神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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発(掘)進(行)!超琥珀神艦!

御、在ります所

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 心地好い重低音に混じって、コーラスのような声がエンジンルームを駆け抜け、そして遠ざかっていく。
 多くのエネルギーが経由するこの場所では、その強さによって空間に響く歌声こえが異なるようだ。

 琥珀神艦が本格的に起動した事により、エンジンルームのきらびやかさは更に増している。
 パズルパターンの壁面を支える発光する柱は、先程と比べて明度が上がっていた。等間隔に配置された鏡面仕上げ状の壁面は曇りが取れ、透明度が向上してこの場所を広く魅せるのに貢献している。エンジンルームは、さながら光やエネルギーが踊る王家の宮殿。その舞踏場のようだった。


 そんな美しい光景に目もくれず。
 ゲルナイドこと月井度 アラワルは、仄かにオレンジ色に輝く床面に大の字で寝転がり、右腕で目元を隠し敗北の慟哭を押し殺していた。

「···っく!カッコわるぃ!あれだけ!あれだけ見栄を切っておきながらっっ!くっふっ···!!」

 男泣きに歯は喰い縛られ、頬は涙で濡れている。
 それだけ現は本気であり、真剣に向き合っていたのだ。
 宇留は現の側にしゃがみ込み、彼に微笑みを向けていた。この琥珀神艦と共に、心に火を灯してくれた友。その心意気に返礼すべく、熱き勝者として涙が液体であってはならない。だが一応のけじめのつもりでも、宇留はもらい泣きを必死で堪えているだけである。
 感覚の上では出会ってまだ一年未満である二人だが、その実百年程の因縁に今、ハッキリと形が付いた。

「······ありがとう、アラワルくん···やっぱりアラワルくんはイイ所で焚き付けてくれるなぁ···」
「······」
「···アラワルくんもさ?初めて···って言ってもちょっと違うけど···まぁ初めて戦った時でいいか!俺と···俺と同じで、アンバーニオンの事を知った時、いてもたっても居られなくて俺達と戦いに来たの···?」
「······」
 現は宇留が間を持たせる限界寸前まで溜めてから、ようやく返答を返す。
「······ああ···ゴライゴさまがまだ早いと仰っていたように、お前と同じだ。未達成のシステム、未練の使命に導かれた。ただ···ただ、それだけ···」
「なら次の仕返しは、アラワルくんだけの本気の願いだね?」
「!」
「いつでも待ってるよ!今度は、イイ方を選ぼう!アラワルくんがそうしろって言ってくれたんだよ?どうせ長い道なら笑って行こうよ!」
「···須舞!···宇留···!」
 
 目元を覆っていた腕を除け、現は上体を起こす。目の前には既に、手を差し伸べる宇留の姿があった。
 現は表情を正し、宇留の手を取って立ち上がらせて貰う。そしてその勢いのまま、遠慮がちな袈裟懸けハグで現の身体を受け止める宇留。

「顔、斬っちゃってごめん!···やっと謝れた···これからもよろしくね?アラワルくん!」

「······こ、こ、こっちこそ、エギデガイジュの···ガルンシュタエンの初戦で、い、色々···」

「あー!!やっぱり乗ってたんかーい!!」
「な!!!」
 現が油断した瞬間。宇留は現の両肩を鷲掴みにしてガクガクと揺さぶりながら、怪獣のようなギャグ顔で怒り出した。
「やっぱりかー!どっかで見た事のある動きだと思ってたんだよ!捕まえたぞこのフッカツハンニン!ヒメナがすごい困ってたんだよ!じゃなきゃこんなに怒ってない!さっきヒメナがどうこぉ言ってたよね?!どの口がぁ!!」
 現もそんな宇留に逆ギレし、負けじと怪獣のようなギャグ顔で宇留と額を突き合わせて睨み合い怒鳴り返す。
「こ!こういう時はただ許しあうもんじゃないのか!?しょうがないだろ!俺は当時帝国所属の一員として真面目?に仕事をしただけだ!だいたい引き摺り過ぎだぞ!ヌシサマのお褒めのお言葉を忘れたか!?」
「「がるるるるる···!」」
「やっぱり···」
「お前というヤツは···」
「「気に喰わん!!」」

 一言発する度に巨大化していく二人のギャグ顔。その時、言い合いに割って入ったゴライゴの通信こえが、更に火に油を注いでしまう。

〔···ぉほ!喧嘩する程仲良き事は、美しきかな?♪〕
「「仲良くありません!!」」
 ほぼ同時に上を向いてツッコむ宇留と現。その言葉とは違い息はピッタリである。
〔あ、ああ、そ、そうなの?〕
「あとおっちゃん、なんか今のちょっと違う。合体してる合体してる」
「な!お前!ゴライゴさまに向かって···!」
〔ぃやぃや、すまんのぉ宇留よ?もっと勉強しておくわい。···それはそうと二人共!フッカツハンニンだかスットコドッコイだか知らんが、搬入路に侵入者じゃYO!ディラレド班長を始め数名が負傷してしもうた!現在、何者か手練れが一名交戦中じゃ!できれば見に行って欲しいんじゃよ!〕

「!」「!」
 宇留と現は喧嘩をやめ、真剣な表情で見つめ合う。
「行こう!アラワルくん!」
「ああ!」


 宇留と現を乗せて立ち上がるアンバーニオンとNOI Z。
 二機は壁に向かって走り出し、琥珀神艦の外へ出る事を宝甲結晶構造体に願う。
〔転送!〕
 ゴ─────────ン!!
〔!あ痛ぁぁぁ!!〕
 寺社の鐘の音のような轟音と共に、アンバーニオンがエンジンルームの壁にしたたかに激突した。
 顔面を両手で押さえ、のたうち回るアンバーニオン。NOI Zは別の壁際に片手を添え、倒れたアンバーニオンを見下ろしている。
〔こっちだ!アンバーニオン!先に行っているぞ!···ぷフッ···
 微笑を残し、琥珀の壁に溶け合って消えていくNOI Z。よく見るとその壁は、何か出入口のように思えるディテールが施されていて、たとえ何らかの転送技術を応用した出入りであっても、そのゲートの位置は決まっているようだ。
〔くっそー!笑ったなー?アラワルくん!確かにこれじゃスットコドッコイだ!〕
 アンバーニオンはキビキビと立ち上がり、ゲートを通ってNOI Zの後を追う。






 アキサ······




 琥珀神艦のメディカルルームでは、息をしていないコティアーシュ中枢活動体を介抱する為、レミレタとバコナ、そしてヒメナがストレッチャーの周りでてんやわんやしている。身体は長い髪のドレスごとアルミの保温シートでくるまれ、口の周りだけが露出している。酸素マスクや蘇生キットを持って来たバコナが、まるで春を宝石にしたような初々しい唇に見惚れながら顎に触れて開口しようとした時、コティアーシュの呼吸器はいきなり活動を開始し、空気の吸入を始める

 スゥ─────────···

「、!コティアーシュ!」


 みんな······

 ヒメナの声に返事をするように、コティアーシュは仰向けになったまま背筋を仰け反らせ、美しい声で発声した。


「ハ─────────!」





 バギャギャギャギャギャッ!!!

 琥珀神艦発掘現場搬入路。第二水密用スペース。

 フードの怪獣と激しい戦いを繰り広げるショトベデヘム。
 砕ける岩と土埃の中から飛び上がったショトベデヘムの動きが、ビクンと一瞬止まった。
「?、どうしたショト?敵は速い。動きを止めるな?」
 ショトベデヘムの体を操る者が、まるで忠犬でもあやすかのように語る。しかしその優しげな台詞とは真逆の印象の行動に、フードの怪獣を操る者はドン引きした。
 自らブチブチと口角の触覚を引き千切ったショトベデヘムは、その二本の触覚を纏めて片手で持ち、頭上でブンブンと振り回し始める。
 一通り振り回し終えた触覚の束を構えたショトベデヘムが手にしていたのは、触覚を利用して構成された剣のような武器だった。そして次の瞬間。

 ビシッ!!

「!」
 フードの怪獣の頬を、ショトベデヘムが放ったマッハ突きの剣がギリギリ掠める。
 フードの縁が破け、そして顔が半分だけ覗いた。

「やはり貴様か?ロウズレオウ· · · · · ·?」
「!」
 フードの怪獣の正体はツツジ色のライオン忍者、ロウズレオウだった。しかし何故か体高が普段より三十メートル程低い小柄な体型だった。ロウズレオウはすぐに直ったフードをもう一度被り、ショトベデヘムから距離を置く。
 だがその足には既に、しなった触覚剣の先が絡み付いていた。
〔くっ!〕
 触覚剣によってそのまま引き戻されるロウズレオウ。ショトベデヘムは全力で殴る溜めの姿勢を取り、ただ向かって来るロウズレオウを待ち構える。
 
 フッ······

「!」「!」

 ガキィンッ!!

 ロウズレオウとショトベデヘム。
 そしてその合間に立った者。
 ショトベデヘムの拳とロウズレオウの吹き矢ナイフ。それらを両腕の手甲で防いでいたのは陰陽の琥珀の巨神。

 アンバーニオン ジェット·ジャック·ジョイント。

 そして宇留達とショトベデヘムの視線が交差する。
 この眼差しは何処かで···?
 宇留と現がそんな事を思っていると、アンバーニオンの背中から機体を周り込ませ飛び出したロウズレオウが、思い切りショトベデヘムを蹴り飛ばした。
〔アンばーニヲン!〕
〔はい!〕
 ロウズレオウから響くスフィの声に阿吽の呼吸で反応した宇留は、ロウズレオウに続くようにアンバーニオン の掌から雷撃レイを乱射する。

 バシュバジュバシュバジュバシュバジュバシュバジュバシュバシュバジュ···!!!

 二機が同時に乱射する紫電のシャワーによって、第二水密スペースの中心部へと押し込まれていく防御姿勢のショトベデヘム。
 怪獣は電気エネルギーを摂取する事が出来るものの、二機が放つ乱射の圧力は一度に吸収出来る量を遥かに超えてショトベデヘムを押し込んでゆく。

「今だっ!」
 ピィィ────────ッ!!

 フードの怪獣ことロウズレオウが、吹き矢の筒を口元に咥えて笛のように吹き鳴らす。

 ピッ!ドンンンッッ!!

 ド!ミシ!バギガギボゴギガキキッヴァキ!!

 天井の岩盤に多数突き刺さっていたかんざし型爆弾のナナカマド風レリーフが笛の音に反応して紅く発光し、簪の内部で起爆した爆発の威力は岩盤の隙間を単一方向に貫いてひび割れ、岩盤を容赦なく割り砕いた。

 ベキャン!ドゴコッコ·ココ··ドココ!!ドン!ズドッ!

 第二水密スペースに降り注ぐ、大小様々な岩の雨。
 ロウズレオウはアンバーニオンと共に、発掘現場行きの水密扉まで全速力で飛び退く。


「ぬぅ···?」
 ショトベデヘムはずっと上を向き、落ちてくる岩の塊を眺めている。
「ここまでとは、つまらん、しかしよくも我々を足止め出来たものだ。さぁ帰るぞショト。ゲートシードを噛み潰せ!」

 ···ケキッ!

 ショトベデヘムの口内でゲートシードが噛み潰される頃。
 一際大きな岩が彼の頭上に迫る。

 その爆煙と共に降って来た巨大な岩が地面に落ちて弾んだが、ショトベデヘムがその岩の下に封印されたかどうかは、また次のお話······。















 
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