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発(掘)進(行)!超琥珀神艦!
燃え尽きぬもの
しおりを挟む多数の怪獣達が作業の為に往来する、広大な琥珀神艦発掘現場通路。
その片隅に集まったリーダー格らしき四体は円陣を組み、なにやら神妙な面持ちでミーティングをしている。
「···ええ、幸いというかなんというか、丁度打ち終わりで巻牙が止まった瞬間に巻き込まれたみたいなんで怪我をする程でもなく、螺旋筋肉の方もキックバックによる不具合も少なくて···」
宇留達とアンバーニオンが最初に参加した掘削作業チームの責任者を務めていた班長獣、ディラレドは、先程発生したインシデントの報告を他班のリーダー達と共有していた。
すると彼らの顔色を窺うように、一体の小柄な怪獣がそのミーティングの輪の中に入り込む。
「班長!今いいですか?」
「?、どうした?!」
「今日の荷物取りに行った奴らがまだ戻って来なくて!」
「ん?またアイツら過積載で張り合ってんのかァ?体重の40%にしとけっつったろ40%にもう!···じゃソウイウ事なんでこれで······いいか?ちょっとみんな付き合え!」
輪から外れたディラレドは、近くで小休止をしていた数体の怪獣に声を掛け、搬入路へと向かい始めた。
そして今度は別の伝令役が残された彼らの元へやって来て、その場の全員に小声で何かを伝える。全員がその伝令に驚き、リーダーの輪の中でも一際大きな体格の怪獣が慌ててディラレドを呼び止めた。
「おぉい!ディラレド班長!」
「?!」
「ローケン先生から直々です!近く【動く】かもしれんって!!それと···」
「!?」
大柄な怪獣は喉元を掴むジェスチャーをディラレドに向けた。
それだけで意味を理解したディラレドは眉部をギュッと潜め、動物に例えるならキリンにやや酷似した頭部に凶暴性が宿る。
「···お客さんのようだ、気を付けろ?」
「ウシっ!熱い茶でも出してやりまさぁ!」
「アイツらブジでいりゃいいが···」
「おーい!慎重にって事でぇ!!」
聞こえているのかいないのか?
すっかり戦闘モードになったディラレド達は、振り向かずに手だけを振って残る仲間に合図を送り歩き去る。。
「···やれやれ、こっちは巻き巻きだ!全員このストロークで打ち止めにして配置に着かせようか?!」
「ヘイ了解!···みんなァちょっと手を止めてくれぇ!実は······」
リーダーの輪は即座に解散し、関係各所の指揮を取る為持ち場に戻って行った。
異変を察知したリーダー達の動きを見て、作業中の怪獣達の間に動揺が広がる。
噂をし合う者、逃げ隠れする算段をする者、既に作業の目処を立てようとする者。
だがただ一体、頭にフードを被った一体の怪獣だけが、冷静な眼差しでディラレド一行を目で追っていた。
三日月型宝甲のハサミ、アンバーニオン版グラップルクローがNOI Zの腹部を捉えた。
だがNOI Zはそのハサミが閉じ切ってしまう瞬間に、全身を黒い霧に変えて難を逃れる。
琥珀神艦のエンジンルーム。
アンバーニオンとNOI Zの戦いは続いていた。
アンバーニオンは獲物を逃した悔しさを見せる事も無く、両手に持った三日月型宝甲を無闇矢鱈に振り回すパフォーマンスのような動きを経て、もう一度多数のNOI Zに向かって突進する。
NOI Zも負けじと分身達と呼吸を合わせ、全くブレの無い集団行動的なリアクションを絡め、向かって来るアンバーニオンを迎え撃つ。
演武。
この戦いは宇留と現、二人の決着であると同時に、この琥珀神艦を本格起動させる為の、仲間たる気概を奉納する儀式でもあるのだ。
そしてその儀式は順調のようで、壁沿いに立つ怪獣の子供達こと琥珀神艦の土地神達は、二機の戦いに対して大いにエキサイトしている。
ギビシリッッッッッッ!!
「!」
突撃していたアンバーニオンの動きが、突如その場でフリーズした。手にしていた三日月型宝甲もその場に落ちる。
キション!ヒュラ···カカカカッッ···
良く見ると分身した全てのNOI Zの指先から疑似黒宝甲の剛糸が出て、彼らの合間で絡まっている。アンバーニオンはその罠に自ら侵入してしまっていた。
「く!」
だがアンバーニオンは踠きつつも右手で捕まえていた黒い糸をグッと手繰り、NOI Zの一体を自身の近くへと引き寄せる。
〔···!〕
互いに力を絡ませたまま、至近距離で睨み合う二機。
その間に耐えきれなくなったNOI Zは、不本意そうに解答をアンバーニオンに告げた。
〔正解だ。このノイズが俺の居る本物だと分かっていて飛び込んで来たな?〕
〔くぐ···、これがホントのあっったりまえ!〕
〔だがまだヌルイな?これでは本当に火を付ける気があるのかどうか?〕
現が操る以外のNOI Zは瞬時に糸を薙刀の形へと束ね上げ、柄の部分を用いてアンバーニオンを押さえ込むように結集する。上から力に押さえ込まれ、膝の軋みが床面に吸い込まれそうになる。NOI Zはそんなアンバーニオンを見下ろしながら更に煽り続ける。
〔どうした!言い出しっぺ自体が悩みで湿ってれば、付く火も付かないぞ?いっその事、誰かに悩みごと燃やし尽くして貰った方がスッキリするんじゃないのか?〕
「!!!」
!!ッガウォオオオオッ!!!
グァイイィンッ!!
〔!〕
動いた事すら認識する事が困難な程のスピードで、アンバーニオンは自らの拳をかち合わせる。
その凄まじい衝撃波は現が操る以外のNOI Zを全て弾き飛ばした。
背部への浮遊能力を全開にして衝撃波に耐えるNOI Zは、明らかに自己崩壊対策の為のセーフティを逸脱したアンバーニオンのその攻撃を案じていた。しかしアンバーニオンは全身に多くの亀裂を生じさせながらも、ゆっくりと立ち上がる。
〔······燃え尽きて無くなる程度の悩みなら、よかったのにねぇ?〕
宇留のその言葉と共に、アンバーニオンの全宝甲面に生じていた亀裂が一瞬にして癒着再生する。
〔···ッ!ああ、全くだ!〕
迷い無くシンプルなファイティングポーズをこちらに向けるアンバーニオンを見た現の心が踊った。NOI Zも全く同じポーズを取って返す。
そして同じタイミングで踏み込んだ二機の足先が、同時に衝突した。
それでも構わず繰り出された右ストレートは、どちらからでもなく互いの頬にめり込んだ。
搬入路に辿り着いたディラレド達は一時黙り込んでしまった。
No.3と書かれた巨大な水密扉を背に、通路の中心を堂々とこちらに向かって歩む銀朱色のエビ頭の怪獣。
仲間達がディラレドを差し置いて吠えながら前に出るまで、ディラレドは何故この侵入者に対して躊躇ってしまったのか分からなかった。
「ま、待て!」
ゥガアルルルル!!
ォォォオオオッッ!!
威勢良くエビ頭の怪獣、ショトベデヘムに挑んで行く仲間達。
だがショトベデヘムは一切の動揺も見せず、ただ進んでいる。
それを見たディラレドは分かってしまった。そいつが圧倒的な存在だと悟ってしまった。
それは大切な仲間達が触覚の鞭に次々と弾き飛ばされた光景を見てしまってからでも同じで、その触覚に自身の腕を貫かれた後でやっと後悔が膨れ上がっていた。
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