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発(掘)進(行)!超琥珀神艦!
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しおりを挟む水の中に投げ入れた鉛の塊が、当たり前のように深淵の闇へと沈んでいく。
そんな虚無感にも良く似た、暗く厳しい眼差し。
その眼差しに射すくめられてしまっていたと自覚する頃、班長獣は腕の痛みがこれまで培って来た経験値の叫ぶ悲鳴である事に心底失望した。
「ぐ!がああ···ベデヘム···?···だと?」
一撃で部下達の意識を奪ったショトベデヘムの触覚の鞭。
続けてディラレドの右腕を貫いたその触覚の持ち主の顔は、いつの間にか目の前にあった。
「···道の中心、王道を歩む俺を見て顔色を変えたのはキサマだけだ。そこそこの一角と見受ける。恩に着れ」
「な!ガァぁ···!!」
ピシュンと音を立て、もう一方の触覚がディラレドの首に巻き付き締め上げ、軽々と巨体が持ち上がる。ディラレドはその触覚を左手で押し退けようとするも鞭のしなりは既に鉄芯のように、嫌になる程固まっていた。
「一応聞いておこう、キサマら、こんな霊廟に集い何をしている?ゴライゴはどこだ?」
「ぐ!し、···知らねぇなァ···?」
「······」
「···!」
ショトベデヘムは沈黙だけでディラレドの虚勢を圧迫した。ディラレドの瞳孔に僅かな怯えが滲む。エビ頭の目では無い方のもうひとつの眼差しは、更に強化されるであろう脅迫の懸念をディラレドに叩き付ける。
「···む?」
だがその追い討ちは、ショトベデヘムの些細な余所見によって延期された。
倒れていた怪獣達の姿が無い。
次に感じたのは、何者かが気配を操る雰囲気。ショトベデヘム、もといその体を操る者の記憶には、この雰囲気を操る怨敵の予感が過っていた。
「!!」
ショトベデヘムの体が勝手に反応して、やや仰け反る。
目の前で口角から伸びた触覚が両方共に砕けて折れ、ディラレドが解放された。
続けてバックステップで飛び退くショトベデヘムの足下には、トストスと円錐状の矢が次々に突き刺さりながら追って来る。
ショトベデヘムは長い距離をバク転宙返りで逃れ、相手の射程から距離を置く。
岩影から飛び出して来たその怪獣は、頭部や胴体をフードで覆っていた。
片手には吹き矢の筒を持ち、影で顔の見えないフードの中からは刺すような視線が溢れ出ている。
フードの怪獣は倒れ込むディラレドを庇うように前に立ち、吹き矢の筒を逆手で持って構えた。フードの怪獣はディラレドの傷を一瞥し、怒りの声をショトベデヘムに向ける。
〔おまエ!職人の腕をゥ!〕
フードの怪獣が女性の声で叫んだ。ショトベデヘムは、指先で掴まえていたツツジ色の矢とフードの怪獣を交互に見る。
「···巨獣が職人とは笑止!志しの道に、名乗り誇る充足と終わり無し!」
その怒号と共に、ショトベデヘムの口角から触覚がズヒュルルと再生した。フードの怪獣はジェスチャーでディラレドに逃げるよう促し、ディラレドは傷口を押さえながら「すまん」とだけ告げて搬入路を戻って行く。
〔···そりャあなたが決める事じゃなくてヨ?〕
「今日はどうした?奴じゃないな?」
〔借り物の体で偉そうに語る奴ニャ、一人で充分ヨ!〕
フードの怪獣が持つ吹き矢の筒から、毒々しいツツジ色の短刀が突出する。
逃げるディラレドは、今、自身の背中を押した凄まじい決闘の覇気を感じて思わず一瞬振り返る。
刺客の威風堂々さもさることながら、あんな奴が発掘チームに居たのか?とも思う一方、ディラレドはベデヘムのとある噂。皇帝とベデヘムシリーズの繋がりについて考えていた。
バギョン!パギョン!ガキョン!ドヴァギャンッッッ!!
アンバーニオンとNOI Zの連続ハイキックが幾度となくぶつかり合い、いつしか繰り出されたNOI Zの直蹴りが腹部をガードするアンバーニオンを弾き飛ばした。
腰を落として片手で地面を掴み踏み留まるアンバーニオンの眼光が、チラチラと舞う宝甲の塵の中でギラリと灯る。
〔···だからアラワルくんはマジメくんなんだってば!今はお祭りだよ、お祭り!へへぇ?無礼講も嗜めないんじゃ?ヌシサマに喜んでもらうような夢なんて、とてもねぇ?〕
どうやら宇留は火が付いていないと言われたのを根に持っているらしい。
〔なんだと!···夢を、見たら悪いのか!アンバーニオンッ!!〕
〔ゲルナイドォ!!その言葉!そっくりそのまま返すもんねー!うがあああっ!!〕
ガゥオオオオオオオオ───!!
ヴォゴァアアアァァ─────!!
ズドゴッ!
ほぼ同時に腰を落として片足を引き、蹴り足をエンジンルームの床に叩き付けたアンバーニオンとNOI Zが吠え合う。
宇留にとってNOI Zの咆哮は、初めて戦ったあの洋上のゲルナイドを彷彿とさせるものだった。
ガィィン!!!
万感を尽くした蹴り足から弾き出された踏み込みは、鋭いタックルとなって二機を加速させる。
そのまま真正面から頭突きで衝突するアンバーニオンとNOI Z。
ウリュ─────!!
ゲルナイドー!!
決闘を見守っていたヒメナとコティアーシュが声にならない声を上げる。
ッッブ···ガッッッ!!
グッ!グァゥッッッ!!
ゴギィィィッッ···ン!
次の頭突き、ギシャリと音を立てて両者の頭角が砕け散る。
さすがにこれが効いたのか、アンバーニオンもNOI Zも一度背筋を伸ばして立ち尽くし、すぐさまシャラシャラと再結集する宝甲と疑似黒宝甲が頭角の復元を始めた。
壁際に立つ怪獣の子供達も、目を潤ませながらそのキラキラに憧れの視線を送っている。
「···」「···」
互いの操玉でフラフラと揺れる宇留と現。暗黙の了解か、先に頭角の再構成に成功した方が決着の一撃を放つ事が出来る雰囲気が満ちる。そんな時、宇留がなにやら口を開いた。
〔悩んでも···悪いのか?〕
〔···悪くない···それだけ真剣に向き合ってるって事だろう?俺達は···〕
〔みんなに···笑っててほしいだけだよ?!〕
〔ああ、その通りだ〕
〔じゃあなんで委員長に···〕
「!」
〔林間学校でノイズのビット渡そうとしてた時、委員長、スッゴい良い表情してたんだよ!知らないでしょ?何であんないい表情向けるのがその時その場に居ないアラワルくんじゃなくて俺なんだよって!ホントもうふざけんなよ?って思ってたんだけど?〕
「なっ···!!!」
現は頬を赤らめて挙動不審に陥った。だが両機共に頭角の再構成速度に変化は無く、じきに元通りになるだろう。現はやっとの思いで言葉を探し、宇留にアンサーを返す。
〔···須舞 宇留、お前だけが泣いてると思うなよ?〕
「!!」
〔レミレタさん達が来た時、お前は見てすらいなかったが琥珀の姫は泣いていた!お前だけが悩んでるなんて言わせないぞ!それに気付かなかったのか?さっきの琥珀人形のパイロットは、琥珀の姫だ?〕
「─────!!」
あの人懐こいコハクルーの仕草がヒメナのもう一つの一面。
宇留の胸中にアハ体験が猛烈に溢れる。今はここに居ない大切な人への尊さで感情が溢れ、心拍数が落ち着かない。
そんな言い合いの果てに、二人は何かを掴んだようだ。
アンバーニオンとNOI Zの砕けた頭角も、ほぼ同時に修復完了した。
「···そうか···思いある者は···」
「愛しい···の元でお互い様か···」
スゥ···と一呼吸置く両機。
次の瞬間、宇留も現も腹の底から声を張り上げていた。
「ぅわっっしょおおおおおおおおおおおぃ!!」
「うぉわああああああああああああああ!!」
エンジンルーム内を吹き荒れる衝撃波の嵐。
二機共にパンチを繰り出したようだが、拳速が速すぎてどのようなパンチを打ったのかすら判別出来ない。その一撃の正体は、黒い塵を乱雑に掻き回して吹き飛ばした衝撃波の風だけが知っている。
二機の演武をモニターしていた仲間達ですら、その光景に唖然とするしかなかった。
全身の宝甲がひび割れたアンバーニオンは両膝を突き、四つん這いになって踞る。そしてそれはNOI Zも同じだった。
そのアンバーニオンの胸の下で光が明滅する。NOI Zは胸の三日月型レリーフがボロッと外れ、床面で砕け散る。そして明滅の中からは宇留が、砕けた三日月型レリーフの中からは現が飛び出して来て走り出す。
「うおおおおおおおおおぁ!」
「ぃああああああああっ!」
二人は一直線にお互いを目指して走り切り、出会うと同時に最後の一撃が衝突する。
その振りかぶられた彼らの手先は、眩い琥珀色に輝いているように見えた。
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