神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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番外編

サン スニーズ

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       番外編





「っっぶぇぇっくしょいぁぁい、ちくしょーイ!!!!」

 太陽の表面でエネルギーのお裾分けに預かろうとしていた超々巨大宇宙生物(ここではコードネーム、ビジター9GoT0094Aと呼称する)は、その時起こった微弱な紅炎プロミネンスに鼻先のような場所をくすぐられ、小さな惑星程度なら破局的大惨事になってしまうであろう威力のくしゃみをしてしまった。

「あっ!やべ!」

 くしゃみのようなものの直撃を受けた太陽の表面は衝撃で大きくうねり、それが原因で起こった大爆発により剥離し吹き飛ばされたプラズマガスが、彼の体表をそこそこ強い威力で駆け抜けて行く。
 

「おわぁ!フレアっちゃった!でもこの威力···俺に戦闘プログラムが無くて本当によかった···」

 その太陽風を見送るように振り向いた彼の瞳らしき器官を構成する部分には、遠くで青く輝く星、地球が写っていた。





 PM 20:24  I県玖鋸羽くのこは村。詩織夢岳しおりゆめだけ山頂展望台パーキングエリア付近。


 一両日中に発生した大規模太陽フレアは、極地のみならず普段磁気嵐を気にする事は無い地域にまで低緯度オーロラを発生させていたん。



「すっげー!まさかI県でオーロラが見れるとは思わなかった!」
 暗がりで顔がよく見えない青年は、マゼンタ色のオーロラが揺らめく夜空を見上げ、まるで少年のように感嘆する。

「ほー!れいほーん!みー!」
 青年の後に付いて展望台の階段を上がって来た、こちらも暗がりで顔が良く見えない女性は、なにやら呪文のような言葉を唱えた。

 すると突如現れた蛍の大群が、発光器を蛍光グリーンに輝かせながら展望台の周りを飛び回り始める。
「うわああ···!」
 女性は大人気おとなげない声で喜ぶ青年を嬉しそうに見つめながら、翳した指先をタクトのように振った。
 蛍達は光の帯のように纏まって飛び去り、千載一遇の天文ショーに光の花を添えた。

「みんなーん!ありがとーん!」
 青年にフワッと寄り添い、飛び去って行く蛍達に礼を言う不思議な女性。その距離感的に、二人は恋人同士のようである。
 
 二人はその気になれば極地にまで直接オーロラを見に行く程の力を持っている。更に本気になれば、太陽方面へ直接太陽風を感じに行く事も。しかし二人の意見は完全に一致していた。

「「I県でオーロラを見る事が重要なんです!」ん!」

 当初、今回の太陽フレアによる低緯度オーロラ予報は、東北での発生が予報されていなかった。
 しかしゲリラ的に磁気嵐の影響が東北以北等のエリアにまで及んだが為に、今日は意外にも専門家やアマチュアはおろか、一般人の見物人すら少ない。
 そのおかげでこうして展望台を貸し切りに出来る···!、と二人が思っていたのも束の間。展望台の手摺にはいつの間にか巨大なフクロウのシルエットがあった。
「あ!お父さんん!」
「え!!お父さん?!っえぁ!?」
 女性はそのフクロウを自分の父と断定した。

「こんばんはんはじめましてん、いつも娘がお世話になっとりますん」

「あぁ!いやぁ···その、コッコッコッ···こちらこそ···そのぉお世話になっております!」
 フクロウパパに恐縮する青年は、彼女の特殊な出自に思いを馳せながら、世間話に身を投じる。
「この御山は私の実家みたいなものですんからん!」
「そ、そう言えばそうッスよね?ん?これは···?」
 青年は巨大フクロウの足輪が、オレンジ色に光っている事に気付いた。
「これはアンバーニオンに貰った琥珀の足輪ん。どうやらこのオーロラに反応してるんジャロん?多分宝甲製は殆ど反応を示してるん!」
「この、オーロラに···?」
 青年は再び天空を見上げ、フクロウパパの足輪と交互にオーロラを観察する。青年もこの宝甲を持っているのだが、オーロラ見物デートの事を知った友人ツレは今日くらい使命ワスレヨと、青年の宝甲を何処かに隠してしまったのだ。
「···お父さんは昔ん、私のようにアンバーニオンと一緒に戦ってたんですよん!」
「はへぇー!そうなんですか!」
「今はちょっと腰悪くしちゃってん、それで娘に代を譲ったん。それでホラ、あの夜景が見えるジャロン?」
「?」
 フクロウパパは少し手摺の上をチャンチャンと横に跳ねてスライドし、片方の羽根を広げてやや北東の夜景を指し示した。そして説明の任が彼女に移る。
「ここから私の働く隊の隣街が見えるんですん」
「ええ!あの夜景辺り!A県なんですか?結構近いんスねぇ!」


「あ!誰か車で登って来たん!ドレ!蛍達がヒカレないようにしてくるカノン?お邪魔したん、ゆっくりしていけん···」
「あ!」
 全員が女性の勤め先の件を話題にしている最中、フクロウパパは羽根を広げ、音も無く闇夜に向かって飛んで行った。
 
「······」
 青年が気を使わないでいいのに···と思っていると、女性は青年に再び寄り添い、手を握ってきた。当然青年も握り返す。

「今来るお客さんに邪魔だって言われてもん私退きませんよん?今日は気の済むまでオーロラ見ますからねん♪」
「!!!」


 まだ付き合いはじめて日が浅い青年にとって、彼女の行動はグッと来ざるを得ない。そして今も、これからも、生まれ変わってさえ、何度でもグッと来る自信に溢れていた。









 ※夜間にこのエピソードを執筆中、近所でフクロウが鳴きました。今も鳴いています。今までも何度かこのような事がありましたが、新居に越して来てからは初めてです。







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