神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行

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発(掘)進(行)!超琥珀神艦!

火 蓋

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 世界各地で結合しながら進攻を続ける合体型バドキャプタンの群れは、いつしか少数のグループにまで纏まり始めていた。

 現在の活動はアルオスゴロノ帝国の声明通り、一見移動と反撃のみに限られているようではあったが、バドキャプタンが通り過ぎた街では意欲減退を訴える人々が急増し、関心の力エモーショナル吸収が進攻と同時に行われているのは明らかだった。
 かといって、護衛のメカベデヘム軍団による積極的攻撃が全く無いという訳でも無く、尚且つバドキャプタンを用いた作戦が展開している事を理由に、帝国側の通常進攻作戦が途絶えたという事も無い。

 例の人類への宣戦布告と思われる動画の登場アップ以降、その無法ぶりに世界が混迷を極める中、各国の情報機関が結果データを揃えたかのように導き出したこの大規模進攻作戦であるバドキャプタンの群れが最終集結ランデブーするポイントは日本周辺。
 そして領空到達予測のリミットは、約二日後であった。

 
 国防隊は全部隊に迎撃体制を指令。
 沿岸部や主要都市を中心に、陸海空全ての部隊が戦力の配備を開始、要所の護衛には全国の特殊事象対応分隊、重合隊もそれに追随した。

 しかしこれだけの事態にも関わらず、現在日本国に出されている避難指示は第二警戒態勢であった。
 これは一家庭単位での避難準備は整えつつ、避難所やシェルターを常時解放、自己都合自己責任の範囲で日常生活の続行か避難活動をいつでも選択出来るという、警備中における準避難推奨指示とも呼べる比較的中規模程度の警戒態勢だった。
 世間ではこれに対し、アルオスゴロノ帝国への挑発や、意思冒涜と取らえられ兼ねないと危惧する声が、各所から上がっていたのであった。



 今回の迎撃作戦の司令長である洗毬あらいまりは、政府首脳陣からの特命を受け、T都の地下を疾走している。

 敬礼する歩哨が立つ地下鉄駅に滑り込んできた臨時電車から、洗毬をはじめ、SP達が続々と降車し改札の無い高級感のあるホームを進む。
 その間も洗毬は、インカムでせわしなく関係各方面と連絡を取り合っていた。



 T都アースルート最下層真殿。
 ロボットウェポンミーム解放緊急会議。


 T都中央地下に存在する名所で、世界有数のセミジオフロント、アースルート。

 その最下層直下には、真殿と呼ばれる超国家機関の最重要極秘施設が存在している。

 総司令官の命令、つまり大臣クラスから直々に真殿行きのパスキーを受け取った洗毬は、その時不思議な感覚に陥った。
 パスキーを手にした瞬間、この真殿の情報が一気に思考に出現したのだ。
 これがミーム解放···どんな要人もおいそれとやって来れない特殊な施設と、自身にいつからか仕掛けられていた記憶処理ギミック···、洗毬は正直肩肘が張った。

 ホームからの早足移動を終え、次のゲート前に立つ。
 どうやら真殿専属のSPに交代するらしく、いつの間にか両者のSP達は交代の敬礼を交わし合っている。
 洗毬は通話を終え、インカムを畳みスーツの内ポケットに収納する。

 会議を終えれば、俺のロボット兵器ミームが解放され、二日後にはもう同じく国民のロボット兵器に対する認識が解放されている···というスケジュールか?この俺とて今回の警備態勢の薄さに疑念を抱いていない訳じゃない···これは琥珀の巨神アンバーニオン達以外のロボット兵器の戦力がアテになるという事を示している。だがそれを考えているのはアノ帝国側も同じだろう···だが、俺初の全国規模総力戦···上手く捌けるか?···



 専属SP達と広いエレベーターロビーに入った洗毬は、予想以上の人の多さに面食らったが、そのまま冷静を保ちエレベーターへと向かう。
 権禰宜や巫女、僧侶、日本人のようだが異国の軍服を纏う者からジャージ姿の美少年や割烹着を着た品のある中年女性まで、様々な人々が慌ただしく立ち話をしている。
 洗毬は、国防隊員が居たら敬礼のひとつでも交わそうかと思っていたが、結局誰も視界に捕まえられず、SP達とドカドカ足音の鳴るエレベーターに乗った。

 
 ·
 ·
 ···扉が閉じない。と思っていると、誰かが謝りながらエレベーターに相乗りして来た。
 スーツ、ワイシャツ、ネクタイ、全て全身ブラックのコーデに奇抜な青空生地の薄手ノースリーブコート、顔は涼しげな眼差しの好青年といった印象。

「はいごめんなさいごめんなさい」
「!」
 国防隊の規定では、エレベーター内で要人との相乗りは禁止されている筈だった。
 しかし専属SP達は、乗って来た青年相手に少し驚いただけどころか、恐縮して少し頭を下げている。
 洗毬は一瞬警戒しようと思ったが、いつの間にかエレベーター内に満ちる清廉な空気感にほだされてしまっていた。
 まるで早朝の森林公園か神社のような雰囲気。気を張った男達の乗るエレベーター内の圧力や雰囲気を変えたのがこの青年である事は、既に明白だった。
「ぉお!もう九年ぶりかぁ?ウチの近く新幹線で通ってくれたの?そっか!今大変だもんね!」
 青年は洗毬達に目もくれずに誰かと通話していた。何故か連絡用の機器がどこにも見当たらない。
 誰だ?どこかのVIPか?
 洗毬がそんな事を思っていると、青年は遠隔談笑を終えたようだ。そして顔を上げて洗毬と視線を合わせたかと思うと、何の脈絡も無い話を始めた。

「いやぁ、自分ら、ウチに来てくれたヒトの事、みんな覚えてるんだよね?」
「は?」
「もちろんキミの事も!今回は我が主も動くから、自信持っていいよ!頑張って?!」
「え?それは···?」
「フフン!」
 青年は洗毬の肩をポンと叩き、開いたエレベーターの扉から外へ降りて行った。指定の階層に到着した訳では無く、エレベーターが止まった事すら分からなかった。そして青年が降りた階層は、なにやらボヤけた風景が広がるだけのエリアだった。
 扉が閉じ、呆気に取られる洗毬。そしてエレベーターが再び動き出した。
 するとSPのリーダーが、申し訳無さそうに口を開いた。
「···信じては頂けないでしょうが···」
「?」
「あのお方は、ここで時折お見かけするT都の土地神様の一柱おつかいの方であります。こんな時になんですが、幸先さいさきがよろしいかと思われます!」
「土地···神?神?!」
 突飛な話と状況に洗毬が呆然としていると、ポン!と音が鳴り、エレベーターは目的の階層に到着した。
 そして開いた扉の前では、共上 獅子生が洗毬を待っていた。

 会釈と不敵な微笑みで出迎える共上を見た洗毬は、全てを察した。

「成る程、もうそっちの領域の話か?」

 洗毬は襟を正し、共上と共に会議室へと歩き始めた。
 




 
 


 その頃、琥珀神艦発掘現場。


〔トゥおリャ────────!〕

 ヅッッッカ────────ン!


 アンバーニオンが両肩の琥珀柱で構成した琥珀のツルハシの先端。
 大ジャンプから振り下ろされたその切っ先は、巨岩の中心を射貫くように叩いた。
 格好付けすぎかな?と思った宇留だったが、巨岩は見事に二つに割れ、次いで全体が二十個程の岩石にバギャンと分割される。

 ウオオオオオッッ!!


 その見事な一撃に歓声を上げる怪獣作業員達。
 最初のギスギス感は何処へやら。
 懸命に働くアンバーニオンと宇留達を睨む怪獣達はもう、殆ど居なくなっていた。

「よぉし!これ片したらアガリ交代だ!「「へーい!」」それとアンバーニオン!」
「?」
 班長獣が宇留達を呼んだ。
「お疲れサン!君らと打ち合わせしたいってヒト達がいる!先に上がってくれ!」
〔はーい!お先しまーす!〕

 アンバーニオンは琥珀のツルハシを肩に担ぎ、まだ土埃舞う現場を後にした。


 詰所で簡易シャワーを浴びた後、着替えた宇留は頭にタオルを被ったままロッカーに戻り、ロルトノクの琥珀アンバーを回収、防塵ルームにてエアブロアーで埃を吹き飛ばす。
 エアブロアーのトリガーを引いた宇留がバシュバシュとエアを当てる度、ヒメナは笑みを浮かべつつ気分で目をギュッと閉じている。

「こんにちは?」
「!?、あ!はい!お待たせしました!」


 宇留がその声に気付いて振り向くと、そこには一人の女性、バコナ·ティフォンが立っていた。
 










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