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発(掘)進(行)!超琥珀神艦!
宝甲の灯
しおりを挟む通路の天井は琥珀色に輝いていた。
この構造はメディカルルームの前。コティアーシュ、レミレタ、バコナの存在を近くに感じる。コハクルーは仰向けに倒れたまま全く動かない。視界の端には、どこか見覚えのある知らない文字が浮かんでいる。その文字から雰囲気的に伝わって来る内容は二項目。
:担当エリア外の為 起動エリア周辺に強制返却転送を実行しました
:バッテリー残少 2% セーブモード 共助待機中
どうやらロルトノクの琥珀を内部に隠したコハクルーは、琥珀神艦の動力機関部にアンバーニオンが転送された際、担当区外を理由に省かれてしまったらしい。
「は、はしゃぎ過ぎた···」
せっかく宇留がアンバーニオンで大仕事を成し遂げようとしている時に···
ヒメナは愕然としながら自らの戯れを悔いた。
そんなコハクルーの視界に、ヒョコッと怪獣の子供のあどけない顔が割り込む。
「!···」
怪獣の子供はコハクルーの頭に手を添えていた。ヒメナの頭にも優しく温かい触感が伝わる。
と、その時、ヒメナはコハクルーのバッテリーが10%程にまで回復している事に気付いた。
「あ、あなたは···?」
原理は不明だが、バッテリーの回復は大方この怪獣の子供の力であろう。そしてヒメナの脳裏には、この怪獣の子供達に感じていた違和感の正体が朧気に見えてくる。
アンバーニオン搭乗時に目撃した彼らの体高はおよそ数メートル前後。だがアンバーニオンから降りた状況で目撃した時は等身大に見えていた。
少なくとも、今この発掘現場に居る怪獣の子供達は実存していない。
「···変だと思った···引っ掛かっていたんだ···ゴライゴは戦わない巨獣は本体と共に避難させると言っていたから···それなら幼獣達がここに居るハズないもの···」
「♪」
怪獣の子供は、ヒメナの言葉が正解であると認めるかのように、微笑むような表情になった。
そしてヒメナの視界から頭部がスッと消えると、その代わりとばかりにノーマルモードのアイコンが視界に復活する。
「!、大丈夫ですか?」
倒れているコハクルーに気付いた女性の近衛兵が、小走りに近付いて来た。
傍らにガチャリと銃を置き、コハクルーを抱き起こす。コハクルーの顔前では、近衛兵が首から下げた琥珀のネックレスが揺れている。コハクルーの視界にはマークが現れ、顔認証のようにそのマークがネックレスをロックオンすると、なにやら文字と緑色のアイコンを表示した。
ドックタグ?
ヒメナがそんな印象を琥珀のネックレスに抱いていると、近衛兵の女性がレミレタの名を呼んだ。
「レミレタ隊長!こちらへ!」
その呼び声とほぼ同時に、メディカルルームの扉を重そうに手動で開け、レミレタが驚いた顔を出した。
未だ全機能が正常に動作していない琥珀神艦。本来は自動扉であったのだろう。レミレタは近衛兵の声を聞き、あらかじめメディカルルームの外へ出ようとしていたようだ。
「ああ、姫!どこまで行ってたの!」
「レミレタ!ごめんなさい!バッテリー切れちゃって···」
もういいわ、大丈夫。と近衛兵の腕の中からコハクルーを預かったレミレタは、コハクルーを抱え上げてメディカルルームの中へ戻る。まず第一声、コティアーシュの声がヒメナを出迎える。
〔あ!ヒメちゃんオカエリ!ど、どうしたの···?〕
「バッテリー切れ···よぃしょ!丁度良かった。今、アンバーニオンとNOI Zがエンジンルームに入った所なの」
レミレタはストレッチャーにコハクルーを寝かせると、脇の下のスイッチを押す。コハクルーの胸部ハッチがみぞおちの上に開いて下がり、内部のロルトノクの琥珀が姿を現した。途端に脱力したコハクルーの顔からディテールが消え、元の顔の無い構造に変化する。
肝心な時に宇留と同行していないという疎外感にも似た申し訳なさからか、レミレタに取り出されたヒメナの表情は忸怩たる思いに固まっていた。
「でね?ゴライゴ様もさっきお戻りになられたし、今から関係者でNOI Zの疑似黒宝甲でリンクしてモニタリングする所」
「ごめんなさいレミレタ···私はアンバーニオンに行けば良かったかな?」
「大丈夫じゃない?何か気付いた事や意見があれば教えてくれれば···まぁ今回はこの艦との対話というか、エンジンの現状を知る機会でもあるし、一回だけって事も無いし、···それとも、坊やだけじゃ心配?」
ヒメナは子供のようにブンブンと顔を振って否定した。当然信じている。宇留の事を信じているのだ。
琥珀神艦のメインエンジンルームと思われる空間。
NOI Zは、床面に散らばっている黒い破片を拾い上げ、まじまじと見つめている。
〔これは···?〕
炭のような錆のような、恐らくかつて金属だったと予想できる物質。現はその物質のやけに等間隔に散らばった様子を見て、ある仮説を立てようとしていた。
〔まさか、これは···!〕
〔あれっ!?わ?ええ!?〕
「!!」
その仮説をアンバーニオンの宇留に伝えようとした現は、宇留が驚いた声に、逆に驚かされてしまった。
〔ど、どうした!〕
黒い破片を持ちながら、アンバーニオンの方を向くNOI Z。
〔あの琥珀のロボットさんが操玉に居ない!どこ行ったんだろ!?〕
〔?、そ、そんな事か?何処かで降りたか降ろしたんじゃないのか?!〕
現は宇留の口調があまりにも深刻だった為、本気の心配を空かされた煽りを受けてつい語尾が荒ぶってしまった。
〔だといいけど···いきなり居ないのはちょっと寂しいな···〕
〔···ここでならまた会えるさ、それより見てくれ···〕
〔?〕
NOI Zは掌の破片と共に、床面に散る黒い破片を見渡した。
〔···この破片、散らかってるというより、置いてある。並べてある感じ?〕
〔その通りだ、須舞 宇留。これは推測だが、恐らくこの破片は···〕
〔?〕
〔かつてこのエンジンルームのスペースを埋めつくしていた機構構造物···機械···だったものじゃないのか?〕
〔き、機械?この破片群が?···だったとしたら、すごい時間が立って、こんなになって···じゃ!じゃあアラワルくんの予想通りなら!もうエンジン壊れちゃっててもう無いって事ぉ?!!〕
〔まだ···わからないがな?〕
〔ぁ······〕
NOI Zが手に持った破片を再び見ていると、NOI Zの通信機能から豪快な声が聞こえてきた。
〔···こちらブリッジ!ゴライゴじゃ!聞こえるか二人ともぉ!!〕
まるでNOI Zがゴライゴの声で喋ったように聞こえたが、現も宇留も嬉しそうにその声に応える。
「ゴライゴ様!!」
「おっちゃん!」
〔二人とも!お疲れ様ィ!いやいや!随分と待たせてしまったの〕
〔大丈夫ですゴライゴ様、それよりこれは···〕
〔まぁ確かに、朽ちた機械とワシも思うぞぉ?宇留はどうじゃ?琥珀の正当なる戦士としてどう感じるかの?〕
ゴライゴのそんな問いに、宇留は自分でも不思議な位冷静でいられた。
例えるならば、目の前の戸棚を開ければ、当然自身が予想したものが必ず入っているだろうという強い確信。
ただ必要なのは、存在しないそんな戸棚の開け方だった。
〔うーん、そうだなぁ···?〕
アンバーニオンは破片群から目を反らし、周囲を取り囲む美しい琥珀の壁を注視する。そして踞り、今度は床面を覗き込む。
黒い破片の隙間から見える琥珀の床は、余裕でアンバーニオンの姿を照り返していた。
···ハッとする宇留。
「おっちゃん、アラワルくん!なんか、俺わかるかもしれない!」
〔なにっ!〕〔ほう!〕
立ち上がったアンバーニオンは、NOI Zを通してこの予感を伝えずにはいられなかった。
発掘現場の外れ。巨大な搬入用水密扉の前。
作業中の怪獣達は、扉の奥に満ちた海水が抜けるのを待っていた。
扉の中には、深海で海水ごと回収された耐圧コンテナが複数個、散らばっていた。
その中の一つ。
シヅメの僕の一体であるエビ頭、ショトは、怪獣達が水密扉を開ける轟音を目覚まし代わりにして、コンテナの中で目を覚ました。
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