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発(掘)進(行)!超琥珀神艦!
フ ァ ン
しおりを挟むアルオスゴロノ帝国の居城、エガルカノル。
ソルジャーアクセスコントロールルーム。
琥珀神艦発掘現場に潜入したショトベデヘムを操り戦っていた皇帝エグジガンは、精神交換を行っていた装置を外し、声に上げず溜め息をついた。
溜め息といっても、今のエグジガンの体には呼吸器に相当するものは無く、会話する為だけの構造が必要的に体内に形成されているだけに過ぎない。
そんなエグジガンがまだ人間だった頃の郷愁めいた癖に呆れていると、暗がりからショトベデヘムが足早にドスドスと駆け寄って来た。そしてエグジガンの乗る台の側で片膝を突き、頭を垂れる。
「おぉ、ショトよ、よく戻れたな?」
アンバーニオン達との戦闘から、ゲートシード使用による異空間の扉を用いての退却に成功したショトベデヘムは、更にグッと頭を下げた。エグジガンは、まだ埃っぽいショトベデヘムの筋肉の隙間を頼もしそうに眺めながら、ショトベデヘムの意を汲む。
「戦果の件ならもうよい、ただ部下を使い捨てるのも能の無い話だ。琥珀の小僧どもがあの霊廟のある海底地下でゴライゴ連中とつるんでいる事が分かれば中々の収穫というもの···」
(なるほど···)
「?、シヅメか?」
ベデヘム4、シヅメの想文を受け取ったエグジガンの米噛みに、血管筋のようなものが浮き出る。口調こそ冷静ではあるが、眼差しは目に見えて厳しさが増していた。
(この度は我が傀儡をご利用頂きありがとうございます)
(···貴様らの血は相変わらず頭が痛む、早くこいつを引き上げさせろ。疲れてはいるが、アンバーニオン共からたらふく電気を土産に貰った帰りだ)
(それはそれは、今度相対した時にでもお礼をせねば···さぁショト、戻っておいでぇ?)
そのシヅメの一言通り、ショトベデヘムは頭を上げないまま音もなく立ち上がって後退り、室内の闇に溶けるように消える。
「···ふん、···戻ったぞクイスラン!作戦予定を繰り上げる。部隊と繋げ!」
エグジガンは去り行くショトの様子を見届けると、今度は別室のクイスランに作戦の変更を打診した。
配管が剥き出しになったエガルカノル内の薄暗い通路をひた走るショトベデヘム。
その時、彼が真下を通過しようとした頭上に渡された配管から、何者かが飛び降りて来て丁度肩の上に着地した。
「ご苦労!ショト!」
ベデヘム4、シヅメ人型中枢活動体は、走りながら僅かに顔を向けたショトベデヘムの頬に手を掛け彼を労う。
「ワルイがお前も出撃だ!続投とは全くヒトヅカイが荒いよなぁ?もう少しツキアットくれよ?···ん?」
ショトベデヘムは欠損の痕跡が顕著に残る口角から、オリーブ色に光る触手を突出させシヅメの手に触れさせた。
「!!」 ビグン!
シヅメの視線と肩の筋肉が一度大きく跳ねる。
ショトベデヘムは、琥珀神艦発掘現場でのあらゆる戦闘データを想文に添えてシヅメに渡した。
シヅメはどんな重要な情報よりも早く、その中にあったとある記録に注目する。
「···この周波数は···コティアーシュゥ!」
ワイルド系イケメンだったシヅメの表情が醜い笑顔に歪む。
「ニンゲンの声だが間違いなぁい!俺がアイツの声を聞き間違えるワケないもんなぁ?そぉーかぁ!ショトぉ!これを教えてくれたかったのかぁ?偉いぞぉ?!···コティアーシュ!コティアーシュゥ!ようやく分かってくれたのかぁ?俺の為に中枢活動体になってまで甦ってくれたんだなぁ?ぬフフ···楽しみだなぁ···ヌくふふ···」
シヅメは、まだコティアーシュが怪獣だった頃を思い出していた。
そして自らの意に沿わない彼女を手に掛けたその一瞬を、何度も、何度も······。
シヅメを乗せたショトベデヘムが駆け抜けた通路の先で視界が開ける。
そこにはショツベデヘム、ショツォベデヘム、そしてシヅメ巨獣体が彼らを待ち受けていた。
環巣 晶叉は自覚夢をみていた。
確か今はヘリで移動中だった筈だ。
ここはかつての実家。丁度今頃。
涼しい海風が当たる高台の古い洋風建築の家。こんな日は冷房を付ける必要が無いので、窓は全開に開け放たれている。
レースのカーテンが優しい海風に揺れ、裏道の向こうの森からは鳥の声が響く。
だがどちらも、ポッカリと空いた心の隙間を通り抜けて行くだけだ。
太平洋超震災以降、【推し】は歌う事をやめてしまっている。
ノートの上に直接頬を乗せた視線の先、ゆらりゆらりと靡くカーテンの向こうにある通信集音機器も、なにやら力無く瞼を閉じているような気さえする。
そして俺はここで視線の先に手を置いて、逃げるようにその機械から眼の焦点をずらしたんだ。
「?」
ここで記憶に無い事が起こった。
誰かが俺の後ろに立って、俺の手に手を重ねている。
家族はみんなお出掛け中。誰だ?しかし嫌な感じは全くしない。
遠慮がちに俺の手を包むその手は、熱くも冷たくもなく、ただひたす柔らかで安らかだった。
···かと思えば。
いきなり強く冷たいナイフのような風が、突き刺すように部屋目掛けて飛び込んで来て···········
「代々殿?」
「!!!」
ヘリの機上、補佐官である尾本の声で、晶叉は我に返った。
眠っていたにしては覚醒感が強い。まるでずっと起きていたかのようだ。
なのにまだ、【手】の感触がまだ残っている。晶叉はその高揚感を誤魔化すように、手の甲を擦った。
「ああ、すまない!えっと···?」
「お疲れのようですね?」
尾本は優しい口調とは裏腹に、下から抉るような目で晶叉を見てくる。
「いやぁどうもこういうのは慣れなくて···」
「!、あぁ···」
年上の部下に気を使う晶叉。対する尾本も気を使い返し、柔和な笑みだけでクスリと晶叉の言葉を大人スルーする。
「···代々殿、間も無く笠原賀拠点人工島付近です。···あれが見えますか?あれが重深隊の決戦旗艦、【にじがね】です!」
晶叉は少々霞む窓の外に目を凝らす。
沖合いにうっすらと映る拠点人工島を護るように、だいしろの二倍はある大きさの戦艦がお供の艦艇を周囲に引き連れている。
「あれが、にじがね···」
その中には徹底改修され、鬼磯目のような多節船胴タイプとなったおにかますの姿もあった。
「みんな···!」
晶叉はまだ感触が残る手の甲を握った。
するとその感触は晶叉の手の中に染み込むように、溶け合って消えていった。
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