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発(掘)進(行)!超琥珀神艦!
ユ ー ラ テ ィ ス
しおりを挟む笠原賀諸島沖合いの上空に到達した超琥珀神艦、ユーラティス。
全体像を覆っていた不可視化の迷彩、光珀幕の解除によって、全長約5890メートルもの巨体が露になってゆく。
その総重量は自重制御系、及び乙女心や空間固定システムの雑混在化に伴い精緻な計測が不可能であり、あまりの大きさ故に曖昧な推測でしか計れない。
艦体を構成する材質はその肩書通り、既知の琥珀巨神とは比べ物にならない量の琥珀宝甲で占められていて、艦体の先端から末端まで、鋭角的かつ流線型のディテールで統一されている。
艦首両舷には、一際巨大な勾玉型の巨大な【牙】が左右に一つずつ。これらはユーラティスの上顎、つまり重深隊の特殊潜水艦、鬼磯目のグラップルクローと同様のメカニズムコンセプトとして機能するらしく、戦闘形態の準備が整うと共にゆっくりと開き始めていた。
艦全体は虫のように頭、胸、腹と節毎に別れていて、胸ブロック部分には折り畳まれた二対の足のようなランディングギア、そして後方に伸びる巨大な一対の跳ね足も見える。
艦体各部表面には、レンズ状の砲口らしきものが多数並んで太陽光を反射している。そして通常の戦艦でいう所の第一第二主砲塔に相当する部分には、一際大きな琥珀の半球レンズが前後に一枚ずつ。そしてその後部には、宮殿のようなブリッジを丸ごとバリアーのように包み込む主琥珀球とその脇石のような見張り台、その更に後ろには琥珀のマストと、巨大な琥珀の帆が左右で四枚、太陽の方向を見上げている。
船体後部には推進機と思われる巨大な琥珀のトゲが複数並び、今や飛び出すのを待つばかりといった勢いを、その虚空に浮かぶ巨山のような威容に秘めていた。
「なんなのあの戦艦は!?あんな巨大なものに誰も気付かなかったの?まさか!アレが墓所で巨獣達が何かをしていたっていう···」
二度に渡る攻撃失敗と、崩れたバドキャプタン達のフォーメーション再構築に苛立つクイスランは、エネスジュイガが浮かぶ対流圏上層付近から見下ろしても大きく見えるユーラティスに、忌々しげな視線を注いでいた。
「バドキャプタンズ、フォーメーション再構築急げ!洋上の部隊は10%を残してあの戦艦を含めた琥珀の戦士どもに攻撃開始!ヴェスフィンプも前へ出ろ!今から私も下へ降りるわ!」
ヴァフォホッ···
「!」
対流圏の蒼に琥珀のマフラーがたなびく。
〔お前の相手は俺達だ···クイスラン!〕
〔!、貴ッ様ぁ···!〕
動きを止めたエネスジュイガのすぐ後ろには、通常形態のロウズレオウが浮かんで威圧している。エネスジュイガはじっくりと振り向きながら苛立ちのピークを言葉に変えた。
ヴン!ヴゥゥン!ヴフォッッンン!!
ユーラティスに睨まれ、アルオスゴロノ帝国の巨大空中戦艦であるヴェスフィンプタイプが三隻、観念したかのように突如姿を現した。
「よぉーやく取り巻きが出おった!バレバレじゃわい!何が存在感迷彩じゃ!」
「艦長!バドキャプタン柱!フォーメーションを再構築中です!」
「アノデクノボーは宇留とゲルナイドに信じて任せる!さぁて!そこで人類軍に注力しとる奴らも引き寄せてタカらせよぉぞ?···コティアーシュよ!太陽光集中収束砲スタンバイじゃ!コスト不可報告!ヴィブァ、なんだっけアレ!オモ?トリ?まあ、っ取り敢えず!横向け横!」
「アィムアム!」
オォーゥロォーウ!
グゴズズズ···
ゴライゴ達とは別のドライヴブリッジに居るヴィブァの操艦によって艦体が震え、メインモニターが景色をグンと面舵側に回して流す。モニターの向こうには既に多数の敵影が散らばり、小虫のようにユーラティスに近付きつつある。
「ソーラグラトニーセイル、作動良好、斉射36秒可能及びプラス上昇中!」
「誘導宝甲散布弾を鏑矢に装填!目標、見識内のアノ帝国所属物体!擁護目標、作戦中の国防重深隊!設定完了!」
ハグスファンのコスト報告に次ぎ、コティアーシュの入っている琥珀の中に次々とパラメーターが現れては消えてゆく。コティアーシュは報告しながら視線だけでその表示をタッチして高速処理を行い、攻撃の準備を推し進めている。
同時にユーラティスの主琥珀球の両サイドから、多節の琥珀柱がロープのように延々と伸びて海の中に潜っていた。
その先では···?
重深隊の旗艦、にじがね内でも、突如空中に出現した琥珀の超巨大空中戦艦に対する動揺が広がっていた。
墓所···コティアーシュがかつて引き揚げられた宮殿跡···おみやげとは···強くなるとは、まさか!?
ユーラティスを見た晶叉は、旅立った鬼磯目とコティアーシュの言葉を強く思い出していた。
予感よりも確信。体内の宝甲が晶叉の中でざわめく。
「まるで空飛ぶ琥珀の島だな!?あんなものまでが!あれも琥珀の巨神なのか?」
胡桃下がそう呟いたのは、敵部隊の殆どがユーラティスに向かったが故の些細な油断からであった。
「本艦直下にソナー感知!巨大物体が垂直上昇してき···は!早い!!」
「!、総員対ショック!」
ユーラティスの出現によって停止していた双方の総攻撃。そんな戦いの息継ぎを狙い、にじがねの目と鼻の先にいきなり飛び出して来たのは、アルオスゴロノ帝国の海戦兵器、クロエドゥマ型機動潜水艦だった。だが様子がおかしい。まるで高熱に伴う悪夢のように凄まじいスピードが乗っている。
「!、このキモい浮上速度、例のゼロ摩擦能力か?!」
オペレーターの執間に嫌悪感があろうが無かろうが、明らかに敵の奇襲は成功も同然である。
部隊の人員殆どが、こちらの詰みをほぼ同時に嘆く。だが、その時···。
クロエドゥマが海中から弾き出され、水しぶきと共に巨体が宙に舞った。どうやら何者かがクロエドゥマを海中から弾き出したようだ。
そして更に現れたもう一体の影が、クロエドゥマを叩いて空中で弄ぶ。
ゼロ摩擦力と自身の運動力が仇となり、両者の合間を滑るように跳ねるクロエドゥマ。
グァン!!!!
そんなクロエドゥマに飛翔体らしきものが直撃し、それは轟音を伴い一瞬にしてクロエドゥマの表面を滑って飛び去った。
だがその衝撃までは全て受け流せなかったようだ。
ゼロ摩擦力コーティングの内側で大きくひしゃげたクロエドゥマは、純白の爆煙を残してにじがねの上で砕け散った。
「助かった?!、今の攻撃、まさかあの琥珀戦艦からか?」
「こ、コイツらは···?!」
にじがねをクロエドゥマの脅威から守った二つの影。彼らは水面から首を伸ばす首長竜のように、にじがねを見下ろしている。
それは夫婦怪獣にして、ユーラティスの主琥珀球防衛の使命を与えられた存在。男神柱と女神柱の守護を背負う琥珀の巨神。
ギガミネンスピリッツ
女神柱 カミイソメ
男神柱 カミカマス
ユーラティスと彼らの示現を称えるかのように、琥珀色の煌めきが重深隊の周囲に降り注ぐ。
カミイソメとカミカマスは、牙のある頭部で重深隊を包囲する敵の軍団を睨み付けた。
明らかに動揺するディープトゥースの大部隊。二体の琥珀柱神はザプンと水中に没し、敵との距離を詰める。
そんなパニックに陥る敵の様子を窺っていたにじがねに、彼らが良く知る緊急通信が届いた。
「?!、九番メッセージ?、このチャンネルは!?···艦長!代々殿!鬼磯目です!鬼磯目から通信ですっ!」
「鬼磯目!マーティアからだと!?」
「!···どこから?!!」
「狼煙は、あの琥珀戦艦滞空地点の中央付近を示しています!」
「!、やはり···!」
オレンジ色のレーザー光線で無数の敵に対し応戦を開始したユーラティス。大いなる琥珀の女神となって帰ってきた重深隊の妹分の頼もしさを思うと、晶叉はユーラティスに笑顔を向けずにはいられなかった。
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