神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

文字の大きさ
上 下
154 / 201
発(掘)進(行)!超琥珀神艦!

宝甲の灯

しおりを挟む

 通路の天井は琥珀色に輝いていた。

 この構造はメディカルルームの前。コティアーシュ、レミレタ、バコナの存在を近くに感じる。コハクルーは仰向けに倒れたまま全く動かない。視界の端には、どこか見覚えのある知らない文字が浮かんでいる。その文字から雰囲気的に伝わって来る内容は二項目。

 :担当エリア外の為 起動エリア周辺に強制返却転送を実行しました

 :バッテリー残少 2% セーブモード 共助待機中

 どうやらロルトノクの琥珀ヒメナを内部に隠したコハクルーは、琥珀神艦の動力機関部エンジンルームにアンバーニオンが転送された際、担当区外を理由に省かれてしまったらしい。

「は、はしゃぎ過ぎた···」

 せっかく宇留がアンバーニオンで大仕事を成し遂げようとしている時に···
 ヒメナは愕然としながら自らの戯れを悔いた。
 そんなコハクルーの視界に、ヒョコッと怪獣の子供のあどけない顔が割り込む。
「!···」
 怪獣の子供はコハクルーの頭に手を添えていた。ヒメナの頭にも優しく温かい触感が伝わる。
 と、その時、ヒメナはコハクルーのバッテリーが10%程にまで回復している事に気付いた。
「あ、あなたは···?」
 原理は不明だが、バッテリーの回復は大方この怪獣の子供の力であろう。そしてヒメナの脳裏には、この怪獣の子供達に感じていた違和感の正体が朧気に見えてくる。
 アンバーニオン搭乗時に目撃した彼らの体高はおよそ数メートル前後。だがアンバーニオンから降りた状況で目撃した時は等身大に見えていた。

 少なくとも、今この発掘現場に居る怪獣の子供達は実存していない。

「···変だと思った···引っ掛かっていたんだ···ゴライゴは戦わない巨獣もの本体コロシアムと共に避難させると言っていたから···それなら幼獣こども達がここに居るハズないもの···」

「♪」

 怪獣の子供は、ヒメナの言葉が正解であると認めるかのように、微笑むような表情になった。
 そしてヒメナの視界から頭部がスッと消えると、その代わりとばかりにノーマルモードのアイコンが視界ディスプレイに復活する。

「!、大丈夫ですか?」

 倒れているコハクルーに気付いた女性の近衛兵が、小走りに近付いて来た。
 傍らにガチャリと銃を置き、コハクルーを抱き起こす。コハクルーの顔前では、近衛兵が首から下げた琥珀のネックレスが揺れている。コハクルーの視界にはマークが現れ、顔認証のようにそのマークがネックレスをロックオンすると、なにやら文字と緑色のアイコンを表示した。

 ドックタグ?

 ヒメナがそんな印象を琥珀のネックレスにいだいていると、近衛兵の女性がレミレタの名を呼んだ。
「レミレタ隊長!こちらへ!」
 その呼び声とほぼ同時に、メディカルルームの扉を重そうに手動で開け、レミレタが驚いた顔を出した。
 未だ全機能が正常に動作していない琥珀神艦。本来は自動扉であったのだろう。レミレタは近衛兵の声を聞き、あらかじめメディカルルームの外へ出ようとしていたようだ。
「ああ、姫!どこまで行ってたの!」
「レミレタ!ごめんなさい!バッテリー切れちゃって···」
 もういいわ、大丈夫。と近衛兵の腕の中からコハクルーを預かったレミレタは、コハクルーを抱え上げてメディカルルームの中へ戻る。まず第一声、コティアーシュの声がヒメナを出迎える。
〔あ!ヒメちゃんオカエリ!ど、どうしたの···?〕
「バッテリー切れ···よぃしょ!丁度良かった。今、アンバーニオンとNOI Zゲルナイドがエンジンルームに入った所なの」
 レミレタはストレッチャーにコハクルーを寝かせると、脇の下のスイッチを押す。コハクルーの胸部ハッチがみぞおちの上に開いて下がり、内部のロルトノクの琥珀アンバーが姿を現した。途端に脱力したコハクルーの顔からディテールが消え、元の顔の無い構造に変化する。
 肝心な時に宇留と同行していないという疎外感にも似た申し訳なさからか、レミレタに取り出されたヒメナの表情は忸怩じくじたる思いに固まっていた。
「でね?ゴライゴ様もさっきお戻りになられたし、今から関係者でNOI Zの疑似黒宝甲ジェッティオンでリンクしてモニタリングする所」
「ごめんなさいレミレタ···ボクアンバーニオンあっちに行けば良かったかな?」
「大丈夫じゃない?何か気付いた事や意見があれば教えてくれれば···まぁ今回はこのフネとの対話というか、エンジンの現状を知る機会でもあるし、一回だけって事も無いし、···それとも、坊やだけじゃ心配?」

 ヒメナは子供のようにブンブンと顔を振って否定した。当然信じている。宇留の事を信じているのだ。





 琥珀神艦のメインエンジンルームと思われる空間。

 NOI Zは、床面に散らばっている黒い破片を拾い上げ、まじまじと見つめている。
〔これは···?〕
 炭のような錆のような、恐らくかつて金属だったと予想できる物質。アラワルはその物質のやけに等間隔に散らばった様子を見て、ある仮説を立てようとしていた。
〔まさか、これは···!〕
〔あれっ!?わ?ええ!?〕
「!!」
 その仮説をアンバーニオンの宇留に伝えようとした現は、宇留が驚いた声に、逆に驚かされてしまった。
〔ど、どうした!〕
 黒い破片を持ちながら、アンバーニオンの方を向くNOI Z。
〔あの琥珀のロボットさんが操玉コックピットに居ない!どこ行ったんだろ!?〕
〔?、そ、そんな事か?何処かで降りたか降ろしたんじゃないのか?!〕
 現は宇留の口調があまりにも深刻だった為、本気の心配を空かされた煽りを受けてつい語尾が荒ぶってしまった。
〔だといいけど···いきなり居ないのはちょっと寂しいな···〕
〔···ここでならまた会えるさ、それより見てくれ···〕
〔?〕
 NOI Zは掌の破片と共に、床面に散る黒い破片を見渡した。
〔···この破片、散らかってるというより、置いてある。並べてある感じ?〕
〔その通りだ、須舞 宇留。これは推測だが、恐らくこの破片は···〕
〔?〕
〔かつてこのエンジンルームのスペースを埋めつくしていた機構構造物···機械···だったものじゃないのか?〕
〔き、機械?この破片群ボロボロが?···だったとしたら、すごい時間が立って、こんなになって···じゃ!じゃあアラワルくんの予想通りなら!もうエンジン壊れちゃっててもう無いって事ぉ?!!〕
〔まだ···わからないがな?〕
〔ぁ······〕

 NOI Zが手に持った破片を再び見ていると、NOI Zの通信機能から豪快な声が聞こえてきた。

〔···こちらブリッジ!ゴライゴじゃ!聞こえるか二人ともぉ!!〕

 まるでNOI Zがゴライゴの声で喋ったように聞こえたが、現も宇留も嬉しそうにその声に応える。
「ゴライゴ様!!」
「おっちゃん!」

〔二人とも!お疲れ様ィ!いやいや!随分と待たせてしまったの〕

〔大丈夫ですゴライゴ様、それよりこれは···〕

〔まぁ確かに、朽ちた機械とワシも思うぞぉ?宇留はどうじゃ?琥珀の正当なる戦士としてどう感じるかの?〕

 ゴライゴのそんな問いに、宇留は自分でも不思議な位冷静でいられた。
 例えるならば、目の前の戸棚を開ければ、当然自身が予想したものが必ず入っているだろうという強い確信。
 ただ必要なのは、存在しないそんな戸棚の開け方だった。

〔うーん、そうだなぁ···?〕
 アンバーニオンは破片群から目を反らし、周囲を取り囲む美しい琥珀の壁を注視する。そして踞り、今度は床面を覗き込む。
 黒い破片の隙間から見える琥珀の床は、余裕でアンバーニオンの姿を照り返していた。

 ···ハッとする宇留。

「おっちゃん、アラワルくん!なんか、俺わかるかもしれない!」

〔なにっ!〕〔ほう!〕
 立ち上がったアンバーニオンは、NOI Zを通してこの予感を伝えずにはいられなかった。






 発掘現場の外れ。巨大な搬入用水密扉の前。

 作業中の怪獣達は、扉の奥に満ちた海水が抜けるのを待っていた。
 扉の中には、深海で海水ごと回収された耐圧コンテナが複数個、散らばっていた。

 その中の一つ。
 
 シヅメのしもべの一体であるエビ頭、ショトは、怪獣達が水密扉を開ける轟音を目覚まし代わりにして、コンテナの中で目を覚ました。












 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

底辺エンジニア、転生したら敵国側だった上に隠しボスのご令嬢にロックオンされる。~モブ×悪女のドール戦記~

阿澄飛鳥
SF
俺ことグレン・ハワードは転生者だ。 転生した先は俺がやっていたゲームの世界。 前世では機械エンジニアをやっていたので、こっちでも祝福の【情報解析】を駆使してゴーレムの技師をやっているモブである。 だがある日、工房に忍び込んできた女――セレスティアを問い詰めたところ、そいつはなんとゲームの隠しボスだった……! そんなとき、街が魔獣に襲撃される。 迫りくる魔獣、吹き飛ばされるゴーレム、絶体絶命のとき、俺は何とかセレスティアを助けようとする。 だが、俺はセレスティアに誘われ、少女の形をした魔導兵器、ドール【ペルラネラ】に乗ってしまった。 平民で魔法の才能がない俺が乗ったところでドールは動くはずがない。 だが、予想に反して【ペルラネラ】は起動する。 隠しボスとモブ――縁のないはずの男女二人は精神を一つにして【ペルラネラ】での戦いに挑む。

「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)

あおっち
SF
  脈々と続く宇宙の無数の文明。その中でより高度に発展した高高度文明があった。その文明の流通、移動を支え光速を超えて遥か彼方の銀河や銀河内を瞬時に移動できるジャンプ技術。それを可能にしたジャンプ血清。  その血清は生体(人間)へのダメージをコントロールする血清、ワクチンなのだ。そのジャンプ血清をめぐり遥か大昔、大銀河戦争が起こり多くの高高度文明が滅びた。  その生き残りの文明が新たに見つけた地、ネイジェア星域。私達、天の川銀河の反対の宙域だった。そこで再び高高度文明が栄えたが、再びジャンプ血清供給に陰りが。天の川銀河レベルで再び紛争が勃発しかけていた。  そして紛争の火種は地球へ。  その地球では強大な軍事組織、中華帝国連邦、通称「AXIS」とそれに対抗する為、日本を中心とした加盟国軍組織「シーラス」が対峙していたのだ。  近未来の地球と太古から続くネイジェア星域皇国との交流、天然ジャンプ血清保持者の椎葉清らが居る日本と、高高度文明異星人(シーラス皇国)の末裔、マズル家のポーランド家族を描いたSF大河小説「メジャー・インフラトン」の前章譚、7部作。  第1部「太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!」。  ジャンプ血清は保持者の傷ついた体を異例のスピードで回復させた。また血清のオリジナル保持者(ゼロ・スターター)は、独自の能力を飛躍的に引き上げる事が出来たのだ。  第2次大戦時、無敵兵士と言われた舩坂弘氏をモデルに御舩大(ミフネヒロシ)の無敵ふりと、近代世界のジャンプ血清保持者、椎葉きよし(通称:お子ちゃまきよし)の現在と過去。  ジャンプ血清の力、そして人類の未来をかけた壮大な戦いが、いま、始まる――。  彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。  本格的な戦闘シーンもあり、面白い場面も増えます。  是非、ご覧あれ。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

タイムワープ艦隊2024

山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。 この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!

神樹のアンバーニオン

芋多可 石行
SF
 不登校から立ち直りつつある少年、須舞 宇留は、旅行で訪れた祖父の住む街で琥珀の中に眠る小人の少女、ヒメナと出会う。  彼女を狙う謎の勢力からヒメナを守る為に、太陽から飛来した全身琥珀の巨神、アンバーニオンの操縦者に選ばれた宇留の普通の日々は、非日常へと変わって行く···  今、少年の非日常が、琥珀色に輝き始める。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

処理中です...