱が傾斜!落ちて来ます!!」
「ぬぅ···やはりの!連結を維持したまま質量兵器と化しおったわ!残り三割と言えど長さはキロ単位、海に堕ちればそれだけでも大波は必至······総員良く聞けぃ!本艦はこれより目標の喉笛に喰らい付く!全艦!全宝甲内ヒモロギング ドライヴ出力最大値で総リンク!飛び上がるぞコティアーシュ!···ファイナル アムアムじゃあ!!」

「······アィムアム!···アムアムしてあげますっ!!」


 ォガオオオオオオオオ!!
 
 コティアーシュが決意に満ちた表情でゴライゴ艦長の要請に応えるのに伴い、ユーラティスも同調して勇壮な雄叫びを上げる。
 そして全ての宝甲が出力を上げた事により、艦全体が一瞬眩い程に輝いた。

 ズシャアアアアアッ!

 爆ぜる海水の水柱。
 ユーラティスはランディングギアあ しを海上で一度屈伸させると太陽光集中収束砲レーザーを撒き散らしたまま上空に跳ね上がり、艦体をバドキャプタン柱が落ちて来る方向にグルリと捻って向ける。そのまま折り畳まれつつあった跳ね足スタビライザーの回転は複数のクロヴァウタン小隊を巻き込み、盛大に白い爆煙の列が空中に並んだ。

「うおぉっ!スゲー!戦艦が回し蹴りするトコ初めて見た!」
「いいから行くぞ藍罠!エッさん方ガルンシュタエンに先越されてる!」
「あっッっ!サぁセン!押忍!」
 多数の護衛機を蹴散らし、丁度ヴェスフィンプのダメージ箇所に飛び付いたゼレクトロンを駆る藍罠達が、その視線をユーラティスに留める。

 ランディング ギアあ しを畳み終え、背部の推進用琥珀柱を全開まで開いたユーラティスが天を向く。

 更に巨大感が増した青空の支配者たる威容は、纏わり付く夏雲の上をステップするように蹴散らし、その大きさからは予想も出来ない速度で上昇が始まった。そして艦体質量が受ける全ての空気抵抗の斬り込み役を引き受ける艦首衝角バウスプリットには、大気のリングまでもが現れている。



「しっかり掴まっておれよ宇留ぅ!アンバーニオンは砲台としての場所が割れておるから敵の攻撃に警戒を怠るな!?」
〔···あ、アィムアム!?〕

「ビィヴァ!バドキャプタン柱と顎の軸合わせだ!」

 ォウローォォォン!!

 キュドッッッッッッッ!!

 ある程度海面から離れるまで上昇したユーラティスは、本格的に推進波動を背部に向けて放出する。
 操舵手のビィヴァはハグスファンの指示に従い、高空から降って来るバドキャプタン柱の動きに合わせ、ユーラティスの艦体をゆっくりと回しながら予想攻撃軸を合わせてゆく。
「ビィヴァ!噛み付く瞬間に相対速度合わせ!サイズはこっちが上だがダメージは最小限に押さえたい!」

 ォーウ!

 次第にモニターの中で大きくなるバドキャプタン柱。コティアーシュは眉間が千切れそうになる程にモニターを睨んでいる。
「···アキサやみんなの居る海には、落とさせない!!」
 途端に輝き始める艦首両サイドの勾玉型宝甲。そしてそのあぎとは、宇留達アンバーニオンが掴まっている天獣像フィギュアヘッドの両脇で、ガシュンと同時に開いた。

勾玉型宝甲オクイゾメ双雷電轟ダブルレイデンチャージ完了!エネルギー流入量!現状の1/3!ネーサン!今です!」

「アィムアム!ファイナル アムアム!アムアム始めェェ!!」

「「「アィムアムッ!!オリャアアアアアアアアア!」」」

 グゴバグッッッッッッッッ!!
 ビャギギギギギギギギィィィ!!

 最初の噛み付き攻撃と同じく、落下して来たバドキャプタン柱のほぼ中央に喰らい付いたユーラティス。
 落下速度が穏やかになる中、噛み付きと同時に閉じられた輝く上顎オクイゾメからバドキャプタン柱に向かって、雷電轟レイデンのエネルギーが容赦無く流れ込む。
 雷電轟レイデンの輝きは雷紋のようにバドキャプタン柱の表面から内部へと侵食し、それぞれ機体の圧潰、爆発が始まる。すでに全体に流れた高圧電流によって作動不良が起き、既にバドキャプタン達は分離もままならないようだ。

 ドン!ヴォン!ズン···ヴァン···シュヴァァァ······

 やがて輝く雷紋の侵食はバドキャプタン柱全体に行き渡り、小規模な爆発も静寂に転じていく。そして思いの外静かに、バドキャプタン柱はユーラティスに咥えられたまま蒸発を始めた。

 

 ······
〔?···やった?〕
 天獣像フィギュアヘッドに掴まっていたアンバーニオン ナインウィング+NOI Zバレルは、徐々に消滅していくバドキャプタン柱の様子を伺いながら機体その身を乗り出した。

(ウルちゃん!ヒメちゃん!油断しないで!)

(コティアーシュ!?)
(どうしたのコティアーシュ!?)
 
 コティアーシュから宇留とヒメナに届いた想文。ただそれは、勝利の一報とはかけ離れた雰囲気を纏っていた。

(土地神様勘!アルティメットレイデンの弾道に影響を与えた敵の存在!!気を付けて!!まだ何か居る!)

「「えぇえ!!?」」




 ゼレクトロンとは別のヴェスフィンプ内部に突入したガルンシュタエン ティアザ。
 だが、暴風が吹き込む格納庫内には戦闘中の活気はおろか、機影やクルーの姿も無く、艦内は埃っぽく荒れ放題だった。

「···誰も居ない···なんだコレは?まるで廃艦処分寸前といった様相だな?何か分かるか?ガルン···?」
「解析中···直近で出撃した艦載機の痕跡も無し···けどなんだろうねもう!エシュタガをこんな埃っぽい所に招くなんて!」
「フフ··今の俺にはふさわしい帰省先かもな···?」

 シャリィィン!

「「!」」

 シャリィィン!

「······」
 突如ガラクタの奥から響く錫杖の音。そこにはいつの間にか、全身白ずくめの無貌巨人のっぺらぼうが一体、静かに立ち尽くしていた。



 
 







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)

あおっち
SF
  脈々と続く宇宙の無数の文明。その中でより高度に発展した高高度文明があった。その文明の流通、移動を支え光速を超えて遥か彼方の銀河や銀河内を瞬時に移動できるジャンプ技術。それを可能にしたジャンプ血清。  その血清は生体(人間)へのダメージをコントロールする血清、ワクチンなのだ。そのジャンプ血清をめぐり遥か大昔、大銀河戦争が起こり多くの高高度文明が滅びた。  その生き残りの文明が新たに見つけた地、ネイジェア星域。私達、天の川銀河の反対の宙域だった。そこで再び高高度文明が栄えたが、再びジャンプ血清供給に陰りが。天の川銀河レベルで再び紛争が勃発しかけていた。  そして紛争の火種は地球へ。  その地球では強大な軍事組織、中華帝国連邦、通称「AXIS」とそれに対抗する為、日本を中心とした加盟国軍組織「シーラス」が対峙していたのだ。  近未来の地球と太古から続くネイジェア星域皇国との交流、天然ジャンプ血清保持者の椎葉清らが居る日本と、高高度文明異星人(シーラス皇国)の末裔、マズル家のポーランド家族を描いたSF大河小説「メジャー・インフラトン」の前章譚、7部作。  第1部「太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!」。  ジャンプ血清は保持者の傷ついた体を異例のスピードで回復させた。また血清のオリジナル保持者(ゼロ・スターター)は、独自の能力を飛躍的に引き上げる事が出来たのだ。  第2次大戦時、無敵兵士と言われた舩坂弘氏をモデルに御舩大(ミフネヒロシ)の無敵ふりと、近代世界のジャンプ血清保持者、椎葉きよし(通称:お子ちゃまきよし)の現在と過去。  ジャンプ血清の力、そして人類の未来をかけた壮大な戦いが、いま、始まる――。  彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。  本格的な戦闘シーンもあり、面白い場面も増えます。  是非、ご覧あれ。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

底辺エンジニア、転生したら敵国側だった上に隠しボスのご令嬢にロックオンされる。~モブ×悪女のドール戦記~

阿澄飛鳥
SF
俺ことグレン・ハワードは転生者だ。 転生した先は俺がやっていたゲームの世界。 前世では機械エンジニアをやっていたので、こっちでも祝福の【情報解析】を駆使してゴーレムの技師をやっているモブである。 だがある日、工房に忍び込んできた女――セレスティアを問い詰めたところ、そいつはなんとゲームの隠しボスだった……! そんなとき、街が魔獣に襲撃される。 迫りくる魔獣、吹き飛ばされるゴーレム、絶体絶命のとき、俺は何とかセレスティアを助けようとする。 だが、俺はセレスティアに誘われ、少女の形をした魔導兵器、ドール【ペルラネラ】に乗ってしまった。 平民で魔法の才能がない俺が乗ったところでドールは動くはずがない。 だが、予想に反して【ペルラネラ】は起動する。 隠しボスとモブ――縁のないはずの男女二人は精神を一つにして【ペルラネラ】での戦いに挑む。

神樹のアンバーニオン

芋多可 石行
SF
 不登校から立ち直りつつある少年、須舞 宇留は、旅行で訪れた祖父の住む街で琥珀の中に眠る小人の少女、ヒメナと出会う。  彼女を狙う謎の勢力からヒメナを守る為に、太陽から飛来した全身琥珀の巨神、アンバーニオンの操縦者に選ばれた宇留の普通の日々は、非日常へと変わって行く···  今、少年の非日常が、琥珀色に輝き始める。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

タイムワープ艦隊2024

山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。 この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

処理中です...