神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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発(掘)進(行)!超琥珀神艦!

血気の間

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 結局ヒメナはコティアーシュの所へ出掛けたまま、しばらく経っても戻らなかった。

 送ろうとした状況把握の為の想文も、働く怪獣達が放つ想文や念波の混線に阻まれ送れずじまい。
 ロルトノクの琥珀アンバーの所在地を知らせる視界の光点マーク機能を用いても居所は見えない。
 その事は大いに不安ではあったが、もしヒメナが自分に想文を送る用事があったとしても、恐らくは自分と同じ事になっているだろう、と宇留は無理矢理納得する。


 いつも通りに仮眠レベルの休息から目覚めた宇留は、詰所の玄関で自分のスニーカーと自走靴を見比べながら少しだけ悩んでいた。

 結果。自走靴を使わずに詰所の外ヘ出る事にした宇留。
 アンバーニオンを待機させている所まで歩いても五分程。時間は少しでも惜しいが、宇留には試したい事があった。
 日課のランニング代わりでは無いが、徐々にペースを上げていくイメージで走り出す。現段階で出せてみるだけのスピードの上限を目指す現状のスペック確認と持久力のプラクティス。
 宝甲の力は今どれだけの変化を自身の体にもたらしているのか?怖くもあれば興味も深い事。そして何かに集中していれば忘れられるつらい事···。

「···はやい」
「あ、アラワルくんおはよ!」
 トップスピードに乗る為に前のめろうとしていた宇留の橫に、現が自走靴を使わずに余裕で追い付いて来た。宇留は加速を取り止め、現と挨拶をした上で返答に聞き耳を立てる。すると予想通り、ノッケから皮肉風味の返答が帰ってくる。
「···よくこんな埃っぽい所で呼吸器を酷使しようとするな?まぁ、体内の宝甲で浄化でもするつもりなんだろうけど?」
「あはは···」
「須舞 宇留、昨日電話で俺達を呼び出した人間の事を知っているか?」
「そう言えば名前聞かなかったかな?」
「···アキサ殿のお兄さんだそうだ」
「え!マジで?!」
「ここには俺達巨獣以外にも、極秘裏に人間の技術者も出入りしている。全てあのキョウガミとかいう紳士のサシガネらしい」
「共上さんが···?···でも環巣さんのお兄さんって、アンバーニオンの宝甲こはくのカケラ勝手に使ったり、コティアーシュをお墓から起こしたり···」

 二人は会話しながら角を曲がる。ここまで宇留と現は、殆ど息が切れていない。
 すると張り合うように走る二人の少し後方に、チキチャキチキチャキと足音を立てて走る琥珀人形、コハクルーがどこからともなく現れ、彼らの背中を目指す。

「···」「···」
 その気配に振り返り、会話を中断して絶句する宇留と現。
 琥珀のボディである事から味方である可能性は高いのであろうが、笑ったような目元の造形を晒して走る奇妙な等身大琥珀フィギュアの登場は、宇留達に大いなる現実逃避を推すものであった。
 二人は関わりたくないかのように前を向き、汗ばみながら会話の続きを始める。

「······ま、まぁその辺りは、ゴライゴ様の沙汰に免じてっ···てその、あれだ、じっくり、向き合っていこう、と言うか?」
「う、うーん···そっか···でさ、アラワルくん、話は変わるんだけど···」
「ど、どうしたんだ?」

 そうしている間にも、コハクルーは徐々に二人との距離を詰め、それに応じて宇留達のスピードも逃げるように上がっていく···。

「なんか三人、いや!三匹組の怪獣でさ?こないだ林間学校の帰り、ゴライゴおっちゃんに会った日に襲って来た怪獣達が居てね」
「何っ!三匹組?すまん!飛行機のマユミコにビットを預けていたのに気付かなかった!」
「···まぁ···それはそれ···名前が、えっと?なんだっけ?確か、チピとかチャパとかドゥビとかダバとかなんとかみたいな名前の···?」
「ふ···増えてる···!」
「いや!とにかくそんな名前のような怪獣知らない?」
「···!、三匹?敵対する、三匹··組、だと?」
「?」
 現はハッとしたように目を見開き、何かを思い出しているようだ。
 そうこうしている内に、コハクルーは二人の背中に肉薄する距離まで近付いていた。
 既に宇留と現の走るスピードは、トップアスリートのそれに迫る勢いだった。宝甲と疑似黒宝甲によるドーピングもどきの影響下にあるとはいえ、中学生における非公式新記録レベルの加速を披露する宇留達。だが、コハクルーも決してそんな二人から決して離されずに余裕で付き迫る。
「わー!来たー!うわ!俺もすごいはやいよ俺!」
「うおお!なんだコイツは!」
 自身のスピードとコハクルーに怯える宇留と現。すると二人の視線の先に、アンバーニオンとNOI Zノイズが見えて来た。
「しめた!行くぞアンバーニオン!···ウェラ!クノコハ···!」
「こはくるぅ!」
「うわっ!喋った!」
「こはっくるぅッ!」
 コハクルーがマスコットのような可愛い声で喋った。驚く宇留と現。その声はヒメナが声色を変えて喋った声だったのだが、宇留はそれに気付かなかった。

「わああ!ウェラ!クノコハ!ウヲ!アンバーニオ···!」
「だーれだ!」

 アンバーニオンに搭乗する為に詠唱した宇留の両目を、コハクルーが後ろから両手で塞ぐ。
 宇留とコハクルーは、その状態のまま閃光と共にその場から消え去った。

「ふ、なんだか知らんが熱々だな?」
 現は突如出現した黒いクラゲ型ビットを右手で掴み、そのまま右拳を前に突き出し左手で右肘を掴む。
「イン!ドゥ!」
 強い握力に握り潰されたクラゲ型ビットは黒い粒子に分解されてほとばしり、次の瞬間、現の肉体は黒い次元の牙に屠られるように消えて転送された。



 アンバーニオンの操玉コックピット内部に宇留とコハクルーが現れた。
 コハクルーを内部から操るヒメナは、ここでようやくロルトノクの琥珀アンバーが、コハクルー内部に搭載されている事をネタばらししようと試みた。

「はぁ······一人でも、乗れちゃった···」
「!!!」

 宇留は胸に当てた拳を深々と胸にうずめるように、目を閉じて前のめる。声は切な気に上ずり、背中には哀愁が溢れている。
「は···!」
 そんな宇留の姿を見たヒメナの胸の鼓動が、ドキンと高鳴った。

 そしてアンバーニオンによる搭乗認証が行われたにも関わらず、機体アンバーニオンにも宇留にもコハクルーのパイロットがロルトノクの琥珀ヒメナだと気付かれていない事も妙だった。
 
 そうか···このコ···コハクルーは制御琥珀を搭載出来るだけじゃなく、数が多い故の鹵獲対策として、琥珀の巨神アンバーニオンですらぼくだと認識出来ない程の高いステルス性も持っているんだ······でも···ウリュ···ウリュは···!

 ヒメナは自分が消え行く運命だと宇留に伝えた時、卒業式の提案をするなど嬉しい反面、案外ドライなリアクションをする···と勝手に思い込んで心の何処かで少し冷めていた。
 だが実際はそうではなかった。今この背中が全てを物語っている。幼い体に永遠に迫るヒメナへの想いを乗せ、今を悩んでいる。
 ヒメナには、それを愛おしく思うなという方が無理だった。

「···こはくるぅ!」
「わ!」
 コハクルーが後ろから宇留の両肩を掴んで揺らした。宇留は笑顔で振り返り、ガクガクと恥ずかし紛れに腕を動かすコハクルーの腕の動きに身を委ねる。
「ごーごーぅ!」
「あはは!わかった!わかったよ!じゃあ一緒に行こうねぇ?」

 はしゃぐコハクルーの手を下げさせ、アンバーニオンを飛び立たせようと宇留が再び前を向くと、アンバーニオンの正面では既にNOI Zが出発の準備を終えて立ち尽くしていた。





「こっこっこ、こっはくるぅ!こっこっこ、こっはくるぅ···♪」

 指定された場所に向かって巨大な琥珀の船体を沿い、坑内を飛ぶアンバーニオンとNOI Z。
 アンバーニオンの操玉コックピット、宇留の後ろでは、コハクルーが奇妙な調子の歌と共におかしな踊りを踊っていた。

〔アンバーニオン、指定によれば、大型アクセスハッチのスイッチと推定される場所に青いマーキングが施してあるそうだ!···それより、ソイツは大丈夫なのか?〕

〔···こっこっこ、こっはくるぅ!こっこっこ、こっはくるぅ···♪〕
〔う···ん、なんか、楽しそうに踊ってる?〕

〔はぁ···あまり邪魔はさせるなよ?···!、あれか?!〕

「!」

 怪獣達が発掘に尽力した琥珀神艦の装甲は、既に多くの表面があらわになっていた。
 その半透明なオレンジ色の表面には様々なディテールが施されているが、現の言った通り、明らかに大型の扉と思しき楕円形モールドの横に、青いスプレーらしき塗料が吹き付けられている。青い円形マーキングで囲まれた箇所には、ボタンのような楕円形のスイッチらしき彫刻があった。
〔うーん、これ、スイッチなのかな?〕
〔押してみてくれ?アンバーニオン、そこから先へ進むと指定の場所、動力炉···メインジェネレータールームがあるハズだ〕
〔よ、よぉし!〕

 アンバーニオンは、自身の掌よりも大きな楕円形のスイッチに触れた。特に押したという触感は無かった。
 そしてアクセスハッチはというと、特に開く素振りも見せない。しかし何やら、何層にもなっているような琥珀の装甲板の透明度が変化したようにみえた。

〔?、開かない?!〕
〔いいや!アラワルくん!これ行けるよ多分!〕
〔!?〕

 アンバーニオンは躊躇う事も無く、そのアクセスハッチにゆっくりと接近した。
 まるで琥珀の巨神の基地である“琥珀の泉„に入るようなイメージで、アンバーニオンばトプンと機体をアクセスハッチに溶け込ませていく。
〔!、なるほど!〕
 NOI Zもアンバーニオンに続き、そのハッチ表面に指先から身を委ね、側面に張られた水溜まりに機体を沈ませていった。


 ······次の瞬間。
 アンバーニオンとNOI Zは、薄暗い空間に立っていた。
「!」「「!」」
 宇留と現が気付いたのが合図であるかのように、その空間に輝きが満ち溢れる。

 琥珀の部屋。
 パズルのような装飾が隅々まで施された美しい琥珀の空間が、宇留達を出迎えた。
〔ここは?!〕
〔アラワルくん、なんか、直接入り口から転送されたみたいだよ?〕
〔転送?!〕

〔それで多分ここが、エンジンルームだよね?〕

「!!」

 だが、宇留がエンジンルームだと感じたその琥珀の部屋には、床面に黒い塵や残骸が散らばっている以外、何一つ機巧のようなものが見当たらなかった。











 
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