神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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発(掘)進(行)!超琥珀神艦!

た が い

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 自走靴を的確に使いこなし、普通の人並みとは言い難い加速力で発掘現場を駆け抜けるレミレタとバコナ。

 運ばれているヒメナは、曲がり角を攻める彼女らの瞬発力に驚きを隠しながら、【琥珀神艦】への乗艦を果たそうとしていた。

「ごめんねぇ?ここは広すぎてゆっくりしてられないから!」

 レミレタがそう叫ぶとと共に、一行はチューブ状の通路へと侵入する。
 出入口に向かって流れる空気圧に満ちているチューブの通路内。衣服の埃は吹き飛び、前髪が後ろになびく。
 その時ヒメナの脳裏に、想文が着想ちゃくしんした。

(···ヒメちゃん!!)

(え?!!、コティアーシュ!!?)

(わぁ!ようこそいらっしゃい!)

(あぁ、コティアーシュ!、お話には聞いてたけどちゃんと目的地ここに辿り着けてよかった!、それで、あなたは今この中に居るの?)

(ええ!まだ万全な状態ではないんだけれど、ちょい少し忙しくて···)

(?) 
 ヒメナに想文として伝わるコティアーシュマーティアの声の基本的なイメージは、以前と同様だった。
 しかし、微妙な差違が時々印象のテンプレートから外れる。
 その口調を支える生々しさというか、言葉の弾み方に自然な躍動感が以前にも増して溢れている感触。

(わかります?)

(!)

(えへー!察してすいません!実は今、私の中枢活動体微調整中で···)

(?、活動···体。それは、ゲルナイドやこのコ達のような人型ボディの事?)

(本当は···巨獣かいじゅうの身体が残ってればすぐだったんだけれど、AIの私とドナー、ここの設備の兼ね合いが難しくて立て込んでしまってて···それでねヒメちゃん!詳しくはこっちに着いてから、ちょっとお話が···)

「?!」

 半透明だったチューブの影が、薄灰色からオレンジ色に変わる。
 琥珀の内装が煌めく通路内を伸びるチューブ。三人は【琥珀神艦】の内部に入った。
 その時、ロルトノクの琥珀アンバーが一瞬発光する。原因は不明だった。ヒメナはチューブ越しに琥珀の壁から宝甲の力を探るも、コティアーシュ以外の力を、この艦からまだ感じる事はなかった。
 






 詰所の休憩室。

 長机の上には特盛弁当とお茶と即席豚汁が二組。パイプ椅子には宇留と現が座り、まだ米から湯気が出ている弁当を、二人は夢中で掻き込んでいる。

「···ッス!ファボフスっ!んむぐっ、···あ~!やっぱり肉体労働するとご飯美味しいな~!」
 弁当の容器は中々大きなサイズだったが宇留は若さに任せ、多分これでは足りないと思わせるペースで食べ進めている。現はそんな宇留に呆れた視線を送りながら一度お茶を飲み、ボトル表面の結露で濡れた指先を首に掛けたタオルで摘まむように拭く。しかしその表情とは裏腹に、現は宇留の食べっぷりに感心していた。

 く!うまそうに食うなぁ···

 そう思いながら、現は巨大ハンバーグを包むデミグラスソースの上に散ったグリンピースを、箸でチマチマと掴み口に運ぶ。
「む!ぅが!」
「!」
 案の定、掻き込み過ぎた宇留が食事を喉に詰まらせた。箸を弁当箱の隅に置き、お茶で流し込もうか豚汁で流し込もうか迷っている。現はやれやれとばかりに宇留に寄り添い、背中をボンボンと手の甲でノックした。
「っぶは!あ、ありがと!ヤバいよアラワルくん!このマヨ塩昆布!思わずがっついちゃったよ!」
「ハイハイ···」
「いつもはね?ヒメナが琥珀越しに胃の上を外からどんどん叩いてくれるんだ!んむ!」
「はぁ、呆れたな?お前は琥珀の姫にそんな事をさせているのか?···んむ!」
 その時、二人がお茶を飲むタイミングが被った。現は恥ずかし紛れにお説教を続ける。
「だ、だいたい、いつも気を使えているか?彼女は普通の食事が要らないとしても、理屈じゃないって事もホラ···あるだろう?」
「だ、ダイジョブ···その件はもう家族会議済みなんだよね?デモダカラって、いつも使えてないから怒っちゃうのかなぁ?」
「!」
 宇留が親指の腹で片目の涙を拭う。
 食事を喉に詰まらせた弊害にしては、やけに睫毛が照らついている。
「胸にツッカエてるのは食料だけか?今度は何を抱え込んでる?」
「いや、これは、ご飯が美味しくて···シェ、シェフを呼んでクレタマヘ···」
 冗談を言いながら現の質問を躱す宇留。そして宇留は現に見えないように、もう片方の眼に滲んだ涙を再び拭った。
「···時々考えてたんだ。どうしてお前達のマネージャーは、あんなにも焦っていたのか?」
「!!」
「これは予想なんだけれど···手落ち及び、レディへの陰口無礼をこの場で謝罪する。···琥珀の姫は、もう···役目を終えるのではないのか?」
「!···」
「無理に返答は望まない、須舞 宇留?」
「む···う、う···ん···あと、一年と少し···かな?」
 うつむいた宇留は豚汁が入った椀の温もりを逃がすまいとするかのように、両手で包み込みながら現に真実を告げた。
「そう···か···一年···寂しくなるな···せっかく···その···」
「···」
「まぁ、今は早く食べてしまってくれ。豚汁がこれ以上冷めたりしょっぱくなったらそれこそシェフに失礼だ···」
「···」
 わざと顔を隠すように椀を持ち上げ、豚汁を飲む宇留。

 現はそんな宇留の涙を見ないように顔を背けながら、片手を暫く宇留の肩にポンと置いていた。
 





〔そんな···!!〕

 コティアーシュが中枢活動体の調整を続けるメディカルルームらしき琥珀の部屋。
 コティアーシュを秘匿する水蒸気の水槽から洩れた彼女の声は、レミレタとバコナの表情をも驚嘆に変えた。

〔そんな!ヒメちゃん!せっかくお友達になれたっていうのに!もうすぐお別れなんて!〕
「···ごめんねコティアーシュ。あなたの気持ちはとても嬉しい。ボクはこのまま、この琥珀のままでウリュへの引き継ぎを終えるつもり。たとえ此処で人型の活動体を得ても結果は同じ、使命を終えて、ボクは必ず居なくならないといけない···」
〔あぁ···ヒメちゃん···〕
「だからコティアーシュも今は自分を大切にして?···うーん、なんというか?ありがとうね?大変な時に気を使わせちゃったみたい」
〔······こ!こっちこそ、ごめんなさい。もし、もしもね?私が、私の中枢活動体の調整が上手くいったのなら、人間と琥珀の巨神の制御宝甲を行き来してるって噂の人の情報も参考にして、このフネの力でヒメちゃんにも便利な体をつくってあげられないかなぁ?って思っただけなの!···ヒメちゃんの覚悟、無視してた。私は戦士失格だ···本当にごめんなさい!ぅ···〕
「泣かないで?本当に大丈夫だよ?コティアーシュ」

 二人の会話の最中、バコナはコティアーシュ中枢活動体のバイタルモニターを気にしていた。
 しかし、明らかに前日よりはメンタルレベルの影響による不調が改善されている事がモニターには表示されていた。
 喜ぶべき所ではあるが、今は話の流れから自重するバコナ。だがそんな彼女の気遣いを遮るかのように、レミレタがヒメナに提案する。

「じゃあ琥珀の姫?一周回ってこんなのはどお?」
「?」
〔レミレタ!まさか?!〕

 レミレタはメディカルルームの隣室に駆け込むと、一台のストレッチャーを押して戻って来た。
「不便なのは、変わらない、でしょう、から!?」
 レミレタは、バッ!とストレッチャーを覆うシートを剥がした。
「!」

 ストレッチャーの上には、等身大の琥珀人形とも呼べるシンプルなデザインのロボットが横たわっていた。

「!、これは!?」
「コハクルー···って私達は呼んでる。このコはついそこで倒れてた一機だけど、多分探せばもっとそこいら中に眠ってる」
「コハ···クルー?」
琥珀の姫あなたにちょっと、このコを診てもらいたくて···」

 ロルトノクの琥珀アンバーを持っていたバコナが、コハクルーの顔にヒメナを近付ける。
 顔には特にこれといったディテールの無い造形の顔。特徴と言えばこめかみ付近にある製造番号のような刻印のみ。しかし表面に多く残る細かい傷痕は、この機体がかつて働き者だった事を暗に示しているようだった。

「コハクルー···」
 
 ヒメナは何かが気に入ったらしく、口角を微妙に緩めて微笑んでいた。













 
 
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