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発(掘)進(行)!超琥珀神艦!

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 曇天のもと、強風吹きすさぶ孤島にある漁港。

 逃げ惑う人々の道筋を覆う巨大な影は、次々とその数を増やしていった。
 港内をザバザバと無感情に歩むメカベデヘムの群れは建物の壁に人々を追い詰め、レンズだらけのその顔は怯える彼らに向けられる。
 周囲に満ちる恐怖という情動エモーションはメカベデヘムの頭部に備わった関心吸収機エモチャージャーを起動させ、灯った青いランプが吸収中である事を告げようとした、まさにその時。

 ···ヤァム!マァス!セブドゥアッ!

 フゥォォォゥゥゥ······ンム···!


 沖合いから風に逆らいながら漁港に向かって流れ込んで来た濃霧。
 その霧は光沢面を指先で撫でるような音と共に港内に雪崩なだれ込み、メカベデヘム達の間接を絡め取る。
 メカベデヘム達は次々と沖合い側へと引き倒され、更に霧はメカベデヘム達の転倒によって発生した高波さえもブロックして、島民達をスマートに護った。
「今の内!こっちだ!逃げろぉ!」「おぉーい!」
 島民達は声を掛け合い、高台に向かって避難を再開する。

 高波を防いだ霧の壁が消えたその向こう。海面上に満ちた霧の上を悠然と歩んで来る巨大な魔神のシルエット。
 ガルンシュタエン ティアザが、体勢を立て直そうともがくメカベデヘム達に迫る。





 チカチカッ!

「?」
 ガルンシュタエン ティアザの横顔を煽る光のパッシング。
 光源は岬の先端に立つ灯台だった。
 薄靄うすもやの中、体表が白いメカベデヘムが灯台に手を掛け、ガルンシュタエン ティアザを高台から見降ろしている。
 二体の視線がクロスしている間に、ガルンシュタエン ティアザは立ち上がったメカベデヘム達に周囲を囲まれた。

〔···エシュタガさんともあろうお方がこんな所に?〕

〔···またお前か?シヅメ〕
 ガルンシュタエン ティアザを操るエシュタガに名前を呼ばれた白いメカベデヘムは灯台から手を放し、腰に両手を当てながら素っ気なくジャンプして港内にザパンと着地した。
 
 メカベデヘム達を率いる白いメカベデヘム。ベデヘム4 シヅメ メカベデヘム指揮中継体ターミナルは、腕を組みながらやや仰け反って、ガルンシュタエン ティアザを再び睨み直す。

〔やあ、よく会いますね?エシュタガさん!ハッハッハ···〕

〔シヅメ、どうせベデヘムの中そこには居ないんだろう?お前こそ今日はこんな島になんの用だ?〕

〔まーそんなに心配せずともですね?〕〔こっちは例の如く?〕〔適当にのびのびやらせて貰ってますよ?〕

「?」
 ガルンシュタエン ティアザを取り囲むメカベデヘム達は、代わる代わるシヅメの声を発した。

「やっぱり仲間と自分とで意識ユーザーの切り替えが出来てる!気を付けて!エシュタガ!」
「ああ、いつ雑兵と侮ったヤツがあいつ自身に置き換わるか、分からないからな?」

 エシュタガとガルンはあえて口に出して集中力を軟化させ、臨機応変を自らに命じる。

〔さーさーぁ!トりに行けぇ!〕
 シヅメの白いメカベデヘムがパンパンと手を叩きながら部下に攻撃指示を出した。
「!」
 ガルンシュタエン ティアザに向かって一斉に押し寄せるメカベデヘム達。

 ズッ!···パパパパパパァン!!

 だが港内に満ちていた神霧、綿飴空間コットンフィールドが全てのメカベデヘム達の眼前でピンポイントでぜ、彼らを牽制した。
 その隙を突き、白いベデヘムに向かって突撃するガルンシュタエン ティアザ。そして海中から迫る伏兵を見越していたガルンとエシュタガは、一度海面より上にガルンシュタエン ティアザを飛び上がらせ、その伏兵の脛擦すねこすりを躱す。

〔んぉ?バレた?!〕

「相変わらず気配の薄い奴らだ···」

 海面下でガルンシュタエン  ティアザを転ばせようと画策していたシヅメの部下のエビ頭、ショツとショツォは海中から勢い良く飛び出し、あるじに向かって今まさに神霧剣ミストランサーを突き立てようとしているガルンシュタエン ティアザの前に立ちはだかる。
 
 シュガッッッ···ドッ···!!

「!」
 神霧剣ミストランサーの一撃はギリギリで止められた。
 ショツとショツォによる両側からの挟み込みによる攻撃の減速、そして白いメカベデヘムは真剣白刃取りを披露し、先端はメカベデヘムの額に少しだけ突き立っている。
 シヅメは額を突かれたその勢いだけを利用して、ショツ達と共に一度後方へとメカベデヘムを飛び退かせ、更に一度バク転を披露して距離を取った。

 遠隔制御型の巨獣体ボディを用いた上、神霧能力のもとにありながらこの技量とコンビネーション。
 エシュタガは踏み込みの浅さを悔やんで口元に力を込める。だが、背後に出現した殺気に振り返らざるを得なかった。メカベデヘムの一体が力づくで綿飴空間コットンフィールドの拘束を破り、それと引き換えに腕の間接が明らかに壊れたメカベデヘムがガルンシュタエン ティアザに向かって突撃して来た。

 ガギィッッッ!!

 メカベデヘムは上半身に重心を掛け、ガードしたガルンシュタエン ティアザにもたれ掛かかって組み合う。
〔く!、使い捨てか?〕
〔ヒト聞きが悪いなぁ?エシュタガさん。心配しなくてもどーせこいつらには命も魂も無いフーセンだってば!それより関心吸収機エモチャージャーが作動してるよ?もしかして焦ってる?エシュタガさん?〕
 突撃して来たメカベデヘムからシヅメの声がした。至近距離で見たメカベデヘムのレンズの中では、生々しい瞳孔がギョロギョロと蠢く。その背後では他のメカベデヘム達が体勢を整え始め、白いベデヘムもショツ達と共に攻撃しようと構えている。

〔フッ···好きにすればいい···ん?シヅメ、もう一匹の手下は何処だ?〕

 エシュタガは素直に、シヅメの部下である三匹の内の一体、ショトの居所に疑問を持った。


〔ええ?あぁあ!アイツなら今頃···フッフッフッ···〕







 

 何処かの海中。

 ゴライゴ率いる巨獣発掘隊が、とある組織に依頼した一般物資入りの耐圧コンテナ。

 表向きは南洋特有の凄まじい怒涛によってコンテナ船から脱落し、行方不明となってしまうという筋書きが込められた多数の輸送物資が、ゆっくりと海底に向かって沈んでいる。

 その耐圧コンテナのひとつの中で、自ら仮死状態に陥り完全に気配を消したショトは、琥珀神艦の発掘現場へと潜入しようとしていた。










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